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朗読用の物語のひろばコミュの「テッドおじさんの昔話」

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 Tedさんの声を聞いていたら、子供達に物語をお話しする「サンタクロース」のイメージが降りてきました。
 ということで、私が、書いていた朗読用の物語「大麗大陸物語」を、子供向けにリメイクしました。
 予定では、全8話ありますので、順次、リメイクして、投稿していきます。


[朗読の方法案]
1>全文を朗読する。
2>物語の部分だけ、朗読する。
  ’まもる’などの名前を、聞き手の名前に、替(か)えて、朗読してもよい。
3>子供達の質問に答えながら、朗読する。
  特に、「語尾」は、自由に変えてもよい。

[秘密]
1>暴力シーンがない
  「テッドおじさんの昔話」も「大麗大陸物語」も、
  暴力シーンがない「冒険物語」です。
  映画でもテレビでもゲームでも、暴力シーンがない
  「冒険物語」を見たことがありませんが、どうでしょうか?
2>’まもる’
  「大麗大陸」は、過去の世界です。でも、’まもる’なのは、
  ’〜’にすることで、日本人ではないことを、現しています。
  もし、英語に翻訳して朗読するなら、英語の名前に替えて、
  読んでくださいという意味でもあります。
  「大麗大陸物語」では、’まもる’は、「守る」と言う意味
  の名前である必要がありますが、今回の「テッドおじさんの
  昔話」では、問題が起きないように、リメイクしています。
3>日本語
  意識して、「日本語」だけを使って書いています。
  これだと、私自身が、書いていて、落ち着くのです。
4>姿・顔・服装
  私の物語の特徴にもなっていますが、「姿・顔・服装」を
  書いていません。私の夢の中に、降りて来てくれませんので、
  書きようがないのです。
  もし、イラストを描くようでしたら、どうなるのでしょうか?
  興味があります。
5>タイトル
  タイトルも、私の夢の中に、降りて来てくれませんので、
  私がつけています。「大麗大陸物語」というタイトルも
  第3話になって、私がつけました。
6>シーン
  私自身は、すぐにわかることでも、丁寧に説明しなければ、
  聞いている人には、分からないシーンや状況は、私が、
  付け加えて、書いています。

コメント(15)

こんばんは、テッドです。いま21時20分。会社に居ます。
もう物語が出来ているのでびっくり、感激です。

>予定では、全8話ありますので、順次、リメイクして、投稿していきます。

これ第1話なんですね。おお、長い!!
あと7話あるわけですね。
ううむ・・・・・・・・
この1話目も分割させてくださいね。僕もそうですが
お聴きになる人にも区切りを入れたほうがいいと思います。

これから家に帰ってゆっくり下読みさせていただきます。
こういう素晴らしいチャンスをいただいて
僕のこの先の人生もかなり充実したものになりそうです。
ありがとうございます。
早速ありがとうございました。
これでやってみたいと思います。
子供の声が(それなりに)自然に出るまで
しばらく練習させてください。
Tedさんへ

2分割にしたことで、一部分、修正が発生しました。
今、その作業をしていますので、もうしばらくお待ちください。
「テッドおじさんの昔話」 第1話 まもる(1)


 私が、地方にある総合病院の掃除夫として、働いていた時のことです。

 夜7時頃、私は、病院内にある教室、いわゆる院内学級を掃除するために、ドアを開けたんです。
 そうしたら、車椅子に座っている’まもる’が、私を、見上げて叫ぶんですよ。
「テッドおじさん。…ねぇ、テッドおじさん!……新しいお話、聞かせて!……」
 私は、戸惑(とまど)いました。
「あぁ……ここの掃除が、終わったらね。……」
「ホントだよ」
「あぁ」
「今、友達、呼んでくるね。……いいでしょ?」
「えっ?……まあ、いいか」
 ’まもる’は、車椅子を動かして、院内学級を出て行きました。

 30分後には、私の周りには、8人の小学生が、目を輝かせて、座っていたんです。
 ’まもる’と’すすむ’と’だいち’ちゃんと’もり’ちゃんの男の子4人、そして、’みちる’と’めぐむ’と’うみ’ちゃんと’みずうみ’ちゃんの女の子4人です。
 ……
 8人を代表して、’まもる’が、私に、催促するんですよ。
「テッドおじさん。……お願い、お話を聞かせて」
「そうさなあ。……うん。……あ、そうだ。……こんな物語は、どうかなあ。……8人の子供達の物語なんだよ」
 ’まもる’は、驚いていました。
「えーっ、僕たちと一緒だ」
「おぉ、そうだよ。……それも、男の子4人と女の子4人の物語だよ」
「うん、いい、いい。……そのお話、聞かせて」
 ほかの子供達も、笑顔を浮かべていたんです。

 私は、子供の頃、祖父(そふ)から聞いた物語を、話し始めました。

---------------------
 むかしむかし、’大麗大陸(だいれいたいりく)’という大陸がありました。その大陸はね、大きくて、綺麗なものだから、’大麗’と言うんだよ。
 ’大麗大陸’ではね、いわゆる超能力文明というべきものが栄えていたんだ。逆に、私たちの時代にあるような科学技術は発展していなくてね、つまり、電気・ガスなどはなくてね、自動車・電車・飛行機などの乗り物もないんだ。むしろ、この文明の特徴として、大陸の各地には、巨大な塔、’力を増幅する塔’、……通称’増幅塔’と言われるものが立っているんだ。人の念じる’力’に反応して、この’塔’が’力’を増幅させるんだよ。それだからね、この大陸では、いわゆる念力やテレパシーなどの超能力が実用化されているんだ。そのため、道路の整備は遅れて、’空飛ぶ船’による交通網が発達しているんだよ。
 ただ、大陸の中央部にある山岳地帯には、’増幅塔’が立てられずに、未開のままなんだ。人々は、この山岳地帯を’危険地帯’と呼んだり、’魔の地帯’と呼んだりして、この山岳地帯には、近づこうとしないんだ。何しろ、’空飛ぶ船’が間違ってこの山岳地帯に入り込むと、墜落するのだからね。

 さて、この’大麗大陸’の西の地方に、’泉の町(いずみのまち)’という綺麗な町があってね。そこに、’まもる’少年とお父さんの’海鳴り(うみなり)’が、住んでいました。
---------------------

 ’まもる’が、驚いて、小さな声で、私に話しかけてきたんですよ。
「え?……僕が、そこに、住んでいるの?」
 私は、軽くうなずきました。
 ’まもる’は、興味津々です。
 私は、話しを続けました。

---------------------
 ’まもる’が、7歳の時にね、’綾香(あやか)’という若い女性が、家政婦、……えーと、今では、メイドというのかなあ、……’綾香(あやか)’が、家政婦として、やってきました。
 ’まもる’のお母さんは、すでに亡くなっていたからね、すぐに、’まもる’と’綾香’は、仲良しになったんだよ。

 そしてね。’まもる’が8歳になった誕生日の日、’綾香’は、’空飛ぶ船’の廃船置き場に’まもる’を連れていったんだ。そうしたら、’まもる’はそこにあった100人乗りの’空飛ぶ船’をひとりで動かしたんだ。かなりの高さまで持ち上げ、半日ほど遊覧飛行をしました。
 実はね、’まもる’はねえ、生まれつき、’増幅塔’使いの達人であると同時にね、’増幅塔’が無くても、十分に’力’を発揮できる少年だったんだ。
---------------------

 この時の私の話に、’まもる’は、目を丸くして、驚いていたんですよ。

---------------------
 ’まもる’が9歳の時に、大変な事が起きたんだ。
 ……
 ある日ね、’まもる’と’綾香’が、家に帰ってくると、部屋の中は荒らされていて、お父さんの’海鳴り’が、倒れていました。
 ’海鳴り’は、死にかかっていたんだ。
 ……
 ’海鳴り’はね、かすかに目を開けて、’まもる’に、呟(つぶや)いたんだ。
「’まもる’。私が殺されても、決して復讐してはいけない。そして、おまえの’力’も決して使ってはいけない」
 ’まもる’は、この言葉に、大変驚いていたんだけど、しっかりとうなずいたんだ。
 そのあとでね、’海鳴り’は、’綾香’に向かって、お願いをしました。
「’まもる’を、’繭(まゆ)の村’に連れていってほしい」
 ’繭の村’は、山岳地帯にある’綾香’のふるさとの村なんだ。
 これだけ言うと、’海鳴り’は、死んだんだよ。誰かに殺されたんだ。でもね、誰に殺されたかはわからないんだけどね。
 ……
 ’まもる’を狙って襲ってきたのは確かなんだ。’まもる’を手に入れれば、その国の’力’は最強になると思っているから、どの国も’まもる’を欲しがっているんだ。
 ……
 それは、お父さんを殺されて、’まもる’は、嘆(なげ)き悲しんだよ。しかし、’まもる’は、うらみ言を一言も言おうとしなかったんだ。むしろ、自分を責めていたんだ。
 そしてね、’綾香’が気が付いた時には、’まもる’は、自分の’力’を使わないように決意していたんだ。それ以来、’まもる’は、無口になったんだよ。
---------------------

 この話を聞いていた’まもる’も、無口になっていたんだ。
 きっと、’海鳴り’の言葉に、驚いたんだろうね。

---------------------
 そのあと、’綾香’は、’まもる’を連れて、町を逃げだし、’風の民’の’赤つばめ’に助けを求めました。
 ’風の民’の勇者’赤つばめ’は、’力’を使い、垂直に飛び上がり、背中にくくりつけている赤い翼を器用に広げると、風に乗る。’赤つばめ’の名の通り、自由に空を飛び回る。その姿は、本当に美しくしいんだよ。
 ’まもる’と’綾香’は、一目で、’赤つばめ’を気に入ってね。だから、’綾香’は、無理なお願いをしたんだ。
「山岳地帯の私のふるさと’繭の村’に私たちを無事に連れて行ってほしい」ってね。
 初めは、’赤つばめ’は大変いやがっていたんだけど、最後には、’まもる’と’綾香’を護衛することになりました。
 ……
 3人はね、9ヶ月も歩いて、南の登り口付近から、山岳地帯に入っていきました。
 ’まもる’は、一切の’力’を使わないように決意していたし、’空飛ぶ船’も使えないからね。それこそ、あらゆる国が、’空飛ぶ船’の発着場を見張っているので、歩くのが一番安全だったんだ。
 ……
 そして、山岳地帯には、’増幅塔’もないから、結局、3人は、山道を3ヶ月も歩いて、ようやく’繭の村’に着きました。
---------------------

 この話を聞いていた’まもる’は、ふーって、ため息をついたんだ。

                   (つづく)


---------------------------------------------------------
「テッドおじさんの昔話」 第1話 まもる(2)


 私は、話しを続けました。

---------------------
 ’大麗大陸’を、1年間も歩いて、’まもる’と’綾香’と’赤つばめ’の3人は、ようやく’繭の村’に着きました。
 そしてね、その間(あいだ)、ずーっと無口だった’まもる’は、村人から、心のしこりをほぐしてもらって、少年らしい明るさを取りもどしたんだよ。
 ……
 その夜、村の広場で、’意識による会議’が行われました。広場の中央に一本の背たけほどの棒が立っていて、この広場をおおうだけの超小型の’増幅塔’です。’増幅塔’といっても、平地にある巨大な’増幅塔’とは大きく機能が異なり、深い意識段階の’力’の増幅も可能にしています。
 3人は、目をつぶり、深い意識段階に降りていきました。夢を見ているようで、でも、普通の夢と違うのは、ここにいる誰もが同じ夢を見ていることと誰もが理性をしっかりさせていることなんです。
 ……
 ’綾香’は、真心を込めて話しはじめました。
「私達の村は、新しい段階に入ろうとしています。私達は、繭を飛び出す時期にきています。
 3年前の’会議’の中で、ふたりの子供の姿があらわれた時、私達の立てた計画の中で大事な役割を果たす子供達だと思いました。それゆえ、私達は願いを込めて’希望の子’と呼んだのです。しかし、’まもる’は、私達の想像を越えた少年だったのです。
 ’まもる’の父親の’海鳴り’やここにいる’赤つばめ’がそうであるように、平地の町の中にも、心ある人がいます。愛に生きる人もいます。この’まもる’にいたっては、まだ少年でありながら、自らを律し、恨みの思いを克服しました。
 ……
 そして、今、分かった事ですが、……この’意識による会議’で、分かった事ですが、……’まもる’は、この旅の間ずっと、大地に祈りを捧げていました。’まもる’は、一歩一歩の歩みの中に、『許してね。助けてね』という祈り、つまり、『大地よ、人間を許してね。大地よ、人間を助けてね』という祈りを込めていたのです。’まもる’の無口のもう一つ理由に気づかなったなんて、私は、大変恥ずかしく思います。
 ……
 みなさん!
 注意深さは必要ですが、私達は新しい計画を立てるべきでしょう。
 人は、皆異なる体験をするがゆえ、異なる’ちえ’を身につけています。しかし、その’ちえ’は、他の人の目に触れることがほとんどありません。それは、人が自らを閉ざしているからなのです。それゆえ、この村で生まれた’意識による会議’は、’ちえ’の結合・発展を効率よく行う画期的な発明だったのです。
 私達は、より多くの’ちえ’と結びつく道を歩むべきだと思います」
 ’綾香’が、発言を終えると、「賛成」の声があちらこちらからあがりました。
 少年らしい明るさを取り戻した’まもる’が、話し始めました。
「本当にありがとうございました。僕は、おかげで助かりました。命が助かっただけではないんです。’綾香’や、’赤つばめ’に守られて、僕は、この’繭の村’に来たけど、まるで、ここはふるさとみたい。
 ……
 僕は、この’会議’ってすごいと思うよ。この’会議’を知ったら、町の中にも、一緒になって考えてくれる人も出てくると思うんだ。だから、お願い。町の人たちとも手をつないでほしい。
 ……
 ああ、そうだ。大事な話があるの。
 あのー、ここに来て分かったことがあるんだ。
 この大陸が海中に沈むのは、町にある’増幅塔’のせいなんだ。
 ……
 この’繭の村’は、この大陸の中心にあるでしょう。そして、この村の中心に、’増幅塔’を立てている。それに、この’増幅塔’は、大陸の’力’をできるだけ活かそうとしているし、この村は、必要以上に’増幅塔’に頼ろうとしていない。
 このせいだと思うんだけど、僕は、さっき’大陸’の意識が見えたよ。辛そうにしている大陸の姿がはっきり見えたんだ。前は、何となく感じていたことがここでははっきりしたんだ。
 それじゃ、僕が見た物を、そこに映してみるね」
 ’まもる’は、自分が見た物を映し出しました。
 大陸全土が映し出されています。大陸の中心部にある山岳地帯は明るく輝いていますが、周辺部の町は暗く黒ずんでいます。大気が汚れているのではありません。人間の意識が作り出しているのです。
「町にある’増幅塔’は、大陸の持つ一部の’力’しか使っていないの。
 大地は、植物を育て、動物を育て、人間を育てている。人間の体のほとんどは、この大地の鉱物からできているでしょう。人は、太陽の恵みを受けながら、大地から生まれて、大地から育てられているんだ。
 つまりね。人間の’力’は、大地の’力’と同じなんです。だから、’増幅塔’で大地の’力’を取りだし、人間が利用できる。だけど、人間は、利用しやすい’力’だけを利用して、利用しにくい’力’は捨てているんだ。それも大量に。
 さらに、悪いことに、人間が利用しやすい’力’は、大地を支えている’力’なんです。……
 この大陸の上では、未だに戦争がつづいているでしょう。そのために、さらに巨大な’増幅塔’が、次から次と作られているでしょう。
 だから、大陸を支える’力’はかなり減っていて、大陸を沈める’力’は大陸の上にかなり増えている。……いつ沈んでもおかしくないんです。
 こんな事、とても恐ろしい事なんだけど、誰も気づけないんだ。
 あの時、僕が恨みにまかせて、’力’を使っていたら、この大陸は沈んでいたかもしれない。……
 こんなことって、僕には耐えられなかった。だから、僕は自分の’力’を使わないように決意したんだ。
 だけど、もしも、どこかで、この大陸の’力’を瞬間的に大量に引き出したら、この大陸は沈み始めるんだ。
 沈み始めたら、もはや誰もが止めようがないの。
 大きな地震が起き、火山が大爆発し、大きな津波が起きる。
 半年もしないうちに、この大陸は、海中に沈んでしまう。
 ……」
 沈んだ雰囲気の中で、’赤つばめ’が、元気な声で話し始めました。
「皆さん。大丈夫だよ。まだ沈んでいないんだから。
 それに問題の本質も分かったしね。後は、計画を立てて、行動に移すだけだよ。大陸が沈むかどうかは、大陸にまかせて、俺達は、やるだけのことをやればいいんじゃないの?」
 あんまり明るい声なので、今まで沈んでいた雰囲気が一変しました。
 そうしたら、’綾香’は、’赤つばめ’に疑問を投げかけたんだよ。
「’赤つばめ’。あなたって、どうしてこんなに明るいの?」
 ’赤つばめ’は、なんでもないかのように話したんだ。
「俺は、’風の民’だよ。風まかせに生きるのが、俺達の流儀なんだ。風は、俺達に希望を運んでくるんだ。
 大いなるものに、身をゆだねて生きる’ちえ’が、’風の民’のいいところかな。
 それにだ。まだ、’綾香’との恋愛も、まだ始めっていないんだよ。これでは、死んでも死にきれない」
 ’綾香’は、あわてて、「みんなが聴いているのよ」というと、’赤つばめ’の頭をポカリと叩いたんだ。
 ’赤つばめ’は、痛そうに頭をさすりながら、小さくなってね、……親指位になると、飛び上がり、翼を広げて、表示されている新しい計画に飛んでいったんだ。
『’繭の村’は、この大陸全土に、危機回避の’ちえ’を求め、それらを結合・発展させる拠点になっていこう』という計画に飛んでいったんだ。
 ’赤つばめ’のあとを追って、小さくなった村人も飛んでいきました。
 ’綾香’も、’まもる’も、小さくなってみんなの後を飛んでいったんだよ。
 投票が終わると、村長の’絆’が、宣言しました。
「投票方法は、大変突飛な方法になったが、投票自体は有効でしょう。
 よって、新しい計画を採択します」

