■飼育可能なマリモの正体
まずは一番の疑問、特別天然記念物なのに家庭で育ててもOKなのかについて聞いた。
「特別天然記念物に指定されているのは『阿寒湖に自生しているマリモ』で、それは採取や販売、飼育をすることはできません。ただし、養殖やその他の場所で採取したマリモに関しては販売が認められているものもあります」(島森さん)
なるほど。昔、おみやげでもらったキーホルダーの瓶に入っていたマリモは特別天然記念物だったわけではないのだ。
「特別天然記念物ではないどころか、水の取り替えができないものは、マリモに似せた素材で作られたフェイクですね」(島森さん)
そ、そんな~! 正直、本物かフェイクか、見た目で全然区別がつかないんですが。そもそもマリモって何なんです!?
「淡水で暮らす藻の1種です。光合成によって生長する植物の仲間で、『エサをとる』、『自分で移動する』といった動物のような行動をとることはありません」(島森さん)
■マリモの飼育方法
正体は藻であることが分かったが、フェイクではないマリモを見ても、水の中で鎮座しているので、イマイチその生死や成長が分からないのだが……。「教えて!goo」にも「このマリモの生死について教えてください」と、ユーザーから質問が寄せられている。
「マリモは植物の仲間なので、地上の植物と同じように枯れます。マリモが茶色に変色してしまったら、それは動物では死んだ状態といえます。成長についてですが、速度は決して早くはありませんが、上手に育てると、年に数ミリ程度成長します」(島森さん)
……! 筆者はまだ茶色のマリモというのを見たことがないが、あの緑のまん丸が茶色になっていたら衝撃を受けそうである。そうならないための育てる方法について詳しく聞いてみた。
「マリモの飼育で大切なことは、水を定期的に交換することです。水の取り替えは原則として一週間に一度でOKですが、水が汚れたとき、あるいは水温が高くなってしまったときは、そのタイミングで取り替えなければいけません。水温は15℃~20℃が最適で、25℃以下に保つ必要があります」(島森さん)
使う水は水道水でもよく、植物の仲間なのでエサも必要ないとのこと。意外にも飼育のためのハードルはそれほど高くないことが分かった。
「直射日光を避けるのもポイントです。マリモは人工光線でもよく育ちますが、金魚や熱帯魚と一緒に飼育したり、油や石けんなどを混入するのはNGです」(島森さん)
なぜ金魚や熱帯魚と一緒が駄目なのか? それは、マリモが格好のエサになってしまうからである!
■マリモはなぜ丸い?
ところで素朴な疑問であるが、マリモはなぜまん丸なのだろう?
「天然のマリモは、湖底の緩やかな流れが、コロコロとした球体をつくりあげていると考えられています。水流がマリモを形作ると考えると、流れのないビンのなかで過ごすマリモは、時間が経つと藻が解けてくるものです。定期的に手の平で丸めてあげると球体を維持することができます。」(島森さん)
解けきったマリモの姿……それは茶色になってしまったマリモと同様、目にしたくないものである。
ところでマリモは基本的に沈んでいるイメージが強いが、もし浮かんできたら何が起きているのだろう?
「マリモは基本的には沈んでいますが、浮く場合には二つの原因が考えらます。一つは光合成をして、体のまわりに酸素がたくさん付いたためです。多くの場合、こちらは翌日には沈みます。もう一つは、マリモの内部が枯れているケースです。こちらは注意が必要で、枯れてしまった部分を取り除き、さらに水温のケアなど枯れた原因を取り除かないと、やがて全体が枯れてしまいます」(島森さん)
「マリモがぷかぷか浮いてきて可愛い~」と楽観視せず、翌日ちゃんと沈んだか確認し、きちんとケアを行おう。
個人的には長年の謎が解け満足であるが、皆さんはいかがであっただろうか? 阿寒湖に浮かぶチュウルイ島には特別天然記念物のマリモを見ることができる「マリモ展示観察センター」というものもある。旅行などで北海道に行った際に、足を伸ばしてみては?
●専門家プロフィール:株式会社マルシャン
マリモの養殖の研究を重ねて実用化に成功。約30種類の観賞用のマリモを製造・販売している。マリモの他にもラベンダーや熊といった北海道にちなんだグッズを製造し、マリモのチョロQや熊の手ライターなどのユニークな製品も好評を博している。