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2021年06月07日19:08

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長編小説 角が有る者達 第237話

『一を壱に、壱を壹に』


〜アタゴリアン城・地下〜

 朝食を取った果心は地下の研究所にある一部屋の奥にある無数の棚を見ていた。その棚の一部屋一部屋には人の名前のプレートがかけられており、果心が見ていた部屋のプレートには『ダンス・ベルガード』と記されていた。
 果心は左手でその部屋に触れていたが、やがて耳元の通信機にジャンからの通信が入ってくる。

ジャン『果心様、予定通り在庫が切れるまで血染め桜とアイの細胞を混ぜ合わせて作られた蘇生薬を使いきりました』
果心「ありがとうございます、ジャン・グール。
 これで残す所はあと1つ・・」
ジャン『あなた様が所持している、ダンスの為の蘇生薬ですね。
 果心様、本当に彼を蘇らせるつもりですか?』
果心「ええ、彼は必ず蘇らせる。
 でも、それは今ではないわ」

 果心は左手を部屋から離し、周囲を見渡す。小さな研究室には沢山の資料が散乱されており、その全てには『ダンス&ナンテ共同著作』と書き記されていた。
 果心は知っている。この中にはダンスの記録が遺されていて、ダンスを蘇らせた後にある装置を使えばダンスが結婚式場を出るまでの記録・・果心を愛すると誓った直後のダンスが甦る事が可能だという事を。
 それでも、果心はすぐにダンスを蘇らせようとしなかった。

果心「今、彼を蘇らせれば。
 彼は必ずこの国を豊かなものにしようと必死に働くでしょう。
 そして、それに人生の半分を割くかもしれません」

 果心は気付いていた。
 蘇った彼には『寿命』が存在し、もう自分と一緒に永遠に生きられないだろうと。
 そして今甦れば、ほんの僅かな寿命を全て建国の為に注いでしまうだろうという事も。

果心「彼は何百年も働き続け、頑張り続けた。今度は私達ががんばる番です。
 何百年も頑張って、この国を豊かな場所にした後・・彼を蘇らせます、必ず」

 果心は上を見上げる。
 狭い研究室の天井からはユーと語り合った時のような夜空も、アイと戦った時のような青空も見えない。
 だが果心はそこで夢を見た。
 眠らずとも見れる、美しい夢を見た。
 ダンス・ベルガードと1日中、バルコニーの小さな椅子に座りながら話をする夢を見ていた。街の中心には白い花が咲きほこり、皆がそこで憩いを感じながら日常を過ごす夢を見た。

果心「ダンス・・。
 もし貴方が現世に還ったら、他愛ない話をしましょう。
 花畑が白い花で満開になる頃に、街の灯りと空の灯りの狭間で、沢山の話を語りあいましょう」
ジャン『・・・・果心様、そろそろ・・』
果心「ええ、分かってるわ。
 ありがとう、ジャン・グール。
 そろそろ行かなければね」

 果心は踵を返し、部屋を出ようとする。
 それから少しだけ振り返り、静かに眠る部屋を見つめて笑みを浮かべる。

果心「また会いましょう、ダンス・ベルガード。その時まで、ね」

 そうして、果心はその部屋を去っていく。
 だが彼女はまたきっと、この部屋を何度も訪れるだろう。
 愛したいと思った者と、語れぬ夢を見るために。
 部屋に掛けてある時計の針は、9時3分を指していた。

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

〜アタゴリアンのある寂れた街〜

 その街は、とても寂れた街だった。
 新しい店なんて数十年前から置かれてない、新しいものなんて何もないその街の片隅で、メルとカスキュアの闘いが始まった。

カスキュア「ハーッハハハハハ!
 どうしたゴブリンズゥ!その程度かあ!」
メル「くっ!早い・・!」

 カスキュアの人形の拳がメルにくり出され、メルは両腕を硬質化させてそれを防いでいく。人形は攻撃が通じないと分かるや否や、足元に落ちてある錆びた鉄板を拾った。
 すると、鉄板から錆が自然と剥がれ落ちていき、綺麗なノコギリが姿を現した。