 最後に、議長が、’意識による会議’の終わりを告げると、みんなは、深い意識段階から普段の意識に戻りました。
 目を開けると、’聖なる山々’に朝日が登ろうとしていました。
 みんなは、この朝日に、とっても感動したんだよ。
 ……
 その時、’まもる’が、’綾香’に相談を持ちかけました。
「’綾香’。少女が助けを求めているんだ」
 ’綾香’が、「少女って?」と、尋ねたらね、’まもる’は、「もう一人の’希望の子’なんだ」と答えたんだ。

 次の日の朝、’まもる’と’綾香’は、少女を助けるために、’赤つばめ’が作った3人乗りの翼に乗ったんだ。
 ……
 ’まもる’の’力’で、垂直に’聖なる山々’より高く飛び上がりました。飛び上がると、’赤つばめ’が、器用に翼をあやつり、’聖なる山々’の上を飛んでいきました。
 大地は、3人を祝福しているかのように、美しい景観を見せていました。
---------------------

 話し終えると、8人の子供達が、暖かい拍手をしてくれたんだ。
 そして、’まもる’が、「ありがとう、テッドおじさん」と、言ったんだよ。
 嬉しかったなあ。

                   (おわり)

『「大麗大陸物語」 第1話 繭の村』の改編
2005/7/13
志村貴之
>朗読の方法案]
>1>全文を朗読する。
>2>物語の部分だけ、朗読する。
>  ’まもる’などの名前を、聞き手の名前に、替(か)え>て、朗読してもよい。
>3>子供達の質問に答えながら、朗読する。
>  特に、「語尾」は、自由に変えてもよい。
■ありがとうございます。
まだ下読みしていますが、
次のように「私」を意識して読んでみたいと思います。
?「私」→朗読の聴き手に向かう→デスマス調で
?物語りの語り手としての「私」→
子供たちへ向かう→目線を下げた対話調で
(子供たちの目を見ながら語尾が微妙に変わるような)
先ほどJuly 18, 2005, 1:06 amアップしました。
お待たせしました。
「テッドおじさんの昔話」第1話 まもる(その1)
10分37秒

http://www.voiceblog.jp/ted606/

ありがとうございます。とても読み応えがあります。
かけがえのないチャンスを下さったこと感謝しています。
第1話まもる(その2)も続いてアップしますのでお楽しみに。
わーっ!イメージ通りです。
Tedさんが、「テッドおじさん」に感じられて、
そのお話を聞いている私は、とても幸せな気持ちになりました。
ありがとうございました。
(その2)も、とっても楽しみです。
「テッドおじさんの昔話」 第2話 みちる(その1)


 その夜も、私の周りには、8人の小学生が、目を輝かせて、座(すわ)っていたんです。
 ’まもる’と’すすむ’と’だいち’ちゃんと’もり’ちゃんの男の子4人、そして、’みちる’と’めぐむ’と’うみ’ちゃんと’みずうみ’ちゃんの女の子4人です。

 私は、’まもる’のそばに座っている’みちる’が、気になっていました。
 ’みちる’は、右耳に包帯が巻かれていて、物静かにしていますが、私は、心(こころ)の強さを感じていたんです。

 私は、’みちる’に、話しかけました。
「今日は、’みちる’姫の話をしようね」
 ’みちる’が、目を丸くしました。
「姫って、私、お姫様なの?」
「うん、そうなんだ。’月の国’の’みちる’姫は、もうひとりの’希望の子’なんだよ」
 これを聞いた’みちる’は、「えーっ」と、驚いていたんだ。

---------------------
 ’大麗大陸’の’東の地方’にある’月の国’と’太陽の国’の物語です。
 ……
 ’月の城’のそばに建つ’増幅塔’は、停止されています。なぜなら、’月の城’の姫様達は、月の’力’を受け取っていますから、’増幅塔’は、姫様達の精神を乱(みだ)すだけなんです。
 ……
 ’みちる’姫は、’月の国’のお姫様で、9歳でした。
 そして、半月もすれば、’みちる’姫と’太陽の国’の王子の結婚式が、おこなわれます。しかし、それは、かなり政治的なものであるため、’みちる’姫は、’月の城’の自分の部屋に押し込められていて、扉の前には、’太陽の国’の兵士ふたりが、見張りで立っていました。

 満月の夜、’みちる’姫の部屋の窓から、’風の民’の’あげは’が、忍び込んできました。
 ’あげは’は、’みちる’姫に、声をかけました。
「怪(あや)しい者ではないわ」
 なんと、’みちる’姫は、’あげは’の心の中に、(はい、分かっています)と、明るく答えたんです。
 ’あげは’は、「え?」と呟(つぶや)きました。
 実は、’みちる’姫は、生まれつき耳が聞こえません。そのため、口もきけないのです。しかし、’みちる’姫は人の唇が読めるので、’みちる’姫に顔を向けて話せば大丈夫なんです。その上、満月の時には、人の心が読めるようになり、伝えることができるようになります。さらに、’みちる’姫は、人の考えだけではなくて、もっと深い段階の意識まで読めるようになるのです。
 ’みちる’姫が、’あげは’の心の中に、応えました。
(ですから、『怪しい者ではない』って、分かっています)
 ’あげは’は、’みちる’姫に、しっかりと話しかけました。
「私は、’あげは’。……’みちる’姫に、話しがあって、ここに来ました」
(はい、’あげは’様。……どうぞ、お話しください)
 そこで、’あげは’は、’みちる’姫に、今までのいきさつを話しました。

「今から、4ヶ月前、ひとりの行き倒れの男を助けたの。三日三晩、看病したわ。彼は、高熱にうなされていて、意識もあまりはっきりしなくて、だめかと思っていた。……四日目の朝、私に気付いて、少し話しができたの。小さな声で、私にお願いするのね。本当に、熱心に、私に、お願いをするの。それが最後だった。結局、私は、名前すら分からない男の遺言を聴いたことになったわ」
 ’あげは’は、そう言うと、一枚の絵を出しました。
「この絵を見て。この絵は、その時の男が描いたものなの。ほら、ここのところに、海中に沈む大陸が描かれているでしょう」
 ’みちる’姫は、驚きました。
 ’あげは’は、さらにもう一枚の絵を出しました。
 そこには、’みちる’姫が、描(か)かれています。
 それを見て、’みちる’姫は、さらに驚きました。
「その男は、私に、『この絵の少女は、人類の’希望の子’なんだ。だから、この地方にいるこの少女をさがしだし、山岳地帯にある’繭の村’に連れていってほしい』というの。そして、もうひとつ、『こちらの絵に描いてある計画は、間違っていると、’繭の村’に伝えてほしい。この大陸から逃げだすことも、人々に伝道してまわることも、両方とも間違っている』と言っていた。
 私は、その男の話を信じたわ。山岳地帯にある’繭の村’にどうやって連れていったらよいかは分からないけど、まずは少女をさがしだそうと思ったの。
 そこでね。私は、’風の民’に助けを求めた。
 そうしたら、今から約一年前に、’繭の村’の若い女が、一人の少年とあらわれて、’繭の村’までの護衛を頼んできたので、私の兄の’赤つばめ’がついていったと言うの。たしか、若い女の名前は、’綾香(あやか)’、少年の名前は、’まもる’と言っていたわ」
 ’みちる’姫は、首をかしげて、’あげは’の心の中に、話しかけました。
(’綾香’様に、’まもる’様ですか?……どちらも、知りません)
 ’あげは’は、話しを続けました。
「ここからが、大変だった。私達’風の民’の総力をあげてこの絵の少女をさがしたの。3ヶ月かかって、やっと見つけだしたわ。
 ……
 この絵の少女は、’月の国’の’みちる’姫、あなただった。なかなか分からないはずよ。あなたは、病弱でこの城から出たことがなかったんですもの」
 ’あげは’の話しを聞いて、’みちる’姫は、涙を流していました。そして、泣きながら、’あげは’の心の中に、(’繭の村’に連れて行ってほしい)と話しかけるんです。
 そこで、’あげは’は、’みちる’姫を連れて、’月の城’を抜け出しました。ところが、城を抜け出した所で、’太陽の国’の兵士に見つかって、’あげは’は、’月の城’の牢屋に閉じこめられ、’みちる’姫は、結婚式のために、’太陽の国’に連れて行かれました。
---------------------

 ’みちる’が驚いて、「私、本当に結婚するの?」と呟(つぶや)いたんです。

                   (つづく)

---------------------------------------------------------
「テッドおじさんの昔話」 第2話 みちる(その2)


 私は、’みちる’に向かって、話し始めました。

---------------------
 半月が経ち、新月の夜です。
 明日は、太陽に月が重なり、’光司(こうじ)’の弟と’みちる’姫の結婚式をおこなわれます。
 ’光司’は、’太陽の国’の王子ですが、3年前に、王位継承権は弟にゆずり、’大麗大陸’の異変を調べて、あちらこちら旅をしていました。
 そして、最近は、’月の国’に来ていました。
 その’光司’は、’太陽の国’の王子という立場を利用して、’月の城’の牢屋にいた’あげは’を救(すく)いだすと、今度は、’あげは’と一緒に、’みちる’姫の救出に向かいました。

 その夜、’太陽の国’の’太陽の城’のそばにある’増幅塔’です。
 ’光司’と’あげは’は、’増幅塔’の上にある扉の中に入り、下に降りていきました。
 しばらく、らせん階段を降りて行くと、塔の真ん中位に小部屋を見つけました。
 ’光司’が小部屋の扉を開けて、ふたりで中に入りました。
 ひとりの少女が、あなたに背中を向けて、小さな窓から夜空をながめていました。
 ’光司’は、少女に声をかけました。
「’みちる’姫。’みちる’姫でしょう?」
 しかし、少女は、振り返ろうとはしません。不思議に思っていると、’あげは’が、少女に近づき肩を軽く抱いて顔をのぞきました。少女が’あげは’の顔を見て驚いているようです。
「’みちる’姫。助けにきたのよ」
 ’あげは’がそう言うと、’光司’に説明しました。
「’みちる’姫は、生まれつき耳が聞こえないの。そのため、口もきけないわ。しかし、彼女は人の唇が読めるので、彼女に顔を向けて話せば大丈夫よ。
 それともう一つ。今日は新月だから、だめなんだけど、満月の時には、人の心が読めるようになるわ。人の考えだけではなくて、もっと深い段階の意識まで読めるようになるの」
 ’光司’は、’みちる’姫のかわいそうな身の上に、心を痛めました。
 その時、(ありがとう。心配してくれて)の言葉が、’光司’の心の中に届きました。
「’あげは’。’みちる’姫が、僕の心の中に話しかけてきたよ」
「そのようね。私の方にも、心の中に話しかけてきているの。あなたのこと。素敵な人だって。’みちる’姫、あなたを大変気に入ったみたい。
 あなたのことを’みちる’姫に紹介しておいたわ。
 あなたが、’太陽の国’の王子の’光司’だって言ったら、『そのためかしら』だって。
 そうよ。’光司’のせいだわ」
「何が、僕のせいなんだ」
「だから、満月でもないのに、’みちる’姫が、’力’が出せるのは、あなたがここにいるからなの。
 分かるかしら。
 月は、太陽の光を反射して、夜を照らしているでしょう。
 それが、起きたのよ。
 太陽である’光司’が、月である’みちる’姫を照らし、’みちる’姫を満月にしたの。
 つまり、’みちる’姫自身が満月になったのだから、’みちる’姫の’力’が使えるようになったのね。
 きっと、そうよ」
「ひょっとして、それが、僕の’力’ってこと?」
「そうだわ。そうに決まっているわ。
 太陽が自分のために光っているなんて、聞いたこともないわ。
 もともと太陽って、太陽以外のために光っているもんでしょう?
 つまり、あなたは、’みちる’姫の’力’を増幅させる’増幅塔’みたいなものじゃないかしら?」
 ’光司’は、唖然(あぜん)としました。
 ’みちる’姫が、’光司’の心の中に話しかけてきました。
(’光司’様。ごめんなさい。私は、決して’光司’様のお荷物にはなりませんわ)
 ’光司’は、’みちる’姫に答えました。
「ちょっと、驚いただけです。あなたが、私にあやまる必要はありません」
 ’あげは’が、口をはさみました。
「そうよ。’みちる’姫は、気にしなくてもいいのよ。’光司’は、あなたを助けてくれるわ」
 ’みちる’姫が、また、’光司’の心の中に話しかけてきました。
(’光司’様。下から、’光司’様のお父様が上がってきます)
 ’光司’は、’あげは’と’みちる’姫に指示しました。
「ここから、出よう。今父に話しても、どうにもならないからね。
 ……
 ’あげは’。僕たちふたりを抱えて、飛ぶことができるかい?」
「ちょっときびしいわね。でも、やるしかなさそうね」

