国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説

大学、短期大学、専門学校等、子どもの進学にかかる費用は年間数百万円にものぼると言われています。

家庭の経済状況によっては、この数字はかなりの負担に。

そのような場合によく利用されるのが、独立行政法人日本学生支援機構や自治体・民間企業などが用意している奨学金制度や教育ローンですが、もう1つ選択肢として知っておきたいのが、国が設けている融資制度「国の教育ローン」(教育一般貸付)です。

今回は、このあまり知られていない「国の教育ローン」について、FPの酒井富士子さんにわかりやすく解説していただきます。

教えてくれたのは
酒井富士子さん
国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説
FP、経済ジャーナリスト。金融メディア専門の編集プロダクション・株式会社回遊舎 代表取締役。
日経ホーム出版社(現日経BP社)にて『日経ウーマン』『日経マネー』副編集長を歴任。
リクルートの『赤すぐ』副編集長を経て、2003年から現職。
「お金のことを誰よりもわかりやすく発信」をモットーに、暮らしに役立つ最新情報を解説する。

教育費、学費はいくら必要?進学先別に解説

大学への進学費用

大学の学費には授業料のほか、学校の施設や設備の維持管理費、実験や実習にまつわる費用などが含まれます。

入学する年に支払う学費は初年度納付金とよばれ、学費の相場を知る目安になります。

支払う金額は、国立大学・公立大学・私立大学と大学の種類によって異なるので、注意が必要です。

◆国立大学

国立大学の初年度納付金の平均額は「81万7800円」。

国立大学は文科系・理科系を問わず、基本的にかかる金額は同じになるため、理科系を志望する場合は特に、私立大学に進学するよりも負担額が大きく抑えられます。

◆公立大学

公立大学の初年度納付金の平均額は「93万2251円」。

授業料は国立大学とほぼ同額で、文科系・理科系で違いはありませんが、入学料は大学が位置する地域出身者に優遇制度が設けられており、地域外出身者と比べて10~20万円安くなることがあります。

◆私立大学

私立大学の初年度納付金の平均額は、文科系が「116万6922円」、理科系が「154万4962円」、医歯系が「482万2395円」と学部によってかなり差が出ます。

また、学ぶ分野によっても大きく違うため、注意が必要です。


※出典
国立大学は文部科学省令による標準額
私立大学・私立短期大学は「平成30年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額」(文部科学省)

専門学校への進学費用

専門学校の初年度納付金の平均総額は125.5万円

これは、私立文系大学の平均よりやや高いという結果です。

ひと昔前に比べ、教育内容・設備ともに充実している専門学校が増えていることから、学校によっては1年間にかかる学費は大学と変わらない、ということもあります。

また、同じ医療関係でも『看護』が平均108.6万円なのに対し、『理学療法、作業療法』は平均177.3万円など、学ぶ内容によって費用が大きく異なるのが特徴です。


※出典
専門学校は「令和2年度 学生・生徒納付金調査」すべて昼間部、千円以下四捨五入(東京都専修学校各種学校協会調査研究事業部

国の教育ローンとは?

国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説

※国の教育ローンとは日本政策金融公庫が設けている融資制度のこと

国の教育ローンの利用条件

「国の教育ローン」(教育一般貸付)とは、政府の金融機関である日本政策金融公庫が1979年から設けている公的な融資制度で、高校や大学などへの進学・在学にかかる費用に対するサポートを受けることができます。

融資を受けられるのは、世帯年収あるいは世帯所得が一定額を下回る世帯で、融資限度額は、進学・在学する子ども1人あたり原則として350万円までです。
「国の教育ローン」は、返済期間が最長18年までと長期に設定されているほか、家庭の所得状況に応じて金利の低減などの措置を受けられる優遇制度が設けられているなど、経済的負担を軽減するためのさまざまなしくみが用意されている点に特徴があります。

ただし、これらの内容はあくまで原則で、融資を受けられるかどうかや、どのような条件で借り入れることになるのかといった点は学校の特性や家庭の状況によって変動します。(酒井さん)
以下、融資を受けるために満たさなければならない条件や融資金額、また返済方法などの詳細についてご紹介します。
 
