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アスリートへの誹謗中傷、モラルだけでは止められない オリンピックの勝敗の鍵を握るかもしれないSNS対策小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2021年07月31日 07時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

 7月27日に、卓球混合ダブルスで日本の水谷隼・ 伊藤美誠ペアが日本勢初の金メダルに輝いて以降、アスリートに対する誹謗中傷の話題が大きくクローズアップされている。28日に水谷選手が、Twitterで誹謗中傷があることを告白したことがきっかけのようだ。もちろんそれ以前からも、多くの選手に誹謗中傷はあったのだろうが、選手自身が公表する例が少なかったのだろう。

 オリンピックに限らず、以前からSNSの誹謗中傷は日本においても大きな社会問題となっており、2020年にはプロレスラー木村花さんが自ら命を絶つ痛ましい出来事もあった。JOCとしても、6月29日の段階で選手宛に書き込まれる誹謗中傷を監視するチームを設置するという動きはあった。

 だが水谷選手の発言からすると、「ダイレクトメッセージ」で中傷コメントが送られてきているという。ダイレクトメッセージは本人しか見られないので、他者が監視することは難しい。

 7月25日には、選手本人から被害届が出れば対応すると、警視庁が方針を発表した。ただ、日本の警察が動いたところで、海外から寄せられる誹謗中傷に対しての抑止効果は、あまり期待できない。加えて必要なのは予防措置であって、起きてしまったことへの対処ではない。

誹謗中傷が「競技外で勝敗を握るツール」と化している

 開会式からそうなのだが、試合会場にスマートフォンを持ち込み、写真を撮ったり、あるいは熱心に書き込みを読んだりしているアスリートの姿が多く見受けられている。オリンピック・アスリートとはいっても、素顔は一般市民と変わりない。個人的な友達も多いだろうし、加えてファンも多いだろう。こうした人たちから送られてくる応援メッセージでテンションを上げていくというのは、いかにも今の若者らしい姿だ。

 特にコロナ禍になって以来、後援会のような活動もダイレクトに行えなくなった。多くの人から慕われるアスリートにとっては、ファンサービスも含め、SNSが重要なコミュニケーション手段であることは間違いない。

 だがそこに心無い誹謗中傷が混じっていれば、テンションは下がる。オリンピックのような世界大会で、実力が拮抗している選手同士であれば、勝敗を決めるのはメンタルだ。そのメンタルがやられるわけだから、もはや誹謗中傷が「競技外で勝敗を握るツール」と化してしまったというのが、この東京五輪で明らかになった現代スポーツの大きな問題である。

 アスリート自身にはスポーツマンシップがあり、フェアプレイを心掛けていることだろう。普段から熱心に特定のスポーツを応援している人や、自身もプレイヤーである人は、同じようにフェアプレイの精神があるかもしれない。

 だが、ただ競技をテレビで見ているだけで知った気になって批評したり、勝手に選手に国の威信を背負わせたりする外野の人たちに、フェアプレイやノーサイドの精神があるとは限らない。

 試合中にレフェリーによる公式なジャッジが出ているにもかかわらず、結果が確定したあとにグズグズした誹謗中傷が選手に直接殺到するなら、選手たちにとってはいつまでも試合が終わらないことになる。

 スポーツを見ながら、あの選手はダメだ、相手選手がムカつくみたいなことは、オフラインならいくらでも言っていい。だが飲み屋でテレビを見ながらクダを巻くみたいなことができなくなったからといって、SNSで選手に直でメッセージを送るのはどう考えてもダメだ。

 こうした誹謗中傷が止まらないのは、行ったほうに大したペナルティーがないからだ。スマホ複数台持ちでMVNO契約が一般的になった昨今、電話番号やメールアドレスとアカウントひも付けしても、いくらでもアカウントは作れる。よほどの有名アカウントでなければ、アカウント停止は大した意味を持たなくなった。

「少数の意図的な悪意」は呼び掛け程度では止まらない

 7月30日、 閣議終了後の会見で丸川珠代五輪相が「(SNSの)ユーザー一人一人が他人を傷つける書き込みをしないことを徹底し、選手の活躍を温かく見守っていただけたら」と発言したが、どうもこの問題を日本人ユーザーだけの話と勘違いしているのではないか。今回の誹謗中傷対策は「世界が相手」だということが、どうも認識されていない気がする。

photo 東京オリンピックの海外向けライブブログページ

 加えてこうした政治家の発言で抑止できるのは「多くの人が無意識に行っている行為」だ。一方誹謗中傷は、過去の炎上の研究などからみても「少数の人間が意図的に行なっている行為」である。政治家がマスコミを通じて訴えるといった方法では、効果がない。

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