 ’光司’は、ふたりを連れて、今度はらせん階段を上にあがっていきました。しばらくすると、下の方が騒がしくなります。どうやら気付かれたようです。
 ’光司’は、ふたりをいそがせて、’増幅塔’の上にでました。’増幅塔’のまわりが、先ほどよりかなり明るくなっています。兵士が、’増幅塔’のまわりを取り囲み騒いでいました。
 ’光司’と’みちる’姫が’あげは’の背中にしがみつくと、’あげは’は、羽を広げ、5、6歩助走をしてから、夜空に舞い上がりました。
 下の方から、怒鳴り声が聴こえ、あなた達をめがけて、大きな石がいくつも飛んできました。’光司’のそばをかすめる石もあります。

 一せきの小型の’空飛ぶ軍船’が、真下から迫ってきました。
 軍船が真下から近づいて来るため、石が軍船にあたり、それていきました。
 ’みちる’姫が、(味方の船です)と言いました。
 軍船の上部の扉が開き、ひとりの若者が出てきました。軍船の上に立ち、大声で叫んでいます。
「おーい!’あげは’!ここに降りるんだあ!」
 ’あげは’は、その声に気づき、叫びました。
「え?お兄さん?助かったわ。そこに降りるわね」
 ’あげは’は、ゆれる軍船の上にも、あぶなげなく降り立ちました。
 「さあ、早く」の声に、’光司’、’あげは’、’みちる’姫の3人は、軍船の中に入りました。
 最後に、’赤つばめ’が軍船に入り、扉をしめ、大声で叫びました。
「’まもる’。3人とも、無事乗り込んだ。速度をあげるんだ」
 軍船は、速度をあげ、’太陽の城’から離れていきました。しかし、後ろからも前からも、大型の軍船があらわれ、行く手をはばまれます。突然’みちる’姫達を乗せた軍船は、上昇し始めました。
 ’赤つばめ’が、叫びました。
「’まもる’!上昇しても、’空飛ぶ船’は、’増幅塔’の高さ以上にいけないんだぞ!」
 ’まもる’が、答えました。
「そこにいる少女が、『上昇して!大丈夫だから』って言うんだ」
 誰もが不思議に思っていると、’みちる’姫達を乗せた軍船は、’増幅塔’の高さを越えて上昇しつづけました。
 どうやら、大型の軍船は、’増幅塔’の高さ以上にいけないようです。はるか下の方から数せきの大型の軍船が石を飛ばしていますが、ここまではとどきません。
 ’赤つばめ’が、’まもる’に指示を出しました。
「’まもる’。そろそろ、船を止めても大丈夫だよ。もうここまで、石は飛んでこないようだからね」
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 この時、’まもる’は、嬉しそうに、’みちる’を見つめていたんです。

                   (つづく)

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「テッドおじさんの昔話」 第2話 みちる(その3)


 私は、話しを続けました。

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 月は出ていませんが満天の星空の中に、6人を乗せた軍船が浮かんでいました。
 軍船の中では、時計回りに、’光司’から、’あげは’、’赤つばめ’、’綾香’、’まもる’、’みちる’姫の順に、6人が輪になって座っています。つまり、’光司’の左隣に’あげは’、右隣に’みちる’姫が座っていました。
 輪の真ん中には、あかりが一つだけともされています。
 6人は、お互いの自己紹介をおこない、今までのいきさつを説明しあいました。この時、’みちる’姫だけは、それぞれの人の心の中に話しかけました。
 ……
 そして、’光司’は、疑問をなげかけました。
「なぜ、この船は、’増幅塔’の高さを越えて、こんなに高いところまで飛べるのかなあ?」
 ’綾香’が答えました。
「’まもる’は、’増幅塔’がなくても’力’を出せます。その’力’が増したのだと思います。日に日に、’まもる’の’力’が強くなっているのですから」
 ’あげは’が付け加えました。
「それに、もう一つ。’みちる’姫の’力’が、’まもる’の’力’を増幅させていると思うわ。’まもる’には、’海の民’の血が流れているでしょう。海の潮の満ち引きは、月の運行に影響を受けていることを考えれば、’みちる’姫の’力’が、’まもる’の’力’を増幅させてもおかしくないはずよ。
 そして、その’みちる’姫の’力’は、’光司’の’力’によって増幅されていると思うの」
 最後に、’まもる’が、発言しました。
「うん。’みちる’姫の’力’も感じるよ」
 ’光司’は、次の疑問をなげかけました。
「あの時、’綾香’達三人は、どうして僕たちの真下にいたのかな?」
 ’みちる’姫が答えました。
(’あげは’様から’繭の村’の絵を見せられていましたので、半月前、’太陽の国’の兵士に連れ去られる時に、思わず’繭の村’を思い描いて、『助けて』って叫んだのです。その時は満月だったので、’まもる’様に伝わったんだと思います)
 ’まもる’が付け加えました。
「’太陽の城’のそばまで来ていた僕たちは、’みちる’姫が’増幅塔’の中にいることが分かんたんだ。’みちる’姫が、’増幅塔’の上から三人で飛び出すことを教えてくれたので、近くにあったこの船をちょっと借りたんだ」

 明け方近くになっていました。
 ’光司’は、これからのことをみんなにたずねました。
「これから、僕達は、どう行動したらよいと思いますか?
 みんなの考えを聴かせてください」
 ’あげは’が発言をしました。
「その前に、大事な話があります。昨日からずっと’光司’と一緒に行動して気付いたことがあるんです。’光司’の’力’は、’増幅塔’とは別の’力’だったんです。’光司’の’力’は、やはり太陽の’力’だと思うんです。その’力’は、はっきりしている所だと、’みちる’姫の’力’を増幅しているのね。でもそれだけじゃないんです。’光司’のまわりにいる人の洞察力を高めているんじゃないかと思います。’白日(はくじつ)のもとにさらす’という言葉あるでしょう。隠れていたものを誰の目にも明らかになるようにするという意味なんですが、その力を’光司’の’力’が増幅していると思うの。人が持つ’ちえ’を引き出し、その’ちえ’を高める。そんな’力’を持つ’光司’は、その’力’が活かされる所に赴(おもむ)くべきだと思うわ」
 ’綾香’が、発言しました。
「そう言えば、以前、’まもる’が、『人は、太陽の恵みを受けながら、大地から生まれて、大地から育てられているんだ』と言っていたんですよ」
 ’あげは’が、付け加えました。
「そうよ。太陽って、明るい光だけではないんだわ。生命が持つ’ちえ’も育てているんだわ。きっと。
 私は、今この時点では、’光司’の動きがこの大陸の未来を大きく変えると思うの。
 だから、’光司’!慎重に考えて、大胆に行動してほしいわ」
 ’みちる’姫が、’光司’に向いて、とんでもない発言をしたんだ。
(’光司’様は、’太陽の国’の国王になられたらよいと思います。
 ……
 ’光司’様のお父様は、私には、いつも優しい言葉をかけてくださいます。
 実は、今日の結婚式は方便で、本当は、結婚式に来る他国の方々の中から、信頼できる人間を見つけ出してほしいと、私にお願いするのです。私に人の心を読んでほしいというのなら、私はお断りするつもりでしたが、そうではないとの事でした。お父様は、新月の夜になると、私の’力’がなくなることを知っていたのです。だから、あえて太陽と月が重なる日が選ばれたのです。
 お父様は、’光司’様に大変似ています。お父様は、自分が背おうべきものならどのような重荷も背おう覚悟をされています。ただ、’光司’様と違うところは、お父様のまわりには、信頼できる方々がいないところです。唯一’光司’様を信頼していたのに、’光司’様を怒らせて城を出ていかれたと言って、涙を流されていました。
 ……
 ’光司’様。本当に、お父様は、今でも’光司’様を国王にしたいと思っていますわ)
 父に対する’光司’のわだかまりが消えていきました。’光司’は、その想いを話し始めました。
「父の後ろ姿は、いつも苦悩に満ちていました。その時は、そこから、僕は逃げたかったのです。もちろん、そのまま僕が国王になっても、父と同じように、重荷に苦悩し、その上、独善の罠にも落ちていたことでしょう。
 確かに、今なら違います。今なら、僕が国王になる意味があります。
 この3年の間に、多くの信頼できる人々と出会いました。まさに、’繭の村’が立てた計画の幅広く’ちえ’の結合・発展をおこなうのに欠かせない人達なんです。しかし、その拠点が’繭の村’だけというのなら、それは遠すぎます。少なくても一つは、’増幅塔’文明の中にも作るべきでしょう。僕が国王になることで、新たな拠点ができるのなら、それこそ僕が背おうべき責任でしょう」
 みんなは、’光司’の決断を大変喜んでいました。’あげは’は、’光司’の手を強く握りしめてきました。
 ’光司’は、みんなに相談を持ちかけました。
「僕が国王になるにあたって、二つほど条件があるんだけど。
 ……
 まず一つ。ここにいるみんなは、’太陽の国’に住んで、僕のそばにいてほしんだ。新しい国作りを手伝ってほしいんだ。おそらくこの新しい国作りの中で、この大陸の危機を回避できる道を発見できるんじゃないかな……もちろん’みちる’姫が住めるように、城のそばの’増幅塔’の機能を停止しようと思う」
 これには、みんなは賛成しました。
「もう一つ。これは、ちょっと、言いにくいなあ。……」
 ’あげは’が、’光司’手を優しく握ってきました。’光司’を励ましているのです。
 ’光司’は、’あげは’の方に向き、’あげは’の目を見つめました。
「’あげは’。……君と結婚したいんだ」
 ’あげは’は、「え?」と言って、’光司’を見つめなおします。
「’あげは’に対する想いは、たくさんあって、一言で言えないけど、
 ……
 ’あげは’とは、いつも一緒にいたいんだ」
 ’あげは’の顔に笑(え)みがこぼれました。
「私は、賛成よ。……とても嬉しいわ。
 昨日、’光司’に初めて会った時から、予感があったの。’光司’にずっと前から会いたいと思っていたのね。’光司’って、私と似ているところがたくさんあって、出会う前からとても親しみを感じていたわ」
 みんなも、「賛成」とか「おめでとう」とかを言って、’光司’と’あげは’を祝福したんだ。
 ’みちる’姫が、’光司’に質問しました。
(’光司’様。結婚式は、いついたしますの?)
 ’光司’は、答えました。
「いくらなんでも、まだ決められないよ。父との話が先だからね。それに、’風の民’の村長にも話さなくてはいけないだろう」
 ’みちる’姫が、まともやとんでもない発言をしたんだ。
(’光司’様のお父様も、’あげは’様のお父様も、賛成されていますわ)
 ’みちる’姫は、みんなが驚いているのを無視して、話を続けました。
(実は、私達が、ここに輪になって座った時から、’光司’様のお父様、’あげは’様のお父様、’繭の村’の村長様、そして、私のお母様の四人のお方に、ここでの話を全部伝えていましたの。
 自分かってなことをして、ごめんさい。でも、うまく説明できないのですが、四人のお方にお伝えする必要があると確信していたんです。……
 あのー。’光司’様のお父様は、今日のお昼に結婚式をあげたいとおっしゃっておられます。私の結婚式のかわりに’光司’様と’あげは’様の結婚式をあげてほしいとおっしゃっておられますが。
 ……)

 明るくなるにつれて、暗闇に隠れていた大陸全土が姿をあらわし始めました。あまりの美しさに6人は声も出ません。まるで、今日の’光司’と’あげは’の結婚式を祝福しているかのようです。
 ……
 しばらくしてから、’光司’は、’まもる’に声をかけました。
「’まもる’。そろそろ、ちょっと借りてきたという軍船を返しにいこうか。言い訳は、’まもる’が、考えるんだよ」
 ’まもる’が、「はーい。’綾香’も’赤つばめ’も一緒に考えてね」と答えました。
 船内に笑いがこぼれます。
 ……
 軍船は、初めはゆるやかに下降し、徐々に速くなっていきました。それにともない、朝日に輝く大地がぐんぐん近づいてきました。
---------------------

 私の目の前で、’まもる’と’みちる’が、顔を見合わせて、微笑(ほほえ)んでいました。

                   (おわり)

『「大麗大陸物語」 第2話 太陽の国』の改編
2005/7/18
志村貴之
「テッドおじさんの昔話」 第3話 だいち(その1)


 その夜も、私の周りには、8人の小学生が、目を輝かせて、座(すわ)っていたんです。
 ’まもる’と’すすむ’と’だいち’ちゃんと’もり’ちゃんの男の子4人、そして、’みちる’と’めぐむ’と’うみ’ちゃんと’みずうみ’ちゃんの女の子4人です。

 ’だいち’ちゃんは、とても元気な子供ですが、交通事故で、左腕に包帯が巻かれて、首から、Lの時に吊られていました。

 私は、’だいち’ちゃんに、話しかけました。
「今夜は、’だいち’ちゃんの物語をしようね」
 ’だいち’ちゃんは、喜んでいました。
「えっ?……僕?」
「うん。……でもね、まだ生まれていないんだ」
 ’だいち’ちゃんは、びっくりしていました。
「’あげは’は、……’光司’王と結婚したから、’あげは’王妃になったんだけど、その’あげは’王妃のお腹(なか)の中に、’だいち’ちゃんは、いるんだよ」
 ’だいち’ちゃんは、「えーっ!」と、嬉しそうに目を輝かせていました。

