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チャンの小説コミュのその日その時が来る日までに〜加藤 真由美編

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☆登場人物

加藤 真由美(20)……主人公。大学生

島田 徳光 (20)……主人公の元彼氏

阿部 千恵 (20)……大学の一番の友人

真由美の母親  (45)……主人公の母親。

海老原 麻子 (25)……主人公の元彼氏の新しい
            彼女

コメント(43)

私は乱暴に封筒を開けると、そこには死亡日確認システムの通知と大きく書かれた一枚の紙と、後もう一枚の紙が入っていた。
 


死亡日確認システム。
 



テレビや新聞などで私も何度となく、このシステムについては耳にしている。とうとう私の所にも着たということか。
 



しかし、本当なのだろうか。ホームページにアクセスしてパスワードを入力すれば自分の死亡日がわかってしまうというのは。



そんな神様もにしか知らない様なことを知れることが可能なのだろうか。
 




半信半疑というよりかは全く信じられなかった私であったが、もし知れるとしたら知ってみた気もする。



とりあえずパソコンのスイッチを入れ、ホームページにアクセスしてみることにした。

そのホームページは簡単な作りであった。死亡日確認システムとわかりやすくゴシック文字で書いてあり、

その下にパスワードとIDを入力する空欄があり、そしてその下に確認というクリックボタンがあるだけのものだった。
 



こんなホームページで本当にわかるのだろうかと、このシステムに対する疑問は益々増すばかりであったが、

私は封筒に入っていた紙に書いてあるパスワードとIDを間違わないように入力し、カーソルを確認ボタンに持っていった。




ここまで興味本位に簡単にここまでの作業をしてきたが、これでもしこのシステムが信用できるもので、百発百中に死亡日を当てられるものだとするならばと考えると恐ろしいものがある。



それに、今の私には恐れる物は何もないのだ。



全てを失ってしまった私には。

私は軽くクリックボタンをクリックした。



『あなたの死亡日は2010年3月20日です』
 

あっけない文章だった。
 


白い画面の真ん中にこの文字だけが表示されていた。
 


2010年3月20日。この日付は今日から数えて一週間後ではないか。



ということは、私はあと一週間で死ぬということか。
 


信じる、信じないというもんだというよりも、わけがわからなかった。



今、私の心はボロボロだったが、身体は健康そのものである。そんな私が一週間後に死ぬ? 


わけがわからなかった。
 


パソコン電源を落として、ベッドに寝転んだ。
 


くだらない。
 


私は今、パソコンで見た事は忘れることにした。

「あ、もしもし真由美?」
 


徳光の顔を思い出しながら目を瞑っていると、すっかり寝てしまった私は大学の友人である阿部千恵の電話で目を覚ました。



「うん。どうしたの」
 


私は不機嫌そうな声を出しながら、近くにあった目覚まし時計を見た.時刻は二十三時時二十分。



「ああ、ごめん。寝てた? ちょっと急いでいて。あのさあ、真由美さあ死亡日確認システムってやった?」



「やったって。どうして? そのことは何となく知っているけれども、別に確認していないかな」
 


死亡日確認システム。



あのわけのわからない。システム。この十分健康体の私を一週間後に死ぬと予測した……。

政府から公式認定されたものらしいが、あんな人の将来を予測しるようなインチキ臭いものに、興味本位で確認してしまったなどと恥ずかしくて言えるはずもなかった。



「ああ、よかった。あれさあ、絶対に当たるっぽい  よ。
 
 訊いた話なんだけれども、私の友達の友達がさ   あ、そのシステムで確認したら三日以内に死ぬって 書かれていて、それでその通りに三日目で階段から 足を踏み外して死んじゃったんだってさ。


