昭和の子どもたちのあいだで
「えんがちょ」という言葉がしばしば交わされていた
その当時は意味も解らず
おれ自身も「えんがちょ」を遣っていた
オトナになって民俗学に興味を持ち
「えんがちょ」の由来を探ってみたことがある
そもそも「えんがちょ」は
友だちが犬のクソなどを踏んづけたりしたとき
囃子言葉のように遣っていたので
なにかそういう「穢れ」を祓うまじないのような言葉ではないかという気はしていた
「えん」は「穢(え)」であり「ちょ」は「ちょん」であるという説がある
つまり「穢れを切る」という指摘だ
では「穢れ」とはなにか?という疑問に行きつく
一般的には「穢れ」は「不浄なこと・もの」に触れてしまったとき身についてしまう「不運」だと解釈すると判りやすい
日本人のなかには「穢れは伝染する」という呪術的な発想があって
クソを踏んだ友だちに触れると
クソを踏んだ友だち同様の不運に見舞われるという観念があったのだろう
「穢れ」はイヌのクソを踏んづけることによって生じるだけではない
病気や死も感染するという観念も広くあった
ただ子どものあいだでは病気や死はあまりに重い問題だったため
せいぜいイヌのクソを踏んづけたぐらいが「えんがちょ」の対象になったのだろう
そもそも
そこそこ科学の時代に差し掛かっていたおれの子ども時代だ
病気は医者に死は葬式でどうにかするという意識がはたらいていたのだろう
だからイヌのクソを踏んづけたということだけに「えんがちょ」が使われたのだろう
それにしても
子どもながらにも「穢れ」を意識した時代が確実にあったということには
いまにして驚く
東京ですらこんな状況だったのだから
もっと不可解な因習が残っていた地方もあるのではないだろうか
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