 私は、物語を、話し始めました。

---------------------
 ’光司(こうじ)’と’あげは’の結婚式から、約2年がたちました。
 ’太陽の国’がある東の地方では、国同士の争いがおさまり、連合国が生まれていました。しかし、それがかえって、北の地方にある強大な’大麗[ダイレイ]帝国’との対立を激化させ、’大麗帝国’では、より巨大な’増幅塔’が増え続けていました。

 さて、ここは、’地底の町’です。
 ’大麗大陸’の街は、ほとんどが石によってできています。それゆえ、’大麗帝国’は、街の真下に石の切り出し場を造りました。そこが、徐々に地下深く広がっていき、そこに石の切り出し作業者が生活するようになったのです。さらに、’大麗帝国’からはみ出した人達や罪人、さらに他(ほか)の地方からの流れ者が住みつくようになって、不思議な熱気を持った町になりました。
 また、この’地底の町’は、あらゆる国の人々が流れ込むため、多くの噂話が飛びかう、情報の町でもあります。

「’灯明(とうみょう)’さん。いますか?」
 と、’真夏(まなつ)’の声が聞こえました。
「はーい。仕事場でーす。どうぞ、お入りください」
 と、’灯明’は、応えました。
 ’真夏’を先頭に’まもる’と’みちる’姫が、仕事場に入ってきました。
「やあー。’真夏’じゃないか。久しぶりだね」
「本当に、久しぶりだわ。’灯明’さんは相変わらず元気そうで、安心したわ」
 ’真夏’は、ちょっとためらった後、’灯明’に話し始めました。
「実はねえ。この子達を助けてほしいんだけど。……」
 ’灯明’は、’まもる’と’みちる’姫をちらっと見ました。
「ええ?どういうことですか?……事情を話してみてください」
 ’真夏’は、いささか興奮ぎみです。
「昨日(きのう)の夜ねえ。満月を見ようと思って、南の縦穴の真下にいたのね。そうしたら、縦穴の真上の月からこの子達が降ふってきたの。驚いたわよ」
 ’まもる’が、「驚かせて、ごめんなさい」と、’真夏’に謝りました。
「僕達は、’大麗帝国’の’空飛ぶ軍船’から、逃げてきたんだ。それで、僕達が、’空飛ぶ軍船’の人たちに死んだと思わせようと思って、わざとあんなことをしてみたの」
「私は、この子達の話を聞いている内に、’灯明’さんに会わせようと思ったの。
 だってね。……驚かないでよ。……この少年は、’かがり’の息子なの……」
 ’灯明’は、驚きました。’灯明’は、’まもる’の顔に’かがり’の面影(おもかげ)を探しました。’灯明’は、’まもる’の目元が’かがり’に似ているのを見つけ、少し嬉しくなりました。
 ’灯明’は、親しみを込めて、’まもる’に問いかけました。
「’まもる’なんだね?」
 ’まもる’が、答えました。
「はい。僕は、’まもる’です。……おじさん。僕のお母さんのこと。知っているの?」
「ああ、知っていますよ。……実は、私は、’かがり’の父親なんです」
「ええ?じゃ、僕のおじいちゃんなの?」
「……そう言ってくれるのは、ありがたいけれど、’かがり’には、ひどい仕打ちをしたからね。……私は、’まもる’のおじいちゃんの資格はないんです。……」
 ’まもる’は、少し戸惑っていました。
「どういうこと?……なにがあったの?」
 ’灯明’は、辛い過去を’まもる’に話しにくく、迷っていました。
「どこから話せばいいのかな?
 ……
 私は、元は’大麗帝国’の神官のひとりでしたが、’川の民’の娘と恋に落ちたため、神官の座をおわれ、’地底の町’に住みついたのです。その時の’川の民’の娘が、’清流(せいりゅう)’といって、’かがり’の母親です。
 ……
 ’清流’は、心の優しい、そしてとても強い意志を持った娘でした。ただ、体の大変弱い娘だったのです。
 ……
 自分が妊娠したとわかった時、’清流’は変わりました。
 『もうすぐ、私は、死にます。実は、私の体力では、出産は無理なんです。でも、’大地の胎(はら)’に行けば、この子だけは、助かるかもしれません』
 ’清流’は、そう言って、私の前からいなくなったんです」
 ’真夏’が、話しを引き継ぎました。
「’清流’さんは、助産婦だった私の母に助けを得て、南の洞窟に行ったのね。その洞窟は、自然にできていたもので、その中は迷路のようになっていて、近づく者は誰もいないような場所なのよ。その洞窟の奥に’大地の胎(はら)’という’川の民’の聖地があるの。その場所に、’清流’さんは、私の母とふたりだけで、産み月までいて、そこで’かがり’を産んだそうよ」
 ’灯明’が、話しを引き継ぎました。
「’清流’は、’かがり’を抱いて戻って来ると、すぐに亡くなりました。
 ……
 そして、その’かがり’も、体が弱い娘でした。だから、’海の民’のおさの息子の’海鳴り(うみなり)’と一緒になりたいと言われた時には、私は、強く反対したのです。しかし、’かがり’は、私の反対を押切り、’海鳴り’と駈落ちをしました」
 ’真夏’が、話しを引き継ぎます。
「その時は、私がふたりに付いて、’大地の胎’に行ったのよ。私は、’かがり’を姉のように慕っていたわ。それに、こう見えても、私は、亡くなった母の後を継いで助産婦になっていたの。……
 そうよ。’かがり’は、その時は、もうすでに、あなたを妊娠していた。それで、’かがり’は、私に’大地の胎’に連れて行ってほしいと頼むの。私も一度はその場所に行きたかったので、すぐに決心したわ。
 私達三人は、’灯明’さんの目を盗んで、南の洞窟に行ったの。私の母から、’大地の胎’の場所を聞いていたから、そこは、すぐに分かったわ。
 ’清流’さんと同じように、’かがり’は、産み月まで’大地の胎’にいて、そこであなたを産んだの。
 ……
 そう言えば、あなたが生まれた時、’かがり’が言っていたわ。
 『なぜだか分からないけれど、この子は、大地を守るために生まれたような気がする』って。だいたいこんなことを言っていたはずよ。
 ……
 あなたのお父さんの’海鳴り’もあなたの誕生を大変喜んでいたわ。
 でもね。その後が大変だったの。’地底の町’に戻れないと思った’かがり’と’海鳴り’は、’大地の胎’に流れている川を下って、海に出ようとしたの。その川は、しばらくは洞窟の中を流れているんだけど、途中から西の地方に流れている’大河(おおかわ)’につながっているの。
 それで、あなたを抱えて、’かがり’達は、台車に乗って、この川を下って行った。
 私も付いて行きたかったんだけれど、’かがり’が許してくれなかった。’地底の町’に帰ってほしいって、懇願されたの。結局、私は、’地底の町’に戻ったの。
 ……
 今でも、強引に付いて行けばよかったと後悔しているわ」
 ’灯明’が、話しを引き継ぎました。
「私は、’真夏’から、’かがり’達の話を聴いて、初めて自分の間違いに気づいたんです。……」
 ’真夏’が、’まもる’に訴えます。
「’まもる’。’灯明’さんを、許してほしいの。……」
 ’まもる’には、’灯明’を恨む気持ちはありません。
「……はい」と、’まもる’は、きっぱりと言いました。
 ’灯明’は、ほっとして、「ありがとう。’まもる’」と言いました。
 ’真夏’が、ふたりの様子に安心して、話を続けました。
「’まもる’。この’地底の町’は、’清流’さんと’灯明’さんによって、随分変わっていったのよ。……
 ’清流’さんに教えられた’大地の胎’なの。その場所は、’川の民’との話合いのすえ、今では、私達’地底の民’の聖地になったのよ。多くの妊婦が、そこで無事に出産を終えているわ。
 それ以上に、町の雰囲気を変えていくことが起きたのよ。この’地底の町’は、’大麗帝国’の街から見れば、汚(よご)れた町。それというのも、多くのはみ出し者や罪人や流れ者が、この地に住んでいるからなの。その結果、この町は、娯楽の町になっていったのね。……
 ところが、今から七年前、あるひとりの女性が、’大地の胎’で、出産をしたの。実は、私が取り上げたんだけれど。その女性が、変わったのよ。本当の母性が目覚めたというのかしら。『この町で生まれる子供は皆、この町全員の我が子として育てたい』と言い出し、実践し始めたのよ。そうしたら、その後、女性達が、次から次と’大地の胎’で出産し始めて、みんな本当の母性が目覚めたの。その上、女性性も目覚めてしまったようなのね。その結果、男性も変わってきたわ。本当の男性というか、父性も男性性も目覚めたようなの。
 さらに、上の街から来る男性にも変化が起きているわ。大変化と言っていいくらい。だって、癒しを求める男性の方が増えているんだもの。
 ……
 それに、’灯籠(とうろう)の町’と言われるほど、’灯明’さんの灯籠は、有名なの。見る者を優しい気持ちにさせるの。’まもる’も、’火の女神’像の灯籠を見たでしょう?」
 ’まもる’は、途中いくつかの灯籠を思いだしていました。
「はい。あれが、おじいちゃんが彫ったものだったんだあ。
 ……とっても懐かしい感じがしたなあ」
 ’灯明’は、灯籠について話しました。
「それは、そうかもしれない。あの’火の女神’像は、’清流’や’かがり’を見ながら、彫ったからね。少女像は、子供の時の’かがり’を見ながら、彫ったものだし。それに、母子像は、’かがり’と’まもる’を想像しながら、彫ったものなんだ」
 ’まもる’が、呟(つぶや)きました。
「それで、懐かしさを感じるんだなあ。
 ……
 今度は、僕のことを話すね」
 こう言って、’まもる’は、’灯明’に、今までのいきさつを話し始めました。
---------------------

 私は、’だいち’ちゃんの方を見つめ、言いました。
「’だいち’ちゃんは、もうすぐ生まれるからね」
 すると、’だいち’ちゃんは、「はい」とうなずきました。

                   (つづく)

---------------------------------------------------------
「テッドおじさんの昔話」 第3話 だいち(その2)


 私は、話しを続けました。

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 ’まもる’は、’灯明’に、今までのいきさつを話し始めました。
 母’かがり’の病死。父’海鳴り’の暗殺死。’綾香(あやか)’、’赤つばめ’、’光司’、’あげは’、そして隣にいる’みちる’姫との出会いと冒険。’繭の村’のこと。’太陽の国’での’まもる’の働き。そして、この大陸が海の下に沈むかもしれないという話。それら、すべてを’灯明’に話しました。
 またこの時に、’みちる’姫は、耳が聞こえず口もきけないことや、満月になると、直接意識に話しかけることができることも話しました。
 そして、’空飛ぶ軍船’から逃げ出した事情を説明しました。
「’太陽の国’の王妃の’あげは’は、妊娠していて、もう産み月なんだ。そこで、出産が落ち着いてできるようにという国王の’光司’の希望によって、僕達三人は、’月の城’に向かったんだ。そうしたら、その途中、’大麗帝国’の’空飛ぶ軍船’に襲われて、僕達は捕まったんだ。どうすることもできないまま、’空飛ぶ軍船’で、’大麗帝国’まで、僕達は、連れて来られたの。’大麗帝国’は、僕達を人質にして、東の地方の連合国と有利に交渉を進める気なんだと思う。
 しかし、船が’大麗帝国’に入ると、見張りが手薄になってきたんで、見張りの目を盗んで、’あげは’が、僕達を逃がしてくれたんだ。『ふたりで、逃げなさい』って、’あげは’は、ひとりで残ったの。……
 僕と’みちる’姫は、窓から飛び降りたんだ」
 ’まもる’が、一気にここまで話すと、’灯明’の方を見つめました。
 ’灯明’が、’まもる’に問いかけました。
「’まもる’は、’あげは’王妃を助け出したいんだね」
 ’まもる’が、答えました。
「はい、そうなんです。どうしても、’あげは’を助け出したいんです」
「……分かりました。
 しかし、すぐに助け出すのは難しいよ。’あげは’王妃が、どの場所に捕れえられているかを見つけ出すのに、時間がかかりそうだからね。それから、助け出す方法を考えることになりますよ」
 その時、今までずっと黙っていた’みちる’姫が、’灯明’の意識に話しかけてきました。
(’灯明’様。’あげは’様の居場所は、分かりますわ)
 ’灯明’は、少し驚きますが、’みちる’姫が、話しかけてきたのだと気付きました。
 ’灯明’は、’みちる’姫に体を向けて、質問をしました。
「’みちる’姫。’あげは’王妃の居場所は、どこですか?」
 ’みちる’姫は、北より少しだけ西の方角を指さし、
(’あげは’様は、この方角の地下にいます)
 ’まもる’は、’みちる’姫に、’あげは’王妃の安否を尋ねました。
「’あげは’は、元気かい?」
(おかわいそうに、’あげは’様は、眠り薬で眠らされています。逃亡を恐れてのことだと思いますが、それにしてもひどすぎます。’あげは’王妃自身は、まだ大丈夫ですが、おなかの中の赤ちゃんが、大変弱ってきています。後、数回眠り薬を飲まされたら、死んでしまうかもしれません)
 部屋全体が、重い雰囲気に包まれました。
 ’灯明’は、決断を迫(せま)られていました。
 ’真夏’が、いち早く決断しましました。
「’灯明’さん。今夜にでも助け出さないといけないねえ。私も付いて行くからさ。’灯明’さんも、決めなさいよ」
 ’灯明’が、答えました。
「あなたがそういうのは、分かっていました。
 しかし、私が、心配しているのは、私たち’地底の町’の住人が、’あげは’王妃の救出に手を貸したと分かった時の、’大麗帝国’の’地底の町’に対する仕返しなんです。
 これだけは、なんとしても避けなければなりません」
「’灯明’さん。しかしねえ。妊婦をこのままにしておいたり、ましてや、赤ちゃんを死なせることになったら、それこそ、この町には住めなくなるんじゃない?」
 ’まもる’と’みちる’姫は、’灯明’と’真夏’に、「どうか。よろしくお願いします」と言って、頭を下げました。

