文春オンライン 2018年5月
(4)ユ・ヨンス(28歳・男性・大学3年生)
──学校生活の様子は?
「いま(9月下旬)は農村戦闘期間中です。秋の収穫と脱穀のために40日間、動員されています。学校で必要なお金は、中国の人と物々交換しながらちょっと儲けています」
──核実験やミサイル発射について、学校ではどう話しているか。
「教授らは微妙な部分なので言及しませんけど、学生たちの意見は2つに分かれます。賛成する人が60%程度でしょう。軍隊生活のあとに大学に入った人たちは、社会生活を知らないから誇りをもっています。気の毒ですね。僕たちはイライラしますよ。ミサイルを発射しても飯が出てくることはないし、利益にならないから。気が合う友達同士で集まると、否定的に話します」
──友達同士で、金正恩委員長についてどう話すか。
「ご存知でしょうけど、金日成首領様から繋がっている偶像化を、金正恩がやろうというんですよ。首領様のときは少し業績もあったけど、金正日が完全に台無しにしてしまった。金正日は、自分だけ1万ドルのワインを飲んで、我が人民はたくさん飢え死にしたじゃないですか」
社会主義でもなく、資本主義でもない。これが国ですか?
北朝鮮のほとんどの人は、金日成だけは主席や首領様という敬称をつけ、正日、正恩は呼び捨てにする。28歳のユ氏でさえそうなのだから、金正恩が髪型や帽子・服など祖父の真似をして「遺訓統治」をしている理由がよくわかる。
「金正恩は仕方なく地位を継承したけど、何かをやるという言葉だけで、やったことがありません。誰を撃ち殺した、という話は聞こえますけどね(幹部の処刑のこと)。我が国はいま、社会主義でもなく、資本主義でもない。これが国ですか?」
韓国で朴槿恵・前大統領の退陣を求めるロウソクデモが真っ盛りだったころ、「これが国か!」というスローガンが溢れた。まったく同じ言葉だったので、苦笑してしまった。
「社会主義というのは、国家が国民に供給をしなければならないのに、金正日のときから一度も実行されたことがありません。言葉だけです。中央放送局が今年は配給してくれると言うけど、食糧がないのにどうやって配給しますか」
──金正男氏が海外で暗殺されたが、知っているか。
「韓国のラジオ放送を通じて聞きました。それだけ金正恩が不安を感じているのでは? 金正恩の側近たちは、朝鮮時代500年をどのように統治していたか研究しているそうです。だから、兄弟の存在がもっとも危険だと思ったのでしょう」
──米朝間の緊張には、どの程度の危機感をもっているのか。
「ご存知のように、我が国はアメリカと常に対立していて、南朝鮮(韓国)とも緊張しない時期がありません。人々の意識は、慣れてしまったといえますね。『アメリカが私たちに戦争を仕掛ければ第3次世界大戦になるから、中国とロシアがそうさせないだろう』と考えています。僕もそう思います」
ログインしてコメントを確認・投稿する