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2020年09月01日18:39

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長編小説 角が有る者達 第222話

『〜unbirthday〜愛しき想い〜』

 ナンテ・メンドールにとって世界はいつも灰色で退屈で価値を見出だせなかった。
 歴史学者の子として育った彼は、勉強こそ優秀であったが、心が揺れ動いた事はなかった。
 世界中の歴史を幼少期から読み進める内に世界の内側を知った気になり、愚かな主張や戦争ばかり続け、そこから何一つ学ぼうとしない世界が退屈で仕方なかったからだ。

ナンテ「つまらない、つまらない。
 こんな馬鹿で間抜けな世界に何の価値もない。安くて安易な考えに簡単に従う民衆も、自分の金を集める事しか出来ない権力者連中も、
 その中で生きるしかない自分自身も・・」
『・・・・・・』

 そんな彼の心を唯一癒してくれたのが、母が誕生日にくれた一冊の童話、『不思議の国のアリス』だった。

 本を捲る度に全く違う世界や価値観が繰り広げられ、そしてそれにまるで規則性が存在しない不思議の国は、歴史本しか読まなかった彼に、初めて灰色以外の色を見せた本だった。

ナンテ「『drink me』と書かれた瓶に喋る扉。誕生日じゃないのに毎日新しいお茶会が始まり、神出鬼没のネコ!
 話を何回読んでも、飽きない!
 世界は退屈の連続なのに、不思議の国は刺激の連続で構成されている!なんて素敵なワンダーランド!」
『・・・・・』

 やがて彼は大学に進出し一人暮らしをするようになったが、大学の勉強は全てが既に理解している範囲だった為に退屈で、金はほぼ全て『不思議の国のアリス』の収集本を集める為だけに使われていた。
 そんな彼に二度目の運命が訪れる。
 大学で出会った教授、『果心林檎』という麗しい女性に出会ったのだ。

『・・・・!』
ナンテ「驚いた。凄く驚いた。ひどく驚いた。不思議の国のアリスを初めて最後まで読み終えた時よりずっとずっと驚いた。
 世界に、まさか世界にこんな素敵な女性がいるなんて知らなかった」

 艶やかな黒髪、抜群のプロポーション、見かけの素晴らしさだけでない、精神的な美しさ。
 『不思議の国のアリス』しか恋をしらないナンテは、一目で完璧な美を持つ女性、果心に恋をしたのだ。
 彼女をもっと知りたい、彼女にもっと近づきたい。彼女にもっと触れあってみたい。
 その一心でナンテは行動に出る。
 彼女が所属している部やサークルに顔を出し、その一員として活動するようになった。
そしてナンテは『やめて!嫌!
 これ以上、あなたの記憶を私に見せないで!』

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

〜アタゴリアン城・『天国』〜

果心「嫌!やめて!私に見せないで!
 あなたの記憶を見せようとしないで!」
『果心様、遂に私の記憶が見えるようになりましたか。
 どうですか、貴女に対する恋の記憶は?』

 記憶の世界から無理やり現実に戻った果心の周囲は、何一つ変わっていなかった。
 パイプだらけの壁に、ナンテの意思を喋る大きな機械、刀が腹に刺さったままのナンテに、その刀を見つめる果心。
 だが、果心の体は少しずつではあるが男性の体に変化していた。 
 ナンテの魔法『不思議の部屋(ワンダー・ルーム)』により、果心の体は時間と共にナンテに変化していくのだ。
 最初は指だけだった筈が左腕まで侵食し、肩まで男性の・・ナンテの体に変化していた。足もまた体が変化し、もはや両足全てが男性の体に変化していた。
 更に果心の心にはナンテの記憶が流れ込んでいき、ただ刀を抜くだけで絶命するだけの男の、知らない一面が果心の記憶に刷り込まれていく。
 それを無理やり振り払いたくて果心は叫んだが、状況は何一つ変わらない。

果心「あ、く・・!やめて!
 私に、貴方の人生を見せないで!」
ナンテ『いいえ、いいえ、歴史を知らぬままその世界を潰すのはいけない事ですよ果心様。
 貴女は私の全てを学び貴女は私の全てを背負わなければいけません。
 さあ、もっと私の歴史を学び、もっと私を愛してください』
果心「つ・・早く、刀を抜かないと・・!」

 果心はまだ変化していない右腕で、ナンテの腹部に刺さった刀に手を伸ばそうとする。だがそうするとまるで鏡に自分を写せば自分が映るように、反射的に幼い自分の声が心に響いてくるのだ。

