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人相が悪く不愛想な「教習所の鬼教官」が、“姉のまさかの一言”で豹変するまで

―[教習所の思い出]―
 意外と知られていないが、自動車教習所の教官になるには『指定自動車教習所指導員』という国家資格が必要。教習生には短期間で交通法規や運転技術を覚えてもらわなければならず、ひと昔前まではどの教習所も厳しく指導することが当たり前だった。怖い教官が多かったのもそのためだ。
教習

画像はイメージです

ガラの悪い教習生を逆にビビらせていた

 保険会社に勤める桧山敬司さん(仮名・35歳)が教習所に行き始めたのは、内定が出た後の大学4年の夏休み。ただし、通っていた地元の教習所は教官の指名制を採用しておらず、担当が誰になるかは直前までわからなかったそうだ。 「でも、『厳しい』と評判だったK教官に何度も当たっちゃって。その人は当時はまだ20代後半でしたが愛想ゼロだし、常に眉間にシワが寄っていて威圧感もハンパなかった(苦笑)。一度、技能実習修了後にハンコがもらえなかったのか見るからにガラの悪そうな教習生がK教官に突っかかってる現場に遭遇したんです。でも、本人は胸ぐらを掴まれてるのにまったく動じる気配はなく、気づいたら絡んだ側の教習生が逆にビビってる様子でした。その感じからしてこの人には絶対逆らっちゃダメだと思いました」  そして、仮免取得まであと一歩という頃、同じ実家暮らしの3歳年上の姉から「ねえ、あんたの通ってる教習所にKって教官いるでしょ?」と唐突に聞かれる。「いるけど、それがどうしたの?」と答える桧山さんに対し、「実は、その人と付き合ってるんだよね」と爆弾発言をしてきたのだ。 「姉とは昔からお互い何でも言い合える間柄でしたが、あれには驚きました。姉ちゃんには『鬼教官で有名だよ』って教えてあげたら『想像つくなぁ。だって人相めっちゃ悪いもんね』って大爆笑。けど、それまでK教官相手だと内心ビビりながら教習を受けてましたが、姉ちゃんの彼氏ならそこまで怖がる必要ないなって。そこは少しホッとしました」

「彼女の弟」と知って鬼教官もキャラ変?

 ちなみにK教官は、その翌週の技能教習を担当。実は、彼もほぼ同じタイミングで姉から話を聞かされたらしく、「弟がいるとは聞いてたけど、まさか君だったとはな」と照れ笑いを浮かべながら言われたそうだ。 「それまで笑顔なんて一度も見せたことがなかったため、親近感が湧きました。教習中も注意やアドバイスをする際の声のトーンは高いし、口調もやけに優しかったですね。だから、その日の技能教習が終わった後、『余計な気を遣わせてしまったみたいですみません……』と謝ったんです。そしたらK教官もなぜか頭を下げてきて謝罪合戦。『どう接すればいいかわからなくて……』と本音を打ち明けられました」  桧山さんは「今まで通りで構いません」と話したがその週末、K教官が実家に挨拶に伺い、教習所の話で両親と大盛り上がり。さらにこの日の夜、姉の提案で3人でボウリングに出かけ、すっかり仲良しになってしまう。  しかも、教習所内では“K教官の彼女の弟”という話が他の教官たちの間に知れ渡り、毎回のように担当する教官からそのことを尋ねられたそうだ。
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ずっと無事故無違反でいられるのは…
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