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時が来たら『ダチュラ』と叫ぶ!

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詳細 2016年2月27日 13:01更新

村上龍
『コインロッカーベイビーズ』より


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 ::キクがあまりに熱心なので店員が声をかけた。いったいどんな言葉を捜してるんですか?「ダチュラ」キクは答えた。どこの国の言葉なのかはわからないんだよ。店員は自分の体の半分ほどもある英和辞典を棚から降ろし、重そうにDの項目を開いた。しばらく頁をめくって指で字を追い、あれ、これなのかなあ、と声を上げた。でも発音は、ダツラとなってますね、DATURA、ダチュラとも言うのかな、朝鮮アサガオのことらしいですね、ナスの一種だと書いてあります。キクはがっかりした。片っ端から人を殺し物を壊し続けたくなる時のおまじないが、ナスの一種か。店員がポケットから眼鏡を取り出した。ちょっと待ってください、小さな字で何か書いてあります、目が悪いものでね、あ、毒物って説明がありますね。「毒物だって?」キクは顔を上げた。

 「朝鮮アサガオの総称、別名キチガイナスビとも言われる、アルカロイドを全体に含み、幻聴、幻覚、気分変化、妄想、見当識喪失を引き起こす猛毒の植物である、特に中南米でボラチェロと呼称されて栽培されるものはトロパン系アルカロイドのアトロピン、スコポラミンの重要な医療資源とされている」
 「なんだかよく分からないな」毒物かあ、と呟いた店員は、緑色の表紙の薄い本を箱から出した。背表紙には、精神発現薬総覧、と書かれている。索引で「ダチュラ」を捜す。あったぞ! と店員は叫んだ。

 カバニアジド、米国で開発された新種の抗うつ剤、一九八四年、急増したうつ病患者の多くはイプロニアジドに代表される気分高揚剤に飽き足らず、もっと強力な興奮剤を求めた。そこで、三環系抗うつ剤、MAO阻害剤に継ぐ第三の精神高揚剤が密かに研究された、そして誕生したのが、ガバニアジドである、開発に成功したのは多国籍薬品企業のグリアだが、グリアは成分を一切明らかにしなかった。ガバニアジドは内臓障害も依存性もない強力な精神高揚剤として市場に出まわるや爆発的な売れ行きを示した、皮肉な副作用が発見されたのは半年後である、多量を服用すると自制力が薄れ凶暴性を帯びることを英国の精神医学界が指摘し企業グリアに対して、ガバニアジドの成分を発表しろと迫った、グリアは企業秘密をたてにこの申し入れに応じなかったが、本国アメリカで三件の殺人事件が発生するに及んで上院で公聴会が開かれた、三件の殺人は何れもガバニアジドの多量服用が原因による見当識喪失状態でなされたものであった、公聴会で英国の精神医ゴールドマン博士がある疑いについてグリアを追求した、博士の主張は、ガバニアジドの主成分が神経兵器「ダチュラ」であるというものだ、「ダチュラ」を希釈して使用しているという疑いはガバニアジド発売当時からあったが、ゴールドマン博士は神経兵器「ダチュラ」を希釈服用させたラットとガバニアジドを多量に注射した ラットの行動類似例を七十八件紹介し、グリアを追求した。ラットは稀に見る凶暴性を帯仲間に襲いかかった、グリアは「ダチュラ」使用を認めガバニアジドは直ちに市場から回収された、なおこの事件で「ダチュラ」を不法に民間に流したとして、米海軍の生物兵器関連部隊長が逮捕されたと言われている。

 「ダチュラ」って兵器らしいですね、店員は本を閉じた。

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片っ端から人を殺し物を壊し続けたくなる時のおまじない「ダチュラ」を使いたくなる人いますか?

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