タロウとハナちゃんは今日も浅瀬でのんびり遊んでいます。キャッキャッ言ってははしゃぎ回っています。近くにはチョウチンアンコウさんやヒトデさんが見守っていてくれています。ワカメさんもゆらゆら揺れてタロウやハナちゃんを危険なモノから守ってくれているようです。その時です。カンカンカンと何やら危険を知らせる音がしました。海をグルグル回っている鯵さんが叩いた鐘の音でした。皆はびっくりしています。なっちゃんがその音を聞いて巻貝から飛び出してきました。ヒデ君は出張で居ません。チョウチンアンコウさんとヒトデさんが素早くタロウとハナちゃんに「逃げなさい!!」と言いました。タロウはこの鐘の音に憶えがありました。サメさんが来てお父さんとお母さんを食べてしまった時の音です。タロウは震えました。見上げるとあの時の巨大なサメさんがタロウとハナちゃんの上を泳いでいます。どうやら獲物を狙っている様です。イソギンチャクさんのお店やクラゲさんのお店も皆早々とシャッターを閉めて店じまいしてしまいました。なっちゃんは必死で泳いでタロウを助けに向かいます。途中岩にぶつかってしまいました。なっちゃんはまだ腰が痛むのです。痛みを堪えてタロウとハナちゃんが居る浅瀬に急ぎます。潮の具合でワカメさんがフニャとなってしまいその陰で隠れていたタロウとハナちゃんがサメさんに見つかってしまいました。タロウは勇気を出してハナちゃんを守ろうとします。体がでも動きません。ガタガタ震えています。ハナちゃんは驚きのあまり腰が抜けてしまいました。チョウチンアンコウさんが二人の目の前に出て「お逃げ!!」と言ってくれました。その瞬間チョウチンアンコウさんの身体はパクっとサメさんの大きな口に飲み込まれてしまいました。ヒトデさんは意識を失ってしまいました。なっちゃんが急いで駆けつけると丁度サメさんがタロウとハナちゃんを見つけた所でした。タロウは「お前がお父さんとお母さんを食べちゃったんだ!!」と言います。タロウは小さな体でサメさんと対峙します。震えがとまりません。僕が食べられてもハナちゃんだけは逃がさなければ・・・とタロウは思いました。なっちゃんが全速力でタロウとハナちゃんの前に現れます。「お前から食ってやろうかぁ!!」とサメさんが言いました。なっちゃんもぶるぶる震えています。
その時です。
びゅーっと目の前に小さな物体が高速で現れました。サメさんの頭に張り付いて、目をチクッと刺しました。
「ぎゃー!!」
とサメさんが叫びます。皆を助けたのはヒデ君でした。ヒデ君の傍にもっと大きい物体がいてヒデ君は其れに乗って颯爽と現れました。ヒデ君の相方の正体は皇帝ペンギンのペンちゃんです。今度はペンちゃんがサメさんの頬を高速でペチペチペチペチと叩き出しました。これにはサメさんもたまりません。口から思わずぽろっとチョウチンアンコウさんを吐き出してしまいました。ヒデ君は持っていたサンゴの欠片でもう一度サメさんの目をチクッと刺しました。サメさんはついに泣き出して遠くへ逃げて行ってしまいました。
「タロウ大丈夫だったか?」
とヒデ君は訊きます。
「うん・・・」
と半ばタロウは放心状態です。
何処からともなく
「サメを追い払ったぞー!!」
という歓声が漏れました。
なっちゃんも安心してヒトデさんと泣いています。
「タロウ偉いぞ!逃げなかったんだな!男の子だ!」
とヒデ君はタロウをなでなでしました。
タロウは余程怖かったのかヒデ君の腕に抱かれてわんわん泣き出しました。
ヒデ君の親友だというペンギンのペンちゃんもタロウの頭を長い手で撫でてあげました。
ペンちゃんは
「ヒデ君良かったね。誰にも怪我がなくて」
「うん。ペンちゃん乗せてきてくれて本当にありがとう」
「じゃあ僕は帰るよ。またね。タロウくん悲しい事もあるけれど、それが終わったらきっと楽しい事があるから頑張るんだよ!」
そう言ってペンちゃんはピューっと陸の方に消えて行きました。
その晩は皆でパーティをしました。ヒデ君は一寸腕にかすり傷を負ったようです。なっちゃんが赤マチさんの薬局で買ったバンドエイドを貼ってくれます。皆で一緒に美味しいなっちゃんの料理を頂きました。ヒトデさんも安心しきって時折ポロリと泣いています。そんなヒトデさんをチョウチンアンコウさんがトントンと叩きます。大きな巻貝の中はいつもと同じように再び喧噪が訪れました。
タロウがちょっとまた大人になり、男の子の顔になりました。
おしまい。
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