カリブ海地域への２段階の植民と人口推計、コロンブスが滅ぼしたカリブ海地域先住民の歴史を探る

 クリストファー・コロンブスが初めて「アメリカ大陸」を「発見」したのは、今から５００年以上前の１４９２年で、この年は世界史の授業では「いしのくに」として語呂合わせで覚えるように言われた。

◎奴隷商人、虐殺者の残虐な顔を持ったコロンブス
　ただ正確に言えば、その時、コロンブスは「アメリカ大陸」には発見も到達もしていなかった。最初に上陸した地を「サン・サルバドル島」と名付けた（写真）。今のバハマ諸島にある。ここで先住民と出会い、コロンブスは自分はインドに上陸したと信じていたので、彼らを「インディアン」と呼んだ（想像図：先住民とのコンタクト。しかし本当はこんな友好的なものではなかったらしい）。
　その後、コロンブスは何度かカリブ海諸島と南米北東海岸に遠征するが、彼はそこで先住民を奴隷化したり、虐殺したりした。奴隷商人、殺戮者は、コロンブスのもう１つの顔だった。

◎カリブ海地域の先史人骨の遺伝子データ
　コロンブスが出会ったカリブ海地域の集団は、タイノ族、ルカヤン族、カリブ族などだったが、ヨーロッパからやって来た白人植民者たちに虐待され、また伝染病を移され、絶滅してしまった。
　絶滅したバハマ諸島の先住民は、いつ、どこから島々に渡ってきたのだろうか。アメリカ、オーストリアなどの研究チームが、バハマ、ハイチ、イスパニョーラ島、プエルトリコ、キュラソー諸島、ベネズエラの先史遺跡から出土した１７４体の古人骨に由来するゲノムと、既に行われた８９体分の遺伝子データと合わせた解析を行い、カリブ海地域の集団遺伝学的人類史を描き出し、イギリスの科学週刊誌『ネイチャー』２０２１年２月４日に報告した。

◎６０００年前と２５００年前の波
　これまでカリブ海地域は約６０００年前に人類が定着したことが考古学的に分かっている。彼らは時を持たない古期（アーケイック期）の集団だったが、約２５００年前に土器を製作・使用し、農耕を行う土器時代に移行した。
　今回の分析で、古期に最初のカリブ海地域に渡来した石器使用民は、メソアメリカや南米北部の集団に最も近縁で、これまでの研究成果と異なり、北米の集団からの遺伝的寄与は認められなかった。
　つまり遅くとも１万２０００年前頃にはメソアメリカ・南米に達していたパレオインディアンは、西と南からカリブ海地域に植民したことになる。
　この古期系統の人類集団は、その後９８％以上が南米北東部のアラワク語族の言語を話す集団に由来する、遺伝的に均一な土器使用集団によって取って代わられたことが分かった。つまりこの移住の波は、南からカリブ海地域に渡ってきた。

◎希薄な人口では絶滅に抵抗できない
　さらにこの集団は、遅くとも１７００年前までには小アンティル諸島を経て大アンティル諸島へと移動した。
　渡来したこれらの時代のカリブ海地域の集団は、有効集団サイズの小さく、それを反映して配偶者プールが限定されていたにもかかわらず、近縁交配が避けられていたことも分かった。
　コロンブス到達以降、カリブ海地域の先住民があっさりと絶滅してしまったことからもうかがえるが、カリブ海地域の人口は希薄で、これまで推定された数十万人というのは過大見積もりだったことも分かった。

◎土器様式の変遷は大陸からの移住の結果ではない
　プエルトリコとイスパニョーラ島で今回解析した人々が生きていた時代以前の数十世代の有効集団サイズは、最小で５００〜１５００人、最大で１５３０〜８１５０人と推定され、総人口が有効集団サイズの１０倍を超えていたとは考えにくいからだ。
　また土器時代の集団は小さかったが、彼らは相互につながっていた。別々の島の親類とイスパニョーラ島内で約７５キロも離れて埋葬されていた近親者同士は遺伝的差異は小さく、土器様式の変遷にわたって見られる遺伝的な連続性が見られた。
　このことは、遺伝的に異なる集団が大陸からの移動によって異なる土器様式を持つ集団から駆動されたのではなく、相互につながったカリブ海世界の中での相互作用を反映したものであることを明確にしている。

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