「きれいな先輩に失恋した話」、視点を変えると…… 認知の違いが浮かび上がる漫画に「リアリティがエグい」「視点の変化でこんなにも感情が変わるものなのか」(1/3 ページ)
前半と後半で印象ががらりと変わります。
自分の感じたことや認識が、相手と同じとは限らない。同じできごとを2人の視点で描いた漫画「先輩は綺麗な人だった」がX(旧Twitter)で話題を呼んでいます。最初の投稿には10万以上のいいね(記事執筆時点)が付き、読者の考察も盛り上がっています。
漫画を投稿したのは、理系女ちゃん(@rikejo_chan)さんです。自分が思う自分、他人が思う自分……あなたには物事が客観的に見えているでしょうか。
物語はまず、「先輩はきれいな人だった」という描き出しから、後輩の男子学生である「僕」の視点で語られます。彼は、黒くて長い髪に白い肌、すらっとした体型の先輩のことが好きでした。でも、彼はそのステキな外見を好きになった訳でなく、先輩の研究熱心なところや、ネガティブなことを言うと叱ってくれたり、実験や院試についても親身に指導してくれたりといった、内面に惹かれていたといいます。
そして、先輩に認められようと、院試に合格したり、学会で賞も取ったりと研究に励んだそうです。彼が「全部先輩のおかげです」と言うと、先輩も喜んでくれたようです。
しかし、先輩と付き合うことはかないませんでした。「先輩と付き合うのに自分は未熟だった」と感じた「僕」は、「この気持ちをずっと忘れない」と考えます。最後に「僕」が手にしたスマホには、「こんなに痛いけど、きっとまた人生をやり直すことになっても、また浪人して、また同じ大学に入って、先輩に会うと思う」という投稿が……。
一方、漫画の後半は「先輩」の視点に切り替わります。先輩の目に映る「僕」は「ちょっと危なっかしかった」ようで、「これまでちゃんと対人関係を積んでいない人」に見えていたことが分かります。それでも先輩は「彼が全部悪いわけではない」「ちょっと変わっているけど研究に真面目な男子」だと考え、面倒を見ていたと語ります。
しかし、先輩のもとにはやがて頻繁にLINEが届くようになり、返事をしないとさらにたくさんのLINEが送られてくる状態に。先輩はだんだんと後輩(僕)を「怖い」と思うようになったようです。そのことを周囲に相談すると、「何をしでかすかわからないから」と先輩が1人にならないよう守ってくれるようになったといいます。
そして卒業を控える中、先輩は後輩に呼び出されます。先輩には、後輩が「長い謝罪のような何かを言っていた」ように見えており、「どう返すのが正解かわからなかった」ため「……ごめんなさい」と口にしたことが明らかになります。
先輩は「何をされるかわからず怖かった」と感じたものの、「彼だけが悪いわけではない」「いつか、彼も変わるかもしれない」と考えます。それでも「もう彼に会いたくない」と先輩は思うのでした。最後のコマには前半のラストと同じSNSの投稿が映り込みます。
同じ出来事でも視点人物によって大きく認識が異なることが分かる構成になっており、表情や振る舞いばかりではなく、容姿までもが違って見えているのが印象的です。また、前半で「告白か?」と思われるシーンも、後半と並べてみると、2人の気持ちや考えが全く別のところにあることが見えてきます。
理系女ちゃんさんの漫画を読んだ人たちからは「リアリティがエグい」「ぞぞぞ。これ、女性視点バージョンと男性視点バージョンで特に後輩男のルックスが全然違うのが細かくて良い。認知の歪みか」「本当の客観的事実って思ったほど拾えなくて一方に肩入れせず公平に見るって生半可じゃ務まらないよなー、という作品」といったコメントが出ているほか、さまざまな視点で漫画の考察が行われています。
この漫画を描こうと思った背景などについて、理系女ちゃん(@rikejo_chan)さんにお話を聞きました。
――この漫画を描くきっかけはあったのでしょうか
理系女ちゃんさん:大学院の研究室で人間関係のトラブルがあっても組織の性質上それが解消されにくい現状に問題意識を持ったためです。
――描くにあたって気を付けたところはありますか
理系女ちゃんさん:2人の学生のどちらかを客観的に肯定または否定するような描写を避けることで、特定の解釈を促さない内容になるよう気をつけました。
――漫画のどこに注目してほしいですか
理系女ちゃんさん:2人の心理描写の差異です。この漫画は理系大学院を舞台としていますが、理系大学院に関わらず同じようなケースはどこでも起こりうることだと思います。
――漫画への反響について感じたことをお聞かせください
理系女ちゃんさん:引用リポストで色んな方が各々の解釈や意見を投稿されているのを読むのが楽しいです。
画像は理系女ちゃん(@rikejo_chan)さんの投稿より
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