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帝王学研究所

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詳細 2017年4月15日 19:28更新

帝王学を抽象的なものから、具体的なものへ昇華させ、
一般化することが目的です。それには、一人の力では、行う事ができず、多くの人達のご協力が必要です。

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☆指南書
1.武士道(新渡戸稲造)
2.プロカウンセラーの聞く技術(東山紘久)
3.竜馬が行く、坂の上の雲、峠(司馬遼太郎)
4.議論に絶対負けない法(ゲーリー・スペンス)
5.説得の技法(草野耕一)
6.この一冊で「哲学」がわかる!(白取春彦)
7.モンテクリスト伯 岩窟王(アレクサンドル・デユマ)
8.シェークスピア物語(ラム)
9.自助論(サミュエル・スマイルズ)
10.ハーバード交渉術
11.新しい力(高橋佳子)
12.帝王学「貞観政要」(山本七平)
13.五輪書(宮本武蔵)
14.上杉鷹山(童門 冬二)
15.『代表的日本人』内村鑑三(岩波文庫)
西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮上人について紹介している。ケネディが読んでいたということで有名になった本。東洋的な思想を行動として表した人達を選んで紹介している。伊藤一斎の『言志四録』と併せて読まれると面白いと思う。

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☆帝王学「貞観政要」

貞観政要とは?

貞観政要とは唐の呉兢の著作で、十巻40篇からなり、その内容は、唐の二代目
皇帝太宗(李世民)とそれを補佐した名臣との間の政治問答集。古くから帝王学
の教科書として知られ、日本でも北条政子や徳川家康、明治天皇がこの本を読んでいます。

「兼聴」──情報を吸い上げる
「十思」「九徳」──身につけるべき心構え
「上書」──全能感を捨てる
「六正・六邪」──人材を見わける基本
「実需」──虚栄心を捨てる
「義」と「志」──忘れてはならぬ部下の心構え
「自制」──縁故・情実人事を排する
「仁孝」──後継者の条件
「徳行」──指導者に求められるもの

太宗は父である高祖(李淵)を助けて唐王朝の創建を担ったばかりでなく、皇帝の
地位につくや、広く人材を集めて適材適所に用いることにより唐王朝300年の歴
史の基礎を固めました。その配下としては、房玄齢、杜如海、魏徴、王珪、李靖、
李勣、長孫無忌などの優秀な人材が集まり、太宗はこれらの名臣の意見を取り入れ、
その能力を十分に発揮させたため、非常に安定した社会が実現しました。
この時代の優れた治世のことを太宗の年号をとり、「貞観の治」と呼んでいます。
この本は太宗と名臣達の問答を通じて「貞観の治」をもたらした治世の要諦が述べ
られており、トップにたつ者が帝王学を学ぶ上で非常に学ぶところが多いでしょう。

1.創ることと守ること 

 「創業と守成いずれが難きや」
結論を言いますと、「創業的体制」を「守成的体制」に変えることが大切だと言うことです。
この本では、創業の貢献者には「礼遇と秩禄だけで優遇すべき」とし、さらに守成のために必要なことは、思い切った権限の委譲としています。敵国外患なき者は、国恒に滅ぶ、つまり「安きに居りて危なきを思う」ことがなくなります。さらに「上下雷同は危険である」とも言っていま
す。つまり、「和によって亡ぶ」ようになると言うのです。これは、家庭と言う単位を見ても、和は、独裁者の意見に従うことなので、長い眼で見ると良くないことになります。夫婦の間でも、権限の分担、家族全員の意見の調整が必要であると言うことにもなります。そのため、「十思」「九徳」など、全ての事をほどほどの点に留めるための必要な配慮を述べています。こう考えると、帝が「知らしむべからず、由らしむべし」と、情報を独占すると自然に情報が入らなくなり、良い判断が出来なくなります。つまり、情報遮断が組織を滅ぼすことになります。

