作家・今村翔吾はなぜ地方書店の復興に力を注ぐのか? 「佐賀之書店」開業にかける思いを聞く

今村翔吾、地方書店の復興に力を注ぐ理由

 『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞した歴史小説・時代小説家の今村翔吾氏が、12月3日に佐賀駅(佐賀市)の商業施設で「佐賀之書店」を開業する。今村氏は2021年に書店経営会社の「京国」(大津市)を設立し、大阪府箕面市の書店を事業承継したほか、2022年には直木賞を受賞したお礼として全国47都道府県の書店をめぐる「今村翔吾のまつり旅」を敢行するなど、書店の活性化に力を注いできた。

 今回の「佐賀之書店」は、今村氏が小説「狐の城」で九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞を受賞したことがきっかけで小説家デビューを果たしたことから、その恩返しとして開業することを決心したという。佐賀駅高架下の「えきマチ1丁目」に開く店舗の面積は約82.5平方メートルで、約1万1000冊の書籍を並べる予定だ。佐賀市在住の「カリスマ書店員」でインフルエンサーの本間悠氏が店長を務める。

画像提供:テナント工房

 出版不況によって書店の閉店が相次ぐなかでの挑戦に、今村氏はどんな問題意識と希望を抱いているのか。その熱い胸の内を聞いた。

「全国に2万店以上あった書店は、この30年で1万店以下に減少しています。単純に47都道府県で割ると、1都道府県あたり200件以上の書店が無くなっているわけで、これはなんとかしたいと思いました。首都圏では人気のある大型書店などもありますが、かつてはどこでも見かけたような、ごく普通の町の書店は本当に少なくなっています。僕自身、ふと立ち寄った小さな書店で買った一冊に大きな影響を受けたことがあるので、そういう機会が減ってしまうのはすごく寂しい。旅先で買った本とか、ずっと記憶に残っていたりしますしね。

 もちろん、時代とともに無くなってしまう仕事があることは理解しています。例えば映画の活動弁士という仕事は、無声映画がなくなるのに伴って成立しなくなりました。書店という商売のみならず、もしかしたら作家という職業ですら、いずれは消えゆくものなのかもしれない。でも僕は、そういう結論を出すにはまだ早いと考えているんです。今なお本を愛する人たちが大勢いる以上、その判断は次の世代に委ねるべきで、少なくとも僕は、たとえ微力だとしてもまだあらがっていきたい」

 地方に出店していることにも、今村氏ならではの考えがある。

「佐賀に出店したのは、僕が九州さが大衆文学賞大賞を頂いた縁もありますが、地方の町に本屋さんがあることの意義を考えたからでもあります。佐賀にもショッピングモールに併設された大型書店などはありますが、町中で日常に溶け込んだ書店というとかなり少ない。そういう書店が町に対して、すぐに何かの効果を示すわけではないでしょうが、5年後、10年後と長い目で見たときに、その町に住む人々の質を高めると思います。地方の町はどこも苦しい状況にあり、日本全体でも人口が減っている中で、なにが大切かというと、一人ひとりがもっと自らの可能性を引き出すことであり、町の書店はその一助となるのではないでしょうか。

 昨今は動画などのコンテンツが溢れていて、その中には良質なものもたくさんありますが、時間をかけて本を読むことの価値はまた格別なものです。本を読むことは著者との長い時間をかけた対話であり、それが人を成長させます。実際、人に自らの人生を変えたコンテンツは何かと聞くと、今なお一冊の本を挙げる人がすごく多いのは、やはり本には本ならではの力があるからでしょう。僕自身が本によって人生を変えられてきたので、その出会いのきっかけとなる書店は、日本中の人にとって身近なものであってほしいんです」

 一方、書店を続けていくには多くの困難があるのも、また事実であると今村氏は続ける。

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