Otis Redding - I Love You More Than Words Can Say (1968) 「6/8拍子」で奏でるR&Bに最も力強い「魂」(ソウル)を込めたのはオーティス・レディングだったかも知れない。謙虚に訴えかける彼の歌唱に誰もが一瞬手を止める。この曲を録音して僅か数日後、レディングは自家用ジェットの不慮の事故で他界してしまった.. https://www.youtube.com/watch?v=ZlqQGkmL5ho
Doobie Brothers - Jesus Is Just Alright(1972)
「草吸ってみんなでモクモク!」というイケない意味だけど、イケてるUSウエストコースト・ロックの雄ドゥービー・ブラザーズ!クランチと呼ばれる枯れた歪みのギター・サウンドで有名な「♪China Grove」や「♪Long Train Runnin'」、或いは、ジェフ・バクスター(g)の誘いでスティーリー・ダンから移籍して来たマイケル・マクドナルド(Key)が放ったお茶目なチューン「♪It keeps you runnin'」(https://www.youtube.com/watch?v=_BsTF22SPyM)や「♪What a fool believes」等ヒット曲も多数!恐らくザ・バンド(ボブ・ディランのバックバンド)やCSN&Yの次に上手くて気持ちよくて肩の力の抜けているUSロック・グループは、このドゥービー、そして、イーグルスという位置付けだろう。この曲の基本は「4/4」なのですが、「おいらの友達ゃジーザス!」と歌う1分55秒付近からの大変美しい「6/8」で掲載!
http://www.youtube.com/watch?v=JEvy8mROAj0
James Taylor - Sweet Baby James
1970年代初頭、敢えて社会的メッセージ性は無くとも、個人の日常的光景や優れた内面の描写が表現たり得ることを知らしめ、今では当たり前のシンガー・ソングライターというジャンルを開拓したジェームス・テイラー。デビュー2作目の『Sweet Baby James』(1970)で名曲「♪Fire And Rain」と共にヒットとなった語りの美しいアコースティックな「6/8」!
https://www.youtube.com/watch?v=v2EZUw2mvjs
Norah Jones - Back to Manhattan(2009)
父はインドの国宝級シタール奏者ラヴィ・シャンカル(ジョージ・ハリスンの師匠)、母はアメリカ人。NY生まれのテキサス州ダラス育ち。ブルーノートから"大型新人"の触れ込みでデビュー間もなくいきなりグラミー・ウィナーとなったノラ・ジョーンズ。ピアニストとしてもシンガーとしてもいそうでいない素敵なキャラクターの逸材だ。最近は映画で主役を張るほどの人気ぶり。ジャズとカントリーの間を漂うジャンルレスなアコースティック・サウンドを好む彼女。系譜的には囁くレイ・チャールズのR&B+カントリーにジェームス・テイラーやキャロル・キングの精神というような位置付けではないだろうか?.. 肩に力を入れず緩めに音楽性の振れ幅を試して来た彼女がギター多めのアルバム『フォール』(2009)で小宇宙を披露した癒しの「6/8」!
https://www.youtube.com/watch?v=JXGy8-JQzpo&feature=bf_next&list=AVGxdCwVVULXfQWFuhoKjKxdml5TQr04gB&lf=list_related
Elvis Costello With Burt Bacharach - God Give Me Strength(1998)
世の中には”大人のバラード”というものもある。60年代から数々の小粋なヒットナンバーを放ち、Dワーウィック、Dスプリングフィールド、カーペンターズ、トム・ジョーンズ他への楽曲提供 〜 映画『007』や『明日に向かって撃て』サウンド・トラックまで、米歌謡界の作曲家 兼 プロデューサーの重鎮バート・バカラック。そして、「♪She」などでもお馴染みのUKエモーショナル・シンガー・ソングライター エルヴィス・コステロ。チェット・ベイカーに「♪Almost Blue」という素晴らしいジャズ・ナンバーも提供しているコステロが、親子程の歳の差を超えて往年のヒーロー バカラックとの共同作業で生んだ珠玉のバラード集『Painted From Memory』 (1998)。収録された全12曲は、ライトなJazzフレーバーの中に相反する叙情性を潜ませるバカラックならではのマジカルな響き、そして、その最大の理解者であるコステロによる大人のストーリーがちりばめられた90年代きっての才能同士のスパークだった!そんな誰もが心に秘めた痛みや悲しみを代弁するかのように掬い上げた「6/8」!