林檎『それで、本当にいいの?』
果心「・・!」
林檎『ニバリ・フランケンは手を伸ばしたじゃない。殺さないよう必死に自分を抑えたじゃない。
 貴女はいつも誰かの死に触れたくなかった。不老不死で『死』から縁を切られた貴女だからこそ誰かの『死』に関わりたくなかった。
 そんな貴女が、自分の勝手で人を殺していいの?彼の事をもっと知れば、殺さなくていい理由が出てくるかもしれないのに?』
果心「彼は、世界を破壊しようとしている悪人よ・・!
 彼はもはや、世界の敵で人類の敵・・!
 もう殺さないといけないのよ・・」
林檎『でも、彼を人類から庇う事が出来るのも貴女だけよね?
 見なよ、彼の記憶を。知りなよ、彼がどうしてここまで歪んでしまったのかを』
ナンテ『先生ェ〜〜!!』
果心「つっ・・・・!」

 刀に手を伸ばそうとする果心の心に、ナンテの声が入り込んでくる。機械仕掛けの合成音声ではなく、まだ若かった頃の、青年だった頃のナンテの声が果心の心に響いてくる。
 そして、彼女の視界がグニャリと歪んだかと思うと、全ての世界が変化した。
 ナンテはいなくなり、刀は消えて、部屋は変化していき、
 やがて大学の廊下に変化した。

果心「ここは、大学の・・まさか・・!」
『先生ェ〜〜!
 果心先生ェ〜〜!』

 果心のすぐ近くから声が響く。
 『いかれた帽子屋』の帽子をかぶった若い青年、ナンテ・メンドールが走りながら声をかけたのが、白衣を着た女性・・当時、大学教授だった果心林檎だった。

果心『どうしましたか、ナンテ』
ナンテ『せ、せんじつ先生が授業で話した研究を俺なりに論文にして纏めてみたんです!時間がないかもしれませんが、どうか読んでください!』
果心『どれ・・』

 果心が廊下の壁にもたれかかりながら論文を読み始める。僅か5分にも満たない筈だが、ナンテは果心からの返事が来るのを嬉しそうに待っていた。
 そうして論文を全て読み終えた果心は少し考える仕草をした後、ナンテに論文を返した。

果心『読ませてもらったけど・・んーー。
 着眼点はいいし細かい所まで調べられていてとてもいいと思うわ。
 ただね・・発想が幾つか飛躍しているのがあるわね』
ナンテ『へ、そ、そうですか?』
果心『閃き力の素晴らしさは認めるけど、論文である以上理屈を重ねた見解も必要よ。
 もう少し、『どうしてその答に至ったか』を説明してくれるとこの論文はグッと良くなると思うわ』
ナンテ「あ、ありがとうございます!
 あ、あの、先生・・確か研究室を借りて独自の研究サークルを作ってると聞きました!
 もしよければそのサークルの末席に俺を入れさせてください!お願いします!」

 ナンテは力強く頭を下げた。
 その際帽子が脱げてしまったが、頭を下げてるので顔は果心には見えない。
 果心は少し考えて、「そうね」と小さく呟いた後、こう言った。

果心『んーー、良いわよ。
 書類とか必要だから後で受付から取りに来なさい。貴方が来るのを待ってるわ』
ナンテ『あ、あ、ありがとうございます!』

果心(・・・・そうだったわね。
 彼を誘ったのは、私だ。
 後の地獄を考えるなら、今の絶望を知っていたら、絶対に貴方をここには誘わなかったけど・・あの時の私は、ただ純粋に知識と思い出が欲しかった。
 自分の事を覚えてくれる人が、そして不死の自分を殺せる知識が・・)

 果心の心が揺れ動きつつ、目の前に立つ自分自身が、笑顔で若者を地獄に引きずり込んだ果心(ジブン)が明るい声で言った。

果心『それじゃあ少し早いけど、これから宜しくね。
 一緒に研究を頑張りましょう。ナンテ・メンドール』

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

果心「・・・・ぐうっ!」
ナンテ『見ましたね。
 私と、貴女の、馴れ初めを・・あの時、貴女が私の論文(レポート)を一枚めくる度に心臓が跳ね上がったのが分かったでしょう。視線を泳がす度に心に熱が上がるのが理解できるでしょう。
 私があの時からどれほど貴女に『お熱』だったか、イヤでも理解できるでしょう。
 ああ、もう下半身は全て『私』に変化してしまったようだね』
果心「・・・・」

