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2021年06月11日06:56

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中編小説 石鹸怪獣へドラ 承2前編

承2 前編

 マサルが一方その頃、ゴジラは市街地から工場へ真っ直ぐ向かっていた。それに気付いた政府の人間は工場に避難指示をだすが、
 向こうから返された返事は『避難する必要が無いから誰一人避難しない』だった。
 その頃、工場内では一人の若者が工場から逃げようとしていた。

『ゴジラだ、ゴジラが来る・・急いで逃げきゃ』
『何をしている!
 お前は新入りの・・』
『ハザマです!所長、所長も逃げましょう!ゴジラがここまで来てるんですよ!おれ、家族がいるんです!早く帰らなきゃ・・!』
『・・いいや、ダメだ』
『へ?』
『何故ならここはゴジラが絶対にこれない安全地帯だからな。仮にお前が今無作為に出た所でゴジラの熱戦で焼かれるか踏まれるかのどちらかしか待ってないぜ。
 ゴジラがいなくなるまで外に出ない方が良い』
『そ、そんな・・でも、まだ妹は小学生で』
『お前、新入りだな。なら教えとく。
 ここはゴジラ対策兵器を作る工場、その中でもと・く・に、頑丈な工場なんだよ。
 どうせその様子じゃ持ち場に戻る気にもならないようだから、特別に見せてやるよ』
『見せるって、何をです?』
『良いか、俺達はお偉い様の言う通り怪獣に対抗する為の兵器を作ってきた。
 だから、俺達はその恩恵を一番高く受ける権利があるんだよな。
 ほら、お前もこっち来い』
『・・・・・・はい・・・・・・』

 ハザマは所長に案内され、ある部屋に入る。そこには沢山の電子盤や見たこともないボタンが幾つも配置された、まるで監視室のような大きな部屋だった。
 部屋には何人かがパソコンの画面を見ながらカタカタとキーボードを叩き続けている。
 所長がいつの間にか手にしたマイクで部屋中の人間に挨拶する。

『みんな、お疲れ様だな』
『あ、所長!お疲れ様です』『お疲れ様です』『お疲れ様です』

 所長の一声を聞いた人達は皆立ち上がり、所長に礼をしてから作業に戻る。
 だがハザマの視点は、部屋の壁に設置された大量のテレビに映された、ゴジラに集中していた。

『ご、ゴジラァッ!』
『さて、皆。大災害ゴジラが来たぞ。
 社会の破壊者である黒い災害が我らを殺しに来ている。
 だが、研修通りに行動すればあのいかついトカゲを追い払える。さあやるぞお前達!俺達の会社を守るんだ!!』
『うおおおおおおおお!』

 沢山の声が部屋中に木霊し、その迫力にハザマはただただ驚かされるばかりだった。
 さて、ゴジラはゴジラである目的の為に工場に向かっていた。
 生きた大災害、ゴジラはあらゆる障害をはね除け、目の前に有るモノを焼いたり踏み潰してでもこの工場に向かっていた。
 ゴジラはここが何なのか分からない。ゴジラが分かるのはここには自分を脅かす危険な存在がある、だから壊さなければいけないという意志だけだ。
 ゴジラが今までやってきたように壁を破壊しようとした瞬間、
 壁から突然強力な電撃を喰らい、思わず短い咆哮を上げてしまう。
 それを画面越しに見ていた所長はハハハと嬉しそうに笑った。

『良いぞ良いぞ!あの電撃ネットは軍隊に献上した奴以上の威力を誇るんだ!
 黒焦げになるがいい!』
『・・・・!』

 ハザマの目に映るのは、ゴジラでなくその足元にある住宅街だった。電撃を受けてゴジラが抵抗する度に尻尾が暴れ、家々が破壊されていくのだ。

『・・ユズ!』

 そんなハザマの声などゴジラに聞こえる筈が無い。ゴジラは少し暴れた後に熱戦を吐き、壁を破壊しようとする。
 だがその熱戦も、壁に当たった瞬間弾けてしまった。
 
『ハハハハハ、対熱線コーティングを忘れる訳ないだろう!こっちはお前を倒す為の策を百や千も考え続けてるんだぞ!』

 所長は笑うが、その声もゴジラには聞こえない。
 ゴジラは電撃を受け続けていたが、その尻尾はゆっくりと住宅街に侵入し、手頃な家を締め上げる。
 そして二階建ての家を地面から引き剥がし、勢いよく壁に叩きつける。
 砕けた家が当たった部分にゴジラは熱線を吐いた。