https://www.youtube.com/watch?v=L-izWhye6_w
Fairground Attraction - Moon On The Rain (1988)
ロンドンのストリート・ミュージシャン出身の一発屋フェアーグラウンド・アトラクション。とは言え、今でも根強い人気を持つシンガー エディ・リーダー。エリオット・アーウィットの有名な写真を配した最初で最後のアルバム『ファースト・キッス』は、今でも独特の哀愁を秘めた名作だ。「移動遊園地」というバンド名の通り、そこには、ストリートで普段着なメランコリックなアンプラグド・チューンが肩を寄せ合って佇んでいる。因に1曲目の「♪A Smile in a Whisper」や切ない「♪Allelujah」も6/8(ワルツ)だが、より叙情的に失恋の一場面を唄ったこの曲「♪Moon On The Rain」は珠玉の「12/8」(6/8)だ!
https://www.youtube.com/watch?v=YgkhcZ4ifT4
Gavin Bryars - Jesus' Blood Never Failed Me Yet(1993)
英国発ミニマル・ミュージックの雄ギャビン・ブライアーズ。1975年に路地で出会ったホームレスの歌"Jesus' blood never failed me yet, never failed me yet, Jesus' blood never failed me yet, never failed me yet, this one thing I know, for he loves me so. "。僅か25秒のこのリフレイン(繰り返)をオーケストラによる異なる位相の背景に響かせ怒濤と恍惚の75分に刻印し直した本作、後半には鬼才トム・ウェイツの歌唱が重ねられている。マルセル・デュシャンを信奉するブライアーズ。彼が手掛けた「レディ・メイド」のミニマル音楽の中でも際立って叙情的な本作は、制作過程でスタジオ中のスタッフたちにも涙をもたらしたという。壮大なる「6/8」。「イエスの血は決して私を見捨てないだろう。たった一つのことを私は知っている。彼は私を愛していると..」
https://www.youtube.com/watch?v=2CiukuHhJ4A
Brian Eno - Going Unconscious(2005)
ポピュラー音楽界のジョン・ケージ(現代音楽家)として『環境音楽』(アンビエント)の生みの親となった奇才ブライアン・イーノ。コールド・プレイやU2、古くは、デビット・ボウイ、トーキング・ヘッズ、ヒューマン・リーグ、ディーヴォなど、泣く子も黙るUK音楽界の名プロデューサーとしても活躍!自身の作品では、ロバート・フリップ、ハロルド・バッド、クラスター、デビット・バーン等様々なアーティストとコラボ。親日家のイーノは、気まぐれで脚本 夢枕獏のTVドラマ『陰陽師』の音楽等も担当しているのだが、この時の相棒だった独ドラマー J.ピーター・シュワルムとのアルバム『Drawn From Life』(2001)も名盤だ。これに次いで発表されたのが今回の曲を含む『Another Day On Earth』(2005)。28年振りのフル・ヴォーカル・アルバム。イーノのヴォーカル・アルバムとしては、こちらもアンビエントとポップの配分がイーブンな名盤だ!そんなイーノならではの無意識に宇宙との交信な「6/8」!
https://www.youtube.com/watch?v=WqS1eQUPAWA
Tom Waits - In the Neighborhood(1983)
鳴かず飛ばずの不遇なアルバム『クロージング・タイム』(閉店)でスタートしてしまった奇才トム・ウェイツ。ポスト・ビートの酔いどれ詩人として、歌手でありソング・ライターでありながらも、それ以前に圧倒的なボキャブラリーの人としてハウリン・ボイスをユーモアに捧げて来たウェイツ。「ビートルズは家出娘に同情的だったけど、本物の家出娘の難しさならオレの方が良く知ってる」と一緒に暮らした元彼女リッキー・リー・ジョーンズのことを述懐してみせたり、どこでも無いド真ん中の荒野で風に吹かれて自分のデビューアルバムが転がって来たことを「歓迎したね!」と言い放つビッグマウスぶり!その才能は、今ではジム・ジャームッシュ監督やテリー・ギリアム監督他の映画で役者としても花開いている。成功への起点となったアルバムが、この『ソード・フィッシュ・トロンボーン』(1983)だった。祝い事と葬式が隣合わせのどうにもならない居場所であるこの世を「親愛なる日常」として高らかに歌い上げるウェイツの立ち位置の特殊性は、声、歌、キャラクター、詩などを通り越して、いつしか「ハート」として我々の心に届く仕組みになっている。「♪In the Neighborhood」を翻訳するなら「オイラのともだちゃ..」といった風情だろう。そんな酔いどれ詩人のマーチング・ワルツの「6/8」(3/4)だ!