 その日の夜、満月から少し欠けた月が、南の縦穴に現れた頃。
 救出作戦は、うまく運びました。’灯明’は、これほど’地底の町’の人たちがうまく動いてくれるとは、思ってもみなかったのです。
 第一段階目。’みちる’姫によって、’あげは’王妃の居場所を正確に突き止めました。 
 第二段階目。多くの石の切り出し作業者が穴堀りをしました。実に手際よく穴を掘り、牢の床石一枚まで掘り終えました。
 第三段階目。二人の男性が牢の中に侵入し、眠っている’あげは’王妃を穴から運び出した。
 第四段階目。掘り出した土を元の穴に戻しました。
 これで、’あげは’王妃は、地下牢から忽然と消えたということになったのです。

 ’まもる’と’みちる’姫が、心配そうに’あげは’王妃を見つめていました。
 ’真夏’が、’あげは’王妃の肩を揺さぶりました。
「’あげは’王妃。目を覚ましてください」
 ’あげは’王妃が、ゆっくり目を覚ました。
「ここは、どこですか?」
 ’まもる’が、声をかけました。
「’あげは’。僕だよ。’まもる’だよ。ここに’みちる’姫もいるよ」
 ’あげは’王妃が、’まもる’と’みちる’姫を見つめました。
「’まもる’も’みちる’姫も、無事だったのねえ。よかったわ。……」
「’あげは’。ここはねー。僕のおじいちゃんの家なんだ。そして、この人が、僕のおじいちゃんの’灯明’で、こちらの女性が’真夏’というんだ」
「え?’まもる’のおじいちゃんって?」
 ’まもる’は、’あげは’王妃に、このへんの事情を簡単に説明しました。
 話を聴いていた’あげは’王妃は、すこしばかり驚きますが、不思議な出会いに何か感じるものがあったようです。
「’まもる’。私達は、大変ついているようですね。何かに導かれて、この場所に来たようにすら思えるほどです」
 ’まもる’が、応えました。
「’みちる’姫も、そう感じているみたいだよ」
 ’あげは’王妃は、あらためて、’灯明’と’真夏’にお礼を言いました。
「私達を、助けてくださって、本当にありがとうございました」
 こう言って、’あげは’王妃は、頭をさげました。
 ’真夏’が、話に割り込みました。
「’あげは’王妃。私達は、この場をすぐに出て、’地底の町’の聖地である’大地の胎’に行く必要があるんです」
 ’灯明’が、話しを引き継ぎました。
「そうでした。’真夏’の言う通りでした。これには、二つの理由があります。
 一つ目の理由としては、今回の’あげは’王妃の救出に、100人余りの町の人達が加わっているということです。つまり、秘密を守りにくいのです。
 二つ目の理由としては、’あげは’王妃のおなかの中の赤ちゃんが、大変弱っているということです。’大地の胎’に行けば、安全に出産できる可能性があります」
「分かりましたわ。どうか、この子を助けてください。’真夏’。お願いします。……
 では、早速出かけましょう」
 と言って、’あげは’王妃は起き上がろうとしました。
 これを、’真夏’が、両手で押しとどめました。
「’あげは’王妃。起きてはなりません。’あげは’王妃には、台車に乗ってもらいます。実は、私は助産婦なんです。私の指示に従ってください」
「そうでしたか。はい。分かりました」

 しばらくすると、外から、’春風(はるかぜ)’の声が聞こえました。
「お姉さん。出発の準備ができたわよ。’あげは’王妃を、連れてきて」
 ’灯明’と’真夏’のふたりで、’あげは’王妃を抱いて外にでると、’春風’が一台目の台車の上に食料品や生活用品や寝具などを乗せているところです。
 ’灯明’は、’あげは’王妃を二台目の台車の上にそっと横に乗せました。
 ’春風’が、元気な声で、みんなに挨拶をしました。
「私、’真夏’の妹の’春風’。皆さんの身の回りの世話をします。じゃまにならないように、頑張るつもりよ。よろしく!」
 ’真夏’が、呆れたように、’春風’に注意しました。
「’春風’。あまり、はしゃぐと置いていきますよ」
「お姉さん、ごめんなさい。つい、’大地の胎’に行けると思うとうれしくなって。……
 これから、気を付けるわ」
 ’灯明’は、’真夏’や’春風’の明るさをうらやましく思っています。素直に自分の信じる道を歩む姿を、いつもまぶしそうに見ていました。
 ’灯明’は、「さあ。出発しましょう」と言って、二台目の台車を押し始めました。その時、’灯明’は、「あっ」と言って、立ち止まりました。
 というのも、信じられないほど軽く台車が動くからです。
 ’まもる’が、’灯明’に説明しました。
「少しだけ、台車を浮かしているんだ。僕は’増幅塔’がなくても’力’が出せると、昼間話したでしょう」
「その話は、聴いていましたが、実際にみるとやはり驚きますねえ。
 そうでしょう。’真夏’。’春風’」
 ’春風’が、応えます。
「本当に。そうねえ。……ねえ、お姉さん。
 これなら、私ひとりでも、簡単に二台の台車を動かせるわ」
 ’真夏’が、またもや、呆れたように’春風’を見つめていました。

 6人は、’あげは’王妃を台車に乗せて、南の洞窟に行きました。そして、その洞窟の中の、迷路のようになっている道なき道を、右に曲がったり左に曲がったり、小さな川を、渡ったりしました。

 出発して、5日目の夕方。
 6人は、洞窟の奥にある’大地の胎’に着きました。
 この間、’まもる’が、台車を浮かしていたので、まったく楽に旅だったのですが、’あげは’王妃の具合いは悪くなる一方で、’大地の胎’に着いた時には、本当にほっとしたんです。

 ’大地の胎’は、巨大な半球形になっていて、100人から150人位の人が楽に生活できるほどの広さを持っていました。
 中央には、二段に石が積まれていて、舞台のようになっていました。
 半球の端の方に、小船を浮かべることができるほどの川が流れていて、西の地方の’大河’につながっていました。
 また、不思議なことに、小さな明り一つで、この場所全体を照らし出すことができ、どこからか新鮮な空気も入ってきていました。

 ’灯明’は、ある懐かしさをともなった不思議な感慨にひたっていました。ここは、’清流’が、’かがり’を産み、’かがり’が’まもる’を産んだ場所です。しかし、こういうことよりも、人を優しくさせる’力’を感じることにひかれていました。
 みんなも何かを感じているようです。
 ’真夏’が、みんなに声をかけました。
「’あげは’王妃をその舞台の上に乗せましょう」
 ’灯明’と’春風’は、台車から’あげは’王妃を抱いて、舞台の上にそっと降ろしました。その後、’灯明’と’春風’は舞台に上がり、’真夏’が用意した舞台中央部にある寝具の上に、’あげは’王妃を運びました。
「これでいいわ。後は、食事をちゃんととれば、よくなるわ」
 ’真夏’は、ひとり安心したそぶりで、舞台から降りて行きました。
 ’灯明’と’春風’も、’真夏’に続いて、降りて行きました。

 6日目の朝。
 ’灯明’は、’まもる’に起こされました。
「おじいちゃん。起きて。’あげは’が呼んでいるよ」
 ’灯明’は、起き上がると、舞台に上がり、’あげは’王妃の側に座りました。もうすでに、’あげは’王妃のかたわらには、’真夏’、’春風’、’みちる’姫が座っていました。’まもる’が’灯明’を追って来て、’灯明’の側(そば)に座りました。
「’あげは’王妃。どうかなさいましたか?」
 ’あげは’王妃は、元気な声で、’灯明’にお礼を言いました。
「お陰様で、とても元気になりました。私の赤ちゃんも元気になったようです。ねえ。そうでしょう?」
 ’真夏’が、答えます。
「はい。’あげは’王妃。本当に危険な状態だったんだけど、今は完全に元に戻っているわ。もう大丈夫。
 この様子だと、明日には産まれるわねえ」
 この時、’みちる’姫が、この場にいる全員の意識に話しかけました。
(皆様。私は、’力’を使えるようになりました。満月ではありませんので、これは、別の’力’の影響を受けていることになります)
 ’まもる’が、’みちる’姫に体を向けて、応えました。
「ここの’大地の胎’の影響じゃないのかなあ?」
 ’あげは’王妃が、’みちる’姫に顔を向けて、応えました。
「いいえ。そうじゃ、ないわ。私の赤ちゃんの影響だと思うの。
 さあ、’みちる’姫。私のおなかの上に手を乗せてごらんなさい」
 ’みちる’姫は、おそるおそる’あげは’王妃の大きなおなかの上に手を乗せました。その瞬間、’みちる’姫は、(ああ!)といって、全身を硬直させました。それと同時に、’まもる’もその場で、全身を硬直させました。
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 ’だいち’ちゃんは、「僕のせいなの?」と言って、驚いていたんですよ。

                   (つづく)

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「テッドおじさんの昔話」 第3話 だいち(その3)


 私は、話しを続けました。

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 しばらくすると、ゆっくりと’まもる’と’みちる’姫の硬直がとけていきました。
 そして、’みちる’姫が、とてつもない話をし始めました。
(’あげは’様のおっしゃる通りでしたわ。この赤ちゃんは、’太陽の国’の’光司’様と同じ’力’を持っています。私の’力’を増幅させ、さらにまわり人の洞察力を増幅させます。ただし、この’力’は、’光司’様をはるかに超えるものです。赤ちゃんのため、純粋に強い力を出しているのかもしれませんが、おそらく、この場所の影響を受けて、巨大な’力’を出しているのでしょう。
 ……
 実は、ここは、まさに赤ちゃんを癒す場所だったのです。
 そして、さらに、赤ちゃんの’力’を増幅する場所でもあったのです。
 分かりますか?
 ああ、本当に、信じられない!
 ……
 今までここで、妊婦の方々が、赤ちゃんを無事に出産できましたのも、そのお方の赤ちゃんが大地に癒され、そして、癒された赤ちゃんがそのお方を癒していたからなんです。
 大地は、この大地に生を受けたばかりの命を祝福します。
 ところが、この大陸の文明は、最も弱い命、つまり赤ちゃんが、住みやすい世界を創ってはいません。誰もが産まれたくて産まれて来るのに、生かしてはくれないんです。
 そんな人間の赤ちゃんを、大地が憐(あわ)れんだのでしょう。
 そんな赤ちゃんのために創られたのが、この場所なんです。
 ……
 本当に、ここは、慈愛に満ちています。
 ……)
 ’みちる’姫は、涙につまっていました。
 ’まもる’が、’みちる’姫のあとをついで、話し始めました。
「僕は、ここで産まれた時のことを、思いだしていたんだ。うーうん。思い出すというより、もっとはっきりしているの。目の前で起きているようにはっきり見えるんだ。
 お母さんのおなかの中にいる時や、産まれる瞬間の時や、産まれた直後のお父さんの喜ぶ顔や、……
 ふふ。若い頃の’真夏’の顔も。とても真剣で、とても優しい、そんな顔だった。
 ……
 そしてね。僕。思いだしたの。その時の誓いを思いだしたの。
 大地に誓っていたの。言葉じゃないんだけど。心から誓ったんだ。
 『大地を守るために生きるんだ』って、『こんなに苦しんでいる大地を癒すんだ』って、『今度は、僕が、大地を助けるんだ』って、そんな風に、とても強く誓っていたんだ。
 ……
 ’増幅塔’は、大地の’力’を大量に使っているでしょう。その’力’は、大地を支えている’力’なんだ。とこらが、今では、その大陸を支える’力’はかなり減っていて、大陸を沈める’力’は大陸の上にかなり増えているんだ。……いつ沈んでもおかしくないんです。
 本当に、考えてみてよ。
 ほんの少しなら、何も問題は起きないんだけど。しかし、こんなにもたくさんの’力’を使っていったら、海に沈むしかないでしょう?
 ……
 もう、やめてほしい!
 ’増幅塔’を完全にやめてほしいんだ!
 ……
 ’あげは’。僕は、’光司’にもっと、はっきり言うべきだったんだ。大人の事情とか、政治的なかけひきだとか、そんなことを、子供の僕が、気にかけることはなかったんだ。
なぜならね。僕が大地に誓ったことの方が、僕には、大切なんだから。
 ……
 ごめんね。’あげは’。
 こんなこと言ったら、’光司’。悲しむかなあ」
 ’あげは’王妃が、応えました。
「いいえ。大丈夫ですよ。’まもる’。
 信じる道を行きなさい。その時、道が開けます」

 7日目の昼。
 陣痛も軽く、とてもすんなりと赤ちゃんが産まれました。男の子です。
 誰もが、大変喜んでいました。
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 その時、’だいち’ちゃんが、「僕、生まれたんだ!」と、喜んでいたんですよ。
 私は、軽くうなずいて、話しを続けました。

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 そんな中、’みちる’姫が、’あげは’王妃に提案をしました。
(’あげは’様。’光司’様に、連絡しましょうよ)
 ’あげは’は、優しく反対をします。
「’みちる’姫。それはできません。男の子が産まれたことを、一番最初に伝えたいのは’光司’王ですが、今は、我慢の時です。
 それというのも、私達が、こんなにも簡単に’大麗帝国’に捕えられたのは、’太陽の国’の内部に、それもおそらく、’光司’王のそばにいる人達の中に、’大麗帝国’に通報する者がいると、考えられるからです。最悪の場合として、’光司’王の意識すら、常に監視されていると考えた方がよさそうです。
 私達は、慎重に行動する必要があります」
 ’まもる’が、補足しました。
「本当に、そうだよ。あの時、僕達が、’月の城’に行くことを知っていたのは、’光司’と、そばにいる人達だけだからね。
 ここは、連絡しないほうがいいよ」
 今度は、’真夏’が、’あげは’王妃に質問をしました。
「この子の名前は、どうしましょう?」
「これは、困ったわね。いつまでも名なしじゃ。この子もかわいそうね」
 ’灯明’の心に、ふっと、赤ちゃんの名前が浮かびました。
「あのー。今私に、この子の名前が浮かんだのですが」
 そうすると、他のみんなも、名前が浮かんできたと口々に言いました。
「私のは、’大地(だいち)’っていうのですが」と、’灯明’が言うと、みんなも、「わたしも同じ」などと言いました。
 ’みちる’姫が、真っ先に、(これは、私の仕業(しわざ)ではありません)と言いました。
 ’あげは’王妃は、嬉しそうに話しました。
「私にも、’大地’と浮かんできました。これは、ひょっとしたら、この子自身が、自らにつけた名前なのかもしれませんね。
 ’光司’王には、申し訳ありませんが、この子をこれから、’大地’と呼びましょう」

 8日目の昼。
 ’あげは’王妃が、みんなに提案をしました。
「これからのことなんですが。……
 ’繭の村’に連絡をして、これからの私達の身の振り方を相談したいと思います」
 ’みちる’姫が、’繭の村’の村長の’絆(つなぎ)’に連絡しました。
 ……
 しばらくすると、’みちる’姫が、みんなに報告しました。
(’繭の村’の村長の’絆’様が、’あげは’様に、『おめでとう』とおっしゃっていました。
 それから、’光司’様に連絡する方法を考えてくださるそうです。
 最後に、明日の朝、また連絡してほしいとのことでした。今夜、’意識による会議’で、解決策を考えるようです)

