mixiで趣味の話をしよう

mixiコミュニティには270万を超える趣味コミュニティがあるよ
ログインもしくは登録をして同じ趣味の人と出会おう♪

ホーム > コミュニティ > 本、マンガ > ちいちゃんのかげおくり

ちいちゃんのかげおくり

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コミュ内全体

詳細 2015年11月9日 19:57更新

今は「ちいちゃんのかげおくり」で検索すればいろいろなサイトで閲覧することができますが、お暇ならば今ここで読んでみてください。




「ちいちゃんのかげおくり」

あまん きみこ 作 

「かげおくり」って遊びをちいちゃんに教えてくれたのは、お父さんでした。


 出征する前の日、お父さんは、ちいちゃん、お兄ちゃん、お母さんを連れて、先祖の墓参りに行きました。


その帰り道、青い空を見上げたお父さんが、つぶやきました。


「かげおくりのよく出来そうな空だなぁ。」


「えっ、かげおくり。」
とおにいちゃんが聞き返しました。


「かげおくりって、なあに。」
と、ちいちゃんも尋ねました。


「十(とお)、数える間、影法師をジッと見つめるのさ。 十、と言ったら、空を見上げる。すると、影法師がそっくり空に映って見える。」
と、お父さんが説明しました。



「父さんや母さんが子供のときに、よく遊んだものさ。」



「ね。今、みんなでやってみましょうよ。」
と、お母さんが横から言いました。


ちいちゃんとお兄ちゃんを中にして、四人は手を繋ぎました。そして、みんなで、影法師に目を落としました。



「まばたきしちゃ、だめよ。」
と、お母さんが注意しました。



「まばたきしないよ。」
ちいちゃんとお兄ちゃんが、約束しました。



「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ。」
と、お父さんが数え出しました。



「ようっつ、いつうつ、むうっつ。」
と、お母さんの声も重なりました。


「ななあつ、やあっつ、ここのつう。」
ちいちゃんとお兄ちゃんも、一緒に数え出しました。


「とお。」
 目の動きと一緒に、白い四つの影法師が、すうっと空に上がりました。



「すごうい。」
と、お兄ちゃんが言いました。



「すごうい。」
と、ちいちゃんも言いました。




「今日の記念写真だなあ。」
と、お父さんが言いました。



「大きな記念写真だこと。」
と、お母さんが言いました。






 次の日、お父さんは、白いたすきを肩から斜めに掛け、日の丸の旗に送られて、列車に乗りました。





「体の弱いお父さんまで、いくさにいかなければならないなんて。」
お母さんがぽつんと言ったのが、ちいちゃんの耳には聞こえました。





ちいちゃんとお兄ちゃんは、かげおくりをして遊ぶようになりました。ばんざいをしたかげおくり、片手を上げたかげおくり。足を開いたかげおくり。色々な影を空に送りました。




けれど、いくさが激しくなって、かげおくりなど出来なくなりました。
この町にも、焼夷弾や爆弾を積んだ飛行機が飛んでくるようになりました。そうです。広い空は、楽しい所ではなく、とても怖い所に変わりました。





 夏の初めのある夜、空襲警報のサイレンで、ちいちゃんたちは目が覚めました。


「さあ、いそいで。」
お母さんの声。



外に出ると、もう、赤い火が、あちこちに上がっていました。




お母さんは、ちいちゃんとお兄ちゃんを両手に繋いで、走りました。



風の強い日でした。



「こっちに火が回るぞ。」



「川の方に逃げるんだ。」
誰かが叫んでいます。




 風が熱くなってきました。炎の渦が追いかけてきます。お母さんは、ちいちゃんを抱き上げて走りました。


 「お兄ちゃん、はぐれちゃだめよ。」


 お兄ちゃんが転びました。足から血が出ています。ひどい怪我です。お母さんは、お兄ちゃんをおんぶしました。


 「さあ、ちいちゃん、母さんとしっかり走るのよ。」
 けれど、たくさんの人に追い抜かれたり、ぶつかったり―――――  ちいちゃんは、お母さんとはぐれました。




 「お母ちゃん、お母ちゃん。」
ちいちゃんは叫びました。



 その時、知らないおじいさんが言いました。
 「お母ちゃんは、後から来るよ。」 
 そのおじいさんは、ちいちゃんを抱いて走ってくれました。
 暗い橋の下に、たくさんの人が集まっていました。ちいちゃんの目に、お母さんらしい人が見えました。