https://www.youtube.com/watch?v=wBl9-JFEefs&feature=fvwrel
Jeff Beck - Goodbye Pork Pie Hat(1976)
UK3大ギタリストの指弾きの天才ジェフ・ベック。ザ・ビートルズのジョージ・マーティンをプロデューサーに迎えた彼のフュージョン期(クロスオーバー期)の傑作『ワイアード』(1976)。ベックのギターとヤン・ハマー(Key)のシンセサイザーのどっちがどっちか分からなくなるソロ・バトルで始まる「♪Led Boots」。火花を散らす演奏にフランジャーを被せたシンバルと壮絶なルーディメントでリズムを支えたのは後にマライア・キャリーを見出したナラダ・マイケル・ウォルデン(d)だった。本作で最もブルージーな演奏が聴かれる3曲目チャールズ・ミンガス作「♪Goodbye Pork Pie Hat」。Jazz テナー・サックスの名手レスター・ヤングを偲びヤングが好んだ帽子をタイトルとした本作は、ジョニ・ミッチェルとジャコ・パストリアス他、現在まで多くのアーティストがカバーしている名曲だ。ブリティッシュ・インヴェイジョンとまで呼ばれた1960年代のUKミュージシャンたちは米R&Bへ熱狂的に傾倒していた。Eクラプトン、Jペイジ等とその竜巻の目のド真ん中からキャリアをスタートしたジェフ・ベック。この曲を「6/8」のアレンジで演奏したことには、きっと「R&Bブルース」=「6/8」という解釈があったに違いない。
https://www.youtube.com/watch?v=ImxM4Rj5pOQ
Peter Gabriel & Kate Bush -Don't Give Up(1986)
プログレ・バンド ジュネシスでフィル・コリンズをバックに従え妙な格好でボーカルを取っていた奇才ピーター・ゲイブリエル。80年代後半にはワールド・ミュージックの自社レーベルを立ち上げ世界の民族音楽をライブラリー化し、ローカルをグローバルの文脈に加える形で政治性を振るった実業家でもあった彼が、ソロになって放ったメガ・ヒット・アルバム『So』(1986)。とんねるずの『食わず嫌い王』で”実食”の時に流れる尺八はこのアルバムのサンプリング音だ。「♪Don't Give Up」は中でも最も静かにメッセージを込めて唄われた曲。共演は、ピーターと同じくステージでダンスやマイムも披露する演劇派の元祖不思議ちゃんボーカル ケイト・ブッシュ。彼女のヒット曲は長らくさんまの『恋のから騒ぎ』のオープニング・テーマでもあった。そんなケイトは、リンゼイ・ケンプに弟子入りした経験を持ち、しかも、デビューをプッシュしたのはピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアだったというから意外だ。改めてケイト単独のPVを見ると矢野顕子と共通性を感じるのは私だけだろうか?.. 話は逸れてしまったが、70'sのパロディやキッチュを通り越し、ある種、ヒステリックに振る舞ったかのようにも見える80年代の音楽シーンがカブいた末に見出した静寂が凝縮している一曲と言えるかも知れないワールド・エスニックな「6/8」だ。
https://www.youtube.com/watch?v=uiCRZLr9oRw&feature=related
Björk-Virus(2011)
ビョーク7枚目のフル・アルバム『Biophilia』。収録の10トラックにそれぞれのiPadアプリが付随するマルチメディア・プロジェクト。今までもエッジに突進して来たビョークだが、本アルバムは現在進行系で世界最先端のプレゼンテーションの音楽体験と言える。4歳から作曲活動をスタートし、アイスランドで大人気の子役として早くから芸能活動も開始。11歳でビートルズの「♪Fool on the hill」等を含む民謡調のカバー・アルバムで歌手デビュー。十代半ばにはバンドを幾つか掛け持ちし、折からのパンク・ブームの中でシュールレアリズムやダダと云ったコアなモダン・アートに傾倒。19歳で結婚、初の出産日に旦那のギタリスト他とインディー系ポスト・パンク・サイケデリック・バンド「シュガーキューブス」を結成!同年、グリム童話を題材にした映画『ネズの木』に主演し役者も続けながら、バンドは1988年に米エレクトラ他のレーベルと契約し晴れてデビュー!アルバム『Life's Too Goog』からの初シングル「♪Birthday」は、その年のUKシングル・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、米カレッジ・チャートでも人気を博しいきなり世界進出となった。1992年にバンド解散と離婚の後はソロとなり、早くも「♪Birthday」で聴かれたコブシ歌唱を更にアートに磨きネリー・フーパーのプロデユースで再デビュー!