Appleは、2016年に愛用者から巻き起こった「Mac軽視」の批判を払拭するかのように、2016年後半から矢継ぎ早に新製品を投入してきた。

2016年10月のMacBook Proの刷新に始まり、iMac Proの投入、Mac mini、MacBook Airの待望のアップデート、そして2019年6月に発表され12月に発売された新型Mac Proの過剰なまでのパフォーマンス。2019年10月には、突如15インチMacBook Proを16インチモデルに置き換え、要望が多かったキーボードのメカニズムを変更した。

  • 2019年の新製品の締めくくりとなったのが、秋に登場したMacBook Pro 16インチモデルだ。2019年は、新しいMac Proの発売も合わせ、印象的なMacが多く登場した

このように、AppleはMacプラットホームに対して、ここ5年間、きわめて積極的なモデルチェンジと新製品の投入を行ってきた。2020年に期待すべきMacのアップデートについて、深読みしていこう。このテーマで考えるべきことは4つだ。

  • 最後までレガシーなアーキテクチャが残っているiMacをどうするか?
  • 13インチMacBook Proの処遇
  • 次のイノベーションはどこにあるのか?
  • 新しいインターフェイスの可能性

これらの課題をいかに解決していくのかという点に、2020年のMacの動きへの期待を寄せることができる。今回は、iMacをどうするかについて見ていこう。

iMacだけに残るレガシーな環境

iMacは、Appleが陥っていた危機的な状況を打開した功労者ともいうべき存在だ。

初代Macintosh以来のアイコニックなディスプレイ一体型という伝統を守りつつ、それまでのコンピュータではあり得なかった半透明のポリカーボネイトボディというデザインの力と、当時まだ対応機器が多くなかったUSBを採用するなど思い切ったインターフェイスの刷新で、現代のアップルの象徴的な存在となった。

  • 1998年8月に登場した初代iMac。特徴的な半透明のボディーは、パソコン業界に大きなインパクトを与えた

その後、iMacは電気スタンドのようなフレームによってディスプレイを支える、不思議ながら可動式ディスプレイアームが便利だったスタイルを経て、現在のスタンドの上にディスプレイが浮かぶデザインに落ち着いた。ポリカーボネイトからアルミニウムとなり、光学式ドライブを排除して薄型を極めたデザインを採用し、2012年から現在の形を維持している。

  • おなじみの現行iMac。ロングセラーとなっている人気モデルだが、ほかのMacにはない課題も残っている

ディスプレイサイズは21.5インチと27インチが採用され、それぞれ4K、5Kの解像度をサポートしている。前述のように、2017年には高いパフォーマンスとスペースグレーのボディを備えるiMac Proを登場させ、結果として高いコストパフォーマンスのワークステーションとして支持を集めている。

デザインについては、ディスプレイ一体型コンピュータとして一定のゴールにたどり着いていると評価できる一方で、iMac自体が引きずるアーキテクチャ上の問題点もまた、2012年から変わらないまま残ってしまった。それはハードディスクだ。

実は、2020年2月現在で、Macのラインアップの中でハードディスクを搭載しているのはiMacだけだ。2017年登場のiMac Proは初めからSSDが搭載され、2018年の刷新でMac miniもSSD化された。

ノートブックでは、2010年登場の新型MacBook Air以降、新モデルからハードディスクは排除された。特にノートブックの場合、薄型化を進めていく上で、ハードディスクの排除は不可欠だったといえる。しかし、デザイン上の制約以上に重要だったのはパフォーマンスと耐久性だ。

そうした状況の中、iMacでもSSDを選択することはできるが、依然としてハードディスクモデルが残り、ハードディスクとSSDを組み合わせたFusionドライブという折衷案まで用意されている。

普段からMacBook Pro 13インチモデルをメインマシンにしていると、2019年に登場した最新モデルのiMac(Fusionドライブ)で生じるアプリ起動やデータ読み込みの際のシーク待ちの時間は大きなストレスとなって押し寄せてくる。プロセッサは明らかにiMacの方が早いが、日常のちょっとした動作で響いてくるのはストレージのスピードで、ハードディスクが介在するiMacは圧倒的に不利なのだ。

Tシリーズチップ搭載というサイン

もう1つ、iMacがほかのMacラインアップに遅れを取っている点が、Tシリーズのチップを搭載していない点だ。

Tシリーズチップは、AppleがデザインするARMベースのプロセッサで、Touch Barを初めて搭載した2016年のMacBook ProシリーズでT1チップが初めて搭載された。その後、iMac ProにT2チップが搭載され、以降フルモデルチェンジされたMacBook Pro、Mac mini、MacBook Air、Mac ProにT2チップが搭載されてきた。

  • 最新Macに搭載されているT2チップ。セキュリティ関連をはじめ、ディスクの制御や暗号化など多くの機能を担っている

T2チップの主な役割は、ブート管理や指紋データの格納といったセキュリティ、オーディオやビデオのコントロール、H.265(HEVC)のエンコード、ディスクコントローラー、ディスクのオンザフライ暗号化など、広範にわたる。そして、iMacがまだT2チップを搭載できない理由は、ディスク周り、つまりT2チップがハードディスクのコントロールや暗号化をサポートしていないことが原因になっている。

つまり筆者は、iMacにT2チップが搭載されることは、iMacのSSD化とイコールだと考えているのだ。

しかし、iMacへのSSD採用にはジレンマもある。デスクトップマシンのストレージへの期待は、何より大容量だ。しかし、1TBや2TBといった容量のSSDはまだ高価で、価格の問題からエントリーモデルのiMacに128GBのSSDしか搭載しない、というのはHDDモデルに対してあまりにも見劣りしてしまう。

そこで、iMacのラインアップのうち、21.5インチモデルについては、現在と同じように2つに分かれると考えられる。

1つは、現行のフルHD解像度の21.5インチiMacをハードディスクモデルもしくはFusionドライブモデルとして併売するパターン。2つ目は、27インチ5Kモデルとともに、4Kモデルの21.5インチiMacをSSD搭載モデルのみへとモデルチェンジし、新たにT2チップを搭載するパターンだ。

こうすれば、教育機関などへの大量導入のニーズを叶える低価格モデルと、最新のMacラインアップのスタンダードにキャッチアップするモデルに、きれいに分離できる。(続く)

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。