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Apple Musicの“追加料金無しでハイレゾ提供”が楽曲販売に与えるインパクト インディーレーベル運営者の視点(1/4 ページ)

» 2021年05月18日 17時13分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 Apple Musicが6月からハイレゾとイマーシブオーディオ(AppleはDolby Atmosに対応した空間オーディオと称する)に対応するというニュースが飛び込んで来た。すばらしい。何にも増して、追加料金なしで楽しめるという点が美しい。ただ、レーベル関係者の中には、抵抗感を覚える人もいるのではないか。

photo ロスレスとハイレゾロスレスをうたう

 これまで、ハイレゾやイマーシブオーディオコンテンツの価格設定は、「音質や没入感の向上」を錦の御旗に、ロッシー(MP3やAACなどのようにデータが圧縮され一部の情報が欠損している)音源より高額な設定で、エクストラチャージを強いていた。例えば、moraでダウンロード販売しているEaglesの「Hotel California (2013 Remaster) 」は、ロッシー音源が1517円なのに対し、192.0kHz/24bit版は2200円。ユーザーはハイレゾという付加価値に700円近い追加料金を支払っていることになる。

 それは、マーケティング戦略として当然のことのように思えるが、音楽業界の末端でインディーレーベルを運営している筆者としては、どこか違和感があった。

 というのは、筆者が制作に携わる音源の場合、マスター音源は、すべて96〜192.0kHz/24bitで作成している。インディーレーベルとプラットフォームを仲介するアグリゲーターに納品する際、ハイレゾマスターはそのまま納品可能だが、ロッシー音源は、コンピュータのリソースを消費して44.1KHz/16bitにダウンコンバートして納品する必要がある(ロッシーへの変換はプラットフォーム側が実施する)。

 つまり、原価を考えれば、余分なリソースを消費している分、ロッシー音源の方がコスト高になっているわけだ。原価積み上げの考え方で価格を決めるのであれば、ロッシー音源の方が高額に設定しなければならない。制作環境によっては、マスタリングソフトからワンストップで複数のフォーマットが書き出せるので、コストは変わらないという向きもあろうかと思うが、それはそれで、同じコストじゃないか、という話になる。

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