好セールスでスタートを切り、ソロ2作目となる「Post 」(1995)でブレイク!90年代のベストNo.2に選ばれるメガ・ヒットとなった。以降、アルバム毎に時の人によるリミックス・コラボを重ね、全くタイプは異なるもののある種ジョニ・ミッチェル的なアプローチでエッジな音楽的要素を常に楽曲へ注入(※ 後年Jミッチェルのトリビュートにも参加)。その後も、あらゆるサンプリング音とMaxな音像の『Homogenic』(1997)を発表し、途中、ラース・フォントリアーの映画『Dancer in the Dark』に主演&楽曲提供を行いカンヌでパルムドール主演女優賞、音楽はアカデミー歌曲賞、ゴールデングローブ主題歌賞などを総舐めにした。その後も止むこと無き創作力は、ハープとオルゴールを駆使し、地元アイスランドのコイアーと共演した『Vespertine』(2001)を生み、世界中のヒューマン・ビート・ボックスを集結させて人間の声だけで作られた『Medúlla』(2004)に発展、現在のパートナーである現代美術作家マシュー・バーニーとのアート・コラボもスタート。以降は、『Volta』(2007)〜 散発的デジタル配信を経て、本作『Biophilia』(2011)と続いている。『パンク』以降に広まった『オルターナティヴ』を代表するアーティスト ビョーク。思えば、レディーガガ以前のコスプレ的パフォーマンスは彼女が元祖と言えるかも知れない。しかし、ビョークは一言でいえば「誰にも似ていないこの世に未だ無いものを生み出す正真正銘の現代美術作家」なのだ。彼女の作品はアートが常に勝っており表面的装飾とは無縁だ。だから、彼女の生き方を「自由奔放」とか「我がままでお騒がせ」と見る人々は間違っている。「常識や限界というものを持たない=取り除く姿勢」こそがそもそもの「アートの存在理由」なのだ!彼女は現代の音楽シーンにおいて最もジョン・レノンとオノ・ヨーコに近い活動を担う真に価値ある芸術家だ。意外にもビョークの3拍子は少ない。そんなビョークの可愛らしくも貴重な「6/8」!
http://www.youtube.com/watch?v=4tyD5OKLUPM&feature=related
Ray Charles - In the Heat of the Night(1967)
公民権運動の黎明期に当たる1963年、黒人俳優として初のアカデミー主演男優賞&ゴールデングローブ賞のウィナーとなったシドニー・ポワチエ。その彼が主演した映画『夜の大捜査線』(1967)のテーマソングが、このクインシー・ジョーンズの手に寄る「♪In The Heat Of The Night」だった。そして、これを唄ったのはクインシーの兄貴分レイ・チャールズだった。誰も言わないことだが、日本の娯楽 映画『踊る大捜査線』のルーツだ。今回は敢えて「6/8ビート」の間違いを掲載させてもらう。この曲は「4/4」だ。ゆっくりカウントすれば直ぐに分かる。しかし、単純に倍速でカウントしても「8/8」にはならない。むしろフィーリングは「6/8」(12/8)だ。何故か?「4/4」の1拍が全て「3連譜」だからだ。例えばこれにそっくりなビートルズの「♪Oh! Darling」(http://www.youtube.com/watch?v=F2J6XdC9ad0)は「4/4」でカウントするとものすごくBPM(テンポ)が遅くなる。実際、「♪Oh! Darling」は「12/8」(6/8)で記譜される。これをリトル・リチャードの「♪Lucille」(http://www.youtube.com/watch?v=z3-OaNevkfg&feature=related)ように物凄く早く弾くと、今度は思いっきりオールディーズなロックンロールになる。ここで、少し『R&Bピアノの歴史』に触れる。和音をピアノでこのように「♪タタタ、タタタ」と3連刻みにすることを専門的には「ストライド奏法」と呼ぶ。「ストライド」とは、一般的には「大股歩き」のことだが、語源は立ち乗り型ボートで激流下りをする時の「舵の漕ぎ方」らしい。これの大御所はファッツ・ドミノだ。ニューオーリンズから離れたことの無いジャズマンとして有名な彼は、2006年ハリケーン・カトリーナで一時行方不明になりながらも無事生還したことでも記憶に新しい。しかし、ファッツのヒット曲「♪Blueberry Hill」(1940 http://www.youtube.com/watch?v=bQQCPrwKzdo)はどう聴いても『R&B』だ。w この「3連刻みの4/4」は果たしてJazzなのか?R&Bなのか?それともロックンロールなのか?.. もう、お気づきの方もおられると思うので「まとめ」に入ろう。要するにストライド奏法のBPMを可変させるとジャンルが変わる。その歴史的順番は1.『Jazz』、2.『R&B』 、3.『Rock』ということなのだ。19世紀末〜1920年代に『ラグタイム』と呼ばれた音楽形式はスコット・ジョップリンにより『Jazz+クラシック』な音楽として誕生した。