メル「!!」
カスキュア「真っ二つになりなぁっ!!」

 人形の一閃を、メルは素早くかがんでかわす。だが次の瞬間、背後の五階建て廃ビルが真っ二つに斬られてしまった。

メル「なにっ!?」
カスキュア「ヒハハハハハ!
 次はテメエだあ!!」

 人形は何度も何度もメルに斬りかかり、メルはそれを寸前の所でかわしていく。
 そうしている間にも斬られたビルはメル達の方へ倒れていき、影が大きくなっていく。

メル「不味い、このままじゃ・・軟体化20%!『兎足(ホッパー・フッド)』!」

 メルは足を少しだけ軟体化させると、ゴムのように両足が跳ね上がり、倒れ行くビルから素早く逃げ出した。
 だがカスキュアは逃げようとせず、ノコギリをビルめがけて適当に振り回す。
 するとビルは更にバラバラに砕け散り、全てカスキュアから離れていった。

メル「なんて、切れ味だ・・!
 あれがカスキュアの能力なのか!」
カスキュア「アハハハァ!ビルがバラバラァ!
 『そうだ。これが俺の能力(ちから)』!
 『一を壱に変え、壱を壹に変える能力』!!
 俺の腕に触れた病人は如何なる病気も怪我も、死ですら蘇生させる!
 更にモノに触れれば、どんなオンボロすら最盛期以上の力を発揮出来るのさ!」
メル「知っている・・!!
 その力を悪用して、皆に酷い事をしたのもな・・!!」

 メルは立ち上がり、真っ直ぐ走り出しりながら拳を作る。

メル「お前のせいで、アイさんがどれ程傷付いたのかも、全部知ってるぞ!!
 『エイジィ』!!」
  
 メルが人形、いや腕の名前を告げた瞬間、人形がびくりと跳ね上がる。
 それは本名を叫ばれたから動揺したのだと、メルはすぐに気付いた。

「おいおい、テメエ、俺はまだ『そっち』の名前を呼んでねえぞ・・!
 それにさっきから俺の情報を色々と知っているような口ぶり、なんかクソ腹立つなあ!!
 カスキュア、こいつを確実に殺すぜ!」
カスキュア「エイジィ様がそう言うなら、そうしようかな・・。
 呪術、『アトラースの罰』」

 ズシン!!
 
 不意に、メルの体が重くなる。
 いつの間にか自分の背中に巨大な青い球体が乗っており、メルはそれを全身で支えなければ行けなくなってしまった。

メル「が、は・・!?
 こ、これは・・!」
カスキュア「クスクス、アタシの魔術は全部嫌がらせ特化でね。『アトラースの罰』を受けた相手はしばらく青い球体を背負い続けなければいけなくなるんだァ。
 さあ、死ぬまでじっとしててね。
『俺がテメエをバラバラにしてやるぜぇ!!』」
メル「し、しまっ・・!」

 た、とメルが言う前にノコギリを一振。
 それでメルの体は二つに裂けた。
 更に一振、また一振、どんどん振り回し、その度にメルの体がバラバラになっていく。
 そうして二十ぐらいに斬られたメルの体を潰すように、青い球体が地面に落下し、その姿が泡のように消えた。

エイジィ「ヒャハハハハハハ!
 あいつ、何もできずにバラバラになってやんの!『ごめんねメルくん。
 見た目はタイプなんだけど、この程度で死ぬ人とはちょっと付き合えないんだよね』。
 ヒャハハハハハハ、やっぱ久しぶりの人殺しは気分がスカッとするぜぇ!
 ヒャーッハハハハハハ・・」

 ゲタゲタと笑うエイジィのすぐそばで、バラバラにされた筈の足が浮かび上がった。

エイジィ「・・ハ・・」

 そして、浮いた足は思い切りエイジィ人形の腹部を蹴り飛ばし、エイジィ人形は思い切り吹き飛ばされそうになった。

エイジィ「うごおおおお!
 『危ない、エイジィ様!な、なんで!?なんであいつの足が浮かび上がって・・!』」
「『分離男(パズルマン)』」

 カスキュアが振り返ると、そこにはバラバラにされた筈のメルの顔が少しずつ繋がっている姿があった。
 メルはバラバラにされた体を再構築させながら言葉を続けていく。

メル「僕の体を斬撃で倒すのは不可能さ。
 僕はいくら斬られてもすぐくっつけるんだからね・・」
カスキュア「な、なにっ!?
 どういう事!?あ、あいつ能力が二つ以上あるの!?
 『いや、3つだ。
 硬質化能力、軟体化能力、そしてバラバラ能力・・二つまでなら二重能力者(ダブルス)っていう奴がいるから知っているが、3つとなると話が違ってくるぜ・・』」

