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2021年12月29日14:35

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本棚448『街道をゆく21 神戸·横浜散歩、芸備の道』司馬遼太郎(朝日文庫)

 神戸と横浜という港町は一見似通っているようでいて、異なる点を持つ。どちらも開港後に急速に発展したものの、明治維新とほぼ同時に開港した神戸と、旧幕時代を経験した横浜とでは「迷い」や「苦味」といった点で街の性格が違うと著書は言う。様々なエピソードを重ね、明治期から現代まで、街の持つ記憶の古層を丹念に掘りおこしていく。世界の船乗りたちに愛された布引の滝の水の話など、故郷が懐かしく思い出された。
 港町から一転して、中国山地の懐にある芸備の道へ。しかし、この山峡の地も、江の川など豊かな川が流れ、「霧の海」と呼ばれる三次盆地のように水のまちであった。古代の広島県は、瀬戸内海文化より出雲など日本海文化の影響を受けていたのではないかという指摘も興味深い。
 司馬遼太郎の文章の魅力は、歴史的事実を淡々と綴る硬質な記述の中に、急に不意打ちの詩情が現れるところにあるように感じた。例えば安芸吉田の京風の城下町、夜も八時を回ると人通りも少なくなる商店街で出逢った、清流の鮎の化身のような少女の記憶。

 「通りはほの暗く、やってきた一人の娘さんが、ぶつかりそうになるまで気づかなかった。十七、八歳の細面の子で、われわれの胸もとを通りすぎるとき、 「おやすみなさいませ」 と、一礼し、鮎のように去った。赤いスエーターときれいな声だけが、耳目にのこった。私は若いころー戦後すぐだがー淡路島にはそういう醇風がのこっているときいたことがある。」
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