 9日目の朝。
 ’みちる’姫が、’繭の村’の村長の’絆’と連絡を取り合い、その結果をみんなに報告をしました。
(『’川の民’と連絡を取り、助けてもらうと良いでしょう。その後、できれば、’海の民’にも、助けてもらうと良いと思います』
 こういう話でした)
 それを聴いていた’あげは’王妃は、とても納得したようでした。
「とても簡潔で的確な判断ね。
 私も’川の民’のことは考えていたわ。しかし、’海の民’のことまでは考えてはいなかったわねえ。
 ’まもる’、’みちる’姫。まずは、私達は、’川の民’に助けを求めましょう」
 ’まもる’も’みちる’姫も賛成していました。
 ’灯明’は、今までの成行きをじっと見守っていましたが、新たな決意を話しました。
 「私は、’地底の町’に戻ろうと思います。
 ’まもる’と離れるのは、とても辛い想いがありますが、この’地底の町’を守り抜くことこそ、私の役目だと確信しました。すくなくとも、私達のために、酷(ひど)い目にあっている仲間を置いて、皆さんについて行くわけにはいけません」
 突然、’真夏’が、発言しました。
「私も戻るわ。私には、’地底の町’の女性達とやらなけらばならないことがたくさんあるの。ごめんね。’あげは’王妃」
 ’春風’が、’真夏’をひやかしました。
「お姉さんは、’灯明’さんが好きなんだから、仕方がないわね」
 ’灯明’は、’真夏’の自分への想いに気付いていましたが、’まもる’と出会うまでは、ずっと心の中にしこりがあって、’真夏’の想いを迷惑に感じていました。しかし、この’地底の胎’で暮らしているうちに、’真夏’へのほのかな想いがわきあがっていました。
 ’灯明’は、’春風’に質問をしました。
「私が、’真夏’と暮らすようになったら、’春風’は賛成してくれますか?」
 ’灯明’の言葉に’真夏’が驚いて、’灯明’を見つめていました。

 10日目の昼。’大地の胎’最後の日です。
 結局、’春風’だけが、’あげは’王妃達について行くことになったのです。
 昨日のうちに、’川の民’の村長の’大滝(おおたき)’に助けを求めていました。その時の話合いでは、’大地の産道’が、’大河’にぶつかるところで、’川の民’と合流します。
 車輪を外した台車2台をつなげて、川に浮かべていました。その台車には、’川の民’との合流地点までの必要な食料品や生活用品や寝具も乗せています。これも昨日(きのう)のうちに準備したです。
 ’まもる’と’みちる’姫が前の台車に、’大地’を抱いた’あげは’王妃と’春風’が後ろの台車に、乗り込みました。

 別れの時が、やってきました。
 ’灯明’は、’あげは’王妃に、別れの挨拶をしました。
「’川の民’は、この地底の川を’大地の産道(さんどう)’と呼んでいます。
 きっと、この地底の川をくぐり抜けて、西の地方の’大河’に出た、その時に、光輝く世界を見ることでしょう。まるで、生まれたての赤ちゃんのように、新鮮な驚きを感じることでしょう。
 そして、今度も、’あげは’王妃と’大地’様達の行く手には、大いなる希望があることでしょう。
 さようなら……」
 ’あげは’王妃が、代表して、別れの挨拶をしました。
「’灯明’さん。私達は、決して、’地底の町’の皆様の御恩を忘れません。
 ’地底の町’に、良い陽射しが射しますように。
 さようなら……」
 ’まもる’がとも綱(づな)をはずすと、徐々に、二台の台車が動きだしました。
 それぞれが、思い思いに別れの挨拶をしあいました。
 ’灯明’も、最後に’まもる’に声をかけました。
「’まもる’。また、’地底の町’に来てください」
 そして、’まもる’も、’灯明’に応えました。
「おじいちゃん。また、’地底の町’に行きます。それまで、お元気で」
 やがて、二台の台車は、川の流れにそって、’大地の産道’に入っていきました。
---------------------

 私が、話し終えると、’だいち’ちゃんは、にこにこしていたんですよ。

                   (おわり)

『「大麗大陸物語」 第3話 地底の町』の改編
2005/8/14
志村貴之
志村さん、みなさん、お待たせしました。
いまアップしました。
「テッドおじさんの昔話」第1話 まもる(その2)
12分31秒
http://www.voiceblog.jp/ted606/

さっそく次にかかります。お楽しみに!
Tedさんへ

今、聞き終えました。
いいですね。
素晴らしいです!!

Tedさんのペースで、朗読してください。
あまり無理をしないでください。
 今回の物語は、remiさんに贈ります。
 実は、’みやび’は、remiさんのイメージで、リメイクしました。
 さらに、今回の物語には、「海中出産」「助産婦いるか」「神々(こうごう)しい鯨」が出てきます。

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「テッドおじさんの昔話」 第4話 うみ(その1)


 その夜は、私の周りには、8人の小学生とひとりの女性が、座(すわ)っていたんです。
 ’まもる’と’すすむ’と’だいち’ちゃんと’もり’ちゃんの男の子4人、そして、’みちる’と’めぐむ’と’うみ’ちゃんと’みずうみ’ちゃんの女の子4人、そして、’うみ’ちゃんの母親の’みやび’さんです。
 ’みやび’さんは、’うみ’ちゃんから、私の昔話を聞き、今夜、私の話しを聞いてくれることになったんです。
 とても嬉しかったなあ。

 私は、’みやび’さんに、向かって、話しを始めました。
「今夜は、’みやび’さんの話しから、しましょう」
 ’みやび’さんは、驚いていました。
「’うみ’ちゃんは、’みやび’さんから、産まれるんだよ」
 そう言うと、頭に包帯を巻いている’うみ’ちゃんは、両手で口を押さえて、笑っていました。

--------------------
 ’大麗大陸’の北の海のさらに北の方の海に、一艘(そう)の小舟が、漂流しています。小舟にあった櫂(かい)は流され、漂(ただよ)うばかりです。水はいくらかありましたが、食料はまったくありません。
 そんな小舟の中に、’麗勇(れいゆう)’王と’みやび’王妃のふたりだけが、横たわっています。さらに、’みやび’王妃のおなかが大きく、いつ産まれてもおかしくはありません。

 ’みやび’王妃は、三匹のいるかに気付き、’麗勇’王に話しかけました。
「いるかがいます」
「え?」
 そう言って、’麗勇’王が、海を覗き込むと、そこに、三匹のいるかが、とても親しげに、小舟の回りを泳いでいるのです。
 ’みやび’王妃が、小声で叫びました。
「赤ちゃんいるか」
 そうなんです。雄いるかの’はやて’、雌いるかの’流美(りゅうび)’、それに、赤ちゃんいるかの三匹です。
 すると、小舟の中に、二匹の小魚が放り込まれてきました。
 ’みやび’王妃は、驚いて、海を覗き込みました。
 ’麗勇’王が、応えました。
「いるかが、放り込んでくれたんだ」
 ’みやび’王妃は、思わず涙をこぼしました。
「ごめんね。……ありがとう…ございます」
 ’麗勇’王も、涙を浮かべていました。
「どうも、ありがとう」
 ……
 こうして、ふたりは、いるか達の世話になって、その日その日を生き延びました。

 数日経ったある日。
 海の中から、雄いるかの’はやて’の背に乗った’ひびき’が、小舟に向かって、「誰かいませんか」と、声をかけました。
 小舟の中から、「え?」と、’麗勇’王が、顔を出しました。
「ひょっとして、君って、’人魚’?」
 と、不思議そうに、’ひびき’に質問をしました。
「いいえ。残念ながら、ただの人間です」
「じゃ、どうしてこんな所にいるのかな?」
 ’ひびき’が、この質問にどのように答えようかと考えていると、今度は、’みやび’王妃が、顔を出しました。
「’麗勇’。何か、あったのですか」
 かすれた声でそう言うと、’みやび’王妃は、’ひびき’の方に顔を向けました。
 ’みやび’王妃と目が合うと、’ひびき’は、不思議な衝撃を感じます。かって一度も会ったことがないはずなのに、懐かしさを感じているのです。’みやび’王妃の方も何かを感じているようです。
 ’みやび’王妃が、’ひびき’に問いかけました。
「あなたは、誰?」
 あまりに自然な問いに、’ひびき’は、素直に応えました。
「私は、’海の民’の’ひびき’。あなたは?」
「私は、’みやび’。ここにいる’大麗帝国’の’麗勇’王の妻です」
 ’ひびき’は、二重の意味で驚いていました。
 一つは、なぜ、’大麗帝国’の国王と王妃が、北の海を漂流しているのか。もう一つは、なぜ、’大麗帝国’の王妃に、懐かしさを感じるのか。
 ’ひびき’は、とりあえず小舟に乗せてもらうことにしました。
「もうすぐ、私達の船が、ここに着きます。しばらく、この船に乗せてください」
 ’ひびき’は、’麗勇’王に小舟に引き上げられました。
 引き上げられると、’ひびき’は、そこに、’みやび’王妃のおなかが大きいのに気付きます。
 ’ひびき’は、大変驚いて、’みやび’王妃に問いかけました。
「’みやび’王妃。もうすぐ生まれるのではありませんか」
「はい。明日くらいには、生まれそうなんです」

 やがて、帆船(はんせん)の’希望号(きぼうごう)’が、近づいてきました。この船は、’空飛ぶ船’ではなく、海の上を走る約50人乗りの中型のもので、近海の調査用に造られたものです。
 ’希望号’は、’麗勇’王と’みやび’王妃を救出すると、反転して、一路’あげは’王妃一行が待つ西の海に向かいました。漂流していた小舟は、’希望号’の上に引き上げられ、甲板の中央に固定されています。また、いるかの’はやて’、’流美’、さらに赤ちゃんいるかは、’希望号’のかたわらを付かず離れず泳ぎ回っています。

 さて、’ひびき’は、’希望号’の中のお客用の部屋にいました。’麗勇’王と’みやび’王妃も一緒です。ただ、’みやび’王妃は、大変体が弱っていて、ベッドに横たわっていました。さらに、船長の’海流’が、同席していました。
 ’ひびき’は、まず、漂流の理由を尋ねました。
「なぜ、’大麗帝国’の国王と王妃が、あのような場所で、漂流していたのですか」
 ’麗勇’王が、少し躊躇(ちゅうちょ)しながら、話し始めました。
「どこから話せばよいのでしょうか。
 ……
 ’大麗帝国’内に生まれた軍部独裁を打倒しようとする人々が、私を幽閉場所から救出しようしたのですが、途中で計画が漏れてしまって、私達は、’空飛ぶ軍船’で、北の海に逃げたのです。……
 しかし、私達は、北の海で、軍部の’空飛ぶ軍船’に取り囲まれて、……結局、大敗しました。……
 かろうじて、私と’みやび’のふたりだけが小舟に乗って、北の海の北に、つまり’増幅塔’の影響が及ばない場所に逃げたのです。ただ困ったことに、小舟にあった櫂(かい)は流され、漂(ただよ)うばかり。水はいくらかありましたが、食料はまったくありません。
 もう、終わりだと諦めていたところ、三匹のいるかが現れました。不思議なことに、私達が空腹なのがわかるのか、いるかが小魚を捕ってきては、小舟の中に放り込むのです。初めて小魚を放り込まれた時は、本当にびっくりしました。
 私達は、とても助かりましたが、いったいどうして、いるかが助けてくれるのかが分かりません。本当に、不思議です」
 ’麗勇’王は、不思議そうな顔をしています。’ひびき’は、’はやて’と’流美’の秘密を話し始めました。
「実は、’はやて’と’流美’は、私達’海の民’と暮らしています。彼らが生まれた時から、私は彼らと一緒なんです。
 今回は、北の海に起きた海底火山の調査に、’はやて’と’流美’を連れてきたのですが、途中私達は、急に西の海で、別の用事ができたため、’はやて’と’流美’に事前に北の海に行ってもらったんです。
 しばらくたったある日、’はやて’の切羽詰まった想いが、私の所に届いたのです。それで、私達は、急遽(きゅうきょ)予定を変更して、この北の海に来てみたら、あなた達を発見したというわけです。
 実は、もう一つ。’流美’には、特別な能力があるんです。
 ……
 それは、人の出産を助産する能力なんです。いいえ、能力というより愛です。妊婦の痛みを和らげ、赤ちゃんの気持ちを察しながら、ちょうどまさにこの時というその時に、出産を促(うなが)します。本当にそれは、見事なものなんですよ。
 ’流美’は、’みやび’王妃の妊娠を放っておけなかったのでしょう」
 ’麗勇’王は、いささか驚いているようです。
 それまでベッドに横たわっていた’みやび’王妃が起きあがり、’ひびき’に向かって、あるお願いをしました。
「私でも。……よそ者の私でも、海で赤ちゃんを産めるのでしょうか。’流美’は、私を助けてくれるでしょうか。
 ’麗勇’。お願いです。
 私。’流美’の助けを借りて産みたい」

 次の日の早朝。
 ’ひびき’は、仲間の船乗りの助けを借りて、引き上げられた小舟を改造しました。’流美’が、自由に入れるように大きな穴をあけ、妊婦がつかまる取っ手を付けました。

 昼近く。
 ’みやび’王妃にいよいよ赤ちゃんが産まれそうな気配です。
 ’ひびき’は、改造した小舟に乗り込み、’みやび’王妃を慎重に乗せると、改造した小舟を’希望号’の右側にゆっくり降ろしていきました。小舟が海面につき、徐々に海水が入ってきます。
 小舟が止まると、’流美’が、小舟に入ってきて、’みやび’王妃のそばにきました。
 ’みやび’王妃は、’流美’の頭をなでることで、少しずつ落ち着いてきます。

 昼過ぎ。
 ’みやび’王妃は、無事赤ちゃんを産みました。女の子です。
--------------------

 ’みやび’さんが、’うみ’ちゃんを抱きかかえ、’うみ’ちゃんに呟(つぶや)きました。
「’うみ’ちゃんの時も、水中出産だったんだよ。海じゃなかったけど」
 ’うみ’ちゃんが、嬉しそうに、うなずいていました。

                   (つづく)

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「テッドおじさんの昔話」 第4話 うみ(その2)


