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徳川慶喜の描かれ方とフィクションとしての「御遺訓」──“異色”の大河『青天を衝け』これまでの総括とこぼれ話

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

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『青天を衝け』公式Twitterより

 東京五輪の中継による放送休止期間なので、今回はこれまでの放送の総括と、文字数の都合で触れられなかった「東照宮御遺訓」のウラ話をしたいと思います。

 最近のNHKの発表で、『青天を衝け』の放送は年内終了の全41回となることが判明しました。概ね全50話だった近年の大河ドラマと比べて2割ほども短く、当初から五輪の開催を見越して全44話と短縮していた昨年の『麒麟がくる』よりもさらに少ない話数となる『青天~』ですが、異例なのは短さだけではありません。

 幕末モノの大河では必ず有名俳優がキャスティングされ、大きな話題となる坂本龍馬といった人気の人物が(現時点で)まったく登場せず、「頭は切れるが、身勝手な貴公子」として描かれることのほうが多い徳川慶喜が、「完全無欠の善人」として描かれるなど、“歴史の読み替え”が大胆に試みられている点も、『青天~』を異例な大河に仕立て上げています。

 さらに、登場人物の異性関係が非常にクリーンなものとして描かれている点も触れねばならないでしょう。主人公・渋沢栄一は日本史を代表する性豪であり、当然のように女性がらみのエピソードも数多くあるわけですが、今のところそれらがバッサリとカットされているのには驚かされます。

 渋沢が最後に認知した子供、つまり嫡出子は、彼が68歳の時の子。非公式に妾に産ませた非嫡出子には、なんと彼が80代の時の子までいるそうです。子供の総数は最大100名ともいわれるように、正確な数字さえわかっていません。

 しかし、渋沢が凄いのは、彼が単なる色好みの性豪に終わらなかったことです。たとえ「妾の子」と呼ばれるような立場の子であったとしても差別せず、彼らに才能があれば嫡出子と変らない形で渋沢は重用し、自分の会社や事業も継がせていました。しかも公然とそういうスタンスを貫いた点は、当時でもかなり大胆で斬新でした。自分の遺伝子を受け継ぐ子をできるだけ多くもうけ、その才能次第で自分の遺産を継がせていくシステムを採用していたわけですから。良識的とはいえないかもしれませんが、圧倒的に合理的だとはいえるでしょうね。

 ただ、渋沢のこうした側面は今後の放送でも取り上げられない気がしています。ここまで渋沢のキャラが女性に対して清潔なものとして確立されてしまっている以上、今後、一転して渋沢が色好みの中年になることは考えにくいからです。そういう“性に潔癖な渋沢”というフィクションを描きたい制作陣にとって“救い”となるのは、全41話となる短尺です。

 渡仏時の渋沢は満36歳です。残り17話で、彼の残りの人生55年ぶんを描くとなると、今後はダイジェスト版のように流れていくことも推察されますね。仮にそうだとすると、正式な結婚で生まれた以外の子については経歴を出さず、「渋沢の養子」の誰それなどと紹介されてお茶を濁されても誰も気に留めないでしょうし、それなら“清潔な渋沢”というイメージにキズは付くことはないわけです。

 一方、もうひとりの主人公といわれ、草彅剛さんの当たり役になった徳川慶喜も、史実以上に魅力的に、そして女性関係でも渋沢と同じように“清潔な人物”として描かれています。「大河ドラマ」はフィクションです。なんでも史実どおりに描けば良いわけではなく、歴代の大河……たとえば『西郷どん』などでもロクな描かれ方をしなかった「最後の将軍」慶喜の素敵な側面を、ずいぶんと描けているのは良いことだと感じます。

 しかし、それだけに今年の大河が、慶喜の人生最大の汚点である「鳥羽伏見の戦い」での“不戦敗”をどのように描き、「名君」としての慶喜像を穢さず、明治維新後につなげていくのかは注目されますよね。おそらくここが『青天~』の最大の試練となるでしょう。

 史実では、「鳥羽伏見の戦い」で慶喜が「逃げ出した」と知った渋沢が、激怒したことがわかっています。彼は慶喜の弟・昭武とともに当時パリにいましたが、昭武から慶喜へ送られた抗議の書簡の草稿を作ったのが渋沢なのでした。「(鳥羽伏見の戦いという)戦は天下が望んだものなのに、江戸に戻り、朝廷に恭順するとは考えが徹底していない」「徳川300年の歴史を自ら棄ててしまう行為で、祖先や人民に何も尽くしたことにならない」などと、慶喜を相手に痛烈な批判をした草稿が、2016年、東京都・北区の渋沢史料館で発見されています。この真実を『青天~』では描くのか、もしくは描かないのか。ここは注目される点でしょう。

 その一方で、後年の渋沢は、「鳥羽伏見の戦い」における慶喜の逃亡……それも愛人女性を連れ、部下たちの大半を大坂城に置き去りにして去ったという実に不名誉な逃げ方をした慶喜の言い訳(大部分はウソと思われるもの)を全面的に採用し、慶喜の自伝『徳川慶喜公伝』(平凡社・東洋文庫)をまとめあげています。このあたりの“変節”もドラマではどう処理するのかなど、筆者の興味は尽きないのです。

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