 カスキュアは驚いた顔をし、人形は顔をしかめていく。そしてノコギリを飛んでくる左腕に向かって投げ、左腕は二つに裂けてカスキュア達を通り過ぎてしまい、メルの腕に戻った。

メル「・・不意打ちは、もう効かないか・・」
エイジィ「てめぇは一体幾つ能力を使えるんだ?」
メル「たくさん」
エイジィ「ち・・!」
メル(本当は正確な数は分からないし、拍手部隊以外の能力を使う気はないけど・・。
 怖がらせる為にもそう言っておこう)

 メルは自分の体が全て戻ったのを確認してからカスキュアに向き直ると、彼女はまた何か呟いていた。

カスキュア「そっか、死ななくて良かった。しかもいくつも能力があるならなおさら死なないって事じゃん。
 試してみたいなあ。どんな方法で殺せば死ぬか試してみたいなあ。ゴキブリ食べても心は平気かなあ!」
メル(カスキュア、あの子性格が変わっても危険度が何も変わらないの嫌だなあ)
エイジィ「おいカスキュア、さっさと走れ。あいつをぶん殴りにいけねえじゃねえか。『待って、エイジィ様、もう一度呪術で奴の動きを・・』めんどくせえよ。ほら、走れ。
 『ひ、ヒイィィ!!』」

 カスキュアがもたつかない足取りで走り出す。メルもまた呼吸を整え、走り出す。

メル(『硬質化』の力を使ってガードしつつ、カスキュアのお腹を叩いて気絶させれば、あの左腕も動けなくなる筈・・!)
カスキュア「うわああああ〜〜!
 や、やっつけてやるぞ〜〜!」

 カスキュアとメルが走り、すれ違い様に互いの拳が動き出した。
 メルのカスキュア腹部めがけての一撃を、エイジィ人形が防ぎ、肘がメルの顔面に刺さってしまう。

メル「ぐわっ!」
カスキュア「・・・・ニィッ」

 顔面に一撃を喰らい、口元から血を流しながら倒れるメルにカスキュアはゆっくり近づきながら話しかけてくる。

エイジィ「ヘヘヘ、驚いたよな。
 なんで硬質化してるのにダメージが入るんだろうって顔してるぜ。
 教えてやるよ。この俺の力は確かに全てを治す力だ。砕けた岩は元に戻り、傷付いた者は皆たちまち回復していく。そして、能力者に触れた場合!」

 エイジィの手がまたメルの首を掴み上がる。このままじゃまた殴られると気付いたメルは急いで能力を発動して逃げようとするが、能力は発動しなかった。  

メル「え、また『硬質化』が使えなく・・ガアッ!」

 慌てるメルの頭を、エイジィが渾身の力で地面に叩きつけ血塗れになってしまう。


エイジィ「ギャハハハハハ!
 能力者に触れた場合、そいつは能力を使えなくなっちまうのさ!
 久しぶりじゃねえか!?能力無しでの痛みを感じるのはよぉ!」

 エイジィは何度も何度もメルの頭を地面に叩きつけていく。
 血塗れになった顔を覗きながら、人形は笑う。

エイジィ「てめえが幾千万の能力を抱えていようがよ、俺の『究極の壱』の力を破る事なんか出来ねえんだよ!おらぁ!」

 エイジィがまたメルの頭を地面に叩きつけようとした瞬間、右横からカスキュアの顔面にメルの蹴りが入り、体が吹き飛んでしまう。

カスキュア「いだああい!
 女の子の顔を傷つけるなんてサイテーだわー!」
メル「ハァ、ハァ・・君だって、僕の顔を潰すつもりだったじゃないか・・おたがい、様だよ・・!」
エイジィ「奴め、あらかじめ足を分離させていたのか・・だが俺が触れてる間、能力は使えない筈なのに・・なにっ!?」

