東海道新幹線700系のお別れ企画が2月12日から始まった。運行中の700系2編成に特別装飾が行われ、最終運行日の3月8日に東京駅で出発式、新大阪駅で引退式が開催される。約20年も走り続けた電車だけに、丸みを帯びた優しい表情の700系は多くの人々の記憶に焼き付いただろう。しっかりお別れの機会が作られて良かったと思う。

  • 「ありがとう東海道新幹線700系」の特別装飾を施した700系(写真:マイナビニュース)

    「ありがとう東海道新幹線700系」の特別装飾を施した700系。3月8日に最終運行を迎える

ところで、700系は東海道新幹線にどんな影響を与え、700系の引退によって東海道新幹線はどう変わるだろう。700系以前と、700系が主役だった時代を振り返り、700系以後の東海道新幹線に思いを馳せてみたい。

■「のぞみ」の躍進と増発計画

700系は1999(平成11)年3月から運行開始した。それ以前の東海道新幹線は300系が主力で、100系と0系がわずかに残り、JR西日本が製造した500系の「のぞみ」が7往復に達していた。ここまでに至る背景として、1992年に誕生した300系「のぞみ」の大躍進があった。航空運賃自由化への対策として登場した「のぞみ」は、「ひかり」より割高な料金にもかかわらず人気が集中し、その需要に呼応する形で増発が重ねられた。

その結果、東海道新幹線はさらなる高速化と輸送力増強を求められた。そこで、新時代の「のぞみ」を見据えるとともに、東海道新幹線全体のスピードアップをめざし、700系が計画され、JR東海とJR西日本の共同で開発された。700系の座席配置は300系と共通化され、最高速度は500系より抑えつつ、将来の東海道新幹線高速化を見越し、300系より高い285km/hの性能が与えられた。

  • ともに「のぞみ」で活躍した500系と700系(写真はイメージ)

700系の投入により、300系は「のぞみ」から「ひかり」「こだま」へ転用し、玉突き的に「ひかり」「こだま」で使われていた0系と100系を引退させる。これで車両側のスピードアップが可能になる。500系はJR東海の「座席数共通化」などの要望もあり、東海道新幹線から撤退する方針となった。

ほぼ同時期、東海道新幹線では品川駅建設計画も進められた。品川駅折返し列車も運行すれば、東海道新幹線全体の輸送力も増やせる。1999年5月、東海道新幹線品川駅が着工した。

■愛嬌のある700系の顔に賛否も

東海道新幹線品川駅開業を4年後に控え、1999年3月に登場した700系は、「品川新駅時代」の旗手のような存在だった。2003年10月の品川駅開業時には、「AMBITIOUS JAPAN!」キャンペーンが行われ、700系の先頭車側面帯に「AMBITIOUS JAPAN!」の大きな文字が掲げられた。このダイヤ改正の前日、東海道新幹線から0系が引退。100系はその前に東海道新幹線から引退済みだった。これにより、東海道新幹線は300系・500系・700系のラインアップとなり、全列車が最高速度270km/hで運転できるようになった。

700系は新しい東海道新幹線のイメージリーダー的存在だったものの、筆者も含め鉄道ファンからは、先頭車のスタイルに賛否両論あったと記憶している。0系の「団子鼻」は、100系の直線的な顔つきに比べるとスピード感に欠ける。300系は先頭部分のボリューム感があるものの、先端は尖り、ヘッドランプまわりも直線的だった。500系はスピード感を強調した尖ったデザインで、誰もがかっこよさを認めた。

それにひきかえ、700系はどうだ。真横から見れば鋭角だけど、正面や斜め前から見ると下ぶくれで丸い。スピード感があるとは言いがたい。しかし結果として、「カモノハシ」と呼ばれたこの顔が0系に通じる愛嬌となり、勇ましさより優しさが感じられ、人々に親しまれた。

  • 愛嬌ある顔つきの700系。「カモノハシ」の愛称で親しまれた(写真はイメージ)

700系が乗客から歓迎された理由に、乗り心地の良さも挙げられる。700系の車体はアルミニウム合金製で、防音材を挟んだ二重構造としていた。これは耐熱性においても好影響で、空調性能を向上させる効果があった。車体や機器類を軽量化した分、客室内の静粛化にも取り組んだ。空気ばねや車体間のダンパーも改良し、不快な揺れを減らしている。

700系の客室内は500系より頭上が広く、300系より乗り心地が良い。乗客にとっては先頭車のデザインより居住性が重視される。こうして700系は東海道新幹線の定番車両となった。後継車種に「N700系」と名づけられ、「700」の数字が残された理由も、700系の貢献度の高さにあるといえるかもしれない。

■700系引退後の東海道新幹線はどうなる

2020年3月8日の最終運行をもって、東海道新幹線から700系は消える。700系が去った後の東海道新幹線はどうなるか。車両はN700系・N700Aに統一され、すべての車両が最高速度285km/h、最高起動加速度2.6km/h/sで運行される。最高速度と起動加速度が向上し、すべての列車の性能が上がる。その結果、東海道新幹線は1時間あたりの最大片道運転本数が2本増え、「のぞみ」12本、「ひかり」2本、「こだま」2本に。東京駅出発列車はこれらに加え、車両基地の回送列車が4本設定されており、最大で片道20本となる。

約20年にわたり愛用された700系の引退は寂しい。しかし、後輩より加速性能が劣る700系が身をひくことで、東海道新幹線のサービスはさらに向上する。7月には最新型のN700Sが投入される予定で、次のサービスアップに向けた取組みが始まる。

東海道新幹線からは引退する700系だけど、山陽新幹線では今後もしばらく走り続ける。700系をベースに作られた東海道新幹線の試験車両「ドクターイエロー」(923形)も継続する。これらの車両の引退時期は現時点で未定。東海道新幹線から白い「カモノハシ」が消えても、他の車両はそれぞれ完全引退まで頑張ってほしい。