 果心は自分の足下を見たくなかったが、感覚で理解していた。
 自分の下半身がすでに男性のそれに変化しきっている事を。
 自分の体に嫌悪感と、ナンテの高揚感が混ざりつつも、頭を横に振った。

果心「・・こうして、私の良心を傷つけていくつもりですか?
 私を汚し、独占し、全てを奪うつもりなのですか・・ふざけ、ないでください」

 果心はもう一度、刀に手を伸ばしていく。するとやはり幼い林檎の声が果心に聞こえてくる。

林檎『それで、本当に良いの・・?』
果心「・・・・貴女、こんな状況でさえ私を止めようとするのですね。
 彼は世界の敵である事、死ななきゃ皆が不幸になるのも分かっているのに私の行動を止めようとする」

 果心は振り返り、幼い林檎に語りかける。林檎は相変わらず表情が抜け落ちた顔で果心を見つめていた。

林檎『でも貴女は知っているよね。
 彼が私(かしん)の為に頑張り続けていた事を。彼は貴女の教え子であり友であり仲間であった。
 世界が彼を否定し、その通りに殺した所で世界は貴女の味方にならない。
 貴女はまた永遠の苦しみに沈まなきゃいけない。そしてその時、一体誰が貴女の味方になってくれるの?』
果心「!!」

 誰が貴女の味方になってくれるの?
 その言葉は、その言葉こそは、果心林檎が最も恐れていた言葉だった。
 誰もが不老不死になる事で、ようやく不老不死になる苦しみから解放される。
 それが果心林檎という永遠の物質の唯一の希望だった。
 果心の手は止まり、林檎の口は動く。

林檎『彼が貴女の味方であるなら貴女は今、世界で唯一貴女の永遠の味方に成れる存在を消そうとしている。
 もし、彼を消してしまえば、それで貴女自身も終わりである事も分かる筈よね』
果心「・・・・そうね。
 確かに、その通りかもしれないわ」

 果心は刀を持とうとした右手ではなく、姿が変化した左手に目線を向ける。
 変化した左手は果心が思えばその通りに顔の近くに向かった。

果心「・・見なさい、林檎。見なさい、ナンテ。
 この何も飾られていない手を。
 本当なら結婚指輪が飾られている筈のこの左手を」
ナンテ『・・・・』

 果心が左手を見せて、老いたナンテは少し目を細めた。

果心「私はダンスをダンクに会わせるよう唆した。
 ダンスもまた不老の存在で、私と一緒に生きてくれる存在であった事に変わりはない。
 でも私は彼を手放し、ダンクの元へ向かわせた。
 それが何故か・・分かるかしら?」
林檎『・・それは』
ナンテ『貴女様が、ダンスを裏切るつもりだったからではありませんか?
 このまま結婚してしまえば、貴女様はただのダンスの子どもを産み育てるだけの肉工場に成り下がっていた。
 それが嫌だから、ダンスを裏切ったのではありませんか』
林檎『・・違う』
果心「違うわ、ナンテ・メンドール。
 私が彼をダンスに会わせたのは、
 私が彼を本当に愛したからよ」

 果心の言葉を聴いて、林檎は目線を果心から背け、ナンテの意思を伝える機械が語りかけてくる。
 果心は静かに首を横に振った。

果心「ダンスは、この数百年もの間『自由』という言葉を感じた事など無かった。
 妹の為、祖国の為に研究に研究を重ね、したくもない人体実験に手を伸ばし続け、狭い狭い城の奥底で嘆き続けていた。
 彼の過去を知った時、私が長年追い求めていた希望がどれだけ安いと感じたか、自分と同じ存在さえいれば世界がどうなっても良いなんて望みがどれほどつまらないか気づかされたか・・林檎。
 貴女なら分かる筈よね」
林檎『・・・・』
ナンテ『か、果心様・・貴女様は、ダンスがどうなったか知らない筈ですよね。
 な、なら教えます、貴女様の希望であったダンスは既にこの世に』
果心「いない、のでしょう」
ナンテ『!!』

 果心は左手をぎゅっと握りしめる。
 本来なら指輪が飾られる筈の左手には、何もない。
 その手を見る果心の目の奥には、悲しみ怒り、そのどちらでもない感情の輝きが見えていた。

果心「分かりますよ、彼はもういない。
 彼は既に死に、この世から消えた。
 それは同時に、彼が数百年も背負い続けた責務から逃れ自由になったのだと言う事です。
 私は彼を愛している。だからこそ、私は彼を自由にしたかった。
 だから私は彼をダンクに会わせたのです。私と一緒に腐りきった縁(えにし)にしばられるのではなく、彼を解放させ、自由の風を浴びさせる為に。
 彼をダンクの所に向かわせた時、私も覚悟を決めたのよ。
 独占の為に戦うのでなく、自由の為に戦いたいと。
 そして、私は貴方を自由にさせたいと思っている」
ナンテ『・・!』
 