 カスキュアが立ち上がり、顔をこすって目を開くと、そこには顔が血塗れになったメルと傷ひとつついてないメル、二人のメルが立っていた。

エイジィ「な、なにぃ!?
 奴が二人!?また新たな能力を使ったのか!」
メル「そうさ。これは『私は誰?(フー・アー・ユー)』。物質から分身を作り上げる力・・」

 メルが石を拾い上げ、それを適当に放り投げると石が変化して新たなメルに変化した。

メル2「お前がさっきまでいい気で殴っていたのは分身の僕さ。君の強い攻撃力を防ぐ為に分身を作ったが・・まさか、能力を無効化できるとは思わなかった」
メル3「良い情報を提供してくれてありがとう。おかげで別の闘いかたで攻められる」
メル4「覚悟しなよ・・今の僕はとっても、たくさんだよ」 

 十人位のメルがずらずらと並び、カスキュアを睨み付ける。顔の傷が回復したカスキュアもさすがに一瞬怯んだ。

カスキュア「う、く・・『クヒヒヒ。
 ならよお、てめえが再生するより先に俺が全員殺せば訳ねえよなあ!』」

 エイジィが小さな石粒を拾いあげると、石粒が巨大化し、石柱に姿を変えていく。
 それを持ったエイジィ人形は嬉しそうに笑い、カスキュアは重い石に足がふらつきながら走り出した。

エイジィ「ヒャッハアアアア!!
 血祭りに上げてやるぜえぇぇぇ!『エイジィ、重いよ〜』」

 分身達とエイジィが戦う中、本体のメルは少し距離をとって建物の壁に隠れ、息を整えつつ腕時計を見て時間を確認する。

メル(今、九時十五分。
 さっきまでの移動に三十分かかり、今回の移動で三十分かかると計算すれば、残された時間はあと十五分もない。
 あんな強敵相手に、そんな僅かな時間でたおせるわけない・・!
 でも・・)

 メルは顔を少しだけ傾け、分身達の戦いを見る。分身達は息のあったチームプレーでうまく回避しつつあるが、エイジィは得意の力で、カスキュアは魔術で相手の行動を封じて戦いを有利に進めている。

メル(悪巧みしか考えないカスキュアと、悪巧みしか利用できないあの腕が揃ってる今、彼女をほっておくなんて考えられない!
 『皆のいる場所に帰る』、『強敵を倒す』。その2つを完璧にこなす為には・・!)

 本体のメルはカスキュア達に向かい、走り出していく。
 そして手にした石を捨てながら、新たな能力を発動する。

メル「能力発動!
 『宵闇時の羊飼い(トワイライト・ボー・ピープ)』!!」

 能力を発動した瞬間、分身のメル達が全て消滅してしまう。
 それに気付いたカスキュアが辺りを見渡すと、本体のメルがこちらに向かって走り出すのが見えた。
 そしてその背後から車椅子に乗った褐色肌の女性が車椅子を走らせていた。

カスキュア「なんだあいつ!胸がデカイ!『いやそこじゃねえだろ!?』」
スミー「ホントにその作戦で良いんだね、メル!」
メル「お願い、スミーさん!
 僕にはもう、こうするしか方法が無いんだ!」
スミー「仕方ないねえ・・!
 でも、タクシー代わりよりは面白い仕事だよ!」
エイジィ「なんだ、あの女も奴の能力の一つなのか!?
 俺が言うのもなんだか、本当にデタラメだなあいつ!!」
メル「うおおおおお!!」

 メルがカスキュアの体に勢いよくタックルし、彼女の体をしっかり抱き締めた。
 抱きしめられたカスキュアは顔を真っ赤にし、悲鳴を上げてしまう。

カスキュア「キャアアアアアッ!
 あ、アタシに触るなーー!エッチな事する気でしょーー!
 『ば、バカ野郎そんな破廉恥な事考えてる暇ねえぞ!車椅子女がまだ何かやる気だ!』」
メル「スミーさん、今だ!」
スミー「合点!!」

 スミーがメルとカスキュアの背中を持ち上げ、その体を港に向けていく。

カスキュア「わあああ何をする気だあああ!『しまった、このガキ、意外に力が強い・・!』」
メル「投げて!」
スミー「ああ、二人とも・・!
 おっしあわせにいいいいいい!!」

 スミーは力の限り、カスキュアを抱きしめたメルを港に向かって投げ飛ばした。

カスキュア「ギャアアアアアアアア!!」
エイジィ「うわあああああああああ!!」
メル「っ・・暴れるなあ!」

 悲鳴をあげる二人と、それを必死に抑えるメルの姿が港に向かって飛んでいき、小さくなっていく。それを見ながらスミーは小さく呟いた。

スミー「いやーまさか、
 『僕とカスキュア、まとめて港まで投げ飛ばす作戦』を考えつくなんて思わなかったねえ。
 ここまで派手にやったんだから、本当にしあわせ見つけなよ、二人とも」