 私は、話しを続けました。

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 ’みやび’王妃の体は、大変弱っていました。赤ちゃんを産むことに全精力を使い果たしたのでしょう。’みやび’王妃は、赤ちゃんを産んだ後、すぐに高熱を出し、眠ってしまいました。
 そのため、’ひびき’が赤ちゃんを預かっています。しかし、’ひびき’が母乳を飲ませるわけにはいかないので、’流美’の乳をもらいに海に入りました。赤ちゃんいるかに「ごめんね」と謝った後で、乳に海水が入らないようにするため、海面上に腹が出るように’流美’をひっくり返し、’流美’の乳を器用に取り出し器に入れました。
 その乳を赤ちゃんに飲ませるのです。
 ’ひびき’は、初めの頃は苦労しますが、今はなんとか様(さま)になっていました。

 出産中は、一時停止していた’希望号’も、出産後は、’大麗大陸’の西の海に向かいました。

 その3日後。
 ’希望号’は、’大麗大陸’の北西の海に入りました。

 その日の夕方。
 ’麗勇’王は、甲板に上がっていて、’ひびき’が、赤ちゃんと’みやび’王妃の面倒を見ています。
 急に、’ひびき’に向かって、小さくかすれた声がしました。
「’ひびき’様。’海(うみ)’をお願いします」
 ’ひびき’は、その声に驚いて、’みやび’王妃に顔を向けました。
「ええ?’みやび’王妃。お目覚めになったのですか」
 ’みやび’王妃は、かすかに目を開けて、小さくうなずきました。
「今、’麗勇’王を呼んできます」
 ’ひびき’が、そう言って、椅子から立ち上がろうとすると、
「待って。行かないで」
 と言って、’みやび’王妃が、’ひびき’を呼び止めました。
「はい」
 と言って、’ひびき’は、’みやび’王妃の言葉を聞き逃さないように、耳をそばだてました。
「’麗勇’を待っている時間がないの。
 だから、お願い。私の話を聞いてください」
「……」
「’海’をお願いします」
「’海’って、この赤ちゃんのことかしら?」
「え?そう、そうなの。赤ちゃんの名前は、’海’にしてほしい。そして、’海’を、あなたが育ててほしいの。’海’にとって、一番いいと思うことをしてほしいわ。’麗勇’に相談することは、もちろんのことだけれども、あなたの考えも大事にしてほしいんです」
「私が?」
「そう。’海’が大人になるまでずっと、あなたが見守ってほしい」
「なぜ、私なんですか?」
「……。なぜって?本当になぜなんだろう?
 ’ひびき’様には、とても親しみを感じるんです。
 本当に、とても。
 ……」
「実は、私も。
 はじめて’みやび’王妃にお会いした時から、とても親しみを感じています」
 ’みやび’王妃は、最後の気力を振り絞って、’ひびき’に優しく微笑むと、’ひびき’に最後のお願いをします。
「もし、’ひびき’様が、その気になるようなことありましたら、私のことを気にしないで、’麗勇’と結婚してくださいね」
 ’ひびき’は、何も答えることができません。

 しばらくしてから。
 ’みやび’王妃は、静かに息を引き取りました。
--------------------

 その時、’みやび’さんに、抱きかかえられていた’うみ’ちゃんが、悲しい顔をしていました。
 ’みやび’さんが、「大丈夫だよ」と言って、’うみ’ちゃんを柔らかく抱きしめました。

--------------------
 ’ひびき’は、甲板の上に置かれた’みやび’王妃の亡骸(なきがら)のそばで、悲しみを舞の中に込めて踊っていました。そのまわりを船長の’海流(かいりゅう)’や船乗りたちが取り囲んでいました。’麗勇’王は、悲しみをこらえていました。’麗勇’王に抱き抱えられている’海’ちゃんは、何も分からず、すやすや眠っていました。
 ’ひびき’の舞は、皆の想いを一つに結び付けていました。
 ’ひびき’の舞が終わると、船長の’海流’の合図で、船乗り達全員で、’みやび’王妃の亡骸を静かに海に降ろし、さらに海中深く沈めていきました。海中では、’はやて’と’流美’が、’みやび’王妃の亡骸を見送っていました。

 葬式が終わった直後。
 ’希望号’は、西の海に向かって出発しました。

 次の日の朝。
 ’ひびき’が甲板(かんばん)の上で舞を踊り、一段落した時、’麗勇’が’ひびき’に近づき、相談を持ちかけました。
「’ひびき’。’みやび’が、我が子に’海’と名付けたと聞いて、私は不思議な気分になりました。私にも、’海’という名が、とてもふさわしいように感じられるのです。
 そして、私の中に、もう一つ不思議な想いが生じています。
 ……
 それは、いるかの赤ちゃんのことなんです。なぜか、とても気になります。我が子の’海’ととても関係が深いように感じるのですが?」
 ’ひびき’も、同じように感じていましたので、その想いを話しました。
「そうなんです。私もそう感じています。
 ’海’ちゃんといるかの赤ちゃんは、まるで双子(ふたご)の姉妹のように感じています」
「そうでしょう。それで、お願いがあります。私に、いるかの赤ちゃんの名前を付けさせてください。どうか、お願いします」
 ’ひびき’もずっと気になっていたことなので、’ひびき’は承諾しました。
「はい。どうぞ名前を付けてください」
「このいるかの赤ちゃんに是非とも’海’の友達になってほしいと思います。そこで、’海友(かいゆう)’と名付けたいのですが、いかがでしょうか」
「’海友’。とてもいい名です」

 数日たった満月の夜。
 ’海の民’の帆船’希望号’は、ようやく西の海に着きました。さらにそこから、’大河’の河口近くまで、’あげは’王妃一行を出向かいに向かいました。
 そこには、’川の民’の小舟が待っていました。
 ’ひびき’は、’海’ちゃんを抱えて、甲板の上に立っていました。
 そこに、’あげは’王妃一行が乗り込んできました。
 ’まもる’、’みちる’姫が、最初に乗り込み、その後、’あげは’王妃は、’大地(だいち)’ちゃん抱えて、乗り込みました。
 ’あげは’王妃に同行していた’春風(はるかぜ)’は、’川の民’の若者に恋をして途中の村に残っていました。

 満月の月明かりの中、帆船の甲板の上で、二人の女性が同じように赤ちゃんを抱いて、真正面に対峙(たいじ)していました。その場に、澄み切った空気が流れます。
 ……
 ’ひびき’は、’あげは’王妃に、自己紹介をしました。
「私は、’ひびき’。この子は、’海’ちゃんと言います」
 今度は、’あげは’王妃が、自己紹介しました。
「私は、’あげは’。この子は、大地’。そして、’まもる’に、’みちる’姫です」
 突然、’みちる’姫が、’ひびき’の意識に話しかけました。
(’大地’ちゃんと’海’ちゃんの出会いには、不思議な感じがしています。
 大変な事が起きたんじゃないでしょうか)
 ’ひびき’は、初めはすこしだけ驚きますが、’みちる’姫の言葉に納得しました。
「’みちる’姫。驚くのは、まだこれからですよ。
 この’海’ちゃんは、こちらにいる’大麗帝国’の’麗勇’王のお子なのです」

 ’ひびき’は、’あげは’王妃達と情報を交換しあいました。ただ、’麗勇’王は、まだみんなに打ち解けず、黙ったまま皆の話を聴いているだけです。やはり、’みやび’王妃の死で、心が深く傷ついているのです。
 ’あげは’王妃は、大変気さくな人柄で、’ひびき’に親しみを感じているのが分かりました。’ひびき’も、’あげは’王妃に親しみを感じていました。それは、’みやび’王妃に感じた双子(ふたご)の姉妹の様な親しみとは違って、いわば、親友の様な親しみです。話せば話すほど、’あげは’王妃には、昔からの親友のような気分になってきました。
 また、’ひびき’は、’まもる’には少年の爽やかさを、’みちる’姫には女性の淑(しと)やかさを感じてました。

 さて、’あげは’王妃は、’海’ちゃんに乳を飲ませていました。逆に、’ひびき’が’大地’ちゃんを預かっていました。
 突然、’海’ちゃんが大声で泣き始めました。それにつられてか、’大地’ちゃんも泣き始めました。
 次に、’みちる’姫が、(あっ)と叫び、’ひびき’も異常な事態に気付きました。’あげは’王妃も、’まもる’も同じように気付いたようです。
 ’麗勇’王が、心配そうに、’ひびき’に質問をしました。
「なにか起きたのですか」
 ’ひびき’は、答えました。
「取り囲まれました。’大麗帝国’の’空飛ぶ軍船’が、この’希望号’の東西南北に一艘ずつ現れています。さらに、この船の上空にも一艘あって、どこにも逃げる場所がありません」
 ’あげは’王妃が、事態の分析をし始めました。
「’ひびき’。この船には武器はないと言っていましたね。しかし、私達には、普通の武器以上の、’力’があります。’まもる’は、物を動かす’力’の持ち主ですし、’みちる’姫は、遠くに考えを伝える’力’の持ち主です。二人とも、強大な’力’を発揮します。そして、私は、武道と戦術を得意としていますし。あなたは、海の達人です。負ける気がしません」
 そういうと、’あげは’王妃は、少しだけ考え込んでいました。’ひびき’は、’あげは’王妃ののそばにいき、泣きじゃくる’海’ちゃんを受け取り、そして深く瞑想できる方法を伝授しました。
 やがて、’ひびき’が抱えている’大地’ちゃんと’海’ちゃんが徐々に落ち着いてきて、最後には完全に泣き止むと、その時、’あげは’王妃が、静かに目を開け、’ひびき’に微笑(ほほえ)みました。
--------------------

 ’うみ’ちゃんと’だいち’ちゃんが、ホッとしています。

                   (つづく)

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「テッドおじさんの昔話」 第4話 うみ(その3)


 私は、話しを続けました。

--------------------
 ’あげは’王妃は、’ひびき’に語りかけました。
「’ひびき’。大変ありがとうございました。とても素晴らしい体験でした。
 ……
 今、一つの戦術が、浮かんできました。
 ……
 まず、私達は、’大麗帝国’の’空飛ぶ軍船’から、完全に消える必要があります。
 どこに消えたか分からないほど、完全に消えなければいけません。そうでないと、’海の民’が、今後狙われる事になります」
 ’ひびき’が、応えました、
「’あげは’王妃。どうやって、消えるのですか」
「以前、’まもる’は、上空高く、それも’増幅塔’よりも高い上空に、小型の’空飛ぶ軍船’で逃げたことがあります。
 それで、今度は、海の中に逃げます。海中に逃げるのです」
「えっ。そんなことができるのですか」
「’まもる’。あなたなら、できるよね」
「はい。おそらくできるよ」
「そこで、’ひびき’にお願いがあります。いるかの’はやて’達に、海中での水先案内を頼んでくださいますか」
「はい。それは、簡単です。むしろ、彼らは、とても喜ぶでしょう」
「よかったわ。
 それでは、次に、’みちる’姫。姫は、海中で、私達の目になってください。
 そして、’ひびき’。あなたには、’はやて’達との連絡をお願いします」

 帆はおろされ、乗組員全員が甲板(かんばん)の上に集まっていました。
 甲板に、緊張が走ります。
 ’希望号’は、満月が差し込む海中に静かに沈み始めました。’まもる’が、船を包む空気ごと海に沈めているのです。海水の壁が、船のまわりを取り囲んでいます。船が沈み終わると、帆柱の少し上に、海水の天井ができます。甲板から見上げると、帆柱が海水を支えているように見えます。
 船のへさきの先を見ると、’はやて’、’流美’、’海友’が、こちらを見つめているのが、かろうじて見えていました。
 やがて、’はやて’は、ひるがえり、海中をゆっくり泳いでいきました。すぐに、’はやて’の姿が見えなくなります。’流美’は、’はやて’と船の間の位置のなるように泳いでいます。’海友’は、’流美’のそばを泳いでいます。
 ’ひびき’は、’まもる’に、指示しました。
「船を少しだけ左に旋回して。
 ……
 そう、そう。
 ……
 そのまま、まっすぐ進むのよ。
 ……
 そのまま。そのまま。
 ……
 今度は、少しだけ、へさきを下げて。徐々に、深くなるようにしてね。
 ……
 その調子よ。
 ……
 そのまま。そのまま。
 ……」
 ’希望号’は、満月が差し込む海中を、音もなく進んでいました。
 時々、’はやて’達は、船のまわりにある空気を吸いに来ました。
 ’希望号’は、人の背丈の30倍位の深さの海中を南西に進んでいました。

 夜が明け、朝日が昇る頃。
 そろそろ、’増幅塔’の影響を受けなくなる領域、つまり、外海(そとうみ)に出ようとしていました。
 そして、外海に出てからすぐに、’みちる’姫が、’ひびき’の意識に話しかけてきました。
(あのう。’ひびき’様、私達の真下に、巨大な生き物がいます。この船をはるかに越える大きさです。あれはいったい何でしょうか)
 ’ひびき’は、大変驚いて、つい、’みちる’姫の意識に応えました。
(’白神(しらかみ)’です。
 ’白神’は、’海の民’の守り神で、白くて大きな鯨なんです。
 でも、知らなかったわ。こんなに深い所を泳いでいるなんて)
(’ひびき’様。……包容力を感じます)
(えっ)
(’白神’様は、なんて大きな包容力をお持ちなんでしょう)
(そうなんですよ、’みちる’姫。
 鯨は、海から包容力を学んだのでしょう。その結果、大きな体になっていったと、’海の民’では、考えています。特に、’白神’は、包容力そのものなんです。
 ちなみに、いるかは、好奇心の塊なんです。きっと、海の中で、好奇心をとても大切にしていたんだと考えています。
 実は、かっては、いるかも鯨も同じ生き物だったのではないか。そして、好奇心を追究し、好奇心そのものになったいるかと、好奇心から海の本質を追究し、そして、その結果、海から包容力を学んだ鯨とに分かれたのではないか。
 ……こんな風に、’海の民’では、考えています)
(素敵だわ。好奇心のいるか。包容力の鯨。どちらも、本当に素晴らしい!)
 ’ひびき’は、’みちる’姫の感動を素直に喜んでいました。
 ’白神’が、海溝にそって、南に動き始めます。まるで、この場所で、’希望号’と待ち合わせていたかようです。
 ’ひびき’は、’まもる’に、指示しました。
「’まもる’。下の方にいる鯨を追いかけて」
「はい。’白神’を追いかけるんだね」
 ’ひびき’は、少しだけ驚きますが、すぐに事情が分かりました。’みちる’姫から、’まもる’達に同時通信をしていたと伝えられたのです。

 ’希望号’は、’白神’の上部後方から追いかけていました。やがて、’白神’は、海面に向けて上昇し始めます。おそらく、息継ぎのためでしょう。
 それに伴い、’希望号’も上昇し始めました。

 ’白神’が、海面を突き破る勢いで海面上に出ました。
 ’希望号’は、その後から、ゆっくりと海面上に姿を現します。徐々に、海水の天井が消え、さらに海水の壁が消えていきました。