 だから私のところにもそのお知らせの封筒が来たん だけれどもさ、怖くて怖くてやってないんだ」
 


嘘でしょ? そんな。嘘だ。


「嘘でしょ? だって、そんな簡単な作業で死ぬ日がわかるなんて」
 


高鳴り始めた心臓を抑えながらも、明るい声で訊く。

「いや、本当みたいよ。その友達に今日会ったんだけれどもショックでずっと泣いていたから。まさか、真由美本当はやったとか?」
 



私は電話の向こうで話しているのにも関わらず、大きく横に被りを振った



「やってない。やってないよ。だた、信じられないなあって思って」
 



ハハハと笑って見せたが、携帯電話を持つ手は完全に震えが止まらなくなっていた。




「ああよかった。もしこれで真由美がやっていて何か近いうちに死ぬって訊いたら私どうしようかと思ったの。ああよかった」



「そうだね」と安心した声を漏らす、千恵に相槌を打つ。




「なんかごめんね。急にこんな夜遅くに電話しちゃって。じゃあね。また学校で」



「じゃあね」と言い、私は電話を切った。
 


死ぬんだ。死ぬんだ私。


電話を切った瞬間に襲ってくる絶望感。
 


本当に一週間で私の人生が終わってしまうんだ。つい数時間前には、徳光に振られいっそ死にたいと思っていたのに、いざ一週間後に死ぬとわかると死にたくないという気持ちが私を襲う。
 


そしてその絶望感は徳光への憎しみと変貌していった。
 



どうして彼は私を捨てたの? 


どうして彼にも振られて、しかも一週間後に死なないといけないの?
 


殺してやる。




私が死ぬ前に徳光も殺してやる。



私だけがこんな不幸な目に合うのはおかしいでしょ? 


ねえ? 徳光。
 



私はこの時、島田徳光を殺害することを心の中で密かに誓った。

2
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百円ショップで包丁が吊り下げられているコーナーに一人たたずんでいる私は、人から見てどう移るだろうか。
 


様々な殺し方を考えたが、結局力の弱い私が男性を簡単に殺せる方法と言えば、包丁で刺して殺すのが一番



最善の方法だと思い、包丁を買いに行った。
 



家にも包丁があったが、料理などに使っていた包丁ばかりだから切れ味も少し悪くなっているし、しかも最初で最後、人殺しというものをするのだから新しい包丁でやりたいと考えた。



そして今、近所で手軽に包丁が入るところと言えば、ここだろうと百円ショップの包丁コーナーで包丁を見つめている私がいる。
 



このコーナーで包丁を見つめたのは、一年前の東京に上京してきたばかりで家具を購入しようとした時以来だろうか。



まさか、こんな犯罪を行うという理由でここにまた足を運ぶとは夢にも思わなかった。


当たり前だが、人を殺すということは重罪だということはわかっている。それは法的な罪としても。



そして、人間的な道徳からしても。




しかし自分がもうすぐ死ぬとわかり何の躊躇も戸惑いもなくそれを実行しようとしている自分がいる。


人殺しというのは重罪だが、その動機は以外にも軽い動機で行ってしまうものなのかもしれない。



それにしても、こうして百円ショップに包丁が並べられているのを見ると、日常に使用する物とは言え、たったコイン一つで人殺しが簡単に行えるような凶器を購入できることは犯罪を助長しているように見えて仕方がない。