 果心はナンテの体を見る。
 ベッドの上で横たわる彼は、全身がチューブに繋がり身動き一つ取れない状態だった。そしてその体は魔術を行使しすぎた反動で、百五十年は生きてるのかと見間違えてしまいそうな程に老いている。

果心「ナンテ・・貴方は、この瞬間に至るまで、一体いくつの罪を背負いましたか?
 貴方は常人であるにも関わらず世界中の分身に力を与え続けていた。
 その代償として貴方は、全身を機械に繋がれ指一本動かす事が出来なくなっている。
 もう、貴方は目を閉じてもいいのよ。ナンテ・メンドール」
ナンテ『・・・・』

 そんな彼の姿を改めて見た後に、果心は左手をナンテの腹部に、刀に伸ばしていき、右手もまた同様に刀に伸びていく。林檎は果心にもう一度たずねる。

林檎『貴女は、本当にそれでいいの?』
果心「・・。
 ナンテ・メンドール。
 貴方は私が解放します。世界の善悪は関係ない。
 私のせいで歪んでしまった貴方の夢をここで終わらせる為に、私は貴方を殺します」
ナンテ『善悪の為にでなく、私の夢を終わらせる為に、ですか。
 ああ、それはまるで・・』

 機械がそこまで告げたが、すぐに別のメッセージが姿を見せた。

ナンテ『・・いいえ。
 何でもありません。さあ果心様。
 私を解放してください。
 貴女様の手で、貴女様の意思で』
果心「・・大罪計画メンバーの一人、
 『憤怒のナンテ・メンドール』。
 貴方の罪を、私が許します。
 貴方はこの世全ての枷から外れ、身軽になって死後の世界に向かい、世界から改めて裁かれなさい」
ナンテ『・・私は、解放されるのですか。
 そういえば、ここ最近忙しくて休みなんてとった事がなかった。
 果心様・・最後まで丁重なお心遣い、感謝します・・』
果心「・・・・!」

 果心は刀を握る力を入れ、ゆっくりと引き抜いていく。肉が切れる感覚と、血がごぼごぼと吹き出ていく音が聞こえてくる。
 だが果心の耳に入るのは、昔のナンテの記憶だった。

ナンテ『ジャン、良いか。
 バナナは健康に良い。だがそれだけじゃ体を壊す!だから俺の料理も喰え!』
ジャン『それでお前の初料理の実験に付き合わされる身になれよ・・』

果心「っ・・!」

ナンテ『これからこのサークルでお世話になります、ナンテ・メンドールです!
 果心先生、よろしくお願いします!』
果心『よろしくね、ナンテ。
 あ、他のメンバーだけど・・』
ナンテ『他の奴なんかどうでもいいです!果心先生だけ知ってればそれでいい!』
ジャン『おいてめえ俺達の事ムシすんなゴラァ!』

 刀が半分ほど引き抜かれていき、血が見えてくる。そして果心の心からナンテの記憶が少しずつ消えていく。

ナンテ『果心先生、ザザから昼飯ですよね、一緒に食べまザザザ!』
果心『そうね、皆も一緒にどう?』
ジャン『俺はパスするッス』
パー『果心先生、ボクも行きますー!』
ナンテ『パー、てめえついてくるなあ!』
パー『ボクだってお腹すいてるしー!
 美人教師と一緒に食べれる権利ザザザザザ!』

 刀が抜けていき、果心の中からパーの記憶が消えていく。果心はその記憶を少しだけ見ていた。

『果心先生』『果心様』『先生ェー!』『センセっ!』『果心先生ー!』『か、かかかか果心・・先生』『果心先生』『先生っ!』『せ、先生っ!』

『果心先生、最後までこんな私を人として扱ってくれて、ありがとうございます』
『果心様、私は少し働きすぎてしまったようです。夢を、なんて事のないまるで日常に存在するような、奇跡の夢を見させてもらいます』

 声が聞こえてくる。
 その声は果心がこの国に入り、初めて聞いた仲間の声でした。
 それはとても少し低い声だが穏やかで優しい、昔、果心が何度も聞いた仲間の声でした。
 その声を遮るように、電子音が部屋に響いてくる。
 『シ』の音程で無機質に響く電子音は、ナンテ・メンドールの死を果心に教えていた。

