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豊洲市場、致命的欠陥が露呈か…主流型のトラック、使用困難のおそれ

文=小川裕夫/フリーランスライター
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豊洲市場、致命的欠陥が露呈か…主流型のトラック、使用困難のおそれの画像1建設工事中の豊洲市場(「Wikipedia」より/江戸村のとくぞう)

 2016年に開場が予定されていた豊洲市場は、土壌汚染対策が不十分として移転が延期されていた。移転延期決定後も、汚染対策として盛り土がなされていなかったことが発覚。また、豊洲市場そのものの欠陥も指摘されるなど、混乱が続いた。そして、ようやく豊洲市場の開場日が2018年10月11日に決定。移転に反対を示していた業者も不本意ながら移転の準備を始めている。

 移転日が決まったことで一件落着する気配が漂う築地市場移転だが、実は問題は山積している。ある農林水産省職員は、こう話す。

「築地市場が、東京の食を支える卸売市場であることは、誰も否定しません。築地市場が老朽化しているという指摘は、1980年代前後からありました。そうした指摘を受け、築地市場を大田市場が代替する計画が立案されました。しかし、大田市場も開場から間もなく30年が経過します。施設全体はそれほど老朽化していませんが、30年の歳月で流通業界は急速に変化しています。大型の卸売市場という鳴り物入りで開場した大田市場も、いまや狭いという印象は否めません。さらに、大田市場の動線や構造が、今の時代に合わなくなっているのです」

 築地市場は、鉄道輸送がメインだった昭和初期に開場した。水産物や青果は、地方から貨物列車で築地市場へと運搬された。そのため、築地市場は貨物列車が乗り入れるのに適した緩やかな弧を描く形状で建設されている。

 しかし、1986年に鉄道輸送の時代は幕を下ろし、トラック輸送へと切り替わった。それでも築地市場は建て替えられず、弧を描いた形状はそのままにされた。それが、歳月とともにトラック輸送のネックになっていると指摘される。

 築地市場の構造は、確かに前時代的だ。施設も老朽化が目立つ。だが、豊洲市場でも同様の問題を心配する声が聞こえてくる。

キャパシティ問題

 特に、問題視されているのが、卸売市場のキャパシティだ。

「約10年前、インターネット取引や大型流通業者などによる産直取引が拡大し、市場経由率は大幅に下がりました。そのため卸売市場不要論も噴出し、合理化が進められたのです。地方都市では続々と卸売市場が廃止・統合され、市場経由率は下げ止まり、最近は市場に買いつけに来る業者が大型化しています。そのため、卸売市場構内は大きなトラックが行き来できるように幅の広い道路が求められるようになっています。また、台車も大きなものを使います。たくさんの業者が行き交う屋内の通路は、広くなければ機能しません」(同)

 東京都の人口は、いまだ増加を続けている。人口が増えれば、比例して食料需要も増す。チェーン系の小売店や飲食店なら神奈川・埼玉・千葉から仕入れることも可能だろうが、個人が営業する小規模な店は遠くまで仕入れに行くことはできない。東京都には個人経営の鮮魚店や青果店、飲食店はいまだ多い。

 また、物理的には遠くまで仕入れに行くことができる大手事業者でも、時間的なロスを考えれば仕入れは近場ですませたい。そんな心理が働くので、業者は豊洲を利用するだろう。豊洲のピークタイムは、身動きが取れない状態に陥ることが予想される。

「大田市場のキャパシティは、限界に近づいています。自治体や卸・仲卸双方から『もっと大きな市場を』という要望も寄せられています。水面下では市場拡張が検討されていますが、大田市場は拡張するスペース的な余裕がありません。今のご時世、都内で大きな卸売市場をつくることはできません。そうなると、卸売市場の数を増やすしか術はありません。食品流通の観点から考えれば、豊洲市場だけで築地市場の機能を賄うことは難しいのですから、築地市場と豊洲市場の両方を卸売市場として使うのが理想です。ところが、今の議論は築地か豊洲かの二者択一。どちらかひとつが残っても、どちらかひとつが消失してしまえば食の安定供給は崩壊します」(同)

「設計思想が20年遅れています」

 キャパシティの問題のほかにも、豊洲市場には問題がある。豊洲市場は、最新の流通事情を反映して設計されたとされている。築地市場とは異なり、豊洲市場はトラック輸送を前提にした構造になっている。しかし、昨今の物流業界では荷物の積み降ろし時間を少しでも短縮する傾向が強まっている。

 そのため、2000年前後からトラックの構造が革命的に変化した。それまで、積み荷はトラック後方から積み降ろしをするのが一般的だった。しかし、トラックの側面扉をウイング型に改造することで、フォークリフトを使って素早く・隙間なく荷物を積み込むことができるようになった。以降、ウイング型のトラックが急速に普及していく。

「コンビニ配送のトラックなどは、道路や駐車場で荷下ろしするのでスペースを多く必要とするウイング型は向きません。しかし、卸売市場やショッピングセンター、ホームセンターといった広い荷捌き場を併設している施設では、ウイング型のトラックで配送するほうが効率的ですし、一般的になりつつあります。豊洲市場はコールドチェーンを徹底するあまり、冷蔵倉庫からトラックに直接運び込むと想定して設計しているのです。そのため、流通業界では主流のウイング車の使用が困難になりました。豊洲市場の設計思想は、明らかに20年遅れています」(業界関係者)

 早朝の1分1秒を争う卸売市場において、ウイング車が使いづらいという欠陥は大きな痛手だろう。築地市場とは異なり、豊洲市場は業者が徒歩で買い物にくることは想定されていない。出入り業者は、ほぼすべてトラックを使う。そのため、トラックの積み降ろしに時間を要すれば、周辺道路だけではなく構内でも渋滞が発生する。

 豊洲市場の開場日が決まっても一件落着とはならない市場問題。まだ、迷走が続きそうだ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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