それだけ、日本人という人種が犯さないと信頼されているという証なのだろうか。
 



それはそれとして、私はその日本人の中で犯罪を行う人の一人になるのである。
あと五日。
 


昨日はアルバムを見たり、実家から持ってきていた自分の成長記録が収められているビデオを見て自分の人生を振り返っていた。
 



思えばこの二十年間あっという間だった。五日後の何時何分、どのようにして自分が死ぬのかはわからないが、今更ながらもう少し生きてみたいという気持ちがある。
 


私は振り回しやすいような小さめの包丁を手に取り、レジに持っていく。




「はい、百五円です」
 



私は財布をポケットから取り出し、百円玉と十円玉を店員に渡す。
 



店員はそれを受け取り、換わりにお釣りの五円とレシートを渡してきた。
 



何も言わずそれを受け取り、財布に入れた。

「あの、お客さん」
 


すると、店員が私に向かって話しかけてくる。私はふと店員の方を向く。



店員は三十代そこそこのスポーツ狩りで少し白髪が混じった痩せ型の男だった。



「つかぬ事お聞きしますが、まさかそれで人を刺そうだなんて思っていませんよね?」
 


私はその店員から出た意外な一言に、胸が鳴り手から脂汗が滲み出てきた。 
 



どうしてだ? どうして、この店員は私が人を殺そうとしていることがわかったのか。




「すみません。あなたみたいな、若くて可愛らしい女性がそんなことするはずないですよね」
 


店員は申し訳なさげに軽く会釈して謝る。
しかし、謝りながらも店員はどうもうかない顔を見せた。



「いやあね、一昨日うちの店で包丁を買っていったお客さんが、自分の友達をその包丁で刺して殺してしまったんですよ」
 


さらに続けて店員は話す。


「全く、参りましたよ。さっきまで警察の事情聴取につき合わされて。最近、他の店舗でそういう店で買ってきた包丁で人を殺す事件が多発していて、ウチもやばいかなあと思ったら案の定ね」
 


私は「そうなんですか」と相づちを打ちつつ、自分もその人たちと同じことをしていることに少し後ろめたさというよりも罪悪感を感じる。

「そもそも、あの何ですか、死亡日確認システムというものができてからですよ。


 今回私の店で包丁を購入して人を殺した奴も、それで死亡日が一ヵ月後だったから殺害しても罪にならないからやったと言っているみたいで、あのシステムができてから日本の治安がどんどん悪くなってきている気がするね」
 