 朝日が、’大麗大陸’の上に出ていました。
 どうやら、’大麗帝国’の’空飛ぶ軍船’を振り切ったようです。船長の’海流’も船乗り達も一様にほっとします。船内に活気が生まれます。
 ’希望号’は、帆を揚げて、南の’鯨(くじら)の島’を目指しました。前方には、’白神’が泳いでいます。’希望号’と’白神’の間には、’はやて’達が泳いでいます。

 10日後。
 ’希望号’は、南の海に着きました。
 ’ひびき’は、前方を指さしながら、’あげは’達に言いました。
「あれが、’海の民’の’鯨の島’です」
 島に近づくにつれて、島の形がはっきりしてきました。かなり、島の形がはっきりしたところで、’まもる’が、みんなの気持ちを代表して、感想を述べました。
「本当に、鯨の形をしているんですね」
「そうなんです。ちょうど、鯨を1000倍位した大きさなんです。頭は、北にある’大麗大陸’の方を向いていて、尾ひれの方は、南に向いています。その尾ひれの方に、’海の民’の村があります」

 昼過ぎ。
 ’希望号’は、’鯨の島’の’尾ひれ湾’に着きました。’白神’は、’鯨の島’のさらに南の海に泳いでいきます。’はやて’達は、’希望号’のそばを泳いでいます。
 ’海の民’の村長の’白波(しらなみ)’をはじめ、多くの村人が出向かいに来ていて、歓声をあげていました。’希望号’の船乗り達も、大きく手を振っています。

 ’ひびき’は、’尾ひれ湾’に上陸すると、さっそく、’白波’にみんなを紹介しました。
「こちらが、’太陽の国’の’あげは’王妃に、’大地’ちゃん。その隣は、’月の国’の’みちる’姫。その隣が、’まもる’。そして、その隣が、’大麗帝国’の’麗勇’王と’海’ちゃんです」
 ’ひびき’が、’麗勇’王を紹介すると、ここに集まっている人々に、衝撃が走ります。
 ’白波’が、代表して挨拶をしました。
「皆様、ようこそ。……お帰りなさい」
--------------------

 見回すと、’みやび’さんと子供たちは、私の言葉を待っているようでした。

                   (つづく)

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「テッドおじさんの昔話」 第4話 うみ(その4)


 私は、話しを続けました。

--------------------
 その夕方。
 ’ひびき’は、’あげは’達と輪になって座っていました。’海の民’の村長の’白波’を中心に、その右隣に、’大地’ちゃんを抱いた’あげは’王妃。その右隣に、’まもる’。その右隣に、’麗勇’王。その右隣に、’みちる’姫。その右隣が、’海’ちゃんを抱いた’ひびき’です。つまり、’ひびき’の右隣に’白波’、左隣に’みちる’姫が坐っています。
 ’ひびき’達は、’白波’に、今までのいきさつを話しました。
 ’あげは’王妃が、’大麗大陸’が海中に沈むことや、’繭(まゆ)の村’、’太陽の国’、’地底の町’、’大地の胎(はら)’のことを’白波’に話し、’ひびき’は、’麗勇’王の漂流、’みやび’王妃の出産と死を話します。また、’まもる’は、亡くなった’海鳴り(うみなり)’の息子だということも話します。
 ’白波’は、感慨深げに、話し始めました。
「……結局、’海鳴り’は、この島に戻ることができませんでしたが、その代わりに、孫の’まもる’が、帰ってきました。それも、’鯨の島’にとっても、’大麗大陸’にとっても、大切な人達を引き連れて。
 ……
 私は、今、’海鳴り’の願いを皆さんの中に感じています。
 ……」
 ’ひびき’が、’白波’のあとを引き継いで話しました。
「’海の民’には、ある重要な秘密が隠されています。
 ……
 実は、元々、’大麗大陸’の人々は、’海の民’の一族だったのです。
 ……
 これからの話は、’海の民’に伝わる伝説です。
 ……
 かって、この島より西にあった大陸が、海中に沈みました」
 ’まもる’が、驚いて質問をしました。
「えっ?
 その時も、’増幅塔’が原因で沈んだの?」
「そうなの。
 ……
 今から、3000年くらい前、’増幅塔’が原因で、大陸が、海中に沈みました。その時、わずかに生き残った人々が、東の海に逃げたのです。そして、島づたいにこの島を発見しました。
 この島を発見した時、私達一族は、大変感動したそうです。
 この島の南側の海では、とても多くの鯨が泳いでいますが、初めてその光景を見た人々は、傷ついていた心が癒されたそうです。とても深い包容力を感じて、この島に住むようになりました。島の形が、鯨に似ていたこともあって、’鯨の島’と名付けました。そこで、私達一族の多くは、この島を拠点として、海に生きる道を選んだのです。
 しかし、ごく一部の人達は、北にある大陸を目指したのです。この島で、一番高い山の’背中山(せなかやま)’から北を眺めると、かろうじて大陸が見えます。私達一族は、とても大きくて、とても麗しい大陸という意味で、’大麗大陸’と名付けたのです。
 そして、その当時、海に生きることができないと考えた人達が、この島の地中深くに封印していた’増幅塔’を掘り出し、それを持って、’大麗大陸’に逃げたのです。
 私達一族は、将来、また同じ過ちが起きると分かっていましたが、彼らをとめることはできませんでした。私達一族は、ひょっとしたら、彼らは、’増幅塔’の問題点を克服して、新しい可能性を発見するかもしれないという期待を抱き、追手を出すのをやめたそうです。
 しかしながら、今、’大麗大陸’が海中に沈むかもしれないという危機が生まれています。本当に残念なことですが、’増幅塔’の問題点を克服できなかった以上、いずれ事故が起きるのではないかと心配しています。……」
 その場に、重い雰囲気が流れました。

 その夜。
 村の広場の中央に、いくつかのかがり火が置かれていました。
 今、’ひびき’は、その広場の中央で、’あげは’達を歓迎する舞を踊っていました。
 初めは、得意とする舞になっていましたが、次第に、即興の舞に移っていきます。
 まるで、対話のような舞です。
 ’あげは’王妃の想いに触れ、’ひびき’に親しみの微笑みが浮かびます。
 ’まもる’の想いに触れ、’ひびき’の中にある少年の爽(さわ)やかさが引き出されます。
 ’みちる’姫の想いに触れ、’ひびき’の中にある女性の淑(しと)やかさが引き出されます。
 ’麗勇’王の想いに触れ、’ひびき’の中にある深い包容力が溢れてきます。この時、初めて’みやび’王妃の言葉が’ひびき’の胸に届きます。
(もし、’ひびき’様が、その気になるようなことありましたら、私のことを気にしないで、’麗勇’と結婚してくださいね)
 ……
 ’大地’ちゃん、’海’ちゃんの想いに触れ、あなたの中の母性が引き出されます。そして、’ひびき’の中に、’みやび’王妃の想いが、現(あらわ)れます。そのため、’海’ちゃんを我が子のように感じている自分に驚きながらも、それがごく自然な感情なのだとも想っています。
 その想いが、’海’ちゃんに伝わったのでしょう。とても明るい笑顔を’ひびき’に向けています。
 さらに、’ひびき’は、’白波’や’海の民’の想いに触れ、それが舞に現れます。
 そして、さらに、まわりの世界が’ひびき’に触れてきます。
 その広がりの中で、’みちる’姫が、’ひびき’の意識に話しかけてきました。
(’ひびき’様。
 もし、あなたが望むなら、あなたの舞は、’大麗大陸’を癒すことでしょう)
 ふいに訪れたこの言葉は、’ひびき’を驚かせますが、その舞は、その言葉を柔らかく受けとめていました。
 不思議な体験をしながらも、それを舞の中に現(あらわ)していく。その時、’ひびき’は、狭い自己像から解き放され、すべての命を結びつけていきました。
(すべてが、響いている……すべてが、響きあっている)と、’ひびき’は感じています。
 ’ひびき’は、今、とても深い命の世界の中で、舞いつづけています。

 いつの間にか、夜が明けていました。
 一筋(ひとすじ)の朝日が、’ひびき’を現実の世界に引き戻しました。
 ’ひびき’の舞は、静かにしかも徐々に、止まっていきます。
 ’ひびき’の舞を見ていた人々も、’ひびき’が感じていた世界と同じものを感じていたのでしょう。
 そこには、とてつもなく澄み切った雰囲気が流れています。

 その日の昼近く。
 ’ひびき’の所に、’みちる’姫がやってきました。
 ’みちる’姫が、’ひびき’に相談を持ちかけました。
(’ひびき’様。今、’繭の村’の’綾香(あやか)’様から、連絡がありました。
 実は、昨日の話し合いの内容を、’繭の村’の’綾香’様に同時通信していたのです。それに対して、その夜、’繭の村’では’意識による会議’を開いたのですが、その結果を知らせてきたのです。
 ……
 『ぜひとも、’繭の村’に来ていただきたい』とのことです。
 他にも、私と’まもる’様。それに、’あげは’王妃。さらに、’大地’ちゃんに’海’ちゃん。そして、’麗勇’王にも来てほしいとのことでした。
 また、’太陽の国’の’光司(こうじ)’様、’風の民’の’赤つばめ’様、’地底の民’の’灯明(とうみょう)’様、’真夏(まなつ)’様、’春風(はるかぜ)’様にも、なんとか来ていただくつもりだとも、おっしゃっていました。
 その上、この時、全員が揃わない場合の対策も考えているとのことです。
 とにかく、’繭の村’で、私達を含めて、’意識による会議’を開く必要があるとのことです。そして、今、この会議こそが、’大麗大陸’の危機を回避する最善の道だと思うとおっしゃっていました)
 ’ひびき’は、大きくうなずいて、返事をしました。
「はい。行きましょう」

 3日後の朝。
 ’ひびき’は、今、10人乗りの小型の船’美笛号(みてきごう)’に乗って、’鯨の島’の遥か上空を飛んでいました。

 ’ひびき’は、’まもる’にあるお願いをしました。
「’まもる’。お願いがあるんだけど」
「なに?」
「海がみたいの。できるだけ遠くの海をみたいの。海中に潜ったみたいに、空気ごと、できるだけ上空に行ってほしいの。できるかしら?」
「たぶん、できると思うよ」
 ’ひびき’のそばにいた’あげは’王妃達も賛成していました。
 ’みちる’姫の目が輝いていました。
(’まもる’様。行きましょう)

 今、’美笛号’は、ぐんぐん上昇していました。
 ’ひびき’は、下の方に遠ざかる’鯨の島’を見ていました。
 ’ひびき’の視野に’大麗大陸’が入ってきます。’ひびき’は、海の青さが目にしみます。
 さらに、’美笛号’が上昇し続けると、驚いたことに、別の大陸が見えてきます。’大麗大陸’より、遥かに大きな大陸が目に入ります。しかし、それ以上に、青く輝く大きな海が見えるのです。
 ’ひびき’の体は、震えてきます。あまりの大きさに、あまりの美しさに、圧倒されているのです。
 ’ひびき’の見ている光景は、ついに、一つの星になりました。
「水の星。……私は、’水球の星’に住んでいたのね」
 ’ひびき’は、はっきりと気付きました。
「もともと、私達は、水の星に住んでいるんです。陸は、かろうじて海面上に出ている島にしかすぎません。いつ沈んでもおかしくないんです。
 そんな中で、大地は、海面を突き破り、海とは違う命を育(はぐく)む場として、陸を創っているの。
 私達’海の民’は、海に生きようとしましたが、3000年たった今も、船なしでは、海に暮らすことができません。いるかや鯨のようにはいかない。陸地なしには、生きていけないのです。
 ……
 だからこそ、私達は、大地を大切にしなければならない」
 ……
 ’ひびき’は、この美しい’水球の星’をいつまでも見続けていました。

 気がついてみると、いつの間にか、’ひびき’は、涙を流しています。
「みんなに、この光景を見せたい」
 ’ひびき’が、思わずつぶやいた言葉に、’まもる’が、応えました。
「そうだよ。本当に、そうだよ。みんなが、この光景を見ればいいんだ」
 ’みちる’姫が、応えました。
(できるんじゃないでしょうか。
 ……
 私達には、この光景をみんなに見てもらう技術もあれば、方法もあります)
 ’あげは’王妃が、後を引き継ぎました。
「それに、私達には、それを実現する熱意があるわ」
 今まで、あまり発言しなかった’麗勇’王が、力強く言い切りました。
「なによりも、君たちには、かけがえのない命を慈しむ’力’がある」
 ’ひびき’は、驚いて、’麗勇’王を見つめます。
 ’麗勇’王が、話を続けました。
「私は、今まで気が付かなかった。
 この『かけがえのない命を慈しむ’力’』は、決して’増幅塔’では、増幅されないんだね。
 なんて、私は、愚かだったんだろう。
 ……」
 ’麗勇’王は、’ひびき’をちらっと見た後、’ひびき’が抱えている’海’ちゃんの頬を軽くつつきます。’海’ちゃんがとても嬉しそうに笑い出します。それにつられて、’あげは’王妃が抱えている’大地’ちゃんも笑い出します。つい、’ひびき’達も笑い出しました。
 そして、’ひびき’は、’みやび’王妃も、微笑(ほほえ)んでいるのを感じていました。
 ’美笛号’には、とても明るい笑い声が満ちています。
 その’美笛号’を、’水球の星’が照らしています。月が照らしています。そして、太陽が照らしています。
--------------------

 私は、話し終えると、’みやび’さんを見つめました。
 ’みやび’さんは、’うみ’ちゃんを抱きかかえて、しみじみと呟(つぶや)きました。
「’ひびき’さんは、もうひとりの私ですね」
 ’うみ’ちゃんが、不思議そうな顔をして、’ひびき’を見上げてました。
 私は、’みやび’さんに、うなずきました。

                   (おわり)

『「大麗大陸物語」 第4話 鯨の島』の改編
2005/9/1
志村貴之
志村さん、みなさん、こんにちは、お待たせしました。
いまアップしました。
「テッドおじさんの昔話」 第2話 みちる(その1)
8分43秒
http://www.voiceblog.jp/ted606/

歯の治療中ですが金曜日の処置がよかったのか
割と声の調子がいいので吹き込みました。
改めてまたやり直します。
Tedさんへ

わっ!今、気づきました。
申し訳ないです。
今日、自宅に帰ってから、聞きます。
今から、楽しみです。
Tedさんへ

今、聞きました。
嬉しかったなあ!

ただ、バイク(?)の音が、うるさい所があり、残念です。
また、少しだけ、Tedさんも本調子ではないような気がしました。

でも、この物語が聞けて、とても嬉しかったですね。
Tedさん、ありがとうございました。

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