アニメ化決定『ダンダダン』の魅力はラブコメ成分にあり? ギャップ萌えヒロインに不快感のない主人公

ラブコメとしての『ダンダダン』

  『少年ジャンプ+』で連載中の『ダンダダン』が、ついにファン待望のTVアニメ化を果たすことが発表された。同作は累計発行部数320万部突破、閲覧数3億6,000万超えという勢いを誇る人気マンガだが、なぜここまで熱狂的な支持を集めているのだろうか。ファンを夢中にさせてやまない“ラブコメ成分”に着目し、その魅力をあらためて分析してみたい。

  同作はオカルトマニアの少年・高倉健(オカルン)と、霊媒師を祖母に持つ少女・綾瀬桃(モモ)を主人公としたオカルティックバトル&青春物語。作品の魅力として真っ先に挙げられるのが画力の高さで、さまざまな宇宙人や幽霊とのバトルが圧巻の迫力で描き出されている。

  作者の龍幸伸は、『チェンソーマン』で知られる藤本タツキの元アシスタントで、業界でも有数の画力の持ち主。『地獄楽』の賀来ゆうじが、X(旧:Twitter)で「僕の知りうる限り、総合的な画力が最も高い人で、どの現場でもこの人の絵を参考にするように言ってきました」と語っていたことが印象深い。

  しかし実は同作のすごみは、画力だけではない。ダイナミックな戦闘シーンに負けないほど、甘酸っぱい青春ラブコメの描き方が巧みなのだ。

  同作のラブコメとしての面白さとして、まず指摘したいのが、登場人物を描く際の“ギャップ”の使い方だ。そのことはラブストーリーの主軸となるヒロイン・モモのキャラクター描写を見るだけでも伝わってくるだろう。

  モモは制服を着崩した見た目と気が強そうな言動が特徴的で、いわゆるギャルのようなキャラクター。1話目では、冒頭からクズ彼氏と大喧嘩して別れるシーンによって読者に強烈な印象を与えた。

  だがその直後、高倉健のような硬派な男に憧れているという、ピュアで乙女な内面が明かされることに。また一切面識がなかったにもかかわらず、オカルンがクラスメイトに嫌がらせを受けているのを見て、颯爽と助けてみせる場面も描かれている。ヒロインらしからぬイメージが、畳みかけるようにひっくり返されていくのだ。

  ここまでの描写に使われたページ数は、わずか10ページ足らず。最初はあえてネガティブな描写から始め、一気にそれをポジティブな方向に転換することで、読者の心をジェットコースターのように揺さぶっている。

  キャラクターの魅力は、テンプレ的な描写から少しズラしてみせることによって生まれるもの。ひと昔前は「ギャップ萌え」などと言われていた概念だが、それを地で行っているのがモモなのではないだろうか。

不快感がない理想のラブコメ主人公・オカルン

  それに対して主人公のオカルンも、ギャップ満点。丸メガネをかけた見た目をしており、内気で友人が少ないナード的な存在として登場するものの、一度決意したことは徹底してやり抜くという猪突猛進な一面を併せ持っている。

  そして決して交じり合いそうになかったオカルンとモモは、怪奇現象を通して仲を深めていくことに。2人の関係性は、俗にいう「オタクにやさしいギャル」にも近いものの、そんなフレーズには収まらないほどの破壊力を秘めている。

  そこで大きな役割を担っているのが、オカルンの精神的な成長だろう。当初は主人公でありながら、頼りない印象が拭えなかったオカルンだが、その後メキメキと芯が強いキャラクターになっていく。モモに対する感情も誠実かつ純粋で、読者に不快感を抱かせることが一切ない。

  そもそも前提として、ラブコメ作品では“主人公の好感度”がもっとも重要な要素となっている。好感度が低く、感情移入しにくい主人公では、読者が恋愛を「応援したくない」と感じてしまう……というわけだ。その点、オカルンは読者が心から応援できる、理想的なキャラクター造形と言えるかもしれない。

  さらに物語はオカルンとモモの関係性だけで終わらず、ヒロインや恋のライバルが登場してくることで、ラブコメとしての厚みを増していく。そんな波乱万丈な展開も、読者に飽きがこない理由だろう。

  ちなみに2024年に放送されるアニメ版は、人気アニメ制作会社・サイエンスSARUが制作を担当するとのこと。同社は、『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半タイムマシンブルース』などの森見登美彦原作作品を手掛けてきたことで知られる。

  オカルトを背景とした異色のラブストーリーを描いた『ダンダダン』とは、まさに抜群の相性だろう。一風変わった青春模様をどう料理してくれるのか、楽しみでならない。

 

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