mixiユーザー(id:5540901)

2019年07月15日19:34

306 view

読書日記Nо.1193(箱の中の天皇)

■赤坂真理「箱の中の天皇」2019年2月河出書房新社刊

私は未読だが、著者は、2012年に、アメリカで天皇の戦争責任を
問われる日本人少女の目を通して、戦争と戦後を描いた「東京プリズン」
を上梓し、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、紫式部文学賞を受賞、大きな
話題となった。

本書はその続編とも位置付けられ、改元を目前に控えた時期に刊行、
改めて、日本の象徴天皇制の秘密について、思想史的ではなく、文学として
迫った小説。

惹句の出来が悪かったものですから、東大の武田将明さんのレビューから
引用して紹介。

“もうすぐ平成が終わる。明治以降はじめて、日本人は天皇の存命中の退位を
経験することになる。しかしその事実と自分がどう向き合うべきか、考えた
ことはあるだろうか。”

“本書の主人公のマリは、謎の老女の導きで敗戦直後にタイムスリップし、
占領軍総司令官ダグラス・マッカーサーを訪ねる。隙を見て部屋にある小箱を
すり替え、そこに収められた天皇の魂の一部を奪還する。”

“一年後、マリは今上天皇が退位の意向を表明した演説を聴く。その周りには
マッカーサーなどGHQの面々も座している。実際の演説が引用されながら、
マリとGHQのあいだで天皇制に関する議論が巻き起こる。そこに先述の老女が
召喚され、マリは今上天皇に直接問いかける。”

“これがあらすじだが、本書の「魂」はむしろ天皇制をめぐる議論の中身にある。
マリは、「日本国民統合の象徴」という、日本国憲法に記された天皇のあり方
について問う。象徴は実体を表象するはずだが、果たして実体としての「日本国民」
とは何か。戦後の日本人は家や会社などの箱を次々に作ったが、そこに入る中身
について考えてきたのか。”

“つまり、箱に閉じ込められた天皇の魂とは、本来は日本国民の魂でもあるはず
なのだ。しかし本書によれば、象徴を満たす実体について真剣に考えているのは、
「全身全霊をもって象徴の務めを果たして」きた今上天皇だけである。ならば、
この天皇の退位を契機に、「日本国民」とは何かという問いに一人一人が向き
合うべきではないか。”

“こうまとめると小説というより論文のように思えるかもしれないが、本書の凄みは、
時空を超え、虚実のあいだを縫う想像力と、現実への批評精神が結びついた点にある。シャーマン的な社会小説という点で、石牟礼道子を彷彿とさせる。”

なんだか、武田先生の引用だけになってしまいましたが、著者の赤坂真理さんには
私も石牟礼さんを彷彿とされるシャーマンを感じました。

天皇制自体、論理で割り切れない、シャーマン的な要素があります。

でも著者が、この小説で、一番表現したかったのは、2019年4月末に退位された
上皇の思いではなかったかと思います。

上皇は当然、その真意を語られませんから、フィクションにすることによって、
その思いが、凄みをもって、読者に迫ってきます。
16 16

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2019年07月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031