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「自分自身がパワプロの選手だと思ってやってきた」大谷翔平は自らのプレーを「自分育成ゲーム」と自覚していた

 メジャーリーグ、ロサンゼルス・ドジャース大谷翔平の連日の活躍が日本人を喜ばせている。MLBを観察し、取材してきたライターの内野宗治氏はその圧倒的な力でさまざまな障壁や閉塞した世界を変えた「ゲームチェンジャー」だと評する。そんな大谷の活躍は「漫画のよう」とも言われているが、大谷自身もそれを自覚しているきらいがある……。 ※本稿は、内野宗治著『大谷翔平の社会学』(扶桑社新書)の一部を抜粋、再編集したものです。

「ビデオゲームのよう」。パワプロ的な大谷翔平

 日本のメディアはよく、大谷の活躍を「漫画のよう」と表現するが、個人的には「ビデオゲームのよう」のほうがしっくりくる。「漫画のよう」と言うと、たとえば現実的にはありえない変化をする「魔球」を投げたり、あるいは「トルネード投法」的な飛び道具が出てきそうだが、大谷の場合はそうではない。大谷は投打ともに極めてオーソドックスな選手だが、単純に、すべての能力がありえないくらいハイレベルなのである。  言うなれば人気野球ゲームである実況パワフルプロ野球、通称「パワプロ」でオリジナルの選手を育成するサクセスモードを極めた人が、裏技を使って全能力「A」ランクを持った完璧な選手を作り上げたという感じだ。まさにビデオゲーム的であり、実際にアメリカのメディアは投打の両方で突出した活躍を見せる大谷の成績を〝video game numbers〟(ビデオゲームのような数字)と表現することもある。  ということを考えていたら2024年1月、大谷がそのパワプロの「アンバサダー」に就任したことが発表された。大谷はやはり幼少期にパワプロを楽しんでいたようで、インタビューでこう語っている。

「自分自身がパワプロの選手だと思って(練習を)やっていた」

「パワプロ2022」での大谷のゲーム画像

「ある種、自分が選手というか『サクセス』みたいなものだと思う。自分に合った練習をして、休むこともですけど、練習したものが返ってくるという意味では、ゲームも現実も大ざっぱに言えば同じ。そういう感じで、自分自身がパワプロの選手だと思って(練習を)やっていたので、子どものころは単純に楽しかった」 「ゲームのなかの選手を自分で育てることもすごく好きだったので、今は自分の体を使って(パワプロのサクセスと)同じようなことをやっている感じですかね。自分の育成ゲームみたいな感覚というか。趣味みたいなところもありますし、そういう部分は(影響が)あるかなと思います」 「ゲームも現実も大ざっぱに言えば同じ」というセリフを昭和のプロ野球選手が聞いたら腰を抜かしそうだが、まさに「自分育成ゲームみたいな感覚」で飄々と、涼しい顔で野球を楽しんでいるように見えることが大谷のすごさであり、何より時代を体現している。
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野球は「武士道」?
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