これを継承した大作曲家が白人のガーシュインで「♪サマータイム」等がJazzスタンダードとなった。ここから米南部の酒場のピアノで「ストライド」が生まれた。ダンス向けにシンコペーテッド(裏拍的)なアレンジが施され、「♪Pinetop's Boogie Woogie」(1928)で『ブギ=ブギウギ』に変身、「♪ Honky Tonk Train Blues」(1935 https://www.youtube.com/watch?v=ne_U25ryLjc)で『ブギ=ホンキートンク』となり、ファッツの「♪Blueberry Hill」(1940)に辿り着く。その後『R&B』は、1950年代にシカゴ・ブルースを中心にエレキ楽器で電気化し、この流れから50年代半ばになってエルビス・プレスリーとチャック・ベリーがほぼ同時に登場し『Rock&Roll』が誕生した。このJazzでもあり、Rockでもあり、やっぱりR&Bな『ブギ=ブギウギ』は、日本でもウキウキワクワクということで笠置シヅ子の「♪東京ブギー」(1947 https://www.youtube.com/watch?v=6SfpSymF0MI)や「♪買物ブギー」(1950)で有名になった。このジャンル横断的なマルチ・プラットフォームの持つ「6/8フィール」が「3拍子」と「4拍子」の狭間のBPM(テンポ)で奏でられる時、そこに『R&B』即ち『ブルース』が取り戻される。この微妙なBPM(テンポ)で60年代の黒人公民権運動を支持する調べが奏でられていたことは、意識的にも無意識的にも「ジャンルレス」即ち「差別の無い世界」への一つのステートメントではなかったか?レイ・チャールズの歌が今尚『普遍的ブルースの調べ』と響く理由が分かる”6/8フィール”の1曲だ!
http://www.youtube.com/watch?v=z4OZWYYFtnQ
Young Rascals - How Can I Be Sure (1967)
イタリア系アメリカ人のミュージシャンと言えば、フランク・シナトラ、ディーン・マーチン、トニー・ベネット、ポール・アンカ 〜 マドンナまでお洒落なインテリ・ヤクザ系エンターテイナーが相場だと考える人は多いかも知れない。例えば60'sファンクの王様JBは「フランキー(シナトラ)は別格だった!」と回想しているように、イタリア系と黒人コミュニティーは「貧しさ」という共通点において思いの他親しい関係にあったようだ。思えば「ジャズ・エイジと呼ばれた20'sのアルカポネの時代に芸能界の黒人スターが次々に現れ、その一番の理解者としてダンスホールを提供していたのが主にイタリア系だった。エルヴィス・プレスリーの登場以降に勃興した「イギリスの侵略」とまで呼ばれた英国の若者の「R&Bの黒いフィーリングへの傾倒と熱狂」は、実はこのイタリア人と黒人の関係に先取りされていたと言えるかも知れない。Popでファッショナブルな60'sの英国文化が後生大事に小脇に抱えた「米R&Bのレコード」。ビートルズやローリング・ストーンズで「バンド・ブーム」と「アイドル」が誕生し、ジョージー・フェイムや若きスティーヴ・ウィンウッドが堂に入ったR&Bの真似の上手さで競っていた頃、R&Bの名門米アトランティック・レーベルと契約を交わした少し遅れてやって来た風変わりなイタリア系米国人バンドがいた。それがヤング・ラスカルズだった。シャウト無しでもソウルのフィーリングいっぱいの最初のヒット曲「♪Groovin'」(1967 http://www.youtube.com/watch?v=Rkgozdtsh_g)は、黒人たちでさえも「唄っているのは黒人に決まっている!」と疑いすら持たれなかったと言う元祖ブルー・アイド・ソウル。邦題では「♪高鳴る心」とされたご紹介の「♪How can I be sure」はそんな彼等のオリジナリティ溢れる「6/8」だ!お気づきの方もいるかも知れないが、Bメロは明らかにビートルズの「♪I Me Mine」に酷似している。このようにロックン・ソウルだった彼等も、その後はご多分に漏れずLate60'sのサイケデリックの洗礼を受け、ある意味ビーチボーイズにも匹敵する独自のジャンルを確立して行った。折しも、米アトランティック・レーベルは69年頃からブラインド・フェイスやレッドツェッペリン、ELP等を配してロックの最重要レーベルに化けたのだが、その先陣を切ったのは彼らだったとも言えそうだ。英語圏では時に蔑称とも取られる『ブルー・アイド・ソウル』だが、その系譜をおさらいすると、ロイ・ハーパー、ヴァン・モリソン(元ゼム)、スティーヴ・ウィンウッド、ジョー・コッカー、ロッド・スチュワート、スリー・ドッグ・ナイト、トッド・ラングレン、ボズ・スキャグス、ホール&オーツ、ポール・ヤング、ジョージ・マイケル(元ワム)、シンプリイ・レッド、ポール・ウェラー等々。そのルーツが、イタリア系にあったという再発見の「6/8」!
