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#5 小さく生まれた赤ちゃんたち

「お母さんのせいじゃない」 20人に1人が早産、原因に感染や多胎

双子の場合は、半数の方が早産になっています。

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写真はイメージです 出典: Getty Images

目次

小さく生まれた赤ちゃんたち
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「小さく産んでごめんね」。早産を経験したお母さんから、たびたびこの言葉を聞きます。先進国のなかで、2500g未満で生まれる赤ちゃんの割合が高い国の一つ、日本。その割合は、ここ50年ほどで2倍近くになりました。赤ちゃんが小さく生まれる背景の一つに「早産」があります。なぜ早産になってしまうのでしょうか。お母さんに伝えたいことを医師に聞きました。

【関連リンク】「小さく生まれた赤ちゃん」について考えます【朝日新聞フォーラム】
https://www.asahi.com/opinion/forum/168/

20人に1人が早産

「小さく産んでしまった自分を責めました」。早産などで赤ちゃんを産んだ母親たちに話を聞く中で、何度も耳にしました。

「小さい赤ちゃん」とは、2500g未満で生まれる赤ちゃんを指します。

SNSでも時折、「小さく産んでごめんね」と子どもへ謝る言葉を目にします。我が子が小さく生まれた現実と向き合いつつも、やり場のない思いを自分に向けているのかもしれません。

多くの赤ちゃんは妊娠37週以降に生まれ、平均体重はおよそ3000gです。一方で早産は、「妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産」を指します。年間およそ20人に1人が早産で生まれると言われています。

厚生労働省の人口動態調査によると、2021年に2500g未満で生まれた赤ちゃん(低出生体重児)は7.6万人。出生数のおよそ9%です。

1975年に5%ほどだった割合は1980年代から増加し、2002年以降9%台になりました。2006年の9.6%をピークにやや下がりながらも横ばいで推移しています。経済協力開発機構(OECD)諸国での平均は6.6%(2018年)。先進国の中で、日本は小さく生まれる赤ちゃんの割合が高い国と言えます。

 

早産の原因は?

なぜ早産になってしまうのでしょうか。早産は止められないのでしょうか。国立成育医療研究センター産科診療部長の梅原永能医師に話を聞きました。
国立成育医療研究センター産科診療部長・梅原永能医師
国立成育医療研究センター産科診療部長・梅原永能医師 出典: 国立成育医療研究センター提供
ーーなぜ早産になるのでしょうか?

早産のメカニズムすべてが分かっているわけではありませんが、最も多いのは子宮内感染が原因で自ずと早産になってしまう「自然早産」です。

一方、お母さんが妊娠中に合併症(病気)になって、お母さんあるいはお子さんの命を守るため、帝王切開などで早めに分娩をする「人工早産」もあります。

人工的な早産を考えるのは、例えば、胎盤が子宮口をふさぐ前置胎盤や妊娠高血圧症候群、双子の妊娠などです。

ーー双子などの多胎も早産に影響しているのですね。

一時、不妊治療の増加で双子や三つ子など多胎妊娠が増えました。それとともに早産率が上がり、今は横ばいです。

双子の場合、半数の方が早産になります。出生時の平均体重はおよそ2200gです。統計上は低出生体重児(2500g未満)にも振り分けられます。

ーー不妊治療をした方では、多胎妊娠でなくても早産になるケースがあります。

不妊治療をされている方のバックグラウンドが関係しているのかもしれません。なかなか妊娠されず、年齢が少し高い方も多いと思います。

年齢が高くなると、単胎でも早産になりやすかったり、妊娠中の合併症が起こりやすかったりすることがあります。
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写真はイメージです 出典: Getty Images

次の妊娠も早産のリスク

ーー早産を止めることはできないのでしょうか?