『所長、大変です!
 家が激突した部分のコーティングが剥がれて、熱線を反射しきれません!』
『な、なにぃ!?』
『壁が破壊されたら、電流も流せなくなります!』
『ち、今の内に拘束隊を準備しろ!
 何がなんでもこの工場の被害を食い止めるんだ!』
『了解!』

 所長が命令している間にゴジラは熱線で壁を破壊し、電流が止まってしまう。
 そして自由になったゴジラは怒り散らすように壁を破壊し、敷地内へ侵入していく。
 すると右横に三人、左横に三人並んでるのがゴジラの視界に映る。
 視界に映る三人は大きな筒・・ロケットランチャーを構え、引き金を引いた。

 ロケットランチャーは両方に穴が開いていて、背後の穴から錨のついたワイヤーが飛び出してコンクリートに刺さり、正面の穴・・つまりゴジラに向いている方にもワイヤーが飛び出し、ゴジラの小さな腕に巻き付く。
 二つ目のワイヤーはゴジラの脇腹に刺さり、三つ目のワイヤーはゴジラの膝に刺さった。

ガアアアアアアアアアっ!!

 怪獣の痛々しい咆哮が、工場に響き渡る。その様子を見ていた所長が楽しそうに笑う。

『ふはは、味わったか、わが社特製の拘束ランチャーを!』
『しょ、所長それは日本で使って良いんですか!?』
『殺戮目的で作られてない、火薬を使用してないから合法だ!ゴジラだけじゃなく裁判にだって勝てる自信があるぞ!
 さあ、今度は新兵器を使うぞ!『ヘドリズムX弾』を準備しろ!』
『了解です!』
 
 ゴジラは足や脇腹に刺さったワイヤーを抜く事が出来ず、尻尾を振り回して周囲を攻撃する。その間に撃ち込んだ三人は逃げる事に成功し、別のランチャーを手にした男が姿を見せる。
 そのランチャーには『W.H』と描かれていて、ハザマは眉をひそめる?。

『・・?』
『発射しろ!』

 所長の命令と同時に、ランチャーから砲弾が放たれる。砲弾は真っ直ぐゴジラの喉に向かって吹き飛んでいき、着弾と同時に爆発し、喉に液体がかかる。
 それを浴びたゴジラは突如、喉を抑え苦しみ始める。
 その間に撃った男は戦線離脱していた。
 ゴジラが苦しそうにしている様子を見て、ハザマは訊ねずにはいられなかった。

『あれは何ですか?』
『あれは溶解液ヘドリウムZ。
 あれを浴びた生物は骨以外何も無くなってしまう、強力な酸だ。火薬を使用しないから合法な上に被害を怪獣一体に限定して使用できる、非常に合理的な兵器なのだよ。まだ実験段階であれ一発を使用するだけでかなりの金が消えちまうが、
 効果てきめんのようで安心した』
『へ、ヘドリウムZ・・我が社は、そんな凄い兵器まで開発していたんですか・・』
『ゴジラは今、両足と両脇腹を拘束され、倒れる事も熱線も吐けないまま毒で苦しみ続ける事になる。
 おい、自衛隊に連絡しろ。
 あのデカトカゲを退かすにはあいつらの協力がないと不可能だからな』
『了解しました』
『所長、大変です!』

 不意に、キーボードを鳴らしていた社員の一人が所長に事態を知らせる。

『育成室で待機しているへドラ壱号が、突然暴走を始めました!!』

承2 後編へ続く
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