総務省はなぜ「分離プラン」を徹底させたいのか? 電気通信事業部長に聞く(1/3 ページ)

» 2019年03月29日 08時42分 公開
[田中聡ITmedia]

 通信料金と端末代金を分けた「分離プラン」が、2019年のモバイル業界を大きく変えようとしている。分離プランでは、通信契約を伴う端末代金の割引や、端末購入に伴う通信料金の割引が禁止となるため、ドコモの「月々サポート」、auの「毎月割」、ソフトバンクの「月月割」といった端末購入補助は提供できなくなる。

 この分離プランを推進しているのが総務省だ。同省が2018年11月に発表した「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」で、分離プランの必要性を訴え、この内容を盛り込んだ「電気通信事業法の一部を改正する法律案」を、2019年3月5日に国会へ提出。つまり分離プランを法律で義務化しようというのだ。

総務省 2018年11月に発表された、「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」。「シンプルで分かりやすい携帯電話に係る料金プランの実現」と「販売代理店の業務の適正性の確保」の2つから構成されている
総務省 3月5日に国会へ提出した、電気通信事業法の一部を改正する法律案。「通信料金と端末代金の完全分離」を要項の1つに掲げている

 NTTドコモは2019年度第1四半期に、分離プランを軸にした新たな料金プランを発表する予定で、2〜4割の値下げを予告している。KDDIとソフトバンクは、既に分離プランを提供しているが、ドコモの動き次第で料金プランを改定する可能性が高い。

 法律で義務化してまで徹底させたい分離プランの狙いはどこにあるのか? 本当にユーザーにとってメリットのある施策なのか? 総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部長の秋本芳徳氏に疑問をぶつけた。

完全分離プランで「抜け」をなくしたい

総務省 総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部長の秋本芳徳氏

―― 緊急提言から法改正案提出に至った狙いをあらためて教えてください。

秋本氏 緊急提言をとりまとめていただいた意義は、モバイル市場の競争阻害行為をあらためてあぶり出していただき、禁止行為規制を導入することによって、通信サービスと端末の競争環境を整えることです。緊急提言であらためて整理いただき、法案の形でまとめて国会に提出したことは、意義が大きいと思います。

―― 改正法案では「完全分離プラン」という言葉が出ていますが、「完全」にはどんな意味が込められているのでしょうか?

秋本氏 「抜けがないように」ということですね。

―― 例えば、どんな「抜け」が想定されますか?

秋本氏 現行法のもとでは、行きすぎた端末購入補助を通信キャリアが行った場合、ガイドラインに沿って業務改善命令の対象になり得ますが、対象は通信キャリアです。別の主体、例えば販売代理店さんが、独自に端末購入補助をする場合は、業務改善命令の対象にはなりません。

 また、期間拘束の有無によって料金水準が違う、違約金の水準が高すぎるという問題もあります。これに対して、どういう場合に業務改善命令をするのかは必ずしも明確ではありませんでした。

 通信契約とひも付いた端末代金の割引に加え、行きすぎた期間拘束についても禁止行為の対象とし、禁止行為規制に反した場合は業務改善命令もあり得る。それは通信キャリアだけではなく、販売代理店も対象とします。

―― 販売代理店に届出制度を導入する狙いについても教えてください。

秋本氏 端末販売だけでなく、勧誘の仕方についても改善(すべき)点が見られるので、事業者の名称を告げずに勧誘すること、目的を告げずに勧誘することを禁止するためです。そういう規律も法案に盛り込んでいます。これは通信キャリアと販売代理店双方が対象になります。

 私ども行政は個々の代理店さんのことを直接は把握していませんので、販売代理店に対してもこうした規制を徹底するには、届出制にして、私どもが直接確認させていただく必要があると考えました。

端末購入によって料金が変わるのは不公平

―― 端末代金と通信料金が一体となったプランは「分かりにくい」という指摘があったことも大きかったのですか。

秋本氏 有識者会議で、独禁法や競争政策を専門とされている方からは、「分かりにくくすることが、独占、寡占に向けての1つのやり方なんだ」という指摘がありました。シンプルにすることによって、一般消費者が容易に複数事業者の通信料金水準を比較できる。端末についても比較できるようにする。「自分が何にいくら払っているのかを分かりやすくすることは、競争を促進させる」という指摘もいただきました。

 消費者団体からご指摘いただいていたのは「不公平じゃないか」ということ。同じ通信キャリアが提供するデータ通信容量、月あたり5GBなら、同じ5GBのプランであるにもかかわらず、購入する端末いかんで料金水準が異なる。端末を買い替えない長期利用者ほど通信料金の水準が高い。それは不公平で分かりにくいというのが、今の料金プランの課題です。事業者ごとにコスト構造が違うのは当然ですが、同じ事業者のデータ容量のプランなのに料金が違うのは、なぜなのかと。

―― ユーザーには端末を買い替える選択肢はあります。機種変更をしない人は、それもユーザーが選ばなかった結果だから、いいじゃないか、という意見もあります。

秋本氏 割引を誰がするのか? 割引の原資は何なのか? ということです。割引をするのが主として通信キャリアさんで、その原資が、頻繁に買い替えない人からの料金も含めた通信料金収入全体だとすると、端末の買い替え需要に依存したビジネスモデルです。

 有識者の中には「キャリアは通信事業者と端末販売のどちらに力点を置いているのか?」という声がありました。不公平で分かりにくい料金プランで、キャリアを乗り換えようと思ってもタイミングが限定される。期間拘束の有無で料金水準が大きく違う結果、ずっと1事業者と契約し続けてしまう。乗り換えのチャンスがなくなるという点が、阻害行為だという指摘がありました。

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