「そうですね」と私はまたごまかす様に相づちを打ちながらも、みんな考えることは同じだと思った。



「すみません。こんなことにつき合わせて。とにか  く、人殺しはダメですよ。


 罪になるとかならないとかの問題じゃない。


 人としてやってはいけませんからね」
「すみません」と言葉の冒頭につけながらも、その店員は私が人殺しを犯すことを見抜いているかのように念を押して言ってきた。
 


私はその店員に軽く会釈して百円ショップを後にした。
 


家までの帰り道、すれ違う人々を見ながら人間は愚かだと思った。



人は何て意志が弱く、自分勝手な動物なのだと。
そしてそれは自分も例外ではなかった。


3
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私の実家は千葉県の田舎だ。



大学と同時に大学の近くにあるアパートで一人暮らしを始めた私だが、一人暮らしをはじめて以来、実家には一度も帰っていない。



特別帰らなかった理由はない。親と喧嘩をしているわけでもないし、忙しくて帰られなかったわけではない。ただ、帰らなかっただけだった。




そして私の余命があと四日になった今日、最後に親の顔を見ておこうと実家へと続く国道を原付バイクで走行している。
 


二位階建ての木造で白い家。これが私の実家である。


実家に着くと、隣の駐車場にバイクを置き、ドアの前に立ちつい一時間前に家を出て行って帰ってきたように何の迷いもなく家に入っていった。

「ただいま」



フローリングの廊下を通り、私はダイニングを除いた。するとエプロンをかけた母親が、朝食に使ったのかシンクで皿洗いをしていた。



「ああ、真由美。どうしたの? 電話もしないで急に来たりして」
 


母さんは特別驚いた様子もなく蛇口を止め、エプロンを脱ぎながら訊いた。



「ああ、別に。それよりも、またドアに鍵がかかってなかったよ。幾ら田舎だからって物騒だよ」



「いいじゃない。どうせ、この家には盗まれるものなんてないよ」

母さんは全く変わらなかった。


歳の割には皺が多く、少しふけて見える顔も。


この平和ボケしたようなおおらかな性格も。



「まあ、ゆっくりしていけば」
 


そう言って、ダインイングのドアの前に立っている前に立っている私を邪魔よと言わんばかりに手で払いのけて、階段を登っていった。
 


しかし、こんな母さんに私があと四日で死ぬと告げたらどうなるだろう。


以外に、ケロッと師弟くれているだろうか。どうなのだろうか。
私は仕方なくダイニングに入り、テーブルに腰掛ける。



静かだった。



時より外から鳥の囀りや、子供の叫ぶ声が微かに聞こえるだけだった。


ここに帰るとやはり何処か落ち着く。


「ねえ、あんた何か食べる?」
 

いつの間にか一階に降りて来てダインニングに入ってきた母さんが私に訊く。


「いいよ。お腹すいていないし。それより、お父さんは会社だよね」



「あたり前じゃない。美佐も学校。こうやって平日に家にいるのは専業主婦の私と大学生のあんたくらいよ」
 


母さんが冷蔵庫を開け、プリンを取り出しそして私と向かい合う形で座る。
「そうね。そんなもんかもね」
 


私は肘を付きながら、母さんがプリンを口に運ぶのを見つめる。



「何よ。そんなに見つめて。本当はあんた食べたいんでしょ」
 

母さんはそんな私に向かって、カラかうように訊く。

それに対して、私は黙って首を横に振る。



「あのさ、あんた死亡日確認システムっていうのもうやった?」
 

そう訊くと母さんはさっきまでのお茶らけた顔が急に真顔になった。



「え、ああ、あれね」



「私さあ、あのシステムってあんまり好きになれなくてさ」



最後一口のプリンを口に入れながら、ため息混じりに母さんは言う。



「だって、自分の寿命を知って何の得になるかわからないし、もしそれで自分の寿命があと一週間ですって言われたら次の日から生きる気力なくなると思うんだけどね」
 


母さんの話を訊きながら、張り裂けそうになりそうな胸の鼓動をそっと抑え、私の余命は四日。



と自身に確認させるように胸の中で囁く。



「それに、そんな自分の寿命があと少しだとわかったら、自分だけじゃなくて家族だって悲しむしね」
 


そう言うと、母さんは唇を少しかみ締めて小刻みに頷く。



「お、お母さん。お母さんらしくないなあ。そんなしんみりした話するなんて」
 


私は笑ってその場を誤魔化す。
「そうね。でも、うちの家族の誰か、って言ってもあんたとお父さんしかいないけれども、どっちかが青ざめた顔をして私、明日死ぬんだ。何て言ってきたら嫌だなあって」



