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小説家版 アートマンコミュの仏壇ニューヨークへ行く?

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伊勢さんのアドバイスを受けて、少し展示の仕方を嫁と話し合って変えてみた。なるべく展示物を寄せて沢山の空間を作るようにした。そんな小さな変化でも個展会場の雰囲気は変ったような気がした。どうしても自分の事は客観的に見ることができない。僕らには客観的なアドバイスをしてくれるアドバイザーもいない。自分らを生かすも殺すも自分次第。自分のレベルを上げていかなくてはいけない。今までのように試行錯誤を繰り返し成長していくしか、今は手立てがない。

今日は嫁の本当の誕生日。昨日とは別の知り合いの店に行く事にした。イースト・ビレッジにある「ジュエル箱」というお寿司屋さんだ。2番街と5ストリートの交わるあたりにあるお店です。店名の通りで宝石箱のようなお洒落な店内のつくりだった。寿司屋というよりもフランス料理屋さんの方がしっくりくるような店内だった。昨日のEnといい、このジュエル箱といい、ニューヨークのジャパニーズレストランが流行る理由がわかる。お洒落だ。和のテイストを上手に生かしている。僕の展示に必要なのはこのレストランのようなギャップ感なのかもしれない。そして、この店にも宝石箱というコンセプトがある。僕らの前に並べられているお寿司がきっと宝石を意味しているのだろう。これが展示するストーリーなのだろう。寿司のネタの8割は築地から空輸しているそうだ。本物にこだわっていた。僕ら日本人をうならせる味をきっちりと提供できるのが凄い。ニューヨークで日本食を食べるなんて馬鹿らしいと思っていたが、全くの逆だった。ニューヨークで食べるからこそ気づかされることがある。日本の表現の仕方って言うのかな。食べながら勉強になっていた。嫁の誕生日も美味しい食事で祝うことができたし、一石二鳥の夜だった。

次の日も朝から営業に行った。グランド・セントラル駅で降りて国連本部の近くにあるジャパン・ソサエティに向って歩いた。道は国連開催中という事もあり尋常じゃない警備体制、何箇所の通りは完全に通行止めとなっていた。警察官に行き方を尋ねながら、何とかジャパン・ソサエティにたどり着いた。ジャパン・ソサエティは芸術や文化の交流などを通して日米間の相互理解を深める非営利団体です。ここにもギャラリーなどを併設しており、日本の伝統文化などの発表をしている場所です。やはり国連開催中という事もあり、かなりバタバタしていた。そんな状況だったが、受付の女性は丁寧に僕らの話を聞いてくれた。個展も終盤戦となり、今日を入れても残りは4日。何かをお願いするというよりも、次回の事を見据えて顔つなぎだけでもしておきたかっただけだったので、簡単な挨拶をして帰る事とした。帰りがけに受付の女性がアート担当の方の名詞を一枚くれた。その方に日本に帰ってからご挨拶のメールを送ったら、丁寧に返信をくれた。行って良かった。

この日も個展会場では何も売れなかった。来場者に英語で説明するのが上手になってきた。せっかくだから何か売りたい。せめて購入したいと言って欲しい。これ程売れないと自分達の物に自信がなくなってくる。気持ちが落ち込みそうなのを必死にこらえるしかなかった。

晩御飯はイースト・ビレッジに戻って食べる事にした。今日はタイ料理を食べると2人で一致していた。フュージョンという言葉の響きにひかれただけだ。2番街にある創作タイ料理の店に入った。メニューを開いたが、全く書いてある事が分からない。メキシコ料理の時はまだ多少理解できたが、今回は全く想像できなかった。いつものようにお勧め料理を聞くことにした。サラダとカレーと魚料理をオーダーした。量が多くて美味しかった。そして値段が異常に安い。売り上げが全くないので食事代が安いのは助かる。安いが決してわびしくはないってのが気に入った。食事中に雨が降り出した。ニューヨークに来てから初めての雨。どうやらハリケーンが近くの海上を通り抜けるようだ。週末にかけて雨が降ると天気予報が言っていたのを思い出した。天気が悪くなれば客足も遠のくだろう。明日も見込みなさそうだなぁって雨脚の強まる夜空を悲しげに見上げた。

次の日は午前中どこにも行かず、遅めの朝食を宿の目の前にあるグラム・スタンドというカフェでとっていた。カフェ・ラテとクリームチーズがいっぱい乗せてあるベーグルが今朝の朝食。ここのカフェはニューヨークでは珍しくコーヒーよりも紅茶やお茶がメインの店。日本茶もある。かなり穴場的なお洒落なカフェだ。
 ミルクいっぱいのラテを飲みながら、まだ降り続く雨を眺めていた。雨は日本でもアメリカでも一緒だなぁって思っていた。人を憂鬱にさせる。子供の頃は雨が好きだった。水溜りの中を長靴で歩くのが好きだった。車が水溜りの上を通って水しぶきをあげるのを見るのが好きだった。水かさの増えた川の流れを見ているのが好きだった。いつから嫌いになったんだろう? たぶん、自分で服を買うようになってからだと思う。ズボンの裾が汚れるのが嫌で雨が嫌いになったのだと思う。雨粒が水溜りにはねるのを眺めながらそんな事を考えていた。