自然早産の原因である子宮内感染が起こっている場合は、難しい状況です。

例えば、おなかが張ってきたり、出血があったり、子宮口が柔らかくなって開いてきてしまったりする段階では、かなり病状が進んでいます。その後に何か治療をするとなっても、出産を止めることは難しいです。

我々ももっと早い段階で見つけられるようなすべがあるといいのですが。

ーー感染と聞くと不衛生だったのか、生活習慣がいけなかったのかと自分を責めてしまいそうです。

不衛生にしていたからとか、これをしたから感染したということではありません。

膣内の細菌叢(さいきんそう:細菌の集合体)が崩れやすいといった体質の影響もあります。常在菌のバランスが崩れることで細菌が腟から子宮内へ侵入し、炎症が広がります。

早産した方は、病院で「次も早産になりやすい」と言われると思いますが、体質的な部分が影響するからなのです。

ーー早産になった母親へ、産後どのようなことをお話ししますか?

次の妊娠を考えている場合、ご本人にリスクをお伝えし、次回も同じ病院を受診してもらうようにお話しします。

早産の原因にもよりますが、早産が避けられず、分娩が進んでしまった方は次回の妊娠でもなりやすく、なりかけてしまったら止められません。

早産になりやすい方に対して、「どうやって早産のリスクを低下させるか」が重要だと我々は考えています。

予防法が確立しているわけではありませんが、妊娠の早い段階で膣内の細菌の状態を調べて、もし細菌叢が崩れているようであれば早めに治療します。あるいは、腸内細菌をしっかり整えることによって膣内の常在菌を整えていきます。

まだ確立した治療とは言えませんが、早産になった方に対してプロゲステロンというホルモンを投与することで、次の妊娠で早産のリスクを減らせるという海外の論文もあります。日本では保険適用ではなく、我々の病院では自費診療でご希望があれば治療をしますとお話ししています。
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写真はイメージです 出典: Getty Images

ストレスはリスクの一つ

ーー早産になる前の「切迫早産」という状態もありますが、これは「早産」とどういう関係があるのでしょうか。

「切迫早産」は、そのまま放っておくと早産になってしまう可能性が高い状態です。

切迫早産にならないために妊婦さんが気をつけられることがあるかというと、そこもなかなか難しく、確立された治療法もありません。私たちが何をしても出産を止められない状況になってしまうこともあります。

昔は家や病院で安静にしているしかないということでしたが、それで早産率が減ったり、妊娠期間を延長させるというデータは今のところありません。

ただ、急に分娩が進んできたときすぐに対応できるという意味で、入院していただく場合もあります。

ーー切迫早産の妊婦さんに何かアドバイスすることはありますか?

「妊婦さんが何か悪いことをしたから切迫早産になる、早産になることはありません」とお話しすることは多いですね。

「自分が悪かったのではないか」と自責の言葉を口にするお母さんがいるので、「お母さんのせいではありません」とお話しさせてもらいます。

一方で、仕事のストレスは、早産のリスクの一つとも言われます。仕事はしすぎない方がいいかもしれませんが、仕事がストレスにならない人もいます。仕事が悪いのではなく全体的なストレスが良くないので、なるべくストレスのないように生活してもらいたいですね。
 
【関連リンク】「小さく生まれた赤ちゃん」について考えます(朝日新聞デジタル)
【関連リンク】10人に1人が2500グラム未満 小さく生まれた赤ちゃんのリスク(朝日新聞デジタル)
【関連リンク】低出生体重児だった山縣亮太選手 詳しい話をしたがらなかった父(朝日新聞デジタル)
 

日本では、およそ10人に1人が2500g未満で生まれる小さな赤ちゃんです。医療の発展で、助かる命が増えてきました。一方で様々な課題もあります。小さく生まれた赤ちゃんのご家族やご本人、支える人々の思いを取材していきます。

みなさんの体験談や質問も募集しています。以下のアンケートフォームからご応募ください。
【アンケートフォームはこちら】https://forms.gle/dxzAw51fKnmWaCF5A
 

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