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2016年05月08日00:26

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覚え書き・村上春樹『女のいない男たち』よりの文章抜き書き

映画も見ているのですが、GWはそれなりに仕事をしていました。(今も)
ところで、マイミクのリョウさんが村上春樹の『女のいない男たち』を読んで、村上春樹のことを書かれていて、そういえば私も去年だかに読んで、いつものように、この本の文章の抜き書きをしていたことを思い出しました。
ipadに残しているのですが、こちらに備忘録としてコピペしておきます。
(読んでいない人には何だか分からないでしょうし、なぜここを抜き書きしているのかも本人しか分からないとは思いますが)ともあれ。


村上春樹「女のいない男たち」より

「ドライブ・マイ・カー」
俳優が女性ドライバーを雇う。彼女に語る亡き妻の男たちの話。
(※これは美人ではない彼女の、でも実に魅力的な人物描写の仕方に感心した)

家福が必要書類にサインし、請求書の詳細について説明を受けているときに、その娘がやってきた。身長は一六五センチくらいで、太ってはいないが、肩幅は広く、体格はがっしりしていた。右の首筋に大きめのオリーブくらいのサイズの楕円形の紫色のアザがあったが、彼女は外にさらすことにとくに抵抗を感じていないようだった。たっぷりとした真っ黒な髪は邪魔にならないように後ろでまとめられていた。彼女はおそらくどのような見地から見ても美人とは言えなかったし、大場が言ったようにひどく素っ気ない顔をしていた。頬にはにきびのあとが少し残っていた。目は大きく、瞳がくっきりしているが、それはどことなく疑り深そうな色を浮かべていた。目が大きいぶん、その色も濃く見えた。両耳は広く大きく、まるで僻地に備えられた受信装置のように見えた。五月にしてはいささか厚すぎる、男物のヘリンボーンのジャケットを着て、茶色のコットンパンツをはき、コンバースの黒いスニーカーを履いていた。ジャケットの下は白い長袖のTシャツ、胸はかなり大きい方だ。

高槻はどう見ても健全な、健康的な部類に属する酒飲みとは言えなかった。家福に言わせば、世の中には大きく分けて二種類の酒飲みがいる。ひとつは自分に何かをつけ加えるために酒を飲まなくてはならない人々であり、もうひとつは自分から何かを取り去るために酒を飲まなくてはならない人々だ。そして高槻の飲み方は明らかに後者だった。

「イエスタデイ」

昨日は/あしたのおとといで
おとといのあしたや

と関西弁の歌詞をつけて歌う木樽と、その彼女、僕の話。
(※これは絶妙なセリフ! ですね)

P112
「そして木樽は勘の良い男だよ」、僕は彼女を見ながらそう言った。
彼女は目を伏せ、ネックレスの真珠をしばらくのあいだ指でひとつひとつ順番にいじっていた。それがまだそこにちゃんとついていることを確かめるみたいに。それから何かに思い当たったように、小さくため息をついた。「そうね。たしかにあなたの言うとおりだわ。アキくんはかなり鋭い直観力を持っていた」
「でも結局、その相手とはうまくいかなかった」
彼女は肯いた。そして言った。「私は残念ながら頭がそれほど良くないの。だから回り道みたいなのが必要だったの。今でもまだ延々と回り道をし続けているのかもしれないけど」
僕らはみんな終わりなく回り道をしているんだよ。(傍点) そう言いたかったが、黙っていた。決めの台詞を口にしすぎることも、僕の抱えている問題のひとつだ。

「今でもまだ氷でできた月の夢を見る?」と僕は尋ねてみた。
彼女は何かに弾かれたようにさっと顔を上げ、僕を見た。やがて微笑みが彼女の顔に広がっていった。とても穏やかに、必要なだけの時間をかけて。そしてそれは心からの自然な微笑みだった。
「その夢のこと、まだ覚えていたのね?」
「なぜかよく覚えている」
「他人 夢のことなのに?」
「夢というのは必要に応じて貸し借りできるものなんだよ、きっと」と僕は言った。僕はたしかに決め台詞を口にしすぎるかもしれない。
「素敵な考え方ね」と栗谷えりかは言った。微笑みはまだ顔に残っていた。


「独立器官」
不倫相手に恋して、捨てられた医師が衰弱死する話。
(※これは村上流の独特の女性観かと思い)

内的な屈折や屈託があまりに乏しいせいで、そのぶん驚くほど技巧的な人生を歩まずにはいられない種類の人々がいる。それほど多くではないが、ふとした折りに見かけることがある渡会医師もそんな一人だった。

渡会医師に関して、もうひとつよく覚えていることがある。どのような流れでそんな話になったのか、今となっては思い出せないのだが、あるとき彼は僕に向かって女性全般についてひとつの見解を口にした。
すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わっている、というのが渡会の個人的意見だった。どんな嘘 をどのようにつくか、それは人によって少しずつ違う。しかしすべての女性はどこかの時点で必ず嘘をつくし、それも大事なことで嘘をつく。大事でないことでももちろん嘘はつくけれど、それはそれとして、いちばん大事なところで嘘をつくことをためらわない。そしてそのときほとんどの女性は顔色ひとつ、声音ひとつ変えない。なぜならそれは彼女ではなく、彼女に具わった独立器官が勝手におこなっていることだからだ。だからこそ嘘をつくことによって、彼女たちの美しい良心が痛んだり、彼女たちの安らかな眠りが損なわれたりするようなことはーー特殊な例外を別にすればーーまず起こらない。

思うのだが、その女性が(おそらくは)独立した器官を用いて嘘をついていたのと同じように、もちろん意味あいわはいくぶん違うにせよ、渡会医師もまた独立した器官を用いて恋をしていたのだ。

「シェエラザード」
引きこもっている? 男のところにくる女は、空き巣で男の子の部屋に忍び込んでいた話をする。 前世はヤツメウナギだった。

「木野」
妻の不倫現場遭遇して、会社を辞めバーを始めた男。常連客は?
(※このリフレイン、オノマトペさえ村上流である)

しかし時間はその動きをなかなか公正に定められないようだった。欲望の血なまぐさい重みが、悔恨の錆びた錠が、本来あるべき時間の流れを阻もうとしていた。そこでは時は一直線に飛んでいく矢ではなかった。雨は降り続き、時計の針はしばしば戸惑い、鳥たちはまだ深い眠りに就き、顔のない郵便局員は黙々と絵葉書を仕分けし、妻はかたちの良い乳房を激しく宙に揺らせ、誰かが執拗に窓ガラスを叩き続けていた。彼をほのめかしの深い迷宮に誘い込もうとするかのように、どこまでも規則正しく。こんこん、こんこん、そしてまたこんこん。



この後で、自伝的エッセイ『職業としての小説家』も読み、あっちゃこっちゃにエンピツで線が引いてあるのですが、これは抜き書きするには多すぎるので、いずれ余裕ができたら。
リョウさんに感謝。

ついでにこれまでの抜き書きもまとめておきます。

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1301934989&owner_id=6942177

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1901214329&owner_id=6942177

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