 そう言って、スミーの姿は消えてしまい、メルはカスキュアに殴られ続けていく。

エイジィ「貴様アア!!
 俺達と一緒に港まで飛ばしてどうするつもりだああああ!」
メル「僕は皆に再会する・・そして、君の野望を打ち壊す。
 その2つをこなす為には、こうするしかないんだ・・!」
カスキュア(あ、ああああ!あ、アタシ今、男の人に抱き締められてる!しかもいくらひっぺがそうとしても離してくれない!
 これって、これってまさか・・!)

 エイジィの腕がメルを引き剥がそうとするが、メルは両手両足でカスキュアに抱きつき離れようとしない。

エイジィ「離せ貴様ァ!」
メル「離さない!僕は君を絶対に逃すわけにはいかないんだ!」
カスキュア(君を逃すわけにはいかない・・?まさか、私と一生を共にしたいって意味じゃ・・!)

 カスキュア、メル、エイジィが戦っている間にも、体はどんどん港へ向かっていく。
 そして、アタゴリアンの港、九時四十五分。
 ゴブリンズは既に船のデッキに乗り、果心や大罪計画のメンバーは陸地からその様子を見ていた。

果心「これでゴブリンズともお別れね。
 本当に名残惜しいわ・・」
ジャン「ワシは肩の荷が降りた気分ですよ。あいつら黙ってると何をするかわかりませんからね」
パー「それにこれから国造りを本格的に行う事を考えると、複雑な気持ちですなあ」
果心「そうね、私も過去だけじゃなく、未来も見なくちゃね・・」


ユー(果心さん・・)
アイ「遂にこの国から出発か。なんか寂しくなるなあ」
スス「あら、リーダーがセンチな気分になるなんて珍しいわね。こりゃ雨が降るわ」
シティ「なんなら電柱降らせようか?」
ダンク「それはやめよう・・」
ルトー「なんか、あのカメラさっきからボクの事を見てるけどどうしたんだろう?」
ライ「そりゃ、男の娘が珍しいから撮ってるんだろうさ」
ルトー「なんだとォ」
アイ「おいおい、こんな時に喧嘩は止めろよな・・ん?
 なんだ、空から何か飛んできて」

「お話中だけど!
 ちょっと良いかな!?」

 急に足元から声が聞こえてきて、アイが下を向くとそこには鬼の人形、ユウキがアイを見上げていた。
 アイは一瞬空が気になったが、すぐにユウキを持ち上げながら訊ねる。

アイ「なんだよ」
ユウキ「じ、実はねアイ・・!
 君達は今、『メルヘン・メロディ・ゴート』を忘れた状態なんだ!」
アイ「は?メルヘン・・長い名前だな、俺がなんでそいつを忘れてんだよ」
ユウキ「昨夜、ある人が『もう少しだけメルと一緒にいますように』と願ったからだ。だから少しの間だけ、世界中から『メルヘン・メロディ・ゴート』の存在を忘れさせなきゃいけなかった!
 覚えてるのが願った人だけなら、メルは何がなんでもその人から離れる事は出来なくなるからね!」
アイ「・・さらっとすげえ事言ったな、お前・・」
ユウキ「このままじゃ彼は数年間、君と会えない筈だったんだけど・・彼は頑張って今、ここに来るんだ!障害を乗り越えて・・いや連れてここに来たんだ!
 だから今、全てを伝えたんだ!
 世界中がメルを思い出せる、いまこの瞬間にね!」
アイ「なんだと、じゃあまさか・・」

 アイが言葉を続けようとした瞬間、
 港に何か大きなものが飛来する。
 それは、巨大化した足だった。
 巨大化した足は港のコンクリートを抉りながら進み、そして船の直前で止まる。
 それと同時に足は縮み、
 カスキュアを抱えたメルが全員の瞳に映った。

メル「能力発動、『膨張(パンプアップ)!象足(エレファント・フッド)』!
 こ、今回はうまく着地、出来た・・ぞ・・?」

 そしてメルを見た全ての存在の記憶に、メルの姿が思い出された。



続く



 
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