ジェームズ・ボンド、映画とはまったく異なる地味なキャラ 小説『007/カジノ・ロワイヤル』を読む

ジェームズ・ボンド、小説では地味なキャラ 

 ジェームズ・ボンド/007についてご存じの方は多いことだろう。

 「007」はイギリスの作家イアン・フレミング(1908-1964)のスパイ小説、およびこれを原作とするスパイ映画シリーズのことで、ジェームズ・ボンドは同シリーズの主人公。007はボンドに与えられたコードナンバーで任務遂行中は自分の一存で容疑者を殺めても不問にされる殺人許可証である。

  イギリスの情報機関MI6(正式名はSIS)のエージェントで、議論の余地なく世界一有名なスパイである。

  作者の死後、すでに半世紀以上を経た現在ではスパイのアイコン的な存在となっている「シャーロック・ホームズ」シリーズに悪役として登場するモリアーティ教授を主人公とした漫画『憂国のモリアーティ』では同じく「シャーロック・ホームズ」シリーズを原点とするアイリーン・アドラーがMI6に加わり、男装して「ジェームズ・ボンド」を名乗る創意工夫にあふれた設定が採用されている。

  今日において同シリーズが一般的な知名度を得たキッカケは映画化だ。原作小説の第一作は1953年に発表された『007/カジノ・ロワイヤル』だが、権利の関係でしばらく映画化されず最初の映画化作品となったのは原作シリーズでは第6作目の『007 ドクター・ノオ』(1962)だった。

  同作は製作費100万ドルという今では考えられないほどの低予算で制作されたが、5,900万ドルもの興行収入を計上し、以降「007」はドル箱プロジェクトに進化。フレミングが残した007シリーズは長編12本と短編集2本だが、ドル箱プロジェクトになったシリーズが簡単に終わるはずもなく、原作のストックが尽きた途中からは原作の世界観を踏襲したオリジナル、言い換えると正式な認可を受けた二次創作同人誌のような形で継続している。

  特にシリーズ史上唯一のBAFTA映画賞(英国アカデミー賞)の英国作品賞を受賞した『007 スカイフォール』は同人誌的なネタが特盛で盛られており、出来も極上だ。

  シリーズは俳優が年を取るごとに定期的にリブートされ、ショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアース・ブロスナン、ダニエル・クレイグの累計6人がジェームズ・ボンドを演じている。

  6代目ボンドのダニエル・クレイグはすでに前作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を最後に"卒業"しているが、次作のボンド役は現時点で未定。

  トム・ハーディ、ルーク・エヴァンス、アーロン・テイラー=ジョンソン、ヘンリー・カヴィル、レジ=ジーン・ペイジ、リチャード・マッデン、ジェームズ・ノートン、ヘンリー・ゴールディングなどの名前が挙がっているが記事執筆時点で正式なアナウンスはない。

  余談だが「007」シリーズが初めて「映画化」されたのは1962年でも、「映像化」されたのは原作シリーズ第一作が発表された翌年(1954年)まで遡る。

  アメリカの大手放送局CBSがわずか1000ドルで『007 カジノ・ロワイヤル』の映像化権を買い取り、『クライマックス!(Climax!)』という一時間枠のテレビドラマにしている。放送当時は大して評判にならなかったようだが、いまや同作はマニア垂涎の貴重映像となっており入手困難状態のようだ。

  ボンドはアメリカ人に設定変更されており、バリー・ネルソンというアメリカ人俳優が演じている。一般的には初代ボンドはショーン・コネリーと認識されているが、厳密には初代ボンドはバリー・ネルソンである。

  さて、映画で描かれているジェームズ・ボンドは典型的なフィクションのヒーローである。知力、体力の双方に優れハンサムで華麗なプレイボーイで、世界を股にかけて大立ち回りを演じる。

  フィクションのキャラクターであることが一発でわかる類のフィクショナルなキャラクターで、中学二年生的な観念の集合体的な存在だ。映画のボンドしかご存じない方にはそのようなイメージが定着していることだろう。

  ところが、原典である007シリーズ第一作007/カジノ・ロワイヤル』のボンドは意外なほど一般的に定着したイメージと異なる。今回は意外と知られていない原典『007/カジノ・ロワイヤル』のボンドについて由無し事を連ねていくとする。

  なお、本稿では原作描写を一部引用するが、引用元は現時点で最も新しい翻訳『007/カジノ・ロワイヤル』(創元推理文庫/白石朗・訳)であることをお断りしておく。

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