参考文献:教育一般貸付(国の教育ローン)|日本政策金融公庫

対象となる入学・在学先

「国の教育ローン」の融資を受けられるのは、原則として、中学校卒業以上の人を対象にした修業年限6カ月以上の教育施設に進学・在学する場合です。

国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説
基本的には、上記の条件を満たしている教育施設であれば、高校、高等専門学校、大学、専修学校、短期大学、大学院など、さまざまな種別の学校で融資を受けることができます。

また外国の高校・大学などでも融資を受けることが可能で、その場合は修業年限3カ月以上の教育施設である必要があります。

ただし、上記の条件を満たす学校であっても、在籍する課程や学校の性質によっては融資を受けられないことがありますので、要件をよく確認しましょう。

対象となる費用と限度額

「国の教育ローン」の融資資金は、進学・在学にあたって必要になるさまざまな費用に使うことができます。
最も代表的な費用である入学金・授業料などの学校納付金はもちろんのこと、受験費用住居費、また教材費・パソコン購入費・交通費など、幅広い費用が融資の対象になります(下図参照)。 
国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説
また、「国の教育ローン」では融資限度額が定められていますので、用途だけでなく金額にも注意する必要があります。
「国の教育ローン」では、1度の申し込みで融資を受けられるのは今後1年間に必要となる費用分のみ。

そのため、複数年にわたって借り入れが必要になる場合は1年ごとにその都度融資を申し込むことになりますが、申し込める融資の合計額には限度額が定められており、進学・在学する子ども1人あたり原則として350万円が上限となっています。

つまり、複数年にわたって融資を受けることが可能であるものの、その場合は例えば入学の年に150万円、翌年に50万円、翌々年に100万円というように、融資資金の総計が350万円以内に収まっている必要があるのです。

なお、融資限度額は通常350万円ですが、自宅外通学や海外留学など、一定の条件を満たした場合に限り450万円までの借り入れが可能になります。
国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説

利用できる人の世帯年収・所得の上限

「国の教育ローン」は、「家庭の経済的負担の軽減」「教育の機会均等」を目的とする融資制度。

そのため、どんな家庭状況でも融資を受けられるというわけではなく、経済状況に関する審査に合格する必要があります。

融資を受けることができるのは、世帯年収(給与所得を得ている場合)あるいは世帯所得(事業所得を得ている場合)が一定額を下回っている家庭の保護者(主に生計を維持している人)に限られています。
審査基準となる金額は保護者が扶養している子どもの人数ごとに異なり、例えば給与所得を得ている人の場合、子どもが1人なら世帯年収790万円以内、2人なら890万円以内、3人なら990万円以内…というように定められています(下図参照)。

ちなみに、審査対象はあくまで世帯全体の経済状況であるため、配偶者をはじめ他の家族の年収・所得も審査対象に含まれる点に注意が必要です。

なお、子どもが2人以内の場合に、自宅外通学や配偶者の単身赴任など、一定の条件を満たせば世帯年収の上限が990万円まで緩和されるなどの条件緩和制度も設けられていますので、あらかじめ要件をよく確認しましょう。
参考文献:教育一般貸付(国の教育ローン)|日本政策金融公庫

国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説
国の教育ローンの金利・返済方法 「国の教育ローン」は給付型の支援ではなく、あくまで融資による支援であるため、元金に利息を上乗せして返済する必要があります
金利は、借入時点の金利が完済まで変わらない固定金利タイプ。

例えば2022年5月1日現在、金利は年1.8%に設定されていますので、一度この金利で融資を受ければ、その後の返済はすべてこの年1.8%の利率で行うことになります。

融資資金の返済は融資日の翌月または翌々月の希望日から開始し、返済期間は18年以内と長期に設定されています。

また、元金と利息を合わせた毎月の返済額が返済期間中変動しないよう設定されており(元利均等返済)、例えば融資資金100万円を年利1.65%・返済期間10年で返済する場合、返済額は毎月一定で9200円になります。

ただし、以下でご紹介するように、元利均等返済以外の方法で返済することもできるほか、家庭の状況に応じて優遇措置を受けることも可能です。

在学期間中の返済・繰上返済など

「国の教育ローン」の返済は毎月一定額を支払う元利均等返済が基本ですが、条件に応じて別の返済方法をとることも可能です。
元利均等返済以外の返済方法としてまず挙げられるのは元金措置です。

