「天気予報は“お上”のものではない」――ウェザーニューズが見すえる「自分のための予報」の時代

» 2013年03月01日 14時00分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 森田氏は、「気象予報士の資格を返上しようかと思っている」と笑う

 「天気予報は“上から降ってくる”ものではない」。ウェザーニューズ取締役で気象予報士の森田清輝氏は言う。

 2004年から10年近くにわたり、「サポーター」と呼ぶ一般ユーザーからの情報を、予報に生かす取り組みを行ってきた同社。“気象のプロ”が天気予報を独占してきた状態に、違和感を覚えているという。「個人的な見解だが」と前置きしつつ、森田氏は言う。

 「これまでの天気予報は、気象庁を頂点として上意下達で降ってくるもので、われわれ専門家が威張っていた。だが、気象の自由化から20年経ち、一般の人も含め、自分で予報ができる時代になってきたのではないか」

人間の五感は優秀なセンサー

 気象庁や気象予報士が行う「気象科学的に正しい」予報は、アメダスなど正式な観測機器でとらえたデータをコンピューターに入力し、物理モデルを気象予報士のようなプロが解釈して判断する。

 観測機器の全国配備には億単位の予算が必要で、国家予算で整備し、気象庁の予報担当者や気象予報士といった、国の許可を受けたプロが予報を行うのは自然で、「気象予報は、お上から降ってくるのが効率的な時代はあった」と森田氏は認める。

画像 温度、体感温度、露点温度、湿球温度、風速、最大風速、平均風速、相対湿度、気圧、標高を測れる「ソラヨミマスター」。1万5000円の機器で一般の人でも詳細な情報が取得できる

 だが技術の進化により、観測機器の小型化・低価格化が進んでいる。例えば、同社が発売した、温度や風速、気圧などを測れる手のひらサイズの気象観測機「ソラヨミマスター」は1万5000円で手に入るし、精密な観測機でなくても、例えば、円柱形の雨量カップを自作し、簡易的に雨を観測するといったことは誰でも可能だ。

 そもそも気象予報の技術が確立・普及する以前から人類は、天気とともに暮らしてきた。「夕焼けの次の日は晴れ」「ツバメが低く飛ぶと雨」など、身の回りの変化から天気の変化を予想する観天望気も広く知られ、「耳が痛いから雪になりそう」など、五感と経験で天気を読む人もいるなど、「人間の五感そのものが優秀なセンサー」(森田氏)でもある。

 「1000万円だった観測機器が1万円で買える時代。もう少し経てば1000円で買える時代になってくるだろう。そうすると、測ることに国家予算はいらなくなる。自分自身がセンサーであり、観測機を補助的に使える時代になってくる。あくまで個人的な意見だが、自分が自分のために天気予報をやる時代、気象予報士の制度も、いらなくなるかもしれない」(森田氏)

 携帯電話やスマートフォンを使えば、一般ユーザー同士で観測結果を送信・共有でき、さまざまなデータ処理もクラウド上でできる時代。「自分で勉強しなくても、隣同士でデータ交換すればネットワークの中で天気予報ができるかもしれない。そうなれば、天気予報に学問的背景もそれほどいらなくなるのでは。専門家と一般ユーザーの違いは、専門用語を知っているかどうかでしかない」と森田氏は言う。

サポーターからのアイデアの種、育てたい

サポーターとともに作る「ゲリラ雷雨メール」

 これまで同社は、サポーターから寄せられた天気情報を基に、現在地の1時間先までの天気を10分ごとに予報する「10分天気予報」や、局地的豪雨になりそうな地域のユーザーから天気の報告を募り、豪雨を予報する「ゲリラ雷雨メール」を展開するなど、サポーターと二人三脚で新しい予報を作ってきた。

 天気だけではない。夜空の星や流星の写真を撮ってもらう企画など、「空」にまつわるさまざまな企画を展開。企画のヒントをくれるのはいつも、サポーターからの投稿だ。「1つの会社が考えられることは有限。まだまだ可能性があると思うが、われわれからは大したものは出て来ない。サポーターの方々からアイデアに、“種”が眠っている。その種に水や肥料をやって育てていきたい」(森田氏)

身を守り、命を守るために

 同社の創業の理念は、「船乗りの命を守りたい」。1970年、当時は予報が難しかった爆弾低気圧により貨物船が沈没し、15人が亡くなった事故を受け、創業者の石橋博良さん(故人)が、「本当に役立つ気象情報があれば、この事故は防げたかもしれない」と気象の道に進んだことが、ウェザーニューズ設立につながっている。

 「天気の変化から身を守る本能のようなものは、人間に本来備わっていた能力ではないか」――サポーターとともに歩む中で森田さんは、そう感じるようになったという。

 台風や大雪など気象状況が厳しくなってくると、サポーターからのリポート量が急増し、リポートの文章も緊張感が増す。「豪雨の被害や土砂災害にあった人に聞くと、事前に危険を感じていることも多い。本当に危険な事態に近づいた時、人間は何かを感じ、誰かに伝えようとするのではないかと思うようになった」

 “お上”からの気象予報に慣れ切ってしまうことは、個人が五感で気象を感じ、危険を察する能力が鈍化し、自分の身を守りにくくしてしまう恐れもある。空を見たり、気象を報告する習慣をつけてもらいながら、自分のために気象を知り、命を守ってほしいという願いが、同社のサービスには込められている。

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