http://www.youtube.com/watch?v=TuKeSUUK-A4&feature=player_embedded
The Beatles - I Me Mine(1970)Beatles - I Me Mine
アルバム「Let It Be」=『ゲット・バック・セッション』でジョージ・ハリソンがポール・マッカートニーを批判的におちょくった1曲「♪ I Me Mine」。映画『Let It Be』では、独善的なオーダーをするポールにジョージが「分かったよ、君が言う通りにギターを弾けばいいんだろう?言われるがままに何でもやりますよ!」と毒づくシーンが有名。その直後にこの曲がかかると.. w アレンジ面では、フィル・スペクターが過剰なオーケストレーションを加え壁のようなデコレーションを施し更に壮大なスケールの揶揄に変身!w ジョージ曰く、この曲の元アイデアはインドの叙事詩『マハーバーラタ』のバガヴァッド・ギーダーの一節だと語っているのだが.. その語感は日本語だと「バカ!Bad!」と更に揶揄っぽい!w 因に、椎名林檎の名曲「♪罪と罰」の音楽は明らかにこの曲のパクリだが、この曲自体がヤング・ラスカルズの「♪How can I be sure」のパクリでもある。因にジョージはソロでのヒットとなった「♪My Sweet Lord」が、実際にパクリ罪でパクられてもいる。w そんなパクリりパクられても名曲殿堂入りする「6/8」! (追記のオマケ:ビートルズ「♪マジカル・ミステリー・ツアー」のエンディング後のインターバルも「6/8」。「6/8」に対するポールのベース・リフの被せ方も素晴らしい!ということで、一応ポールもフォローしておこう。勿論、ジョージ・ハリソンも自宅の庭師にジョージ・ハリソンを雇い映画好きの若者の為のファンドを設立し活動したようなナイスガイだ。w)
https://www.youtube.com/watch?v=01UipbZL3ww
The Beatles - Dig a pony (1969)
ビートルズのアルバム『Let it be』(1970)収録のジョン・レノン作品。実質的に音源は、ビートルズ最後のライヴとなった1969年1月30日のアップル・レコード・ルーフトップのものだ。celebrate、penetrate、radiate、imitate、indicate、syndicate の韻律の言葉遊びは、背後にオノ・ヨーコのこと、ストーンズのこと等が散りばめられている。ジョン・レノンは初期作品からTwist&Showtなど一発録りの天才的ボーカルを残しているが、殆ど作ったばかりの勢いで一語一語にラフながら即興的魂を注ぎ込んでいる本作も素晴らしい!コードのメジャーとマイナーの陰影が優雅な3拍子にダビーなトーンを加え、醒めては熱するブルース・ロック・ナンバーながら、基調に歌詞のミニマリズムの循環が異界を開示する、軽くて重い受難の3/4(6/8)の名曲だ!
https://www.youtube.com/watch?v=KG_E1t-Lr0c
LOUIS ARMSTRONG - What a Wonderful World(1967)
サッチモの愛称で親しまれたルイ・アームストロング(1901 - 1971)。ニューオーリンズの街中のパレード演奏から身を起こし、ジャズエイジの1920年代シカゴで活躍。そして、ジャズ史上初のスキャット・ボーカルで人気を博し、トランペット片手にボーカルをとるスタイルで数々のヒット曲を飛ばしたアメリカJazz界のトップ・スターだった。ジャズ黎明期から放った数ある楽曲の中でも取り分けこの世界的メガヒット・ソング「この素晴らしき世界」は今でも親しまれている。ブルースの刻みでありながら素直なアルペジオが平和への祈りの効果を持つ大らかな楽曲にシンプルな素晴らしい歌詞。これをサッチモが、唄うトランペットのような独特のトーンで優しく聞かせる人生の讃歌だ。かつてマイルス・デイヴィスは「アームストロングは喋りまでジャズになっている」と語ったとか.. アメリカの心のポピュラー・ソングとしての12/8(6/8)。
https://www.youtube.com/watch?v=kLLw6SFRNnU&feature=results_video&playnext=1&list=PL5C005223CC87BE2D
John Coltrane - My Favorite Things(1960)
『Kind of blue』の翌年、マイルス・デイヴィス・グループから独立したジョン・コルトレーンが、自身のカルテットと共に放った名盤『My Favorite Things』(1960)。ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の挿入歌として知られる本タイトル・チューンは、コルトレーンが吹き込んだ際には、実はまだ映画は未公開でブロードウェイの舞台で人気を博したものをアレンジしたのだった。ソプラノ・サックスで奏でられジャズ史の中でも特殊な響きを持つ本作は、素直なレガートで構成された旋律に心地よい3拍子ジャズを3ピースで激しいアドリブ・バトルに展開する異色作だ。ドラマー エルヴィン・ジョーンズのダイナミックス、マッコイ・タイナーの時にメローで情熱的なタッチ、そして、コルトレーンのカオスの中を突き抜けるようなプレー。素直で丁寧なメロディーと白熱の演奏の一回性の世界が好対照を成すスタンダードからもはみだしたコルトレーン入魂の6/8だ!
