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2019年05月22日04:11

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Gleichbehandlung

2011年に発表した記事です。
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差別禁止法とビジネス界のコスト

 ドイツは、建前を守るために膨大なコストをかける国だ。その一つの例が、2006年に施行されたAllgemeines Gleichbehandlungsgesetz (AGG)=均等待遇法である。
 俗に差別禁止法とも言われるこの法律は、 2000年以来欧州連合(EU)が発布してきた複数の差別禁止指令を法制化したもの。具体的には性別、人種、政治的信 条、年齢、身体的なハンディキャップなどによって、職業や経済活動に関する差別を行うことを禁止している。日本では、以前「三十歳未満の女子を求む」など 年齢制限を設けた求人広告があったが、ドイツではこのような広告は、均等待遇法に違反する恐れがある。差別されたと主張する者は、損害賠償を請求できる。
 5年前にこの法律が施行された時、ドイツの経済 界には「差別されたと訴える市民が裁判所に殺到するのではないか」という懸念もあったが、実際には訴訟の大波は押し寄せなかった。訴訟になっても、裁判所 は原告に対して厳しい態度を示す場合が多い。たとえば2008年2月に、トルコ系ドイツ人女性が「育児休暇から会社に戻ってきたら、自分のポストは他の人 に回され、不利な仕事を担当させられた」として、ドイツの保険会社に対し約43万ユーロ(4730万円・1ユーロ=110円換算)の損害賠償を求める訴訟 を起こした。労働裁判所は、差別の事実は認定しながらも、保険会社には原告の請求額の24分の1の支払いしか命じなかった。事実上の原告敗訴である。「濫 訴の弊」が司法によって防がれているのは、企業にとっては喜ばしい傾向であろう。
 しかし差別禁止法は、社会に様々なコストをもたらしている。今年3月に欧州裁判所は、生命保険、損害保険の 保険料について性別によって差があるのは違法とする判決を下した。このため、2013年1月から女性の自動車保険料は大幅に引き上げられる。現在ドイツで は、女性の自動車保険料は男性に比べて平均25%安い。逆に個人 年金保険や疾病保険では、女性の保険料の方が高い。この差は統計に基づいたものなのだが、欧州裁判所は「差別だ」と断定し、保険業界に是正措置を命じた。
 メルケル首相は、ドイツ企業の取締役の中で女性 の比率が低すぎると批判した。ドイツ経済研究所によると、大手企業200社の取締役の内、女性の比率はわずか3・2%。また監査役会でも、女性の比率は 10・6%にすぎない。これは他の欧州諸国に比べて低い。たとえばスウェーデンで取締役の中に女性が占める比率は27%、フィンランドでは24%、デ ンマークでは18%だ。
 ドイツでは大学入学のための資格試験に合格する 若者の内、55・7%は女性。大学卒業者の中に女性が占める比率も、51%。つまり高等教育を受ける人の比率は、男性よりも女性の方が多い。それにもかかわらず、取締役会などで企業の舵取りをしている女性は少ないのだ。
 現内閣では女性が首相を務めているほか、5人の大臣が女性。政治の世界では女性票がきわめて重要なので、各党とも女性に重要な役職を積極的に与えている。これに対し企業では、そのようなプレッシャーはない。これが、政治の世界に比べて、ドイツ企業の上層部で女性進出が遅れ「男性による支配」が続いている理由の一つだろう。
 欧州では、法律によって企業上層部の女性比率を強制化する国が増えている。ノルウェー、デンマーク、スペイン、オランダはその例である。ドイツ政府も、企業が自主的に女性比率を引き上げない場合には、法律によって最低限の女性比率を強制化する方針だ。差別が減ることは喜ばしい。しかし企業の間では、政府が全てを法律で強制することによって、過剰なコストが生じることを懸念する声がある。
 こうした流れに対応して、ドイツでも、女性取締役の比率を引き上げる会社が少しずつ増えている。たとえばドイッチェ・テレコムは、2015年までに取締役会の中に女性が占める比率を自主的に30%に引き上げる。電力会社E・ONも去年5月に初めて女性を取締役として採用した。消費者に「先進的な企業」というイメージを与える目的もあるようだ。
 今後ドイツの大手企業の間では、自主的に女性役員を増やすことによって、法律による規制を逃れようとする動きが強まると見られている。
 
 

 
 




 
 


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