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Lightning狙い撃ちな「USB Type-C法案」 EUとAppleそれぞれの思惑(1/2 ページ)

» 2021年10月25日 15時00分 公開
[笠原一輝ITmedia]

 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が、9月23日にスマートフォンをはじめとする電子機器類の充電方法をUSB Type-Cにすることを義務付ける法案を提出したことが明らかになった

 対象はスマートフォン、タブレット、カメラ、ヘッドフォン、ポータブルスピーカー、モバイルゲーム端末。現状はこうした機器の中でUSB Type-Cではない端子を採用している製品はほぼ米AppleのLightningだけと考えられるので、事実上「Lightning狙い撃ち法案」といっても過言ではない。

 そして先ほどの記事によれば、AppleはBBCなどに対して「1種類のコネクターのみを義務付ける厳格な規制はイノベーションを抑制し、欧州や世界中の消費者に害を及ぼすことを懸念している」と声明文を送ったという。

 欧州委員会はなぜこのような法案を出し、Appleは自社の正当性を維持するような声明文をメディアに送ったのか、それぞれの狙いを考えていきたい。

米AppleのLightningケーブル(左)とUSB Type-Cケーブル(右)

規制当局に狙い撃ちにされやすいITジャイアント

 Appleがこうした規制当局のターゲットになるのは今回が初めてではない。米国ではFTC(連邦取引委員会)、日本では公正取引委員会(公取委)の調査を何度か受けており、直近では公取委から「App Store」にアプリを提供する業者の事業活動を阻害しているのではないかと疑いを持たれ、審査が進められてきた。Appleがガイドラインを改訂するなどの改善措置を申し出たため、その疑いは晴れたとされている(詳細は公正取引委員会の資料が詳しい)。

 こうした調査は別にAppleだけではなく、市場で大きなシェアを持つ会社は常にターゲットにされてきた。古くは米IBMを解体寸前まで追い込んだこともあるし、PCの時代にはWintel(米MicrosoftのWindowsと米Intelを掛け合わせた造語)の両社は常にターゲットにされてきた。それが今のスマートフォン時代はAppleというわけだ。

 調査の結果、Appleの言い分と規制官庁の言い分はどちら正しいのか、こればかりはポジショントークになりがちでなかなか難しいところだ。Appleとしては常にユーザーのためだと主張するし、その裏で自社の利益のために最善を尽くすのは当然といえる。それに対して規制官庁は、Appleのような多大な市場シェアを持つ企業の動向に目を光らせる。

 実際、日米の市場ではAppleの「iPhone」は非常に人気があり、多くのシェアを占めている。IDC Japanが2月に発表した2020年の日本のスマートフォン市場の統計によれば、2020年通年の市場シェアは、Appleは46.5%でダントツトップだ。つまり2020年に市場で売れた2台に1台がiPhoneという状況になる。2位はシャープで13.3%、3位は富士通で8.3%、4位が韓国Samsung Electronicsで8.1%。

 実は米国でもほぼ同じ状況。通年の良いデータがないのだが、四半期ごとの統計を出しているCounterpointによれば、2020年第1四半期〜第4四半期までは40〜46%、第4四半期は65%のシェアになっている(第4四半期だけ高いのは毎年9月にiPhoneの新モデルが発表されるから)。

 ところが面白いのは、グローバルだとAppleのシェアは大きく下がることだ。IDCが発表した2020年通年のスマートフォン市場のデータによれば、トップシェアはSamsung Electronicsで20.1%、2位はAppleで15.9%、3位は中国Huaweiで14.6%、4位は中国Xiaomiで11.4%となっている。この数字が意味することは、Appleは高付加価値(有り体に言えば高い製品)を購入できるユーザーの多い先進国市場では強いものの、低所得ユーザーが多い成長市場では安価な製品で数を取っているSamsung Electronicsや中国勢などと勝負ができていない、ということだ。

充電速度の統一や充電器の非同梱は既に実現されている

 そうした市場シェアの状況を頭に入れた上で、今回の欧州委員会の主張を振り返ってみよう、前出の記事によれば、EUが提出した法案の主な項目は

  1. USB Type-Cを共通のポートにする
  2. 充電速度を統一する
  3. 電子機器に充電器を同梱しない
  4. 消費者への関連情報提供

 の4つだという。このうち4つ目はお題目のようなモノだから省いていいだろう。問題は1〜3がこの法案で実現するのかだ。実のところ、3の「電子機器に充電器を同梱しない」は、AppleのiPhoneやAndroidスマートフォンでもハイエンドモデルでは既に実現している。その一方で最近ではIoT(Internet of Things)機器などがUSB Type-Cを充電器として使っている場合があり、そうした機器では同梱されている例が多い。

 話はやや脱線するが、最近は「USB Power Delivery」(USB PD)の普及で、ノートPCの充電端子は急速にUSB Type-Cポートに置き換わっている。筆者は仕事柄、年間に4〜5台のノートPCを購入するが、そのたびにUSB Type-C充電器の山が出来上がっている(既に超小型な充電器を常用しており、ノートPCに付属するものは使わない)。むしろ、ノートPCこそ法案の対象にしてほしいが、項目に入っていないのは個人的に残念だ。

 実は2も徐々に意味がなくなりつつある。というのも、以前のスマートフォンの急速充電は、米Qualcommの「Quick Charge」や、充電器メーカー独自の急速充電モードなどが乱立しており、統一されることはユーザーにとって大きなメリットであったのは事実。しかし、USBの仕様を策定するUSB-IF(USB Implementers Forum)がUSB PDを導入して以降、USB PDが急速充電のスタンダードになっている。

 Appleも近年の製品ではUSB PDをサポートしており(USB PDはコネクターの仕様から独立しており、USB Type-CでなくてもUSBの電気信号をサポートしているコネクターであれば利用できる)、この点ももはや統一されたと言って良い状況だ。

 このように2〜4は技術的に考えれば意味が無い議論で、本当の狙いは1のUSB Type-Cを共通のポートにする、つまり、「Appleは独自コネクターであるLightningを止めよ」というのが本当の狙いだといえるだろう。

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