2.帝なんぞその間に力あらん 

「人民は、日出でて作し、日入りて息す。井を穿ちて飲み、田を耕して食う。帝なんぞその間に力あらん」と言う言葉が紹介されています。

 創業の時の努力は、時間がたって安定すると、人々に忘れられてしまいます。結婚当初は、二人で努力して家庭を作り維持しょうとしますが、この苦労は子どもは知りません。子どもにとっては、家庭は生まれた時からそこにあったのですから。しかし、これは「統治されている意識を持たない状態」を作ることが政治の理想である、と言う意味と受け取られます。

3.帝は直言に耳を傾けるべきである。六正、六邪 

いずれにしても、何らかの権力を持ったヒトは、自分の欠点を批判して呉れる人(諫議太夫、かんぎ・だゆう)を何時も側に置き、信用するようにしないと組織の維持のためには危険なことであると考えています。人材の見分け方として六正、六邪をあげています。

六正
(1)きざしのないのに存亡の危機を防ぐのが「聖臣」
(2)わだかまりなき心で主人の美点を伸ばし欠点を補うのは「良臣」
(3)勤勉につとめるのが「忠臣」
(4)事の成功・失敗を予測し禍を転じて福とする「智臣」
(5)節度を守る「貞臣」
(6)主人にへつらわず意見を述べる「直臣」

六邪
(1)公務に精励せず世俗に無批判に順応する「見臣」
(2)主人に迎合ばかりしている「諛臣」
(3)口が達者で一見温和だが、陰険に人事を操作する「姦臣」
(4)自分の非をごまかすのに十分な知恵を持ち弁舌は巧みでもめごとを作る「讒臣」
(5)権勢をほしいままにする「賊臣」
(6)侫邪をもって主人にへつらい、主人の悪を作る「亡国の臣」の六つです。

誰でも、その人なりの権限と責任を持つようになります。帝王とは国の君主のことで、
君主とは世襲による国家の伝統者のことですが、最近では、サラリーマンにも権限があり、
家庭では親に権限があるので、帝王学を生活の知恵として学ぶ必要があると言われるよう
になりました。六正、六邪は人の見方や生きざまを知るために大切な知識です。

企業の盛衰と人の性格の関係
企業のトップはどのような人間を重用する傾向があるのか。
意外なことに、虚構性の強い人間を重用するトップが多いことに驚く。
虚構性とは、要するに真実を真実として伝えないことである。
つまり真実の中で都合の悪いことを打ち消して、事実の一部分だけをもって真実にしようとする。
虚構性が強い人間とはこういう人たちのことをいう。彼らは常にトップの顔色うかがいを旨としているため、
トップにとって都合の悪い情報があったとしてもそれをひたすら隠してしまう。
一見、真実性があるように、事実の一部をクローズアップして見せてしまう。
もちろんトップも人間であるから常に完全ではありえない。
耳に心地よい言葉を信用したいという気持ちがどしても働く。
企業の盛衰は、要するに、その時々のトップの意思決定の結果である。
そして意思決定をするということは、さまざまな情報を分析、判断した結果であるから、
伝えられる情報を誤りのないものにすることが何よりも肝心なのである。
誤りのない人生がないのと同様、誤りのない経営をもない。
大事なのはどのように修正するかである。そのためには常に真実が必要である。
虚構性の強い人間は本来的な性格であるから、本人自身もそれが虚構だとは気づいていないのである。
虚構性の強い性格の人は、必ず、他人の失敗によって現在の不利がもたらせていると告げる。
そして彼らは自分が担当していたこと(自己の責任)であっても、決して自分の責任ではないと信じ込んでしまう。
失敗をしない人間はいないのにもかかわらず、自分の失敗はありえないとするのが虚構性の強い人間である。
とくにトップの意思決定に強い影響力を持つ地位にあり、切れ者といわれる人に、この種の人が多いので注意を要する。
人事担当者はこのような性格についてよく勉強し、人を見極め、要注意人物はトップの周辺から排除すべきである。