 私は「またまた」と母さんを茶化しながらも、心の中では複雑な思いが交差する。



「そうね。考えすぎね。でも、本当に私より先にあんたが死ぬんじゃないよ」



 母さんは笑いながら立ち上がり、プリンが入っていたカップをゴミ箱に捨てて部屋を出て行った。
 


まさか、あの明るい母さんがあんなことを口にするとは思いもよらなかった。
 


確かに、私だって家族の誰かが明日死ぬとわかったらと考えるだけで気持ちが真っ暗になる。



母さんも同じで、私が明日死ぬって言ったら同じ思いに襲われるだろう。そう考えると、勿論、私の余命のことは母さんには言えなかった。
 


でも、ごめん。母さん。私、あと四日で死んじゃうの。親不孝な娘でごめんね。
 



私は涙が出ていそうになって、慌ててそれを目の奥に引っ込めた。
あと三日。
 


あと三日で私はこの世からいなくなる。
 


実感はない。しかし、その時は刻々と近づいている。


そしてこれが大学に通うのは最後になるだろう。



そんなことを思いながら、大学の校舎をジッと見つめる。



いろいろなことがあったが、何だかんだ言って大学生活は楽しかった。



たった二年間しかいることはできなかったのが少し残念だった。




校舎に入り、今日授業が行われる教室へ向かった。教室に入ると、いつもより騒がしいことに気づく。


4
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あと三日。
 


あと三日で私はこの世からいなくなる。
 


実感はない。しかし、その時は刻々と近づいている。


そしてこれが大学に通うのは最後になるだろう。



そんなことを思いながら、大学の校舎をジッと見つめる。



いろいろなことがあったが、何だかんだ言って大学生活は楽しかった。



たった二年間しかいることはできなかったのが少し残念だった。




校舎に入り、今日授業が行われる教室へ向かった。教室に入ると、いつもより騒がしいことに気づく。


「ああ、真由美。真由美」
 

教室の真ん中あたりの席に座る、友人の今井里美が私に向かって手を振る。私は彼女の隣に座ると、さっそくこの騒ぎのことを訊く。


「ねえ、何か今日騒がしくない?」


「え? 真由美知らないの? 千恵こと」
 

そう言えば、阿部千恵の姿がない。


私と里美と千恵はこの学校の仲良し三人組で、いつも授業の時は隣どうしで座るはずだが。


「千恵がどうしたの? カゼ?」
 

私がそう訊くと、里美は大きく被りを振った。


「千恵のお兄さんが警察に捕まったんだって」



「え?」
 


私は思わず周りを見渡す。



「だから、みんなその話で持ちきりよ。うちの大学でしかも、同じ教室にいたクラスメイトの家族が警察に捕まったってことで」
 


何故かさとみの声が小声になり、耳もとで囁くように言う。
「で、何で捕まったの? 千恵のお兄さん」
 

私もそれにつられて囁くように訊く。



「人を殺したんだって」
 

人殺し。
 


そのニュアンスは昔の私には何処か遠い世界の言葉に聞こえていたが、今の私には身近な言葉になっている。



「そ、そうなんだ。それで、こんなにみんな」
 


里美は大きく頷く。



「それで、千恵から電話は? 私は来ていないけれども」
 


私は携帯を見る。千恵からは連絡が来ない。



「私も来ていない。て、言うか来たら来たでちょっと困るけれども」
 


里美は私から目を逸らし、苦笑いした。



そんな彼女に対し私は「そんなこと言わないほうがいいよ」と言いかけたが、彼女の千恵に対しての友情はそんなものかだったのかもしれないと言うのをやめた。
「私、ちょっとトイレに行ってくる」
 


私はそう言って教室を出て、トイレに入り携帯電話を取り出す。
 


千恵。


しかし、私は放って置けなかった。


千恵は私の大切な大学の友人だ。
 


千恵の携帯に電話をかけたが、彼女は中々電話に出ない。


十秒くらい呼び鈴が聞こえ、やっと彼女が電話に出た。



「ああ、千恵?」
 


私の呼びかけに千恵は力の抜けた声で「うん」と応答した。



「あの、大丈夫?」
 


私は勢いで電話をかけたが、何て声をかけて良いものかわからなかった。



「うん……」
 


その呼びかけに対して彼女は、「うん」と答えたがその声は、涙声で震えていた。



「本当に?」
 


私は思わず訊き直してしまった。

「うん。大丈夫だから。大丈夫だから、もう電話かけてこなくていいよ。迷惑かけたくないし。じゃあね」
 


そう言って、千恵の方から一方的に電話を切られてしまった。
 


大丈夫なはずがない。


それは仲の良い私ではなくてもあの千恵の声を聞いたならば誰でも思うだろう。
 


私はその後何度も彼女の携帯電話に電話をかけた。でも、彼女はそのあと二度と私の電話に出てくれることなかった。
5
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部屋で三日前に百円ショップで買った包丁を手に持ち、その刃先を見つめる。
 

あと二日。
 


島田徳光を殺害することを決心した日のことが遠い過去のように思える。
 


私は決心した日に殺すのは死ぬ一日前と決めていたが、果たして私はこの鋭く尖った刃先を人に向けることができるのだろうか。



人生の最後、ただ人に振られただけの恨みで人を殺して終わるのが、本当に自分にとって最善のことなのだろうか。
わからなかった。ただ、これだけは言える。私はあと二日で死ぬ。この世からいなくなる。
 