雨の日のお客さんはやはり少ないが、滞留時間が長い。雨の日を上手に過ごそうとしている。雨を愛せる人は上質な人のような気がした。雨は夕方前にあがった。雨上がりと共に、スーツを着た紳士が個展会場に入ってきた。一応に作品を見て回り、新作の製作過程を紹介するDVDをじっくりと見てから、いろいろと質問をしてきた。僕が作成した龍のオブジェを眺めながら「これはいくらだ」と聞いてきた。今回の個展で値段を聞かれたのは初めてだった。「14,000ドル」だと伝えると「予想していたより安い」と口にした。その紳士は急いでいたようで個展の最終日を確認してから、帰り際に「日曜日に買いに来る」と僕に伝えて個展会場を出て行った。その言葉に嫁と顔を見合わせた。日曜日に売れるかもしれない。売り上げを上げる大きな可能性が出てきた。まだ売れてはいないが、僕は嬉しかった。僕らの作品は通用するんだと分かったからだ。商品としてみてくれる人がいる。それが分かった日だった。とても小さな手ごたえだった。

食事は最後のお付き合い。ギャラリーに2度も訪れてくれた日本人がつとめている日本食屋に行くことにした。宿の目の前の道アベニューAをただ7ブロック南に下がった所に彼が働く店「たかはち」はあった。先に行った2つの日本食屋とは違い、居酒屋風の庶民的なお店だった。実は意外と一番落ち着いた。日本人の客は殆どいなかった。それさえなければ日本に帰ったかのような錯覚をしてしまう。この店でも過剰に接待してくれた。本当にニューヨークで知り合った人達はいい人ばかりだった。

日程的な事を考えるとあの場に行くのは今朝しかない。ニューヨークに来てあの場に行かないというわけにはいかない。アメリカを代表する巨大像、自由の女神に会いにマンハッタンの南端に向った。その日のバッテリー・パークは盛り上がっていた。早朝からマラソン大会をやっており、ゴール地点がこの公園だった。健康的な市民ランナーが続々とゴールしていた。この日の天気は薄曇り、遠くに見える自由の女神は曇って良く見えない。せっかく来て彼女を見ないわけにはいかない。時間はあまりなかったが、島まで渡る事にした。この公園内にあるクリントン砦の中にリバティ島へ向うフェリーのチケット売場があった。10分後に出るフェリーの切符が手に入った。
 飛行機の搭乗なみのセキュリティを通り抜け、フェリーに乗り込むと早朝のせいもあるのだろう、比較的空いていた。二階のデッキに腰を降ろすと直ぐにフェリーはリバティ島に向って出発した。どんどん大きくなっていく自由の女神を眺めていた。100年以上前からニューヨークへ移民してくる人々をこの女神は見つめて来た。この巨大像に夢と希望を願って手を合わせたにちがいない。ニューヨークの観音菩薩のようなものだ。そう思うと自由の女神が仏像に見えて来て、僕はそっと手を合わせた。15分程で島に到着。自由の女神の台座まで歩いて昇った。あいにく霞がかっていてマンハッタン島はよく見えなかったが、吹き付ける風が気持ちよかった。早起きして来て良かった。
 1時間程滞在して帰りのフェリーに乗り込んだ。時間がなかったのでエリス島には立ちれなかったのが残念だった。
 僕達が旅立つ数日前にアメリカ第4位の証券会社、リーマン・ブラザーズが倒産して一気に金融不安に落ち入ったアメリカ株市場。その中心地ウォール街はフェリー降場から近い所にあった。土曜日の午前中だったので、街に金融危機で荒れているような雰囲気はなかった。その街をとおりすぎワールド・トレード・センターの跡地、グランドゼロまで足を運んだ。大きな工事現場のようになっているだけで、ここに巨大なビルが2塔も立っていたとは思えなかった。人の手で作り上げる神のような力、そしてそれを壊す悪魔のような力。作り壊しのくり返し。砂場の山を崩すのと変らないと破壊者は考えるのだろうか? 自分とかかわりのない命など最初からないのと等しいとでも考えるのだろうか? 悲しみの場所、グランドゼロにはまた巨大な建造物が立てられようとしていた。僕にできるのは悲劇がくり返さないように祈る事だけだった。地下鉄に乗った時には時計が12時を回っていた。個展も残す所、今日と明日のみ。週末で来場者も期待される。僕は急いで会場に向った。

現実とは厳しいものだ。物を売るって行為もまた難しい。余程の有名ブランドや話題の商品ならば語らずとも多くの人が買って行くだろう。売り言葉が出て来ない販売員の売る変った商品が売れるはずもなかった。でもそれをとやかく言っても仕方ない。僕は展示方法を変えたり、照明の角度を変えてみたり、商品がより良く見えるように変えていった。しかし、売れない。これもまた現実だ。夢を見ているだけではダメだと気がつく、現実と向き合う勇気を持つ。僕はこの数日で得た教訓だ。売れない事で落ち込まなくなってきていた。必ず僕はもう一度挑戦するだろう。その時の為に何かを得て帰らなければいけない。運が悪かったなんて理由ではまた同じ事をくり返してしまう。自分の至らぬ所を見い出したくなった。僕はニューヨークで少し強くなった気がする。

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