元金措置とは、融資資金を利用している子どもの在学期間中は利息のみを返済する方法で、元金+利息の返済開始のタイミングを子どもの卒業後までずらすことができます。

また他にも繰上返済や、ボーナス月(年2回)のみ返済額を増やすボーナス月増額返済を行うことなどもできます。

家庭状況に応じた金利・保証料の優遇

融資資金の返済には、家庭の状況に応じて金利・保証料に関する優遇措置を受けることができる制度も設けられています。(※保証料は、連帯保証人の代わりに保証機関から保証を受ける場合に支払う必要があります)
優遇措置は2パターンに分かれており、まず、(1)ひとり親家庭(母子/父子家庭)(2)交通遺児家庭(3)扶養する子どもが3人以上で世帯年収500万円(または世帯所得356万円)以下の家庭、のいずれかに該当する場合は、金利が0.4%下がることに加え、保証機関を利用する場合に支払う保証料が通常の1/2に減額されます。

また、世帯年収200万円(または世帯所得132万円)以下の家庭では、保証料の減額措置は受けられないものの、金利は先ほどと同様に0.4%下がります。
国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説

国の教育ローンのメリット・デメリット

国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説

※国の教育ローンのメリットとデメリットを他の制度と比較しながら解説

進学費用をカバーする融資商品には、「国の教育ローン」の他にも、日本学生支援機構の奨学金や民間の教育ローンなどさまざまな種類があります。

では、それらの融資商品と比べて「国の教育ローン」にはどのような特徴やメリット・デメリットがあるのか、実際に比較を通じて見てみましょう。

国の教育ローンと奨学金との違い

日本学生支援機構の奨学金は、「国の教育ローン」と同様に国がかかわっている融資商品ですが、さまざまな点で「国の教育ローン」と異なっています。
「国の教育ローン」と日本学生支援機構の奨学金の最も大きな違いは、「誰が返済するか」という点にあります。

「国の教育ローン」は子どもの保護者が利用者となって、返済も保護者が行いますが、日本学生支援機構の奨学金は子ども本人が利用者となって、学校卒業後に子どもが自分で返還することになります。

ただし、「国の教育ローン」でも、進学・在学する本人が成人しており、安定した収入源を持って独立して生計を営んでいる場合は、学生本人が融資に申し込むことも可能です。(進学・在学に伴って離職するなど、返済の見通しが困難になるケースを除く)

また、資金の受け取り方にも違いがあり、「国の教育ローン」では1年分の資金をまとめて受け取るのに対して、日本学生支援機構の奨学金では毎月定額を受け取るしくみになっています。

なお他に大きな違いとしては、「国の教育ローン」が基本的に子どもの学力を問わないのに対して、日本学生支援機構の奨学金では家庭の経済状況だけでなく子どもの学力も審査対象になります。
国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説

国の教育ローンと民間教育ローンとの違い

保護者が利用者となる教育ローンには、「国の教育ローン」だけでなく、地方銀行や労働金庫(ろうきん)などが取り扱っている民間の教育ローンもあります。
民間の教育ローンの特徴は取り扱い機関ごとにさまざまですが、おおまかな傾向としては、用途の範囲が広く融資限度額も高いなど使いやすさに長けているぶん、一定以上の収入が必要だったり金利が高めに設定されていたりと、制約が目立ちます。

一方、「国の教育ローン」は収入が低くても借りやすく返しやすい制度設計になっているぶん、民間の教育ローンに比べると用途の範囲や融資限度額の範囲が狭まっています。

国の教育ローンのメリット

日本学生支援機構の奨学金や民間の教育ローンと比較した場合、「国の教育ローン」には下記のようなメリットがあると言えます。
◆収入が低くても借りやすく、返しやすい

民間の教育ローンでは、融資を受けるためには一定以上の収入が必要になるケースが一般的ですが、「国の教育ローン」では収入が一定の金額を下回る必要があるため、収入が低い世帯でも借りやすいローンだと言えます。

また、家庭の経済状況に応じてさまざまな優遇措置を受けることができるため、なるべく経済的負担を軽減したい場合には「国の教育ローン」は魅力的な選択肢になります。

◆固定金利(金利上昇局面)

