『マチネの終わりに』石田ゆり子、3か国語操る声の美しさ キャリアとともに厚みを増す魅力とは

『マチネの終わりに』石田ゆり子の声と眼差し

 『マチネの終わりに』は、劇場で観なくてはいけない映画だ。福山雅治が演じる蒔野聡史の奏でる音楽が、この作品の主軸にあるのはもちろんのこと、大人の恋愛物語には“孤独“という名の静寂が欠かせないからだ。

 本作は、芥川賞作家・平野啓一郎の同名小説を原作に、クラシックギタリストとジャーナリストの恋を描く。東京、パリ、ニューヨークと華やかな街並みを背景に、ふたりが会ったのは6年間のうちたった3回だけ。だが、それでも出会ったからには、もうその人がいない世界など考えられない。そんな運命の恋を、美しい音楽とともに紡いでいく大人のラブストーリー。

 映画館のシートに身を沈め、日常の喧騒を忘れてクラシックギターの音色に耳を傾ける。すると、徐々にマチネを楽しむ石田ゆり子演じる国際ジャーナリスト・小峰洋子の視点と、自分自身の視界がリンクしてくるような感覚になる。蒔野の音楽に惹かれ、その才能を愛した洋子の気持ちが、耳から流れ込んでくるかのようだ。

 音は、時として感情の再生ボタンをダイレクトに押すスイッチになる。この映画では不安や焦燥感に駆られるシーンでは激しい落雷音が、そして悲しみと絶望に打ちひしがれる破壊音が、効果的に鳴り響くのだ。

 一方で、2人が抱える孤独感も暗い影と、音のない世界で表現されている。筆者が鑑賞した劇場では、ほぼ満席だったにも関わらず、その静寂は空調の音さえ耳に入ってくるほど、深いものだった。この時間、多くの人が同じ暗い気持ちを感じていたはず。

 打ち込める仕事もあれば、慕ってくれる人もいる。けれど、どこか満たされない心細さ。忍び寄る年齢の壁……。人生を諦めるにはまだまだ早い。でも若さと勢いで乗り切るには、大人になりすぎた40代という繊細な年ごろがスクリーンを通じて、観る者の心にまで暗い陰を落とすのだ。

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