第1回「俺って役に立っていない」 東京から逃げ出そう、55歳の決断

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【A-stories】55歳の「逃げ恥」体験 無給で働いた1年

 私は現在56歳。アラ還の一記者だ。

 20年以上、医療や介護、年金など社会保障の取材を続けてきたので、専門記者といわれることもある。

 一方で管理職のポジションとはほぼ縁が無く、出世とはほど遠い生活を送ってきた。

 そんな私が2021年春から朝日新聞社を休職し、大分県にある社会医療法人で1年間、無給の「研修生」として過ごした。

 なぜ、そんなことをしたのか。

 「医療・介護の現場での体験を通して、より専門性を深めるため」。こんな、世間体のいい語りもできる。

 しかし1年の休職を決めた理由は、もっと差し迫ったものだった。

 一言でいえば、新型コロナを引き金に、メンタルがだんだんとまずいことになったのだ。

 ここ数年、配属されていたのは、社会保障とはあまり関係ない部署だった。必死になって新たな分野を取材して、自分の居場所を見つけようとした。

 だが、自らに「有用感」を持てない状態が続き、少しずつ心に疲れがたまっていった。

 一つ原稿を書き上げても、次の原稿にとりかかるエネルギーがすぐには湧いてこない。でも評価を得るためには、動き続けなければならない。

 常に何かに追われるような気分なのに、心身に力が入らず、息切れした。

 ステイホームが続く中、リア…

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    田中俊之
    (大妻女子大学准教授 男性学研究者)
    2022年12月12日11時37分 投稿
    【視点】

    定年退職者という言葉から自動的に男性の姿が思い浮かぶことからも分かるように、日本では女性が定年まで働くことは稀です。40年間働き続けられること自体、男性の特権だと言えるでしょう。ただし、その特権の代償として、健康を害したり、有用感を持てなく

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    岡崎明子
    (朝日新聞デジタル企画報道部編集長)
    2022年12月12日11時20分 投稿
    【視点】

    この連載のデスクを担当しました。浜田陽太郎記者は、過去に同じ職場で働いたこともある尊敬すべき先輩で、今春に復職した際、真っ先に「休職中の経験を書いてください」とお願いしました。なぜなら私自身も、「なぜ働くのか」と考えることが増えてきたからで

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