「マーク・トウェイン自伝」上・下 ちくま文庫1999（単行本1984） を部分的にだが読んだ。部分的というのは、少年時代で十分満足したからである。それを見て、「トム・ソーヤー」も「ハックルベリ・フィン」も、そのほとんどが、ミズーリ州の寒村ハンニバルでの少年時代の体験に基づいていたことが分かった。
もっと言えば、上巻の前半は、トムとハックの別バージョン、パラレル・ワールドと言うべきものだったのである。二つの小説の面白さは、トウェイン自身の少年時代そのもので、フロンティアの少年たちそのものだったからだろう。その面では、ローラ・インガルス・ワイルダー「大草原シリーズ」に似ている。
確か、昔読んだ「トム・ソーヤー」で著者はトムのキャラクターは、自分も含め少年時代の友人たちを合成したものと述べていたが、それは遠慮と言うべきで、著者自身の少年時代そのものと言ってよいものだった。
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ハックに登場するトムの親戚で黒人奴隷のジムが監禁された農場。実際には、ハンニバルの近くで、少年時代には、毎年２，３カ月はここで過したとのことである。ｐ18
�▲肇爐肇魯奪�の友人で黒人奴隷のジムのモデル
「黒人たちはみんな僕ら白人の友達であり、同じ年頃の少年たちは、事実上、僕らの仲間だった。いま、事実上と言ったのは、仲間であると同時に仲間でなかったからである。・・・しかし、僕ら子供たちは、忠実で愛情深い親友・味方・相談相手として、中年奴隷の「アンクル・ダヌル」を尊敬していた。」ｐ23
「白人の子も黒人の子もみんな炉辺に坐っていた。ユラユラする暖炉の火は子供たちの顔を照らし、その影がはるか後ろの薄暗い洞窟のように見える壁に揺れている。その時、アンクル・ダヌルが話してくれた物語が今でも耳の奥に残っている。それは、やがてアンクル・リーマス・ハリスが自分の作品にまとめて世界中の人々を魅了することになった、あの不滅の黒人の物語である。」ｐ39
・・・リーマス爺やの物語「うさぎどん、きつねどん」は、広く、黒人の間での伝承だったのだろう。出版された時、トウェインは激賞したとのことである。
��インジャン・ジョーのモデル
「ある時、混血のインジャン・ジョーが洞窟内で道に迷い、蝙蝠がいなかったら餓死していたかもしれなかった。・・・彼はその時の様子を残らず話してくれた。トム・ソーヤーの冒険で私は彼を餓死させてしまったが、それは小説上のこと・・・」ｐ29
インジャン・ジョーの死を聞いたとき、大嵐の夜となり、サタンがジョーを迎えに来たと、彼なら当然だと思ったという。もちろん、ジョーは小説のように犯罪者ではなく、ただの酔っ払いだったのだろうが、戒律厳しい長老派ではこう見られる。ｐ154-155
�ぅ肇爐肇戰奪�ーが道に迷った鍾乳洞
「洞窟内は薄気味悪く、中に死体を置いてあったこともあるーーそれも、わずか十四歳の少女の死体で、銅製の筒に納めたガラスの円筒に入っていた。・・・父親の医者は奇人で・・・かわいそうに、娘の亡骸をあんなわびしい場所に置いて行ったのも父親の仕業だった。」ｐ29
�ゥ肇爐離皀妊襪話�者自身である。
七歳までは病気がちだったというので、後年母に尋ねたら、
「そんな具合じゃ、母さん私のことが絶えず心配だったろうね」
「そうさね、心配のしどうしでしたよ。」
「これじゃ、育たないんじゃないかって？」
母はしばし黙っていたーーいろいろなことを思い出そうとしているらしかったーーが、やがて、
「いやねーーもしこんな子が育ったらどうしようかと思ってね。」ｐ24
・・・まるで、コントである。彼の悪戯が、トム・ソーヤ以上にあまりにも激しかったかららしい。
「ある時、（小学校の）先生は・・・求めよ、さらば与えられんという聖句をとりあげ、・・・」これをそのとおり信じた著者は、二，三日�痢△い辰僂い△襪曚靴な�をもらえるように祈ったが、当然むなしかった。ｐ77-78
・・・小説内のトムも迷信も含めて信じやすい少年だった。当時の、フロンティアの信心深いプロテスタントに共通していたのだろう。
少年時代のトウェインはいろいろ悲惨な事件も目撃していた。牢獄で焼け死んだ酔っ払いの浮浪者がいたが、彼にマッチを渡したのはトウェイン著者だった。長老派の教えを受けていた彼は、３ヶ月間良心の呵責を受けていたという。ｐ94
ならず者が、未亡人と娘の住む屋敷に押しかけ、未亡人の制止を聞かなかったため撃ち殺される場面も目撃して夢にうなされることとなった。ｐ98-97
こういう事件が続き、次は自分だと、夜には悪戯を悔いあらためる誓いをするのだが、朝には忘れてしまっていた。
・・・小説の中で、トムはインジャン・ジョーによるは殺人事件などを目撃するが、実際に、気配を察して、いつでもどこへでも駆けつける好奇心のかたまりのトウェイン自身がそうだった。
１０歳の時、ハンニバルの町ではしかが流行し多数の子供たちが死んだ。母親たちは気も狂わんばかりだったが、トウェインは夜をはかなんで、自分も死のうとはしかで死の床にいる友のベッドに忍び込んで首尾よく感染したとのこと。医者に見放されるほどの状態になったが、そう宣言された途端快方に向かったとのこと。ｐ137
・・・後年の小説にみられる厭世的な様子も、実際の著者のものだった。感情の起伏が激しいし、これも母の心配の種だったのだろう。
�Ε櫂蝓爾�ばさんのモデルは母である。妹でおばさんと合成されているかもしれない。
「母はいつも寄る辺ない者の友であり味方であった。長老派教会員だったが、母の性格からすると、悪魔そのものにもつい騙されてやさしい言葉をかけて慰めたりするのではないかと世間一般から見られていた。」ｐ65
�Д魯奪�のモデル
「ハックルベリ・フィンでは（ハックのモデルとしての）トム・ブランケンシップをあるがままに描いたつもりである。彼は無知な少年で、風呂に入ったこともなければ腹いっぱい食べたこともなかった。だが、誰にも負けないくらい素晴らしい心を持っていた。・・・子供たちはかれにあこがれ、一緒に遊ぶのを楽しみにしていた。世の親たちが彼と遊ぶのを禁じたから、なおのこと遊びたくなり・・・。」後年、モンタナ州の奥地の村で治安判事をしているという噂を聞いたという。ｐ153-154
�┘肇爐領�人、ベッキー・サッチャーのモデル
高等裁判所の判事の娘のローラが初恋の少女だったが、50年後に未亡人となった彼女から援助を願う手紙が来て、小切手を振り込んだという。彼女からの礼状に、昔の少女を見る思いがしたとのことである。ｐ180
トウェインは「赤毛のアン」が出版されたとき、著者のモンゴメリーに賛辞の手紙を送っているが、確かに、アンの過剰な空想癖はトウェインと同じだし、長老派という宗派まで共通している。
フロンティアの生活自体、特に少年たちの生活が、後から見ればファンタジーのようなものだった。トウェインはそれに輪をかけて演じて見せて、後で、それを描写したのだった。
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