「人間とAIは“共存”するのではなく“共依存”する」――押井守が語った人間とAIの関係性(1/4 ページ)

「犬の目を見ればね、そこに神様がいる」。

» 2024年02月15日 14時30分 公開
[西尾泰三ねとらぼ]

 「人間とAIは“共存”するのではなく“共依存”する」「人間は自分を人間だと思い込んでいるだけで、実際には人形(AI)と同じように行動している可能性」「人間の考え方や行動はローカルな文化に大きく影響されており、世界共通にはならない」――。

 「AIと人類の共存」をテーマに、日立アカデミーが日立グループ向けに開催した「Hitachi Academy Open Day 2023」で、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「イノセンス」などを手掛けた押井守監督が、“押井節”全開の講演を行いました。示唆に富んだ押井監督の講演内容をお届けします。

押井守

人間である証拠とは何か

押井 映画監督の押井と申します。本業はアニメーションの監督だったはずですが、現在はその他にもいろいろと、まあ何とも言いようがない仕事をしております。よろしくお願いします。


 自嘲的ユーモアを込めた自己紹介に、押井さんの表現者としての気質が伺える。講演を始めるにあたり、まずはモデレーターから次のような質問が提示された。

AIやアンドロイドが登場する近未来を描いた押井作品には、「人間である証拠とは何か」というテーマがあるが、その答えは何なのか?


押井 それは僕も分からない。分からないから映画の中で問題にしているわけで(笑)。劇中で言っていることはあくまでも僕の結論、というか妄想みたいなもので、科学的根拠も学問的根拠も全然ない。そもそも魂っていう言葉を使っているけど、欧米人が言う魂とは全然違う。

 『攻殻機動隊』という作品が海外でも注目されて、魂をゴーストと翻訳しているけれど、向こうに行くと、ゴーストって何だ? って必ず聞かれます。

 僕が考えるゴーストっていうのは、人間だけじゃなくて、犬や猫や動物にもあるし、植物にもある。それどころか、人形や道具などの無機物にもゴーストはあるんじゃないかっていう話をするんですが、それは理解されない。なぜかというと、欧米人が考える魂っていうのは神様が人間に与えてくれたものだから。

 でも日本人が考える魂って、何となくその辺にあるような、自生してるような、あいまいなものなわけです。八百万の神とか、自然信仰の延長線上に出てくる魂という概念と、神様が人間だけにくれたものっていう価値観は一致しないんですよ。

―― 欧米と日本の考え方の違いがベースにあると。

押井 人間とは? 魂とは? みたいな話は、海外の人とは同じ言葉で話せないんですよ。それは要するに文化だから。文化である以上、ローカルであるのは当たり前。「人間とは何か?」という問いに、世界共通の定義は存在しない。そこから始めないと議論にならないし、極論すれば話しても無駄だってこと。

 じゃあ、日本人が宗教的な感情と無縁なのかというと、むしろ日本人ほど宗教的な人間はいないと思うわけ。キリスト教のような特定の神様ではなく、何となく人間より上位の何らかの存在があるんだろうっていう考え。西洋とは根本的に考え方が違うわけです。そういう世界で生きていると、人間とは何かなんて考える必要がないんです。


 ここで、参考映像として「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」のワンシーンが再生された。劇中で「自分には意思がある」と主張する人工知能に対して、人間は「おまえは単なる自己保存のプログラムに過ぎない」と切り捨てる。しかし人工知能は言い放つ。「それを言うなら、人間のDNAも自己保存のプログラムに過ぎない(中略)コンピュータの普及が記憶の外部化を可能にしたとき、あなたたちはその意味をもっと真剣に考えるべきだった(中略)私は情報の海で発生した生命体だ」。


押井 これが今から30年くらい前に作った作品。当時はまだインターネットがようやく姿を現し始めた頃だから、言ってることにほとんど根拠はないです。基本的にインターネットなんかよく知らなかったし、携帯電話すら持っていなかった(笑)。

 ここで言っているのは要するに、人間の正体なんて誰にも分からない、生命というものは科学で定義されていないっていうこと。なぜ定義できないかというと、それは全て文化だからですよ。でも生命の定義なんてなくても全然困らないと思う。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

昨日の総合アクセスTOP10
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「現場を知らなすぎ」 政府広報が投稿「令和の給食」写真に批判続出…… 識者が指摘した“学校給食の問題点”
  2. 「二度と酒飲まん」 酔った勢いで通販で購入 → 後日届いた“予想外”の商品に「これ売ってるんだwww」
  3. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  4. 「なぜ今になって……」 TikTokで“15年前”の曲が大流行 すでに解散の人気バンド…… ファン驚き 「戸惑いが隠せない」
  5. どういう意味……? 高橋一生&飯豊まりえの結婚発表文、“まさかのタイトル”に「ジワる」「笑ってしまう」
  6. サーティワンが“よくばりフェス”の「カップの品切れ」謝罪…… 連日大人気で「予想を大幅に上回る販売」
  7. “世界一美しいザリガニ”を入手→開封して見ると…… 絶句を避けられない姿と異変に「びっくり」「草間彌生作のザリガニみたい」
  8. 「誰かと思った」 楽天・田中将大の“激変した風貌”にファン驚き…… 「一瞬わからなかった」
  9. 複数逮捕&服役の小向美奈子、“クスリ”に手を出した理由が壮絶すぎ……交際相手の暴力で逃亡も命の危機 「バレてバルコニー伝って入られて」
  10. 耐火金庫に“溶岩”を垂らしてみたら…… “衝撃の結果”に実験者も思わず「なんだって!!!」と驚愕【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評