世界でもっとも観光客が訪れる国、フランス。2011年には8,140万人もが訪れ、観光業はフランス第1の産業分野になっている。
花の都パリはもちろん、地方にも魅力は多く、日本人にも人気の旅先だ。そんなフランスだが、食に対する想いの強さなど、日本との共通点も少なくない。

先月、フランス観光開発機構が開催した「感動大国、フランス。」キャンペーン発表会において、クリスチアン・マセ駐日フランス大使が、「伝統やそれを継承していく人々など、無形の文化遺産を大切にしているところも、日本とフランスに共通しているところだと思う」とコメント。

たとえば、フランスには優れた工芸品の職人などに贈られる「メートル・ダール」という称号があるが、実はこれ、日本の人間国宝に触発されて制定されたものだ。

同発表会では、メートル・ダールの称号を得ているフランスの彫刻家、ジェラール・デカンさんが特別ゲストとして来日。デカンさんは現代における紋章彫刻の先駆者であり伝道者。
彫刻家の一家に生まれ、美術の名門校であるエコール・エティエンヌで学び、2006年にメートル・ダールの称号を獲得。近年は「シリンダー彫刻」に魅せられ、その技法研究や制作に精力的に取り組んでいる。

シリンダー彫刻とは、その名のとおり、円筒状の素材に絵柄などを彫り込んだもの。メソポタミア文明で生まれた「円筒印章」、いわば古代のハンコがその起源。デカンさんは、それを現代風にアレンジ。金属のシリンダーに柄を彫り、磁器の上で転がして模様をつけることで、非常に繊細な芸術品に仕上げている。
デカンさんいわく、「素材が石や粘土から金属や磁器にかわっても、メソポタミアの彫金技術は今も活かされ、円筒印章は生き続けています」。一見すると紙のような薄い磁器へ刻印された模様は美しいのひとことに尽きる。

シリンダー彫刻家という職業自体はかなり昔からあるものらしい。「家族や集団のアイデンティティを目に見える形で永遠のものにする、という目的で中世から存在していました。そんな職業に従事することで、必然的に数千年の歴史をもつ文化の根源に立ち返ることになりました」とデカンさんも感慨深げに語っていた。この日は2013年度フランス観光親善大使の発表と任命式も同時におこなわれ、女優の川島なお美さんとパティシエの鎧塚俊彦さん夫妻が就任。
それを記念して、デカンさんから「永遠のシリンダー」という名のオブジェが贈られると、2人も感動しきりだった。

ちなみにフランスにはデカンさんのように伝統工芸を紡ぐ人々は多く、工芸家のアトリエ訪問などを手配してくれる会社もある。そうした出会いから得られる感動は、一般の観光旅行とはひと味ちがうものになるだろう。

今年はマルセイユ・プロファンス2013(欧州文化首都)、ノルマンディー印象はフェスティバルなどイベントも多いフランス。日本からの旅行者もますます増えそうだ。
(古屋江美子)
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