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ソニー「プレステクラシック」が大コケ&“手抜き”で酷評の理由…動作遅延でプレイできず

文=沼澤典史/清談社
ソニー「プレステクラシック」が大コケ&“手抜き”で酷評の理由…動作遅延でプレイできずの画像1東京ゲームショウ2018で発表された「プレイステーション クラシック」(写真:つのだよしお/アフロ)

 昨年12月にソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)より発売されたゲーム機「プレイステーション クラシック」(以下、プレステクラシック)。1994年発売の初代プレイステーションのデザインを再現した筺体に名作ソフト20本が内蔵されたもので、大ヒットした任天堂の「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」(以下、ミニファミコン)「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」(以下、ミニスーファミ)に続く、人気ゲーム機の復刻版ということで注目を集めた。

 しかし、市場の反応は乏しく、その売り上げは予想を下回っているという。プレステクラシック不振の原因は何か。また、ゲーム業界で「クラシックミニ」シリーズが相次いで発売されている理由とは。ゲーム事情に詳しいコラムニストのジャンクハンター吉田氏に話を聞いた。

復刻ブームに火をつけた任天堂

 昨今、ゲーム業界でよく耳にするクラシックミニ商品。昔なつかしのゲームが小さな筺体に内蔵されており、現役のゲームマニアだけでなく、そのゲーム機に熱狂していた世代がなつかしさで思わず入手してしまうことも多いという。

「本体にいくつかのソフトが内蔵されており、テレビにつなぐだけで遊べるゲーム機を『プラグ&プレイ』と呼びます。海外では昔からよくつくられていて、主におもちゃメーカーが子ども向けに企画・販売していました。人気キャラクターに特化したものが多く、そのキャラを模した外観で、内蔵ソフトはオリジナル作品というのが定番でした」(ジャンクハンター吉田氏)

 そのプラグ&プレイのなかには、レトロなゲームをテーマにしたものもあったという。

「『ATARI』など過去のゲーム機を再現したものや、ゲームメーカーの歴代作品をコレクション化した商品もありました。そんななかで、ゲーム機のコンソールをつくっていた任天堂のようなメーカーが自社でプラグ&プレイをリリースするというのは、確かに革命的なことでしたね」(同)

 2016年、任天堂が1983年に発売された初代ファミコンを模したミニファミコンを発売し、世界中で完売するほどの大ヒットとなった。17年には、ミニスーファミも発売。かつてのライバルメーカーもこのブームに乗り、18年7月にはSNKが「ネオジオ」の復刻版「ネオジオ ミニ」を発売、セガも19年に「メガドライブ ミニ(仮称)」を発売予定だ。

「北米ではファミコンのことを『NES』(Nintendo Entertainment System)と呼びますが、ミニ版も『Classic Edition』としてリリースされ大ヒットしました。というより、北米ではプラグ&プレイ版のほうが“本家”という扱いです。プラグ&プレイはもともと海外の文化ですから」(同)

プレステクラシックの致命的な欠点

 にわかに生まれたブームに乗り、満を持して発売されたのがプレステクラシックだ。現時点での累計販売台数は公表されていないが、初週販売は12万台程度(メディアクリエイト調べ)だという。悪くない数字に思えるが、ミニファミコンが同26万台、ミニスーファミが同36万台(エンターブレイン調べ)なので、その差は歴然だ。吉田氏によると、プレステクラシックは発売前からユーザーの評判が悪かったという。

「内蔵されているソフトのラインナップの発表が遅く、いざ発表されてもユーザーが思っていたものと違ったので不満が上がっていました。また、これはSIEの責任ではないですが、アマゾンの予約がキャンセルできなかったこともブーイングが大きくなった理由のひとつですね。そして、いざ買ってみたら中身がひどい。過去のゲームを収録する際に使うエミュレータが自社開発のものではなく、オープンソースの無料エミュレータだったのです」(同)

 エミュレータとは、そのゲーム機専用のソフトウェアを実機以外のマシンで仮想的に稼働させるプログラムのこと。あくまでも仮想的にソフトを動かすものなので、エミュレータの性能によってゲームの“再現度”は変わってくる。

「商品の根幹をなすともいえるエミュレータを自社開発していないのはメーカーとしてのこだわりを感じさせないし、手抜きといっても過言ではありません。また、オープンソースの無料エミュレータのせいなのか、ゲームの遅延がひどいのです。内蔵ソフトの『GRADIUS外伝』では処理が追いつかずに自機が突然ワープするような現象が起き、数フレームの挙動が重要な対戦格闘ゲームの『鉄拳3』はカクカクした動きでまともにプレイできません。そうした悪評が発売と同時にゲームファンに知れわたり、一気に売れ行きが悪くなったのだと思います」(同)

 ゲームファンがこだわる部分を無視し、低コストで済ませた感が否めないプレステクラシックの不振は必然だったのかもしれない。一方で、そのオープンソースのエミュレータが一部のマニアには喜ばれているという。

「プレステ2復刻版」の実現は厳しい?

「オープンソースのエミュレータなのでハッキングが容易にできてしまうんです。そのため、自分が持っている昔のソフトをプレステクラシックに入れて遊べてしまう。ゲームマニアのなかには、お気に入りのソフトを入れたオリジナルのプレステクラシックをつくったり、ファミコンやメガドライブなどのソフトも遊べる“夢のエミュレータマシン”に仕上げて楽しんだりしている人も多いです」(同)

 一部のマニアには重宝されているプレステクラシックだが、やはり一般的には“失敗”の烙印を押されかねない状況だ。

「今回の評判や売れ行きを考えれば、ソフトを刷新した第2弾や上位機『プレステ2』のクラシックミニ版の販売などは厳しいでしょう。一方、任天堂はおそらく『ニンテンドー64 クラシックミニ』の開発にも着手しているはずで、この市場ではひとり勝ち状態です。SIEはクラシックなどのレトロ方面は切り捨てて、発売が噂される次世代機『プレステ5』に注力するのが得策だと思います」(同)

 常に未来志向で古いものを切り捨ててきた“家電屋”のソニーは、過去の作品を何度もリサイクルして儲けを出す“ゲーム屋”の任天堂の商魂に太刀打ちできなかったということなのだろうか。
(文=沼澤典史/清談社)

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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