ボウイ・ロスに苛まれた結果、遺作となった『ブラックスター』ではなく、なぜか93年の復活作『ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』を聴いている。
というか、『
レッツ・ダンス』以降の作品はどうにも評判が悪いらしく(ティン・マシーン含めて)ぜんぜん聴けてなかったのだが、久々に再会したボウイの音は『レッツ・ダンス』と同じナイル・ロジャースがプロデュースしてるにもかかわらず、これまでのどの作品とも異なるものだった。この感覚は、久方ぶりの友人に再会した際に、かつての面影がまったく残ってなかったときのような寂しさにも似ている。
どこか同時期に流行っていたニュージャックスウィングを思わせるような、シャカシャカとせわしないサウンド。すっかりメジャーな存在となったボウイが、当時のメジャーだったナイル・ロジャースと組んで、当時としてはメジャーなサウンドをきっちり作り込んでいる(いちいち「当時としては」というエクスキューズが付いて回るのがミソ)。
そんな、言ってしまえば無個性なサウンドの中で、ボウイ自身が吹くサックスが退廃的なムードを醸し出していて、実に良いアクセントになっている。ブロウ一発でたちまちボウイの世界に染め上げてしまう様は見事。また“ジャンプ・ゼイ・セイ”における、奇天烈なシンセが駆け巡る中ズンドコと突き進む謎のグルーヴ感(笑)は、やはりボウイ独自の感覚で笑ってしまうくらい楽しい。
ただし全体的に楽曲としては低調で、ソングライティングにもかつての煌めきがみられない。創作上のスランプが想像以上に尾を引いているのか、もっともエモーショナルな歌唱が聴けるのが、モリッシーのカバー“アイ・ノウ・イッツ・ゴナ・ハプン・サムデイ”だけだというのはやはり寂しい。
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