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2016年01月08日05:09

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難民危機・メルケルの苦悩 (下)


 ドイツの保守勢力の間では、「メルケルの難民政策は市民に不安を抱かせるので、極右政党にとって、支持率を増やすための絶好のチャンスを与える」という危惧が強まっている。極右政党は、市民の間で外国人に対する見方が硬化するのを常に待ち望んでいるのだ。


実際ドイツの極右勢力は、難民急増を契機に過激化しつつある。旧東ドイツに多くの支持者を持つ右派市民団体「欧州のイスラム化に反対する愛国者たち(PEGIDA)」が今年10月に行ったデモでは、一部の参加者が絞首台の模型を掲げ、メルケルの名前を書いた紙片を吊るした。


10月19日にドレスデンで行われたPEGIDAのデモには、1万5000人の市民が参加した。ケルンの市長選挙の投票日前日には、難民受け入れを支持していた候補者が、極右思想を持つ暴漢にナイフで刺されて重傷を負った。


 ドイツの治安当局は、ネオナチなど暴力的傾向のある極右勢力の数を約1万人と推定している。これはドイツの人口の0.13%にすぎない。数は少ないが、彼らは外国人にとっては危険な存在である。


外国人排撃を動機とする犯罪は、今年1月から6月までは毎月200件のペースで発生していた。しかしその数は7月には423件、8月には628件と大幅に増加している。


 連邦政府のT・デメジエール内務大臣によると、去年難民宿泊施設に対する放火や落書きなどの犯罪行為は約153件だったが、今年は10月初めの時点で490件に増えている。220%もの増加だ。


 来年にはバーデン・ヴュルテンベルク州など4ヶ所で州議会選挙が行われるほか、2017年には連邦議会選挙と3つの州議会選挙が行われる。これらの選挙で、難民受け入れに前向きであるSPDと緑の党の得票率は、下がるだろう。メルケルが党首のままであるならば、CDUも有権者に罰せられる可能性が強い。CDUの議員たちは、そのことを恐れて、メルケルに難民政策の変更を迫っているのだ。


 メルケルは2015年に首相に就任してから、今年で10年目。ドイツだけでなく、EUでも彼女ほどの経験と指導力を持った政治家はいない。しかし私は、9月5日の難民受け入れ宣言によって、メルケルにとって「神々の黄昏」の序曲が始まったと見ている。


 ドイツ国民を失望させた政治家は、選挙で確実に失脚させられる。「EUの女帝」と呼ばれたメルケルも、その運命から逃れることはできない。


(熊谷 徹 ミュンヘン在住)筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de




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