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岐路に立つテレワーク、不況で労働者の“踏み絵”に 監視ツールとしてのメタバースにも注目ウィズコロナ時代のテクノロジー(1/3 ページ)

» 2022年07月06日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 日本や世界各国での新型コロナウイルスの新規感染者がじわじわと増え続けている。しかし、最初の数回の「波」の際に取り沙汰されていたようなロックダウンなどの徹底的な感染封じ込め策を求める空気はなく、従業員に対してリモートワークをやめてオフィス出社を求める企業が増えているという。

 感染者数が増加する背景には、新たな変異株の登場や接種後の時間経過によるワクチン効果の低下、感染が収まる傾向が見られたことを原因とする気の緩みや対策の解除など複合的な要因が絡んでいるとされている。

 そんな中、東京商工リサーチが6月22日に発表したアンケート結果によれば、テレワークを「現在、実施している」企業は29.1%で、21年10月時点の37.0%から7.9ポイント下落した。また「実施したが取りやめた」と回答した企業は27.2%で、こちらも21年10月時点の20.7%から増加している。

テレワークを「現在、実施している」企業は29.1%(東京商工リサーチのアンケート調査から引用)

 こうした企業の姿勢を、感染対策の観点からだけで非難することはできないだろう。長引くパンデミックと、22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって、経済停滞が続いている。経済の観点から言えば、人流を抑制し続けるわけにもいかず、また企業によってはテレワークを続けるのにも金銭的・非金銭的なコストがかかる。

 「それがベストな選択肢か分からないが、全く新しい仕組みに変えてチャレンジする」よりも、「コロナ前の慣れた仕組みに戻して、以前の状態が戻ることを祈る」方を選択する企業が出るのも当然だ。

企業の出社要請に逆らえない従業員

 テレワーク終了の流れに対し、従業員の側はどう考えているのか。採用支援サービスを提供するジェイック(東京都千代田区)が新入社員を対象にリモートワーク・在宅勤務などの働き方をしたいか聞くと、回答者の8.9%が「完全リモート・在宅勤務で働きたい」、43.6%が「リモートワーク・在宅勤務と出社のハイブリッドで働きたい」と回答。過半数の従業員が、程度の差はあれテレワークを取り入れた働き方をしたいと考えているわけだ。

ジェイックが行った新入社員対象のアンケートの結果

 しかしこうした従業員の希望に対し、米アトランティック誌で労働問題を追っているジャーナリストのデレク・トンプソンさんは、「不況によって企業側が労働者よりも強い立場に立つため、企業が望む働き方に従業員側が合わせざるを得なくなる可能性がある」と指摘している。

デレク・トンプソンさんの指摘

 つまり、「今後仕事を続けたければオフィスに出勤せよ」という企業に対し、実際にはテレワークを望んでいる従業員も他で職が見つからないかもしれないという恐れから、新たな方針に従うわけである。

 またオフィス再開の方針に従わない・従えない従業員が一定数出ることを見越し、そうした従業員を解雇することで、実際には業績不振による人員削減にもかかわらず、それをカムフラージュする「ステルス解雇」に踏み切る企業も出るのではないかと予測している。

 実際にEVメーカーのテスラでは、イーロン・マスクCEOが「少なくとも週40時間出社すること」を従業員に求め、嫌ならば同社を辞めるようにと宣言していたことが報じられている。

 その後テスラは、従業員の10%を解雇する見通しを発表しており、マスクCEOの発言は自発的に会社を去る従業員を生み出すことで、解雇というネガティブなニュースを和らげる狙いがあったのではないかとされている。今後多くの企業が、同じような狙いと強気な姿勢で、従業員に対して「オフィスへの帰還」を求めるようになるはずだ。

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