猪木とビンス(533)最終章

全日本プロレス創立５周年記念「世界オープン・タッグ選手権」は77年12月２日、後楽園ホールで開幕。

国際プロレスからはラッシャー木村＆グレート草津組、マイティ井上が全日本プロレスの高千穂明久との混成タッグで参加しています。

世界オープン・タッグ選手権はこれより２年前の75年12月に開催された「オープン選手権」のタッグ版で、オープン選手権が参加選手多数により、総当たりリーグ戦を組むのは日程上不可能ということで大相撲形式、ラグビーの対抗戦形式を採用したもののファンに浸透しなかったことや、また途中帰国の選手が多数出て、パット・オコーナーが途中から参戦したりと星勘定が分かりづらかった部分がありました。

消化した公式戦も12大会中、フル参戦したメンバーは８試合行われるのが原則でしたが、ランキング下位選手は８試合公式戦を戦っていない選手もおり、その辺りの運営の仕方には問題がありました。

そこで馬場は「参加選手が多ければ、組ませてしまえばいい」と開催を思い付き、オープン選手権が急遽決まった為、大会場を押さえられなかったこともあり、７月には構想をマスコミに発表していました。

参加チームはドリー・ファンク・ジュニア＆テリー・ファンク組のザ・ファンクス、馬場＆鶴田組、アブドーラ・ザ・ブッチャー＆ザ・シーク組、インターナショナル・タッグ王者チームの大木金太郎＆キム・ドク組、ビル・ロビンソン＆ホースト・ホフマン組、Ｒ木村＆草津組、ザ・デストロイヤー＆テキサス・レッド(レッド・バスチェン)組、Ｍ井上＆高千穂組、天龍源一郎＆ロッキー羽田組の９チーム。また、ブッチャー＆シーク組のマネージャーとしてジム・デュランが参戦しています。

今回は早めに対応したとあって開幕戦に後楽園ホールを押さえた他、12月３日愛知県体育館、６日福岡九電記念体育館、10日仙台・宮城県スポーツセンター、14日大阪府立体育会館、最終戦が15日蔵前国技館と札幌を除く５大都市での開催が発表されています。

注目はアメリカのデトロイトを中心とした五大湖地区で抗争を展開していたブッチャーとシークがタッグを結成したということで、来日直前の77年11月13日、ミシガン州デトロイトのコボ・コンベンションセンターでブッチャーとシークがデスマッチルールで対戦、シークがＫＯ勝ちしています。

デトロイトのプロモーター兼トップレスラーだったシークは74年11月に新日本プロレスに２週間の契約で来日、11月12日、13日の沖縄・那覇市奥武山(おうのやま)体育館で猪木とシングル２連戦。12日の初戦(通常ルール)は猪木の反則負け、13日の第２戦はランバージャック・デスマッチで行われ、猪木の猛攻に戦意喪失したシークが試合放棄。14日の後楽園ホールで坂口に反則負けした後、留守の間、自ら主宰するデトロイト地区でキラー・ブルックス、ルイス・マルチネスらがオポジション(反対勢力)の団体を旗揚げしたとの報を聞き、残り１週間の日程を一方的にキャンセルし、途中帰国してしまいました。

本件は国際裁判まで発展し、シークと新日本プロレスは絶縁、73年４月以来の全日本プロレス「出戻り」となりました。

ブッチャーとシークを組ませたのはプロモーターの馬場以外には考えられないのですが、当時の手法としてブッチャーのアメリカ、ジョージア地区のマネージャーだったデュランが「悪の仕掛け人」として「優勝賞金1,000万円」を餌に敵対していたブッチャーとシークを組ませた、というストーリー仕立てになっていました。デュランはその為に呼ばれた訳です。

開幕戦(テレビ収録、観衆3,200人超満員発表)は国際勢は公式戦でＭ井上＆高千穂組がロビンソン＆ホフマン組と対戦。Ｍ井上は両者とは74年以来３年ぶりの対戦。17分28秒、ロビンソンが高千穂をワンハンド・バックブリーカーからの体固めで破り、ロビンソン＆ホフマン組が２点。

Ｒ木村＆草津組は公式戦はなく、デストロイヤー＆デュラン組を破っています。

開幕戦ではファンクスが天龍＆羽田組を破り、メインイベントの馬場＆鶴田組vsブッチャー＆シーク組は11分36秒、ブッチャーが馬場をジャンピング・エルボードロップからの体固めで降しています。試合後、ブッチャー、シークに痛めつけらている馬場、鶴田をファンクスが救援に入りましたが、テリーがブッチャー、シークに捕まり、五寸釘で額を割られてロープで首を絞められて悶絶。このシーンがテレビでアップに大写しにされました。

このテリーの「やられっぷり」で大会の成功は約束されたようなものでした。

Ｒ木村＆草津組の公式戦初戦は第２戦の12月３日、愛知県体育館(観衆4,500人発表)でＭ井上＆高千穂組との「半同門対決」となり、11分５秒、Ｒ木村がＭ井上をブレーンバスターからの体固めで破り２点発進しています。