果心「う、く・・!」

 果心の両手と白いドレスは真っ赤な血で汚れていた。刃が抜け落ち、血を噴出したナンテの体はもう二度と動く事はない。
 果心林檎は、ナンテ・メンドールを『解放』した。
 この世から、果心のいる世界から、永遠に彼を解放したのだ。
 
果心「あ、あああ・・!」

 果心の頬を、透明な涙が伝って、零れ落ちていく。既に元の体に戻っていたが、果心はそれを嬉しいとは一度も思わなかった。
 彼女の心にあるのは、悲しみだけだった。
 だが、世界は彼女に悲しみ続ける時間を赦さなかった。

『♪Happy unbirthday to you♪』
果心「っ!」

 不意に、歌が聞こえてきた。
 ナンテの声で紡がれる、誕生日の日に歌う歌が、悲しみに満ちる部屋に響いてくるのだ。
 あまりに突然に聞こえてきたので、果心は涙を拭うのも忘れ辺りを見渡してしまう。
 
『♪ Happy unbirthday to you ♪』
果心「な、なにこの歌は・・『unbirthday(誕生日じゃない日)』・・?」

『♪ happy unbirthday Dear RinGo kashin〜〜〜♪
 Happy unbirthday to you〜〜〜♪ 』
 
 歌が終わると、部屋中のパイプやチューブが勝手にナンテから離れていき、本当の壁や床を見せてくる。
 綺麗な絨毯に、ピカピカに磨かれた机、バルコニーが見える窓に豪華なシャンデリア。どれもこれも少し前までナンテの治療室だったとは思えないほど鮮やかで、綺麗な部屋だった。

果心「な、何ですかこれは・・!?
 ナンテ、貴方まさかまだ何か手を考えているの・・!?」

 パイプに隠れていたのは壁や窓だけではなく、扉も隠されていた。その扉がその扉がガチャリと開き、中から出てきたのは、
 果心の仲間でありシティの父親、『強欲』のジャン・グールだった。

ジャン「おや、果心様ではありませんか。
 お久しぶりです。『強欲』のジャン、今ここに貴方の前立つ事をお許しください。
 パー、おいパー!カラオケやめろ!
 果心様が目の前にいるんだぞ!」
『怪物バルテルミーを倒せー♪魔法少女〜♪
 ママ・・あれ?ジャン?何?何してんだ?』
ジャン「・・・・果心様、少々お待ちを」

 ジャンが一度扉を閉めた後、テレビを殴り潰す音が聞こえて、もう一度扉が開く。
 青ざめた顔をしたK・K・パーが出てきた。

パー「大罪計画、『怠惰』のK・K・パー・・ただいま、こちらに・・」
果心「・・ええと。とりあえず二人に会えて、嬉しいわ。
 これを見てください。ナンテ・メンドールの遺体です。私が彼を殺しました」
ジャン「・・・・」

 ジャンはもう動かないナンテの顔を見る。ひどく皺がれているその顔を見て、ジャンは小さく「そうか、逝ったんだな」と呟いた。

果心「彼を殺したのは私です。
 罰を受ける覚悟は出来ています・・」
ジャン「・・そうか。
 だが、今は・・」

 ジャンはスーツから紺色のハンカチを取り出し、果心に渡す。果心がそれを受け取ろうとして、そこでようやく自分の掌が真っ赤に濡れている事に気付いた。

果心「あ・・」
ジャン「先ずは、その血と涙を拭いてください。
 そして罰の代わりに受け取ってください」

 そう言ってジャンが見せたのは手紙だ。
 黒い封筒の中心に『Kitty』と赤い文字で描かれている。血と涙を拭き終えた果心が眉をひそめた。
  
果心「『kitty』・・それは、一体、どういう・・」
ジャン「ああ、この手紙の内容を読む前に、一度その窓から外を見てみる事をオススメします。その方が果心様も自身に置かれた状況を理解しやすいと思いますので」

 ジャンはそう言って、大きな手を窓の方にさした。パーも作り笑いを浮かべて同じ動作をする。
 果心は少し考える素振りを見せた後、窓に向かう。
 大きな窓の外はバルコニーが見えて、その先には街と海、そして青空が見える。
 果心はノブを掴んだ後、勢い良く開け放つと、街と海と空、そして下に集まっているモノ達が視界に入る。
 それを見て、果心林檎は思わず驚き、理解した。

 ナンテ・メンドールの夢が、現実を染め上げていた事を・・。


続く。
 

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