現在の日本では、低金利政策の影響で全体的に金利が低くなっていますが、今後金利がどのように推移していくのかは不透明な状況にあります。

日本学生支援機構の奨学金や民間の教育ローンでは、金利を申し込み時の割合で固定する固定金利か、資金返済のたびにその時点での金利を適用する変動金利を選べるケースや、変動金利のみのケースが多いですが、変動金利で返済する場合、今後金利が大きく上昇した際に返済額が増えてしまうリスクを抱えることになります。

その点、現在の金利を固定できる固定金利を採用している「国の教育ローン」は、現在の低い金利を固定できるため、それだけ返済額が低く抑えられることになります。

また申し込み段階で返済額が確定するぶん、家計の収支が安定するというメリットもあると言えるでしょう。

◆早期申し込みが可能
日本学生支援機構の奨学金は学校を通じて特定の募集時期に申し込むよう決められていますが、「国の教育ローン」はいつでも申し込むことができます。

そのため、早めに申し込んでおけば、入学金のように進学前後にすぐ必要になる費用も融資資金でまかなうことができます。

国の教育ローンのデメリット

一方、「国の教育ローン」には下記のようなデメリットがあると言えます。
◆用途が限定されている

民間の教育ローンには、幼稚園や小学校で必要になる費用まで広くカバーできるものが少なくありません。

それに比べると、「国の教育ローン」はあくまで中学校卒業以上の人を対象にした学校に進学・在学する場合にのみ利用できるローンであるため、利用できる機会は少なくなります。

◆融資限度額が少ない

「国の教育ローン」の融資限度額は進学・在学する子ども1人あたり350万円ですが、日本学生支援機構の奨学金や民間の教育ローンでは、500万円、1000万円、2000万円といった金額を借りることができます。

進学・在学する学校や家庭の経済状況によっては、最大でも350万円しか借りられない「国の教育ローン」の融資はやや使い勝手が悪く感じられるかもしれません。

◆固定金利(金利下降局面)

メリットの欄でも挙げた固定金利ですが、今後金利がさらに低くなる場合には、今度は変動金利のほうが有利になります。

結局のところ、今後の金利の動向で固定金利はメリットにもデメリットにもなりますので、現在の金利だけでなく、今後10数年の金利の動向をイメージしながら検討することが必要になります。

国の教育ローンの申し込み、手続き方法

国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説

※融資を受けるために所定の審査に合格する必要がある

手続きの時期と流れ

「国の教育ローン」で融資を受けるためには、住民票などの必要書類をそろえて申し込み、所定の審査に合格する必要があります。

基本的にいつでも申し込むことが可能で、全国の各支店への来店・インターネット・郵送のいずれの方法でも手続きを進められるなど、申し込みやすい環境が整えられています。
「国の教育ローン」にはいつでも申し込むことができ、通例では審査開始から10日前後で融資の可否が決まり、正式に契約を行います。

さらに審査後10日前後で、日本公庫から申込人名義の口座に融資資金が振り込まれることになります。

なお、1~3月の受験シーズンのように申し込みが多い時期や、申し込み内容に不備がある場合には審査にかかる日数が多くなることがあるため、念のため融資資金が必要になる時期の2~3カ月前に申し込んでおくとよいでしょう。
国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説

申し込みに必要な書類

申し込みに必要な書類には、申込人全員が提出しなければならない共通の書類と、申し込み内容によって必要となる書類があります。
申込人全員が提出しなければならないのは、借入申込書、運転免許証またはパスポート、支払状況のわかる預金通帳や領収書など(住宅ローン・家賃と公共料金の支払状況を確認できるもの)といった書類です(詳細は下図参照)。

その他に、入学資金が必要な場合は合格通知書や入学許可証、自宅外通学の場合は自宅外通学が確認できる書類(住民票の写しや不動産賃貸借契約書など)…というように、申し込み内容によって別途必要になる書類が定められています。

なお、合格通知書のように申し込み時点で用意できない書類は、審査後の契約時に提出すれば問題ありません。
国の教育ローン(教育一般貸付)とは?奨学金、民間の教育ローンとの違いをわかりやすく解説
大学、短期大学、専門学校への進学には多額の資金が必要になるケースが多くあります。

足りない資金の一部をまかなう手段として「国の教育ローン」は使い勝手のよい融資の一つと言えるのではないでしょうか。


文/回遊舎 監修/酒井富士子 構成/寺崎彩乃(本誌)


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