https://www.youtube.com/watch?v=qWG2dsXV5HI
Pink Floyd - Crazy Diamond(1975)
世界で初めてライトショーやバルーン・アートをステージングに取り入れたUKモンスター・バンド ピンク・フロイド。1967年サイケデリックを代表するバンドとしてEMIからデビューを果たし、途中、錯乱によりリーダー シド・バレットを失っても尚、クラシックをロックに持ち込み長尺の楽曲でプログレッシブ・ロックを牽引。アルバム『Dark side of the moon/狂気』(1973)はビルボード・チャート上位に30年以上ランクインしギネス記録を残した程のロック史上の伝説的アルバムとなり、もはや次期アルバムの成功はあるまいとまで囁かれた最中、満を持して発表されたのが本作『Wish you were here/炎』(1975)だった。以降も79年発表の2枚組『ザ・ウォール』を成功させ、公式メンバーでの解散までに通算16枚のアルバムの数多くが、それまでのロックの方程式”ヒット・シングル”の概念を覆す”異色のアルバム・ヒット”として今尚異彩を放っている。デイヴィッド・ギルモア(g)が参加して以降のピンク・フロイドは、製作中の曲のJamをステージ上で繰り広げるタイプのバンドになった。当時はプログレと評されたが、実際の彼等の音楽はブルースを基調としながらも実験に富んだ独自の構築性と現代美術を背骨とするアーティスティックな詩の世界にあった。Dギルモア以外の3名は共に大学で建築を専攻していたこともバンドの時空間のダイナミックな構築性と深く関係している。こうしてみると彼等のステージ上のJamは即興というよりも寧ろ構築のためのプロセスと映る。『狂気』の成功から一時完全に個別ののOFFモードに入ったメンバーは、『炎』完成でカムバックに至るまでの間、Jamを隠し録りした本作収録曲の『海賊版』に悩まされる事態に陥ったと云う。この曲のアイデアはDギルモアのブルージーなギターピースから始まり、これに触発されてリーダー ロジャー・ウォータースが歌詞を一気に書き上げ、再構築を繰り返して行ったものだった。Rウォータースの失敗からDギルモアが録り終えたソロを再録するはめになったという裏話も残る。シド・バレットに想を得たという「不在の狂気のダイアモンド」はアルバムを通して歌詞の一大テーマとなっている。後年、タイトル・チューンの「♪Wish you were here」は、NY9.11.のトリビュート・コンサートでパール・ジャムによりアンプラグドで演奏された。美しいライムとハードで対称的なイメージの連想、「俺たちは金魚鉢の中を泳ぎ回る只の2つの失われた魂に過ぎなかった」と唄われたそれはロック史上に残る現代アートの歌詞として、ジョン・レノンのイマジンと双璧を成すもののように僕は感じている。本作「♪Crazy Diamond」は、ブルージーに展開される4:50付近のメイン・テーマからの6/8だ!
https://www.youtube.com/watch?v=V1i-RKqOFxQ
John Scofield - Southern Pacific(2000)
2000年初頭ジョン・スコフィールドがグルーヴ系オルガン・トリオの雄メデスキ・マーティン&ウッドとのコラボで完成させた緩めオヤジーズの超ファンキー・ジャズ・グルーヴの決定版『A GO GO』!近年のインストものの中ではピカイチな本作!その中でマリアッチ系メキシカン・ラテンのおとぼけナンバー「♪サザン・パシフィック」!彼等は度々合体してMedeski Scofield Martin & Wood(略してMSMW)という誰も覚えたく無いような長ったらしい名前で不定期活動を展開している。ブルーノート東京さん、是非、このメンバーを日本に呼んで1週間フロアを唸らせてみては如何でしょう?中には「♪Green Tea」なんて曲もあるんですから、彼等も呼ばれりゃ「それじゃ、お茶しに出かけよう!」となると思うんですがね.. そんなイカしたオヤジーズのスカンピンカラマワリ(←オリーブオイルと塩のラテン系海老料理)な6/8!