4.「十思」「九徳」──身につけるべき心構え

「十思」
欲しいと思うものを見たら、足るを知って自戒することを思い、
大事業をしようとするときは、止まることを知って民の安楽を思い、
高ころびしそうな危ないことを思うときには謙虚に自制することを思い、
満ちあふれるような状態になりたいという願望が起これば、満ちあふれる海はすべて川より低いことを思い、
盤遊(遊び)したいと思うときは、必ず限度をわきまえ、狩りのとき、一方に逃げ道を用意してやるのを限度とすることを思い、
怠け心が起こりそうだと思えば、始めを慎重にして終わりをつつしむことを思い、
自分の耳目を塞がれているのではないかと心配ならば、虚心、部下の言葉を聞くことを思い、
中傷や讒言を恐れるなら、まず自ら身を正して悪をしりぞけることを思い、
恩恵を与えるときは喜びによって賞を誤ることがないように思い、
罰を加えようとするときは怒りによって重すぎる罰にならないように思う。
「九徳」
寛にして栗(りつ)  ・・・寛大だが締まりがある
柔にして立      ・・・柔和だが事が処理できる
愿(げん)にして恭  ・・・真面目だが丁寧でつっけんどんでない
乱にして敬      ・・・事を収める能力があるが慎み深い
擾(じょう)にして毅 ・・・おとなしいが内が強い
直にして温      ・・・正直、率直だが温和
簡にして廉      ・・・おおまかだがしっかりしている
剛にして塞      ・・・剛健だが内も充実
彊(きょう)にして義   ・・・豪勇だが正しい

「人徳」の定義で有名なのは、
舜帝(しゅんてい)の臣、皐陶(こうよう)が、舜帝の前で語った「九徳」といわれる九つの徳目である。
これは、「貞観政要」にも朱子の「近思録」にも登場する。
ここで「九徳」を逆に考えてみたい。列挙してみると、
 
「寛にして栗」の逆は、「こせこせとうるさいくせに、締まりがない」
「柔にして立」の逆は、「刺々しいくせに、事が処理できない」
「愿にして恭」の逆は、「不真面目なくせに尊大で、つっけんどんである」
「乱にして敬」の逆は、「事を収める能力がないくせに、態度だけは居丈高である」
「擾にして毅」の逆は、「粗暴なくせに気が弱い」
「直にして温」の逆は、「率直にものを言わないくせに、内心は冷酷である」
「簡にして廉」の逆は、「何もかも干渉するくせに、全体がつかめない」
「剛にして塞」の逆は、「見たところ弱々しく、内も空っぽである」
「彊にして義」の逆は、「気が小さいくせに、こそこそと悪事を働く」
 
「不徳の致すところ」という言い回しがあるがまさにそれである。
「論語」のなかには「有教無類」という考え方があり、人間には生まれながらにして類別があるのではなく、
教えがあるかないかだけだといっている。その教えが今日はいったいどのくらい実践できたか、自己評価をしていく。
それが修養であるといった。つまり、生まれながらにはもっていない「九徳」を、いかにして獲得するか。
そして、「九徳」に一歩でも近づくように修養するのが、リーダーの務めということになるのだろう。

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☆宮本武蔵「五輪書」に学ぶ

五輪書は、剣豪・宮本武蔵がその晩年に書き記したもので、二天一流と称する自らの剣術と兵法について解説したものである。その考え方はあくまでも「勝つため」にこだわった非常に合理的なものであり、現代のビジネスに置き換えても参考となる部分が多い。ここでは、個としての兵法の解説に多くを割いてある「五輪書」に学び、ビジネスマンのあるべき姿を考察することにする。

