護国団・小島玄之の民族派運動論

戦後において、神社本庁のイデオローグである葦津珍彦の日本＝天皇中心主義の論理的な説明に対して成されたように、護国団の小島玄之の国家社会主義論もまた、正当に再評価される価値があるだろう。

（1）「護国団新綱領・運動方針」（1956年3月1日）
血盟団の元盟主である井上日召によって結成され、佐郷屋嘉昭によって継承された護国団の新綱領の中に、まず、小島玄之の思想が伺える。

小島は、その中で護国団の旧綱領を、「アナクロニズム」「現状維持運動」「少数テロ志向」と批判し、自らの立場を、民族主義であると同時に社会的には資本主義制度から社会主義制度への転換運動であると規定し、少数テロの否定と大衆的基盤の上に立脚した思想と運動を志向した。
小島は、以下を行動綱領として挙げている。
一.不平等条約・協定の改正並びに廃棄
ニ.中国を含む亜細亜独立諸国との互恵友好条約の締結
三.独立憲法の制定
四.ポツダム政党に代る新政治力の結集
五.行政機構の簡素化並びに官界の粛正
六.計画経済の確立
七.青少年教育の刷新

（2）「クーデターの必然性と合理性」（1960年1月）
1960年の反安保闘争を見た小島は左翼革命は必至と考え、一文を上梓した。
この文は、その後のクーデター未遂事件で、５・１５の三上卓の名前もあったことから話題にもなった三無事件の思想的柱となったといわれるものである。
小島は腐敗した議会政治の外科手術としてのクーデターの必然性を説き、左翼の階級主義的革命による犠牲に比べて一部指導者の追放のみで済み、犠牲の少ないクーデターの合理性を主張した。
ここでは次のような民族主義的理論に基づく革命綱領が掲げられている。
一.失業、住宅問題の解消
国土の開発をはじめとする計画的諸開発、産業振をはかり、失業者と遊休労力を吸収して完全雇用態勢を実現する。
ニ.対外的平和政策
米国との友好方針を変更することなく、他方共産主義諸国とくに中国との友好関係の締結に積極的にのりだし、後進諸国の開発には、国内新政策の実行により生み出される生産の増加力を投入し、協力する。

3)「右翼運動の基本政策」（1964年）
小島が掲げる基本政策は次のようなものである。
一.占領憲法を破棄し独立・平和憲法を制定する。
ニ.日本古来の領土の返還を要求し、安保・行政協定を廃棄する。
三.平等互恵を原則とする対米親善関係を確立し、各国と友好関係を締結する。
四.廃棄する憲法に基き選出された議員による国会は、独立憲法制定までの暫定的立法機関とする。
五.戦争指導と占領政策に迎合した政治責任を明らかにするため国民審査制を実施する。
六.金融機関ならびに重要産業を国有化し公営とする。
七.年収百万円以下の農耕地、商店、ならびに生活に必要な住宅の個人所有を覗き、一切の土地、地下資源、建物を国有とする。
八.内閣制度を根本的に編成換えし、官公諸機構を整理統合する。
九.全産業に企業別経営管理委員会を設け、産業・地域別の上級委員会を構成し、関連企業との連繁、運営、指導をはかる。
十.全労働者は、その職場の労働組合に加盟し、各産業別労働組合を編成する。
十一.１８歳より２２歳までの健康な国民は、開発自衛隊に服役の義務を有し、国土の開発と自衛訓練に励み労働組合と共に国民組織の主柱たるの任を全うする。
十ニ.保育、教育、保健、医療、養老、娯楽等の諸機関、施設を統合し、全国民に、公正にして平等の機会を保証する。
十三.総合計画に基づき、新産業都市を開発建設し、大都市の計画的分散をはかり、道路、住宅を完備する。
十四.健康にして労働の義務に服さない者、第六、第七の国有化に応じない者等を、一定期間労働矯正所に収容し、国民的奉仕と労働の訓練に服せしめる。
十五.恩赦を実施し、新刑法の基本を明らかにする。

小島は、右翼運動の主体的な展開として大衆的支持を得られるような現実的な政治的目標の提示の必要性を主張し、さらに、政治的目標を達成するための具体的プランの必要性を主張した。

伝統派や反共派の右翼には、理解しがたいところもあるかもしれないが、右翼としては珍しいくらいはっきりした運動論をもち、大衆運動としての右翼運動を構築しようとした小島玄之は、右翼のみならず左翼をも含む変革の思想史上において正当に評価されてしかるべきだと考える。

右翼民族派と新左翼
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