私は包丁を机に置き、部屋を出た。



外は雲ひとつない晴天だった。
 


この空を見上げられるのもあと少し。


この空を見上げていると今悩んでいることなどほんのチリ一つの事に見えてしまう。
 


やはり、人殺など辞めよう。



もし、私が人を殺せば私自身の汚点になるだけではなく、私が死んだ後も行き続けるであろう家族にも人殺しの家族というレッテルが貼られる。
 


あそこまで私を気遣い愛してくれている母さんに私が死んだ後、私が死んだ事でも十分に悲しむというのに、余計に悲しませたくない。

頭の中が整理できこのままUターンして家に帰ろうとした私だったが、せっかく外に出たのだからコーヒーの一つでも飲んで帰ろうと喫茶店に入った。
 

カウンターでホットコーヒーを頼み、窓側のカウンター席に腰を降ろした。
 


それにしても、私はどのようにして死ぬのだろうか。


あのシステムは死亡に至る原因はおろか、日にちだけで正確な時刻も知る事ができない。



だから、どのように死ぬのか全く見当がつかなかった。
 



今、身体に何の支障もなく健康だと言う事は、交通事故とかそういう類のものだろうか。



いや、それならばその日一日部屋から一歩も外に出なければ免れる。



「だから、その女とは別れたから大丈夫だよ」


そのように、コーヒーを口に含みながら思考を巡らせているその時だった。



ちょうど私の座っている真後ろにあるテーブル席から見覚えのある男の声が聴こえる。



「本当に? 大丈夫なんでしょうね」
 


その男に対して甲高い女性のような声が反応する。
 


私は少し気になり、そっと後ろを振り返ってみる。
 


そして私はその二人の顔を確認するとハッとしてすぐに向きかえった。
 


徳光である。島田徳光がいる。
 



しかも、見知らぬ女性と二人で。


まさか、新しい彼女だろうか。



「大丈夫。大丈夫。あいつにはちゃんと別れるって行っておいたから。まあ、その時にビシッと頬をビンタされたけどな」
 


ハハハという徳光の馬鹿笑いが聴こえる。



それに対して「ひどい」と女性もつられて笑う。

「でもさあ、そんな別れ方してすぐにこういう風に付き合ったりして徳光の部屋に突然襲ってきたりしない? その女?」
 

やはり、徳光と一緒にいる女は彼の新しい彼女らしい。



「ああ、平気、平気。あいつはそんな襲ったりする奴じゃねえよ。だって、電車の中でちょっと声をかけたらその気になって一緒に寝るような女なんだぜ。そんな軽い女はいつまでも元彼に未練なんか残さずに、また他の男に乗り換えているもんなの」
 


「ふーん」と徳光の彼女は半信半疑のような、微妙な口調で反応を返す。
 


そしてそんな二人の会話を訊いて、私は怒りでコーヒーカップを持つ手が震えていた。
 


軽い女だって? 