五輪書は五つの巻から構成されている。地・水・火・風・空の五巻である。各巻の内容を記す。

 ?地之巻……武蔵の考える兵法についての概略説明

 ?水之巻……剣術の道理についての具体的な解説

 ?火之巻……個人・集団それぞれの戦いについての解説

 ?風之巻……二天一流と他流派との比較検討資料

 ?空之巻……兵法の「道」について説く精神論的な巻

 ここでは各巻からいくつかの原文を抜粋し、現代社会においてその教えをどう役立てるべきかについて述べていく。各巻の内容を見ればわかる通り、五巻のうち特に地・水・火の三巻に具体的な教えが多い。

一、地之巻

「六十余度迄勝負すといへども、一度も其利をうしなはず。」

 五輪書冒頭の自己アピールである。武蔵が本当に最強の剣士だったのか否かについては諸説あり、千葉や柳生との手合わせがないことなどから武蔵の強さを疑問視する声もある。しかしながら、負ける戦いをしなかった(勝つ見込みのないコンペは避けた)のは事実である。また、この書自体をプレゼンテーションとしてとらえた時、最初に実績をぶちあげ読者を引き込む技術は学びたい。

「兵法の利にまかせて、諸芸・諸能の道となせば、万事において、我に師匠なし。」

 この記述とは逆に、武蔵には「人みな我師」という思想もある。大工や蹴鞠師など、およそ剣の道とはかけ離れた分野から学んだことも多いようだ。ここでは、あらゆるものから学び取ろうとする姿勢は崩さず、しかし最終的には自分一人で責任を持って事に当たるべきである、という教えと捉えるのが適切だろう。

「武士は文武二道といひて、二つの道をたしなむ事、これ道なり。」

 仕事ばかりしている人間に魅力は少ない。多芸とは言わないまでも、趣味を持ち芸術に触れることは人間性を高める上で重要であろう。

「兵法の道、大工にたとえたる事…(中略)…統領において大工をつかふ事、その上中下を知り…(中略)…人をみわけてつかへば、其はかゆきて、手際よきものなり。」

 適材適所の利を説明したもので、マネージメント論として受け止めれば、全ての管理職のノウハウとなり得る。企業の営業活動という視点で考えると、現在の営業は商品の多様化・サービスの複雑化により、一人で事を運ぶことは不可能である。組織の人的資源を把握し、人材を活用することも、企業としての重要な戦略と言えよう。

「大きなる所は見えやすし、小さき所は見えがたし。」

 大軍団と小軍団について述べたものであるが、これは営業として顧客にしようとしているターゲット企業の規模として捉えることができる。すなわち、大企業は方針転換に時間がかかると同時に末端組織の動きが見えにくいため末端組織まで攻め入らねばならず、小規模企業はトップを攻めることで全社を攻略する。

「他の事をよく知らずしては、自らのわきまえ成りがたし。」

 ここで言う「他の事」は、単に当面の敵としての競合相手のことではなく、ターゲット企業のことでもある。情報収集と分析・活用の重要性である。

「二刀と言い出す所…(中略)…一命を捨つる時は、道具を残さず役にたてたきもの也。」

 二刀流の起源について触れた一文である。武蔵は、勝負に際しては所有する道具の全てを使いきらないと悔いが残る、と記している。ビジネスにおいても、ツールとして使えるものは全て(上司、同僚社員などの人的資源も含めて)使いきるべきであろう。

「戦道具の利をわきまえるに、いづれの道具にても、をりにふれ、時にしたがひ、出合うもの也。」

 前項に続いてのツール論だが、いかなる道具にも使うべき時・所があるということである。使うべき機会に使ってこそ最高のパフォーマンスを発揮するのは、戦道具だけではなくビジネスツールも同じである。

二、水之巻

「兵法の道において、心の持ちやうは、常の心に替わる事なかれ。」

 いわゆる平常心である。ここでは二つの教えを汲み取りたい。一つは、私事など仕事以外のことで何か心が動揺するようなことがあっても、ことビジネスにおいては平常心を保つよう務めるべきである、という点。もう一つは、やれチャンスだと言って必要以上に勇んだり、失敗しそうだと言ってあわてたりせず、冷静に判断し対処することが重要である、という点である。そうすることによって、チャンスは確実にモノにし、ピンチをチャンスに変える事ができる。

