米国でのリリースから2年、日本にApple Payが上陸したのは2016年10月のこと。当時、日本国内ではクレジットカードの“タッチ”による非接触決済が一般的ではなかったため、日本版Apple Payでは他国にはない特殊な仕組みが導入された。
日本国内における非接触決済といえば、FeliCaを使ったSuicaなどの「交通系IC」や「楽天Edy」、ドコモと三井住友カードによる「iD」、JCBの「QUICPay」、そして流通系事業者が提供する「nanaco」「WAON」といったサービスが主流だった。
日本版Apple Payにおいては、非接触によるリアル店舗決済のために交通系IC、iD、QUICPayを採用し、特に同サービスにクレジットカードを登録した場合にはiDまたはQUICPayのいずれかが非接触決済として利用可能とした。
他国では、例えばMastercardブランドのクレジットカードをApple Payに登録すれば、iPhoneを決済端末に“かざす”ことで同ブランドの非接触決済が利用できる。日本でこの仕組みが利用できるようになったのは、2017年にiOS 11が登場して以降の話となる。
また、日本国内ではVisaブランドのカードはApple Payに登録できず、仮に登録できてもVisaのブランドとしては利用できず、iDまたはQUICPayの決済としてしか利用できない。国内でVisaブランドの利用が可能になったのは2021年以降の話で、クレジットカードのブランド別シェアで最も比率の高いVisaが長年利用できなかったことは、iDやQUICPayの利用をより促す結果につながっていたと考えられる。
だが、こうした日本国内のFeliCaサービス全盛時代が、間もなく終了することになるかもしれない。
複数の関係者の話によれば、Appleは従来まであった日本国内におけるクレジットカード登録のルールを緩和し、それまで必須だったiDまたはQUICPayへのひも付け義務化を間もなく終了する計画だという。
これまで、日本国内で発行されたクレジットカードまたはデビットカードをApple Payに登録しようとした場合、そのカードは必ずiDまたはQUICPayのいずれかとして利用が可能だった。国内でApple Payを経由してVisaが利用できなかった時代にも、対応のカードであればiDまたはQUICPayとして利用できており、今回のルール緩和は日本独自の仕様から諸外国で一般的な方式へと移行していくことを意味する。
今回のAppleの方針転換は2つの事柄を意味する。1つは、これまで日本国内でApple Pay対応を行ってこなかったカード会社(イシュア)が、ルール緩和を機に一気にApple Pay対応を進める可能性が高くなったことだ。
従来であればiDまたはQUICPayのいずれかへの対応が必要なため、両決済サービス導入に向けてドコモやJCBとの決済手数料に関する交渉の他、そのためのシステム投資が必要だった。特に複数国にまたがって決済サービスを提供しているようなイシュアでは、諸外国と比較して手数料を含む追加投資負担が大きくなるため、「日本向けのみApple Payは未対応」といった現象も起こしていたといえる。
2つ目は、iDとQUICPay対応が必須でなくなることにより、今後イシュア各社が両サービスへの対応をやめ、MastercardやVisa、JCBといった国際ブランドでの利用へと一本化していく可能性だ。
決済サービスで特定のブランドのネットワークを利用してトランザクションを実行する場合、ブランドに支払うインターチェンジフィーが発生する。ケース・バイ・ケースではあるものの、国際ブランドに比べて両FeliCa系サービスのインターチェンジフィーが高い場合、同じクレジットカードを通じて店舗でのApple Pay決済を行ったにもかかわらず、ユーザーの選択次第でインターチェンジフィーが変化することになり、イシュアにとっては敬遠されかねない。ゆえに、ブランドとの交渉の過程で片方に一本化していくというのは十分にあり得る。
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