ふざけるな。



私は本気で徳光のことを愛していた。



こんなに、こんなに、悩んでいるのに私がすぐに他の男に乗り換えるだなんて……

私は愚かだった。徳光があんなふうに自分を思っていたことなどわからずに彼を本気で愛していた。


彼はあんな男だったのである。私を本気では愛していなかった。完全に遊ばれていたのである。
 



殺してやる。お前だけは絶対に許さない。
 



私はコーヒーカップに半分以上コーヒーを残したまま、喫茶店を出てアパートに向かった。


6
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殺してやる。殺してやる。
 

私はアパートに戻って包丁をバックに仕舞い、早歩きであの喫茶店に歩いていった。



まだ徳光は喫茶店にいるだろうか。いなかったとしても、絶対に捕まえてこの手で殺してやる。
 


喫茶店にはまだ、徳光とあの女がまだいた。
 


私は迷うことなく店内に入り、彼のもとへ歩いていく。



「ねえ」
 


彼の前に立つと私は彼に呼びかける。それに彼と女は私の方を見上げるように見つめた。



「お、お前……」
 


彼はそう言っているように思えたが、私にはよく聴き取れなかった。

私はバックから包丁を取り出し、彼の振りかざした。



「きゃあああ」
 


女の悲鳴が聞こえる。
 


私はそれに構わず、彼の身体の至るところを無差別に突き刺した。
 


血まみれになって地面に倒れてく徳光。返り血で服が血で染まっていく私。
 


彼が倒れて動かなくなった時、その店内にいた人々の注目の的になっていた。
 


血まみれになった包丁をバックに仕舞い、彼と私の前に囲むように集まる人々の間を掻き分けて出口へと向かった。
 


この時の私は自分の行動を自分で制御することができなかった。


こんなに大勢の人々が見ている所で人を殺せば、何処に行ったとしても否応なしに私は警察に捕まる。


なのに、どうしてかこの場所から早く去りたかった。


一刻も早く。

出口の透明のドアに手をかけた瞬間、背中に激痛が走る。
 


後ろを振り返ると、徳光の彼女であるあの女が立っていた。彼女の手には果物ナイフが握られている。



そしてその刃先は私の背中に突き刺さっていた。
 


私は崩れるようにその場に倒れる。



それから私は彼女に何度も何度も身体の至るところを刺された。


あまりの激痛で意識は徐々に失っていった。



7
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意識を取り戻した時は、ベッドの中だった。
 


ただ意識は取り戻したとは言え、身体中には激痛が走り身体を思うように動かせず目も開けることができなかった。


ただ、耳から聞こえる病院の器具と思われるピーピーと規則的に聴こえる音を聴こえるだけだった



「でも、ひどいものですねえ。この頃殺人ばかり」
 

機械音に紛れて女の人の声が聴こえる。看護師だろうか。



「そんな、人を殺すような顔をしていないのに。それもこれも、あの死亡日確認システムが始まってからよ。もう、嫌」
 


そうか、この看護師は私のことを話しているんだ。


人を殺すような顔をしていないか。



「そうね、このシステムが始まってからこんな患者さんが増えたわね」
もう一人、違う声が聴こえる。この人も看護師だろうか。


「でも、この子も被害者なのよね。こんなに身体を傷つけられて」
 


そうだ、わたし、あの徳光の女に刺されたんだ。



「そうそう。この子に刺された男の彼女がこの子のこと刺したんでしょ? 話によると、その刺された男、自分が今日死ぬことを死亡日確認システムで知っていて、それでずっと二人で警戒していたみたいよ。それで案の定男は殺されて、彼女が予備に持っていたナイフで」



「全く、あんなシステムなんてなくなればいいのに」
 


知っていた? そうか、徳光は知っていたのだ。


自分が死ぬ事を。
 

ふと、二人の会話の中で大丈夫? という言葉が度々出ていた事を思い出す。

私は心の中で笑った。
 

私があの場所であの話を訊いて、頭に血が上ることがなければ私もこんなに身体を傷つけられることもなかったし、そして彼も殺されることもなかった。


ああ、痛い。



このまま死ぬのだろうか。


システムによると私の余命はあと二日。


もし、死ぬのだったら本当にお笑い種だ。
 


それもこれも、あのシステム。



死亡日確認システムで自分の死亡日を見なければ、二日後に死ぬんだとしてもこんな地獄のような痛みを伴って死ぬことはなかったのではないのだろうか。
 


きっとこれは感情に任せて人を殺してしまった私への神様からの罰だ。きっとそうだ。
 


母さんごめんね。こんな娘で。私は自分の感情に負けてしまった愚かな人間だ。
 



しかし私はそんな自分への悔しさに涙も流すこともできずに、二日後に息を引き取った。


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