「総じて兵法の身において、常の身を兵法の身とし、兵法の身をつねの身とする事肝要也。」

 前項につづいて平常心についての解説だが、ここでは逆に、仕事を離れた場合の心得として捉えたい。つまり、武士が片時も兵法を忘れないように、ビジネスマンは常に仕事のことを考えられる姿勢でなくてはならない、ということである。ただ、バカ正直に仕事のことをずっと考えているのではなく、例え休日であろうが深夜であろうが、事があれば対応できる心構えが重要なのである。

「観見二つの事、観の目つよく、見の目よわく、遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事、兵法の専也。」

 いわゆる「マクロの目」と「ミクロの目」についての解説である。マクロで捉えて、ミクロで考える。

「敵のきる太刀を受くる、はる、あたる、ねばる、さはるなどといふ事あれども、みな敵をきる縁なりと心得べし。」

 相手の刀を受けるという行為も、全ては相手を斬るためのものだという。受けること自体を目的と思っていると、たとえうまく受けても相手を斬れるものではない。大きなプロジェクトを進めているときなど、一つの工程で良い成果物を作ることが目的のように勘違いしてしまうこともありがちである。プロジェクトそのものの成功が目的なのを忘れてはならない。

「けふはきのふの我にかち、あすは下手にかち、後は上手に勝つとおもひ、…(中略)…千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす。」

 常に一歩前進したいという意欲、そしてそのための努力を継続する意思、この二つがあってはじめて精進となる。

三、火之巻

「三つの先、一つは我方より敵へかかるせん、けんの先といふ也。亦一つは敵より我方へかかる時の先、是はたいの先といふ也。又一つは我もかかり、敵もかかりあふ時の先、対対の先といふ。」

 先手を取るための方法論を説いている。待って取る先手もあるのだが、いずれの場合にもそれまでの攻めが効いていることが条件となる。いざというときに先手を取るためには、日頃のコンタクトの仕方・攻め方、つまりいかに周囲の状況に気を配り情報を収集しているかがポイントとなる。

「敵のうつといふ「うつ」の「う」の字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、これ枕をおさゆる心也。」

 競争相手に対しては、情報収集、提案など、常に先んじる。落とそうとしているターゲットに対しては、相手の考えていることを読み、先手を打って行動を起こす。上司などに対しても、例えば「何か言ってきそうだな」と思ったら前もって準備することで、優位に立つことができる。いずれの場合にも、普段から相手の次の動きを知り得るだけの情報を入手することが重要であり、先手を取ろうという気持ちを持ち続けていることで自然と情報は集まるものである。

「人の世を渡るにも、一大事にかけて渡をこすと思ふ心有るべし。」

 物事の一連の流れの中で、勝負どころ、キーポイントは必ずある。今がその時と思えば、全力で当たるべきである。勝負どころでほぼ全力を出し切ってしまったとしても、そこを越せばあとは楽になり、勝利への道は開ける。

「敵のながれをわきまへ、相手の人柄を見うけ、人のつよきよわき所を見つけ、敵の気色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりを知り、その間の拍子をよくしりて、先をしかくる所肝要也。」

 敵のながれとは、相対する敵の流派のことである。たとえばコンペなら、相手企業のグループや企業閥などの情報を頭に入れ、案件の背後関係を調べつくすことで、勝ちに近づくのである。

「敵になりて思ふべし。」

 言うまでもなく、相手の立場に立って考えることは重要である。ここでいう相手とは、ビジネス上の敵・味方の両方と考えたい。

「何とも敵の位の見わけざる時は、我方よりつよくしかくるやうに見せて、敵の手だてを見るもの也。」

 相手から情報を引き出すテクニックとして考えたい。話が膠着したような場合、場の雰囲気を察した上で様々な手を使い、相手の意表をついて本音を語らせる。あるいは、意表をつかれた瞬間に相手が見せた本音の表情を読み取るのである。