 「お母ちゃん。」
と、ちいちゃんが叫ぶと、おじいさんは、
 「見つかったかい、良かった、良かった。」と下ろしてくれました。
 でも、その人は、お母さんではありませんでした。




 ちいちゃんは、独りぼっちになりました。ちいちゃんは、たくさんの人たちの中で眠りました。



 朝になりました。町の様子は、すっかり変わっています。あちこち、煙が残っています。どこが家なのか―――――。
 「ちいちゃんじゃないの。」
と言う声。


振り向くと、はす向かいのうちのおばさんが立っています。
「お母ちゃんは。お兄ちゃんは。」
と、おばさんが尋ねました。ちいちゃんは、泣くのをやっとこらえて言いました。
 


「おうちのとこ。」


「そう、おうちに戻っているのね。おばちゃん、今から帰るところよ。一緒に行きましょうか。」




おばさんは、ちいちゃんの手を繋いでくれました。二人は歩き出しました。
家は、焼け落ちてなくなっていました。
「ここがお兄ちゃんとあたしの部屋。」
ちいちゃんがしゃがんでいると、おばさんがやって来て言いました。
「お母さんたち、ここに帰ってくるの。」



ちいちゃんは、深くうなずきました。
 「じゃあ、大丈夫ね。あのね、おばちゃんは、今から、おばちゃんのお父さんの家に行くからね。」
 ちいちゃんは、また深くうなずきました。




その夜、ちいちゃんは、雑嚢の中にいれてあるほしいいを、少し食べました。そして、壊れかかった暗い防空壕の中で、眠りました。
「お母ちゃんとお兄ちゃんは、きっと帰ってくるよ。」



曇った朝が来て、昼が過ぎ、また、暗い夜が来ました。ちいちゃんは、雑嚢の中のほしいいを、また少しかじりました。そして、壊れかかった防空壕の中で眠りました。










 明るい光が顔に当たって、目が覚めました。
 「まぶしいな。」
 ちいちゃんは、暑いような寒いような気がしました。ひどく喉が渇いています。いつの間にか、太陽は、高く上がっていました。
 その時、
 「かげおくりのよく出来そうな空だなあ。」
と言うお父さんの声が、青い空から降ってきました。
 「ね。今、みんなでやって見ましょうよ。」
と言うお母さんの声も、青い空から降ってきました。
 ちいちゃんは、ふらふらする足を踏みしめて立ち上がると、たった一つの影法師を見つめながら、数え出しました。
 「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ。」
いつの間にか、お父さんの低い声が、重なって聞こえ出しました。
 「ようっつ、いつうつ、むうっつ。」
お母さんの高い声も、それに重なって聞こえ出しました。
 「ななあつ、やあっつ、ここのつう。」
お兄ちゃんの笑いそうな声も、重なってきました。
 「とお。」
ちいちゃんが空を見上げると、青い空に、くっきりと白い影が四つ。
 「お父ちゃん。」
ちいちゃんは呼びました。
 「お母ちゃん、お兄ちゃん。」
 その時、体がすうっと透き通って、空に吸い込まれて行くのが分かりました。
 一面の空の色。ちいちゃんは、空色の花畑の中に立っていました。見回しても、見回しても、花畑。
 「きっと、ここ、空の上よ。」
と、ちいちゃんは思いました。
 「ああ、あたし、お腹が空いて軽くなったから、浮いたのね。」
 その時、向こうから、お父さんとお母さんとお兄ちゃんが、笑いながら歩いてくるのが見えました。
 「なあんだ。みんな、こんな所にいたから、来なかったのね。」
ちいちゃんは、きらきら笑い出しました。笑いながら、花畑の中を走り出しました。
 夏の初めのある朝、こうして、小さな女の子の命が、空に消えました。

 それから何十年。町には、前よりも一杯家が建っています。ちいちゃんが一人でかげおくりをした所は、小さな公園になっています。
















終わり

コミュニティにつぶやきを投稿

最近の投稿がありません泣き顔
つぶやき・トピック・イベント・アンケートを作成して参加者と交流しようわーい(嬉しい顔)
参加メンバー 66人

もっと見る

開設日
2009年1月2日

3069日間運営

カテゴリ
本、マンガ
関連ワード
関連ワードを登録しよう

編集から関連ワードを登録すると、コミュニティがmixiワードに表示されるようになります!