政府の新型コロナウイルス対策に助言をしてきた科学者たちはウイルスとどう向き合ってきたのか。連載4回目は、厚生労働省クラスター対策班(現・疫学データ班)メンバーの西浦博・北海道大教授(理論疫学)に聞いた。【聞き手 くらし医療部・金秀蓮】
「ほんまか? ほんまか?」
Q:昨年末、中国・武漢で原因不明の肺炎が発生していると知った時、その先何が起こると考えていましたか。
A:ニュースを見て知ったのですが、すぐに古巣でもある香港大学のメンバーに連絡を取りました。大学の誰が対応しているのか、感染は広がっているのか、ウイルス性で間違いないのか、と確認したことを記憶しています。
当時は国立感染症研究所の鈴木基・感染症疫学センター長と頻繁にメールで連絡を取り合っていました。初めは武漢で限定されていて、海鮮市場での暴露が共通していそうだという断片的な情報しかありませんでした。香港大学の関係者から新種のコロナウイルスで重症急性呼吸器症候群(SARS)に近いということは漏れ聞こえてきました。
ただ、SARSはヒトへの適応がしっかりしていなくてすぐに封じ込められましたし、近縁の中東呼吸器症候群(MERS)もラクダからの広がり、「スーパースプレッド(強い感染力を持つ)イベント」があって困るぐらいでした。ヒトからヒトへの感染性が世界的規模の流行を起こすほど高いというのは、当時全く思い至りませんでした。
そんな中、1月13日にタイで武漢からの旅行者の感染が確認されました。「ほんまか? ほんまか?」と驚きました。そして、15日には日本でも1人診断されました。タイと日本で計2人の感染者がいて、武漢で患者が50人程度しかいないということはあり得ません。
中国の外で渡航者から感染者が見つかった時点で、ヒトからヒトへの感染の蓋然(がいぜん)性が相当高まりました。パンデミックのリスクがあるウイルスだと認識しました。研究室にはHIV(エイズウイルス)や結核の研究をしているメンバーもいますが、全員を集め「一度それぞれの研究の手を止め、こ…
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