「うつらかすといふは、物毎にあるもの也。」

 お互いの気分が伝染するということを解説してある。相手が「まだ先の話だから」とのんびり構えていると、こちらもあわてずに構えて機を失することもある。逆にこちらが「早急に進めるべきである」と切羽詰った様子を見せると、相手にも急ぐ気持ちが伝染し、早期決着にこぎつけることができる。何より、相手のペースで進めてしまってはいけない。

「一度にてもちひずば、今一つもせきかけて、其利に及ばず。」

 一度試してうまくいかなかった方法は、再度チャレンジしても通用しない可能性が高い。常に状況を把握し、新たな手を打つことが必要である。ビジネス活動の中で、だめだと思いながら同じことを繰り返す膠着状態に陥ることも少なくない。この言葉を思い出して、客観的な見地から状況を捉え、頭を切り替えたいものである。

四、風之巻

 この巻は他流派との比較検討論(と言うより他流派の批判)である。この巻では書かれた内容そのものよりも、むしろ比較検討資料を作成しているという事実に学ぶべき点がある。しかも、当然ながら結果的に自流派の宣伝になっているのである。武蔵がこの巻で一貫して用いている目立つ手法は以下の2つである。

?自流派に有利な視点からだけ取り上げている。

?他流派を取り上げる際に、固有名詞はいっさい出していない。このことによって、他派の反論を巧みにかわすことができると同時に、この資料を用いてプレゼンを行った場合の質疑応答にも柔軟に対応できる。このノウハウは、我々が取り扱う商品・サービスに当てはめてみても充分に役立つ。

抜粋は、二文のみとした。

「人に先をしかけられたる時と、我人にしかくる時は、一倍もかはる心也。」

 構えの重要性を説く流派を批判して、先手を取ることの重要性を述べたものである。相手から依頼を受けて始めるのと、こちらから提案して動くのとでは成功の可能性も生産性も大きく違ってくる。もちろん、先手を取るためには、それまでの日常の業務の中でいかに「攻めて」いるか(周囲のニーズを捉える動きをしているか)がポイントである。

「兵法のはやきといふ所、まことの道にあらず。はやきといふ事は、物毎に拍子の間にあはざるによって、はやきおそきといふ心也。」

 剣使いの速さだけを求める流派を批判したものである。仕事の各ステージのタイミングの取り方に対する教えと考えることができよう。先方(敵も見方も含めて)の考えていることを知り、早くも遅くもなく、時に応じて相手の望む対応をしなくてはならない。

五、空之巻

 既述の通り、この巻は、精神論に終始した内容であり、500字余りの短い巻である。抜粋は、下記の一文だけとした。

「おのれおのれはたしかなる道と思ひ、よき事と思へども、心の直道よりして、世の大かねにはせて見る時は、其の身其の身の心のひいき、其の目其の目のひづみによって、まことの道にはそむく物也。」

 正しい道を求める姿勢を忘れてはいけない。勝つためとは言え何をしても良いという訳ではなく、道に外れていないか、常に考慮すべきである。ビジネスにおいても、仕事がうまくいけばそれで良いというものではなく、常に、目先にある仕事がどのような社会的使命を担っているのか、考えていなければならない。

 以上、五輪書に書き記された言葉を範として現代ビジネスマンの行動について考えてきたが、最も重要なのは、何事からも学ぼうとする姿勢と成長し続けようとする意欲、そしてそれを継続する意思ではないだろうか。

 あれだけ「勝つこと」にこだわりつづけた宮本武蔵が最後に求めたのが「道」であるように、ビジネスマンたるものビジネスマンとしての道を追求する姿勢を忘れず、会社・社会へ貢献していきたいという気持ちを持ち続けるべきである。

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