■基本は軽く湿らせてからのアイロンがけ
まず、しわくちゃの紙を伸ばす方法を聞いてみた。
「ひと口に紙といっても、いろいろなタイプがありますが、物質という広い意味ではどれも同じような性質といえます。ですので、紙質によらず紙のシワを取る方法はだいたい同じと考えてよいでしょう。霧吹きなどを使って軽く湿らせてから、紙にアイロンをかける。これが基本です。紙は比較的熱に強いので、アイロンを直接当てても大丈夫です」(江前さん)
アイロンをかける際のポイントはあるだろうか。
「シワが伸びにくければ、湿らせる度合いを少し強くするとよいでしょう。しわくちゃになっているなら両面にアイロンをかけます。紙が全体的に反っている場合、湿ったものに熱を加えると縮むという紙の性質を利用し、反っている紙の外側にアイロンを当てると反りが直ります」(江前さん)
水分と熱で調節しながら作業を行うとよいだろう。
■水性ペンやインクジェット印刷は要注意
ただし、アイロンで作業を行う場合には注意点があるようだ。
「雑誌のように印刷所で印刷されたものはアイロンがけでOKですが、手書きやプリンターで印刷されたものは、インクの素材に注意が必要です。水ににじまないインク、ボールペン、鉛筆、油性マジックなどで書かれたものは霧吹きとアイロンで同様に処理することができるものの、水性ペンやインクジェット印刷の場合は文字がにじんでしまう可能性があります」(江前さん)
では、そのような場合はどうすればよいのだろうか。
「水蒸気を利用するなどして、本当に軽く湿らせてから素早くアイロンをかければ、文字などがにじまなくてすむ可能性はあります。ペンやインクの種類がわからない場合もそのようにしたほうがよいでしょう」(江前さん)
その場合も基本はアイロンがけとのこと。インクが何かわからない場合は少しずつ作業を行うとよいだろう。
一連の方法を動画でチェック!
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■板で挟んでおもりを載せる方法
にじんでしまっては、後戻りが難しい。水とアイロンがけ以外の方法はないのだろうか。
「効果はアイロンがけほど高くありませんが、板や雑誌などに挟んで、おもりをのせると、ある程度はシワを取ることはできます。この場合も湿らせてから行うと効果が出やすいですね」(江前さん)
紙のシワを伸ばす目的が書面の保存なら、コピーをとるという選択肢もある。最後に江前さんは次のような言葉で締めくくった。
「そもそも手紙などの大切なものは、しわくちゃにならないようにしっかりと保存することが大切です。ただし、じつは重ねて大事にしまっておくと劣化が進むんですよね。ときどき風を当てることが長持ちの秘訣です。それにしても、そのような味わいのある手紙のやり取りもほとんどなくなってしまったのは、ちょっと悲しいことですよね……」(江前さん)
紙のシワはアイロンがけが有効であることが、今回の取材で分かった。とはいえ、やはり予防が重要で、思い出の品などはしわくちゃにならないように大事に扱おう。加えて、その時代の便箋や筆跡の味わい、往時の出来事を偲ぶのもこれまた一興、定期的に取り出して風に当てるようにしたい。
●専門家プロフィール:江前敏晴
筑波大学生命環境科学研究科教授。紙文化財学や紙の物性解析から、子ども向けの「紙の科学教室」まで多彩な活動を展開。ペーパーエレクトロニクス(導電性のあるインクを使って紙に電子回路を印刷して電子機能を持たせる技術)の研究もしている。