https://www.youtube.com/watch?v=gy70TfR6zxM
Nick Drake - Time Has Told Me(1969)
デビュー前のノラ・ジョーンズがカバー曲の一つに選び、ブラッド・メルドーは5拍子の名作「♪River Man」(https://www.youtube.com/watch?v=R6zCmCIsoAE)をJazzにアレンジ。70年代初頭にたった3枚のアルバムを残して他界したビルマ生まれの伝説的UKフォークシンガー ニック・ドレイク。近年の再評価の高まり中で甦った在りし日の彼の早過ぎたアーティスティックな木霊。本作「♪Time Has Told Me」は彼のデビューを飾るアルバム『Five Leaves Left』の冒頭の曲だった。ケンブリッジ大学在学中にアイランド・レコードと契約という誰もが羨むほどのキャリアでスタートしがらも、デビュー作のセールスは15,000枚止まりだったという。そんな失意から鬱病を発症、会話も困難な精神状態に陥り、26歳の誕生日の晩バッハの「ブランデンブルグ協奏曲」を聴きながら抗鬱薬の過剰摂取で逝ってしまったと云う。古くはジム・モリソン、最近ならエイミー・ワインハウスといった不遇の生涯を思い起させる最期だ。しかし、その埃を被ったLPに一度針を落としたなら、そこには単なるフォークソングでは済まされない歌詞とギター1本には納まり切らないポリフォニックな楽曲世界が眠っている。「夢の中で夢を見る時、それは目覚めに近い」と言った詩人がいたが.. ニック・ドレイクの残した作品たちは、初めから眠っていた分、一旦目覚めた後は限りなく覚醒して行く調べのように聴こえるのは僕だけか?.. ある種6/8ビートは簡単にブルージーにも響くし、険しくしようと思えば直ぐに効果も表れる。しかし、どうだろう?ニックのそれは、彼の人生とは打って変わってとても温もりに満ちたチューンではないか?そんなニック・ドレイクな気分の6/8。
https://www.youtube.com/watch?v=Cche-h83qNQ&feature=fvst
Sly & The Family Stone/Time(1971)
スライ&ザ・ファミリー・ストーンの代表作『暴動/There's a Riot Goin' On』(1971)。その暗くて不吉で前代未聞の大分裂した様は、それもそのはず、実はらりった リーダー スライ・ストーンが自宅スタジオで寝転びながら殆ど一人で録ったも同然のアルバムだった。しかも、無線マイクシステムとかいうカウチポテトなアイデアの代物が大活躍しており、よく聴けば歌声は拡張器のそれだったりもする。一人千手観音のような状態でも手数が足りなく感じれば、バンドメンバーの代わりに大物ミュージシャン(ビートルズの「Let it be」の仕事を終えたばかりのビリー・プレストン、アイク・ターナー、ボビー・ウーマックなど)を呼び「このリズム・ボックスに合わせて楽器を歌わせてくれ」等と人を顎で使い.. ドアノブと肘テツの区別も付かない状態でオーバーダブだらけの壮大なプラスティック・サージェリーを行いくたびれた麻薬そのもののような本作を完成させたと云う。今ではジョージ・クリントン(ファンカデリック、パーラメントのリーダー/※大統領ではない..)等の十八番ジャンル”エレクトリック・ファンク”のルーツみたいな言われ方もされるアルバムだが、スカスカのビートBOXのファンキーチューンにいきなりヨーデルをかませる予想不可能な展開はもはやブーツィー・コリンズに比するどころの騒ぎではない。しかし、この明るいんだか悲しいんだか判別のつかない異界チューンの束は実に今でも影響力絶大なモンスター・アルバムだったりもする。一度部屋に流せばこのとろけた音楽世界は実にイイ!ジャケットは一見は「ためく星条旗」なのだが、よく見ると「星のかわりに太陽を配した赤・白・黒の星条旗」だ。スライ曰くそれは「人種差別を越えた人類の探求だ」と言う。そんな愛の戦士スライ・ストーンの本作には、他にも6/8チューン「♪Just Like a Baby」(https://www.youtube.com/watch?v=-YzitR0IKW4&feature=related)なども収録。では早速、この類い希なるファンク・ラウンジの「♪Time」のメルティー6/8サウンド・ワールドへLet's go!
https://www.youtube.com/watch?v=Rmo6erWD7po&feature=relmfu